ヤるしかないっ?

砂月美乃

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2・「外への扉開きたくば……」

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 翌日。回復魔法で少ない体力をどうにか満タンにしたジュリオ様と、そのジュリオ様のお世話(というか叱咤激励)で予想以上に疲れたあたしは、それでもどうにか予定どおりに森の中を進んでいた。

「ダリア、この森はまだ長いの? だったらこの辺で、もう少し休んではダメかい?」
「ダメですよ、ジュリオ様。さっきも休憩したでしょ? それにこの森を抜ければ、もう街が見えますから。さあさあ、頑張って頑張って」

 もうだいぶ午後を回っているので、正直あたしは焦っていた。せめて少なくとも、暗くなる前に森を抜けたい。

「ジュリオ様、もうちょっとですから」
「ダリア、頼むから……」

 さすがにちょっと、急かしすぎただろうか。ジュリオ様の足取りが、見るからに怪しくなってきた。ふと思いついて聞いてみる。

「もう一回、回復魔法かけたらどうなんですか?」

 酔っ払いみたいな足取りのくせに、ジュリオ様の返事は大まじめだった。

「だめだよ、ダリア。お師匠様のために何が必要になるか分からないんだ。僕の魔力を、そうそう無駄遣いするわけにはいかない」
「だって、辿り着かなければしょうがないじゃないですか……」

 それでも首を振ろうとしないジュリオ様に、あたしは小さくため息をつく。ならこれ以上は無理か、そう思って立ち止まった。

「はああぁ、助かっ……」

 へなへなと座り込んだはずのジュリオ様が……消えた。

「うわぁっ」
「えっ!?」

 慌てて見回すあたしの目に映ったのは、ぽっかりと空いた大きな穴。

 ―――まさか、ジュリオ様はここに……?

 そっとのぞき込んでみたけれど、真っ暗で何も見えない。思った以上に深いのかもしれない。あたしは青くなった。

「ジュリオ様……、ジュリオ様っ!?」

 両手をついて、顔を近づけて呼んでみるけれど……返事がない。どうしよう?

「ジュリオ様っ、お願い、返事して?」

 やっぱり何も聞こえない。どうしよう、私も入ってみたほうが……? でももし、二人して出られなくなったら……。

 その時、ごく小さいけれど呻き声が聞こえた気がした。

「ジュリオ様っ、いるの!?」
「……ったあ……。何だ、ここ……?」

 良かった! あたしはさらに顔を近づけ、中に向かって叫んだ。

「ジュリオ様、大丈夫ですか? 怪我は?」
「ん……っ、ダリア……? 真っ暗なんだ、ここどこ?」
「穴に落っこちたんです、こっち……分かりますか?」

 ジュリオ様はあたしの声を頼りに、手探りで動いてくれたらしい。わずかに見える部分に、白い細い手がのぞいた。

「あっ、ジュリオ様。こっち、手を伸ばして!」
「ああ良かった、ダリア。待って、いま……」

 手を伸ばそうとしたその時、あたしの膝の下の土が、急に沈んだ。

「え、きゃあっ!?」

 がくん、とバランスを崩し、そのままもんどりうって、あたしも穴に吸い込まれた。





「……ア。ダリア」
「ん……、あ、ジュリオ様……?」

 目を開けると、目の前にジュリオ様の白い顔があった。あたしを見て、少しほっとしたように腰を落とす。

「ああ良かった、気がついたね。回復が効かなかったらどうしようかと」

 ……どうやら貴重な魔力を消費して、回復魔法をかけてくれたらしい。確かに打ち身もないようだ。あたしはそっと起き上がってみる。

「大丈夫、何ともないです。……それにしても、ここ……?」

 自然のうろかと思ったら、そうではないようだ。まず、思っていたより広い。あたしたちが大の字になっても余るだろう。
 床といっていいのか、足元は苔のような柔らかい手触りで、しかも押すとふんわりとへこむ。壁は床と同じようなものと、岩とが混ざっているようだ。土の中のはずなのに、それほど湿っぽくもなく、土臭くもない。さっき落ちてきたはずの、穴も見当たらない。なのにぼんやりと明るくて、ほのかに暖かい。
 まるですっぽりと包まれているような空間だった。

「明るいんですね……。ジュリオ様が?」
「いや、僕じゃない。君が落ちてきた後、いつの間にかこうなったんだ」

 なんだろう、そんな不思議な話聞いたことがない。ああでも、今はそんなことはどうでもいい。

「とにかくジュリオ様、ここを出なくちゃ。あたしたち、どこから落ちたんですか」

 ジュリオ様は黙って真上を指さした。当然のことながら、そこには苔むした天井があるだけ。

「そんなバカな……!」
「本当だよ。君が落ちてきた直後に、そこが一瞬ふわっと光って……そしたらああなったんだ」

 ジュリオ様は真剣だ。それに冗談を言えない人だということは、あたしもよく分かっている。……うん、細かいことを考えるのはやめよう。

「とにかくジュリオ様、出口を探しましょう」
「……それなんだけどさ、ダリア。そこに文字があるんだけど、読める?」
「文字?」

「そこ」とは、さっきジュリオ様が指さした天井だった。言われてみれば、確かに何か彫られているみたいだ。

「……外……扉、開く……?」

 もともと村の最低限の学校しか行ってないし、天井の文字は古い難しい書体でわかりづらかった。全部読めずに首をかしげていると、ジュリオ様が横から口を添えた。

「『外への扉開きたくば……交われ』だね」
「……は?」
「『外への扉開きたくば……』」
「いや、そうじゃなくって! なんで、そんな」

 ま、ままま……。交われ、って?
 それって、あの……? アレ……ですか?

「それをしたら、外へ出られるってことか?」

 ちょっと、ジュリオ様? なんでそんな平気な顔してるんですか? あたしは焦ってそこらじゅうを押したり叩いたりしてまわったけれど、やっぱり出口は見つからなかった。

「そんな、嘘……。どうしたらいいの」

 へなへなと腰を下ろすと、ジュリオ様が言った。

「やっぱり『交わる』のが正解なんじゃないの?」
「そんな、ジュリオ様……!」

 あたしは頬にかあっと血が昇り、思わずジュリオ様から離れた。
 そりゃあ、あたしだってお年頃だし、興味ないとは言わないけど……。だからって、無理に決まってる。好きでもない人と、いきなりこんなところで。それなのに、あんなに平然としてるなんて、ジュリオ様もやっぱりただの男なの……っ!?
 思わず涙目になったあたしに、ジュリオ様が聞いた。

「で、ダリア。『交わる』って何すればいいのか知ってるかい?」

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