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1・旅は二人で
しおりを挟む「ダリア……! ダリア待って。少しだけ、休憩を」
「ジュリオ様、またですか? もうちょっとだけでも頑張れませんか?」
「いや、僕も頑張りたいんだけ、ど。もう、足が……」
あたしは足を止めて、ため息をついた。ジュリオ様はそのまま崩れるように、草の上にへたりこむ。
「ジュリオ様……。よくそれでお使いに出る気になりましたね」
「仕方ない、だろう。お師匠様が、あんなこと、に、なったんだもの。僕が、行かなくちゃ」
地面に両手をついて、ジュリオ様はぜいぜいと荒い息をついている。その肩は二十歳とは思えないくらい薄く、ローブの裾から覗く手足も細い。
「それにしても、体力なさすぎません?」
ついさっきも休憩したばかりなのに。あたしはそう思いながら、両手を腰に当ててジュリオ様を見下ろした。
「そう、かな? でも今まで、別に困ったことなんかなかったんだけど」
「それはそうでしょう。ほとんどローラン様のお屋敷から出なかったんですもんね」
ジュリオ様は有名な魔法使い、ローラン様の弟子だ。八歳で彼の元に引き取られて以来、理由は知らないけれどほとんど外へ出たことがないらしい。もっとも、国王陛下の覚えもめでたいローラン様だ。お屋敷にはお弟子の他に家事一切をしてくれる使用人もいる。だからローラン様はご自分の跡継ぎとして、ジュリオ様の指導ひと筋に打ち込まれていたのだろう。
「……そう言われればそうかも。ごめん、僕も君ぐらい体力があれば良かったんだけどね」
「はいはい、女らしくなくてすみませんね」
「え、そういうつもりで言ったんじゃないよ!」
ジュリオ様はぱっと顔を上げた。その勢いで顔にかかっていた髪が分かれる。
普段はだらしなく伸びた髪に隠れていて見えないけれど、本当はその顔は、見とれちゃうほど綺麗なんだ。いつもより紅潮した頬をなぜだか直視出来なくて、あたしは慌てて目をそらした。
「ちっ、違うよダリア。本当に君には感謝してるんだ。もし君が一緒に来てくれなかったら、僕は今頃……」
そう、なぜ箱入り魔法使い見習いのジュリオ様とあたしが、一緒に旅に出ることになったか。それはあたしたちが、かろうじて幼馴染と言える間柄だったからだ。
あたしもジュリオ様も、この町から少し離れた村の出身だ。どちらの家も、今でも小さな農場をやっている。
ジュリオ様が並外れた魔力を見出され、ローラン様のところへ行って以来、その後何年も会うことはなかった。もっともあたしには「なんか綺麗なお兄ちゃんがいたな」ぐらいの記憶しかなかったのだけれど。
最近、家で作った野菜やチーズをあたしがこの町に売りに来るようになって、それで十年ぶりに再会したというわけ。でもそのご縁でローラン様も、うちの野菜を買って下さるようになったし、ジュリオ様には感謝している。
ところがある日、偉大な魔法使いローラン様が、突然原因不明の病気になった。ジュリオ様はともかく、ローラン様ご自身の魔法でも治せない。そんな病気は初めてなんだとか。
聞くところによると山を一つ越えた隣の町に、ローラン様の師にあたる方がいるらしい。困り果てたジュリオ様は、思いきってその方を訪ねてみることにした。
とは言え、一人ではどこにも行ったことのないジュリオ様だ。山越えどころか、道も宿も分からない。どうするか悩んでるところへたまたま顔を出したのがあたしで、気が付いたらジュリオ様のお供兼道案内で一緒に行くことになっていた。
いちおう年頃の男女だし、二人っきりの旅なんて、父さんや母さんが許さないだろう。そう思っていたら、ローラン様の一大事ということで、村長さんまで味方についたらしい。とにかくその翌朝、あたしはジュリオ様と旅立つことになった。
旅立ったとは言っても、あたしの足でも明日の昼には着く距離だ。ジュリオ様はちゃんと宿屋に泊まらせてくれると言ったし、何の心配もないと思っていた。それなのに……。
ジュリオ様は、救いようがないほど体力がなかった。
旅慣れないジュリオ様のために、朝早く出て暗くならないうちに宿に着けるようにした。ところがごらんの体たらく、まだ昼にもなってないけど、あたしはもう今の時点で一つ手前の村で泊まるしかないと考えていた。だって予定の村まで行ったら、夜中になってしまう気がする。
最悪、もう一泊する必要があるかもしれないけれど、しょうがないよね?
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