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第十一章 箱庭の星夜
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あれからアカネがユノの所に帰ると言い出し、ギンスイが念の為にと付き添って行ったので、とりあえず私はホテルの一室に『お客様』として滞在する事になった。
キリカは案内してくれたものの、部屋についてざっと説明すると「ごゆっくりねー」と一言置いて仕事に戻って行ってしまう。
そうして一人になった。
このままではじわじわと不安が膨らんで飲まれそう。私は頭を振って気持ちを切り替え、改めて部屋を眺めた。
案内されたのは地獄谷を見渡せる眺望の良い部屋で、しかも露天風呂までついている。
こんな時だからこそ、楽しむしかない。
いそいそと準備を整えて露天風呂へ向かう。かかり湯の後に温泉に足先をそっと差し入れると、じんわり丁度いい湯温に頬が緩む。
一気に体を沈めた。
手足が伸ばせるお風呂で、ゆっくりするなんて久しぶり。お湯に包まれていると、不安がするりと溶け出して消えていくみたい。少し冷たい外気がほてった顔を撫でていくのも、気持ちいい。
そうしていると、母の口癖『なんとかなるでしょ』がふわりと頭に浮かんだ。
「よし!」
そう気合を入れて湯から上がると、部屋に置いてあった浴衣に着替える。
これから向かうのは、キリカが「絶対行った方がいいよ!」とお薦めしてくれた屋上のテラスラウンジ。
エレベーターを使わず、のんびり階段を上がっていく。辿り着いた屋上にはベージュの大きなパラソルの下に木製のガーデンチェアーが並んでいた。
そのうちの一つに、私は腰を下ろす。
誰もいないのをいい事に、目一杯大きく伸びをして空を見上げた。
いつのまにか空はすっかり暗くなり、星が瞬いている。『箱庭』の中とは思えないほどに、広く美しい星空。
こんなに沢山の星を見たのは、いったいどれくらい振りだろう。
それを独り占めしているような贅沢な気分。
「もう、帰れなくてもいいかも」
思わず、そんな小さな声がほろりとこぼれる。
「馬鹿なことを言わないでくれ」
それに応えが返り、私は慌てて体を起こした。ルリがいつもより厳しい顔で立っていた。
「隣に座っても?」
「ど、どうぞ」
私は背筋を伸ばして、隣の椅子を薦める。
「今、なんとか外に出られる方法が無いのかを調べている。そうなげやりになるものじゃない」
子供を諭すように、そうルリに言われる。なんだろう、悪戯が見つかって先生に怒られているような感覚で、ついつい顔を伏せてしまう。
「私のために調べてくれてるのに、ごめんなさい。でもあんまりにも、居心地が良くて……」
申し訳なくてますます顔が上げられない。
「……あまりそんな事を言わないでほしい、帰したくなくなる」
困ったようなルリの声が聞こえて、私は思わず勢いよく顔を上げた。
キリカは案内してくれたものの、部屋についてざっと説明すると「ごゆっくりねー」と一言置いて仕事に戻って行ってしまう。
そうして一人になった。
このままではじわじわと不安が膨らんで飲まれそう。私は頭を振って気持ちを切り替え、改めて部屋を眺めた。
案内されたのは地獄谷を見渡せる眺望の良い部屋で、しかも露天風呂までついている。
こんな時だからこそ、楽しむしかない。
いそいそと準備を整えて露天風呂へ向かう。かかり湯の後に温泉に足先をそっと差し入れると、じんわり丁度いい湯温に頬が緩む。
一気に体を沈めた。
手足が伸ばせるお風呂で、ゆっくりするなんて久しぶり。お湯に包まれていると、不安がするりと溶け出して消えていくみたい。少し冷たい外気がほてった顔を撫でていくのも、気持ちいい。
そうしていると、母の口癖『なんとかなるでしょ』がふわりと頭に浮かんだ。
「よし!」
そう気合を入れて湯から上がると、部屋に置いてあった浴衣に着替える。
これから向かうのは、キリカが「絶対行った方がいいよ!」とお薦めしてくれた屋上のテラスラウンジ。
エレベーターを使わず、のんびり階段を上がっていく。辿り着いた屋上にはベージュの大きなパラソルの下に木製のガーデンチェアーが並んでいた。
そのうちの一つに、私は腰を下ろす。
誰もいないのをいい事に、目一杯大きく伸びをして空を見上げた。
いつのまにか空はすっかり暗くなり、星が瞬いている。『箱庭』の中とは思えないほどに、広く美しい星空。
こんなに沢山の星を見たのは、いったいどれくらい振りだろう。
それを独り占めしているような贅沢な気分。
「もう、帰れなくてもいいかも」
思わず、そんな小さな声がほろりとこぼれる。
「馬鹿なことを言わないでくれ」
それに応えが返り、私は慌てて体を起こした。ルリがいつもより厳しい顔で立っていた。
「隣に座っても?」
「ど、どうぞ」
私は背筋を伸ばして、隣の椅子を薦める。
「今、なんとか外に出られる方法が無いのかを調べている。そうなげやりになるものじゃない」
子供を諭すように、そうルリに言われる。なんだろう、悪戯が見つかって先生に怒られているような感覚で、ついつい顔を伏せてしまう。
「私のために調べてくれてるのに、ごめんなさい。でもあんまりにも、居心地が良くて……」
申し訳なくてますます顔が上げられない。
「……あまりそんな事を言わないでほしい、帰したくなくなる」
困ったようなルリの声が聞こえて、私は思わず勢いよく顔を上げた。
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