箱庭温泉の不機嫌な神様 〜普通のデザイナーですが、あやかし温泉街の宣伝係をやってます〜

オトカヨル

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終章 箱庭温泉の神様

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 あれから私は、母が買った家に本格的に引っ越してきて、そこでデザインの個人事務所を立ち上げた。
 今後は雲仙や小浜を含めた、島原地方を中心にお仕事ができないか色々と模索中。

 あの夜の後、笹木から連絡は無かったが、代わりに昔所属していたデザイン事務所の所長から電話があった。
 どうも笹木は私や、過去に辞めていった他デザイナーのボツ案データを勝手に使って、事務所にいた時からあちこちに個人として営業をかけ、裏で仕事を取っていたらしい。

 ……あの時のお菓子のパッケージもそんな中の一つだったのかもしれない。

 事務所としてはきちんと確認がとれたら訴訟も考えているので、彼から誘いがあっても断るように、と念を押された。

 笹木自身としてのデザイン力は、あまりなかったみたいで……だから私をなんとしても逃したく無かったというのがあの日の行動の理由なんだろう。
 だからこそ、あのままでは、何をされていたかわからなかった……。

 助けてもらえて本当によかった、と青い顔をして私がその事を伝えた後、ルリとツツジはこそこそと話をしていた。

 『使えなくしちゃうー?』とか漏れ聞こえてきたのは……聞かなかったことにした。


◇◇◇


「本当に、出られなくて良かったの?」
 箱庭温泉の前に屈んでスマートフォン越しに声をかけると、こちらに向かって母が手を大きく振った。
『大丈夫よ、朝陽のがんばりのおかげで、10年もかからないで出られるもの。ユノさんも遊びに来てくれるし、ここに来る妖さんも神様もみんなよくしてくれるし』
 最初にここで話をした時と同じ、楽しそうな声。それを聞きながら、私は神妙な顔になる。
 
 意を決して、口を開いた。

「ねえ。……本当は、ヤマカ様に何てお願いしたの?」
 私の問いに、しばらく答えは返らなかった。雲仙の神ヤマカに『願いは叶った』と言った母、だけどあの家には今も、温泉なんて湧いていない。

「もしかしたら、私の……」
「それは教えられないわ、だってそういう約束だもの」
 きっぱりとそう返して母は、よく見えなかったけど、多分ふわっと笑った。
 それから「仕事があるから」と、湯煙の中を駆けていく。

 街のあちらこちらに、行き交う姿が見える。ちょっとずつ賑やかになっていく街の姿と一緒にその後ろ姿を見送って。
「ありがとう」

 私はポツリと一言こぼした。
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