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第十一章 箱庭の星夜
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「ギンスイさんと朝陽ちゃんだから、特別、ね!」
からからと音を立てワゴンを運んできたキリカは、私の耳に顔を寄せ、内緒話をするように声を顰めてそう言う。
そして身体を離すと、今度は舞台俳優のように声を張り、胸に手を当て一礼した。
「この神域『箱庭温泉』でこそ提供できる、特別な一品でございます」
言葉が終わると、キリカは真剣な顔になり、何も置かれていないテーブルの上で一つ指を鳴らした。
小気味よい、よく通る音が耳を軽く打つ。と同時に、冷気を連れた白い煙がふわりとテーブルの上から立ち上る。
それが形を取ったのは、ほんの一瞬の出来事だった。
透き通った氷の器が三つ、一つはアカネに合わせてミニサイズで、テーブルの上に並んでいた。
器の中央は盛り上がって雲仙岳の形になっており、光の当たり方で、器全体がゆっくりと色を変える。
「綺麗……」
シロップと白玉が注がれ、そっと氷の飾りが乗せられて。
「四季の色を楽しむ、特別な『雲仙寒ざらし』ね!」
キリカに小さなスプーンを「どうぞ」と渡されて、アカネが歓喜の声を上げる。
私はしばらく色の移り変わりを眺め、もったいない、と思いながらもスプーンをそっと器に差し入れた。
スプーンが触れるとシロップは小さく波立ち、表面が煌めく。
「なんだか勿体無いわねえ」
そう言いながらもギンスイはふかふかの手でスプーンを持ち、口に運ぶ。私も思い切ってそれに倣った。
「!」
茶屋で食べた寒ざらしも美味しかった、でもこれはまた別の美味しさ。
「神力の無駄遣いはできないから、たくさんは作れないんだよねー。だからみんなには秘密ね」
顔の前に指を立てて言うキリカ。
三人共に頷き、三人揃って完食した。
◇◇◇
美味しいもので心が解けたところで、ようやくギンスイは何が起きたのかを話す気になったようだった。
「今日、予定されてた妖って、ギンスイさんのお子さんだったんですか」
「そうなの。子供といっても、猫又としての弟子といった所もあるのよね。あの子は独り立ちするまで随分かかった子だったんだけど、無事に猫又として安定して、どこかの神様の眷属になったっていうところまでは聞いていたわ」
ヒゲを震わせて、ギンスイが長いため息をつく。
「あの子、最近始めたSNSへの投稿で私がココにいるのを知ったらしくて。それで、立派になった姿を見せようと、私に内緒でやってきたのよ」
そこまでは、微笑ましい話。
「それで、どうしてこんな事に?」
「それがあの子、そのアカネちゃん、だったかしら。その子が跳ね回っているのを見たら、猫としての本能を抑えきれなくなって……飛び掛かってしまったの。それでアカネちゃんが逃げた先が、あの屋根の上で……。猫又ともあろう者がなんて情けない。アカネちゃんも、本当にごめんなさいね」
尾をへたりと椅子につけ、ギンスイが伏せてアカネに謝る。
『もう、いいよー』
ぴょこぴょこと跳ねてギンスイの横まで行くと、アカネはそう言い、ふわふわの背を優しく撫でた。
からからと音を立てワゴンを運んできたキリカは、私の耳に顔を寄せ、内緒話をするように声を顰めてそう言う。
そして身体を離すと、今度は舞台俳優のように声を張り、胸に手を当て一礼した。
「この神域『箱庭温泉』でこそ提供できる、特別な一品でございます」
言葉が終わると、キリカは真剣な顔になり、何も置かれていないテーブルの上で一つ指を鳴らした。
小気味よい、よく通る音が耳を軽く打つ。と同時に、冷気を連れた白い煙がふわりとテーブルの上から立ち上る。
それが形を取ったのは、ほんの一瞬の出来事だった。
透き通った氷の器が三つ、一つはアカネに合わせてミニサイズで、テーブルの上に並んでいた。
器の中央は盛り上がって雲仙岳の形になっており、光の当たり方で、器全体がゆっくりと色を変える。
「綺麗……」
シロップと白玉が注がれ、そっと氷の飾りが乗せられて。
「四季の色を楽しむ、特別な『雲仙寒ざらし』ね!」
キリカに小さなスプーンを「どうぞ」と渡されて、アカネが歓喜の声を上げる。
私はしばらく色の移り変わりを眺め、もったいない、と思いながらもスプーンをそっと器に差し入れた。
スプーンが触れるとシロップは小さく波立ち、表面が煌めく。
「なんだか勿体無いわねえ」
そう言いながらもギンスイはふかふかの手でスプーンを持ち、口に運ぶ。私も思い切ってそれに倣った。
「!」
茶屋で食べた寒ざらしも美味しかった、でもこれはまた別の美味しさ。
「神力の無駄遣いはできないから、たくさんは作れないんだよねー。だからみんなには秘密ね」
顔の前に指を立てて言うキリカ。
三人共に頷き、三人揃って完食した。
◇◇◇
美味しいもので心が解けたところで、ようやくギンスイは何が起きたのかを話す気になったようだった。
「今日、予定されてた妖って、ギンスイさんのお子さんだったんですか」
「そうなの。子供といっても、猫又としての弟子といった所もあるのよね。あの子は独り立ちするまで随分かかった子だったんだけど、無事に猫又として安定して、どこかの神様の眷属になったっていうところまでは聞いていたわ」
ヒゲを震わせて、ギンスイが長いため息をつく。
「あの子、最近始めたSNSへの投稿で私がココにいるのを知ったらしくて。それで、立派になった姿を見せようと、私に内緒でやってきたのよ」
そこまでは、微笑ましい話。
「それで、どうしてこんな事に?」
「それがあの子、そのアカネちゃん、だったかしら。その子が跳ね回っているのを見たら、猫としての本能を抑えきれなくなって……飛び掛かってしまったの。それでアカネちゃんが逃げた先が、あの屋根の上で……。猫又ともあろう者がなんて情けない。アカネちゃんも、本当にごめんなさいね」
尾をへたりと椅子につけ、ギンスイが伏せてアカネに謝る。
『もう、いいよー』
ぴょこぴょこと跳ねてギンスイの横まで行くと、アカネはそう言い、ふわふわの背を優しく撫でた。
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