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第七話 水晶玉をぶっ壊そうの回

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 ミランダ生物病院の朝は、まあまあ早い。僕が朝起きると、机の上にはメモ用紙が二枚と、朝食が用意されてあった。ミレイさんはいない。一枚目のメモ用紙には、きれいな字で、

「朝ごはん、どうぞ食べてください。私は診療で忙しいので。食べ終わったら、もう一枚の用紙に書かれている場所へ行って、さっさと冒険者登録を済ませてきてくださいね」

 ……さっさと。なんかミレイさんって、こういうところでちょっと素が出ている気がする。うんうん、そんなのはどうでもいい。早く済ませてきてしまおう。

 得体のしれない薬草たちが混ざったおかゆらしきものを、なんかいい感じのバフが付くんじゃないかと期待しながら平らげた後、僕は病院を出た。

 中世の宿場町のような町の一角に、冒険者ギルドの建物があった。が、その扉の前では、二人の人間――片方は、背中に大剣を下げた色の黒い大男、もう片方は、イヌ? みたいな耳の生えた黒髪の少女――が話をしている。これでは通れない。

「そういやライフもさ、カードの方で美少女絵にされた時、あんな感じだったよね。ほら、白と赤の服で、あんな耳が生えてて、巫女さん? みたいな恰好で」

 当時は凄い値段がしたっけな。そんな記憶がよみがえってくる。

「我の黒歴史を掘り返すな。まあ、お前が金欠なのは分かっていたから、我を我の姿のまま使い続けてくれると分かっていたがな」

 そう、僕にはバージョンにこだわる余裕がなかった。

「だから! お前のような忌み子を雇うパーティーなんざどこにもねえって言ってんだ! イメージが悪くなんだろ」

「そこを何とか……お願いします」

 大男の方が高圧的に怒鳴りつけ、犬耳は必死で頭を下げる。本当にドアから入る隙がなさそうなので、会話の方に割って入ることにした。

「あの、ここに入りたいんですが。後、そういう話は、中の方でして頂けると嬉しいのですが!」

「……なんだお前」

 大きい方が訝しげに僕のことを睨んできた。

「冒険者登録に来ました。遊です」

 また少しの間睨まれた後、耐えきれなくなって僕は叫んだ。

「あの!」

「お前、そんななりで冒険者務まると思ってんのか? 装備の方から出直して……」

「失礼します!」

 強引にドアを開けて、中に入った。ああいうタイプの上司が一番嫌いだ。見かけで人を判断するなア!

 ドアの先、僕の目の前にいた冒険者たちは、ほとんどが鎧を着込んで、それぞれの武器を持って、ムキムキで性格も快活そうで、いや、そこまでではなかったわ。とにかく、皆装備はしっかりしすぎるほどしっかりしていた。

 僕の後ろから、さっきの男と少女も入ってきた。

「はは、どうだい世間知らずな坊ちゃん。みんなこれくらいの装備は買い込んでるものだ」

 この世界に来て未だ数日なのに、世間知らずとか言われる僕、割と本気で不憫じゃないだろうか。前職は冒険者じゃなくてアルバイターだったんだが。

「知りません。僕は今日、冒険者登録をしに来ただけです。知人に言われて」

「そうかいそうかい、その知人とやらも、見る目がない。こんな奴に冒険者をやる方法を教えたって、何になるんだか」

 僕はとっさに言い返した。

「やってみるまで分からないじゃないですか。ミレイさんのことを、悪く言うのは止めてください」

 あ、ミレイさんって言っても、誰も分からないか。

「間違えました、僕の知人が……」

 と言いかけて、僕は周りが妙にざわついているのに気が付いた。大男が聞いてくる。

「おい、もしかして、皇族の者か?」

「僕がですか? いや違いますけど……」

 と言うと、周りにいた全員がほっと胸をなでおろしたようだった。

「良かった、ミレイ違いだ……」

 何だミレイ違いって。

「いや、何でもな、この国の王の娘のうち一人は、町のはずれで動物病院をしている。そいつは本名をミランダというのだが、身内にだけ、愛称である『ミレイ』で呼ぶことを認めているらしいんだ」

 ミレイ違いではなさそうだ、ということだけは察した。

「世間知らずの坊ちゃんも、覚えていた方が良いぞ。あいつの前で間違って『ミレイ』とでも言おうものなら、『馴れ馴れしく呼ばないでください』とブチギレられること間違いなしだ」

 この人たちは何の話をしているのだろうか。まあいいや。カウンターへ向かおう。

「一番最初はE級からになり、S級が最高となります。各ランクごとに受けられる依頼が決まっていて……」

 トリガー! ザ・クロック!

「まず、魔力量の測定からですね。そこにある水晶に触れていただくだけで分かりますので。私は奥にいるので、終わったらお声かけください」

 受付嬢さんは行ってしまった。また大男に絡まれる前にさっさと終わらしてしまおう。僕が水晶玉に触れると、

「あ、何も起こらないじゃんこれ」

 何秒待っても何も起きないってことはこれ、僕自身に魔力がないってことだ。当たり前だろ。数日前まで魔力も何にもない世界で生きてきたんだから。

「……」

「お前は、この状況がかなりまずいことは、理解できているか?」

 脳内に声が響く。ライフだ。

「お前自身に魔力がないことが分かれば、まず仲間から見たお前の第一印象は最悪になるだろう。それは阻止しなければならない」

 じゃあ、どうすれば……

「前にも言った通り、おそらく、この世界における魔力はマナと同義だ。つまり、我のカードを水晶にかざすことによって、偽装ができる可能性がある」

「……わかった。やってみる」

 僕は、ライフのカードを取り出すと、水晶玉にかざ……そうとしたはいいものの、手を滑らせて飛ばしてしまった。キャー、シャッフルミス、ジャッジ呼ばれちゃうー

 空中を舞って、水晶玉の上に落ちたライフのカードは……水晶玉に突き刺さった。見間違いじゃなく、突き刺さった。そして、それを引き抜いた結果……

 水晶玉は、真っ二つに切れてしまった。

「……いやー、水晶玉を一刀両断したのって、私が知る限り貴方が初めてですよ? 粉々に砕いたのは何回か見ましたけど。今は王宮で魔術の研究をしているマルバス様とか……」

 粉々に砕いたのが何人かいるんかい。もうダメだろ。測定器として機能してないじゃん。

「普通色が変わる程度の違いしか出ないはずなんですけどねえ」

 確かに、ライフのカードが触れた跡は赤く色づいていた。まあでも、カードを投げて暴漢を撃退する奴だっているし、そりゃカード自体は殺傷能力だって高いよね。

「そのような訳があるか。あれは物理的な切断ではない。我らのカードは高純度のマナの結晶体といってもいい。使い方を間違えれば、あの程度、容易に起こり得る。『使い方を間違えれば』な」

 よく分からないけど、ライフ、ありがとう!

「……」

 ライフは黙ってしまった。

「おい坊ちゃん、今の一部始終を見ていたが、なかなか面白い奴だ。そこでだ」

 黒い大男が話しかけてきた。

「実技試験は俺が直々に相手してやろうと思う」

 ええ……
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