箱庭温泉の不機嫌な神様 〜普通のデザイナーですが、あやかし温泉街の宣伝係をやってます〜

オトカヨル

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第十章 ファンになってほしいんです

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「朝陽、そんなに落ち込まなくても大丈夫だってー」
 私は背中を丸め、自分の両手に顔を埋めていた。その背を、ツツジの手が優しく撫でてくれる。

 駄菓子屋の奥、応接室のいつものソファーに沈み込んだ私の前にはスマートフォンが置かれていた。

「考えが甘かったです……」
 唸るようにそう言うと、私は長い長いため息をついてから、なんとか顔を上げる。
「まさか、まったく同じような展開をしてくるなんて」
「うん。真似する所も出てくるかなあとは思ってたんだけどー」
 
 そう。登録していれば誰だって、この場合はどんな妖や神様だって、見ることができるのがSNSというものだし、多少は同じような発信を始める所もあるだろうな、と思ってた。

 だからこそ、ツツジとギンスイというわかりやすいフック引っかかりを用意したのに。

「ほんと、増えたねー」
 ツツジが苦笑しているのを私は横目で見て、もう一度ため息をついた。
「似たような投稿も増えましたし、もっとキャラクター性を押し出した所も出てきました」
「ツツジも歌ったり踊ったりした方がいいかなあ?」
 ツツジはそう言うとその場でくるりと回った。私の気持ちを軽くしようと思ってくれたんだろう、それはとっても嬉しい。でも私はゆっくりと首を左右に振った。

「安心してゆったりと『穢れ』を落としてもらう。それが『箱庭温泉』が提供できる一番の価値だと思いますし、知って欲しいのもそこなので……個人的には、見たいですけど」
「じゃあ、今度、朝陽のためだけにやってあげるー」
 綺麗に片目を瞑って、にこりと笑うツツジ。それから、優しく言葉を続けた。

「ライバルは多いけど、こっちは焦らず、じっくりやろうー。今日だって、妖がお一方来る予定なんだから、ちゃんと効果は出てるよ!」
「そうですね」
 私はなんとか笑って見せた。


◇◇◇


 ツツジから送ってもらい、私は駄菓子屋の通用口から外に出た。噴き上げる冷たい風に、思わず首をすくめる。
 秋の終わりかけにこの雲仙にやってきて、そろそろ冬の足音が聞こえ始めていた。

 効果が出ている。そうツツジは言ってくれた。でも、思ったようにうまく行ってはいない。
 内心、私は焦っていた。

 最初は母を『箱庭』から解放する為だった。でも今は優しくて暖かい神様みんなの為に、この雲仙と『箱庭温泉』を知って、好きになって欲しいと思っていた。

「どうしよう……」

 次の手を打たないと、そう思うのにうまくアイデアが浮かばない。
 私は自分の力不足に情けない気持ちになって、何度目かのため息をこぼしかけ……ふと、後ろから声が聞こえた気がして振り返った。

「ドア、開いてる?」

 先ほど出てきた通用口が少し開いていた。そこから微かに声が漏れ聞こえてきている。
 私は恐る恐る、ドアに手をかけて中を覗き込んだ。
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