竜の末裔と生贄の花嫁

砂月美乃

文字の大きさ
5 / 50

5・アメリアの計画 後

しおりを挟む
 そして、まもなくアメリアは16歳になろうとしている。おそらく十八歳になるのを待って、結婚を勧められるだろう。それまでに今度は裁縫、それもドレスの仕立てを学ぶべく、アメリアはラウラに頼み込んだところだった。

「私、刺繍は大好きだから、きっと出来ると思うの。ラウラのご両親の知り合いに、仕立ての親方さんはいないかしら?」

 するとラウラは眉を寄せた。

「お嬢様、それは無理です」

「あら、どうして? お知り合いでは無理?」

 ラウラは首を振り、説明してくれた。


 ドレスの仕立ては、革小物や宝飾品、武具などと同様に、親方を中心に工房で行われる。それは当然師弟制で、弟子は最低でも五年は住み込みで雑用もこなしながら技術を習得するものだ。

「ですから、お料理のときのようにはいかないのです」

「そうなのね……。さすがに住み込みは無理だわ……」

 がっかりするアメリアに、ラウラは慰めるように言った。

「まあ、一応両親に聞いてはみますけど……あまり期待はなさらないでくださいね」


 ところが数日後、ラウラが思いがけない話を持ってきた。

「祖母の知り合いに、昔はドレスの工房をやっていた人がいるんです。今は息子に譲って、ひとりで暮らしてるんですって。教えてくれるかは分かりませんが、とりあえず、祖母が紹介してくれるそうですよ?」

 願ってもない話だ。翌日、アメリアは早速出かけて行った。


 ラウラの祖母の知り合いという女性は、町の外れのこじんまりとした家に住んでいた。

「うちの親戚の娘で、最近この街へ来たのよ」

 そう紹介される。ラウラの家族はもちろんアメリアの素性を知っているが、町の人と関わるときは、親戚の娘ということにして、伯爵家の名前は出したことがなかった。
 世間話を少ししたところで、ラウラの祖母は帰っていった。するとその女性―――ハンナが態度を改めた。


「あなたはカレンベルク家のお嬢様ですね」

「え!?」

 驚くアメリアにハンナは微笑んだ。

「私はこれでも、王宮の方々のドレスを手掛けたこともあるのですよ。普通の町の人は知りませんが、私はその金色の瞳の意味を存じております。その瞳を持つ以上、あなたは王家の血を引く、貴族のご令嬢」

 ラウラがカレンベルク家へ奉公に出ていることは、きっと彼女の祖母が話したのだろう。それならアメリアに結び付くのは当然のことだ。アメリアは腹を決めた。

「素性を偽ったことをお詫びします、ハンナさん。お察しの通り、私はカレンベルクの娘アメリアです」

 ハンナは深く頷いた。さすがに大きな工房を構えていた女性だけあって、深い洞察力と懐を持つ女性のようだ。

「そのお嬢様が、なぜまた仕立てなどなさろうというのですか。見たところ、ただの気まぐれとも思えません。他所へは洩らしません、理由があるなら教えて下さいますか」

 ―――この女性は信用できるだろうか。

 一瞬考えたアメリアだが、この女性に無理ならもうチャンスはないだろう。そう思って、思い切って口を開いた。

「はい、聞いて下さいませ」


 思えば、自分の計画を誰かに話したのは初めてだった。ハンナは途中で口を挟むことはなく、最後まで話を聞いてくれた。

「そこまで思い詰めてこられたのですね……」

 話し終えたアメリアに、小さくため息をついてハンナは言った。

「お嬢様、正直に申し上げて、何の職業でも、どんなに器用な方でも、一年や二年ではそれで食べてゆけるようにはなれません」

「はい」

 やはりだめだろうか。アメリアは下を向いた。

「ですが、本当に二年頑張ってくだされば、自分のドレスくらいなら作れるようになりますし、小さな工房の親方の下で雇ってもらえる程度にはなれるかもしれません」

 アメリアはパッと顔を上げた。 

「あとはお嬢様の努力しだいです。ここまで通ってこられますか?」

 ハンナの顔が笑っている。アメリアは姿勢を正し、頭を下げた。

「はい、頑張ります。どうか私に教えて下さい」



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

偽姫ー身代わりの嫁入りー

水戸けい
恋愛
フェリスは、王女のメイドだった。敗戦国となってしまい、王女を差し出さねばならなくなった国王は、娘可愛さのあまりフェリスを騙して王女の身代わりとし、戦勝国へ差し出すことを思いつき、フェリスは偽の王女として過ごさなければならなくなった。

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...