悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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3-3. 穏やかな皇城の庭で

(……貴族のご令嬢、かな?)

 薄紫色の髪に同系統の色合いのドレスを纏った若い女性だ。それなりに距離があるためはっきりとは分からないが、なぜだかこちらをじっと見つめているような気がする。
 この時間に皇后宮の近くにいるということは、彼女もお茶会に招かれているのだろうか。後で顔を合わせる可能性があるのなら先に挨拶を交わしておいた方が無難かもしれない。そう考えた僕は姿勢を正し、令嬢のいる方へと歩き出す。
 すると、薄紫の令嬢はスッとドレスの裾を手に取り、こちらに向かって恭しく頭を下げた。こちらも彼女にお辞儀を返し、近づいて声を掛ける。

「ご機嫌よう。あなたも母上の、いえ、皇后陛下のお茶会に招かれてこちらに?」

「お初にお目にかかります、イリヤ皇子殿下。メドウブリュー公爵家のイザベラと申します。殿下のおっしゃる通り、皇后陛下のお茶会にお招きいただき登城いたしました」

「やはりそうなのですね。僕も同じです」

 内心ドキドキしつつも、それとなく返事をする。どうやらイリヤとは初対面のご令嬢らしい。
 メドウブリュー公爵家といえばかなりの名門だ。自然に恵まれた広大な領地を有する一門で、数少ない公爵家の中でも特に皇家と縁深い家門だったと記憶している。今日のお茶会に呼ばれているのも納得だ。

 それにしてもこの公爵令嬢、物凄く優雅だ。ちょっとした仕草がとても洗練されている。こちらを気遣ってか、遠慮がちに伏せられた淡いブルーの瞳は健気さを感じさせる程だ。
 身分としては皇子であるイリヤのほうがより高貴な訳だが、僕がイリヤ本人でないということもあり、どことなく気後れしてしまう。

「メドウブリュー公爵令嬢。どうか畏まらず楽になさってください」

「お心遣いありがとうございます。殿下、よろしければ私のことはイザベラとお呼びくださいませ」

 イザベラはそう答えると、僕に視線を合わせて柔らかに微笑んだ。うん、そうやって笑っていてくれた方が安心する。僕もイザベラに笑顔を返し、しばし微笑み合う。

 ところで、イリヤ皇子が記憶喪失になったことは公にされていない。表向きは単に熱を出して数日間寝込んでいたということにするらしい。真実を知るのは皇帝と皇后を初めとした国の重鎮や僕に仕えるゾラやハインリ、皇宮の侍医たちなど一部の限られた人々のみ。くれぐれも不用意に記憶を失ったことを明かさないようにとゾラから言い聞かされている。理由については特に聞いていないが、ゾラの心配そうな表情から察するにイリヤの身の回りの安全に配慮して下された判断なのだろう。
 イザベラとは初対面のようなので根掘り葉掘り聞かれることはないだろうが、うっかり口を滑らせないよう気をつけなければ。そう考えつつ、僕はもう一度イザベラに話しかけた。

「よろしければ皇后宮までご一緒しませんか?久しぶりに社交の場に出るので少々緊張していまして。道すがら僕の話し相手になっていただけると嬉しいのですが」
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