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5・アメリアの計画 後
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そして、まもなくアメリアは16歳になろうとしている。おそらく十八歳になるのを待って、結婚を勧められるだろう。それまでに今度は裁縫、それもドレスの仕立てを学ぶべく、アメリアはラウラに頼み込んだところだった。
「私、刺繍は大好きだから、きっと出来ると思うの。ラウラのご両親の知り合いに、仕立ての親方さんはいないかしら?」
するとラウラは眉を寄せた。
「お嬢様、それは無理です」
「あら、どうして? お知り合いでは無理?」
ラウラは首を振り、説明してくれた。
ドレスの仕立ては、革小物や宝飾品、武具などと同様に、親方を中心に工房で行われる。それは当然師弟制で、弟子は最低でも五年は住み込みで雑用もこなしながら技術を習得するものだ。
「ですから、お料理のときのようにはいかないのです」
「そうなのね……。さすがに住み込みは無理だわ……」
がっかりするアメリアに、ラウラは慰めるように言った。
「まあ、一応両親に聞いてはみますけど……あまり期待はなさらないでくださいね」
ところが数日後、ラウラが思いがけない話を持ってきた。
「祖母の知り合いに、昔はドレスの工房をやっていた人がいるんです。今は息子に譲って、ひとりで暮らしてるんですって。教えてくれるかは分かりませんが、とりあえず、祖母が紹介してくれるそうですよ?」
願ってもない話だ。翌日、アメリアは早速出かけて行った。
ラウラの祖母の知り合いという女性は、町の外れのこじんまりとした家に住んでいた。
「うちの親戚の娘で、最近この街へ来たのよ」
そう紹介される。ラウラの家族はもちろんアメリアの素性を知っているが、町の人と関わるときは、親戚の娘ということにして、伯爵家の名前は出したことがなかった。
世間話を少ししたところで、ラウラの祖母は帰っていった。するとその女性―――ハンナが態度を改めた。
「あなたはカレンベルク家のお嬢様ですね」
「え!?」
驚くアメリアにハンナは微笑んだ。
「私はこれでも、王宮の方々のドレスを手掛けたこともあるのですよ。普通の町の人は知りませんが、私はその金色の瞳の意味を存じております。その瞳を持つ以上、あなたは王家の血を引く、貴族のご令嬢」
ラウラがカレンベルク家へ奉公に出ていることは、きっと彼女の祖母が話したのだろう。それならアメリアに結び付くのは当然のことだ。アメリアは腹を決めた。
「素性を偽ったことをお詫びします、ハンナさん。お察しの通り、私はカレンベルクの娘アメリアです」
ハンナは深く頷いた。さすがに大きな工房を構えていた女性だけあって、深い洞察力と懐を持つ女性のようだ。
「そのお嬢様が、なぜまた仕立てなどなさろうというのですか。見たところ、ただの気まぐれとも思えません。他所へは洩らしません、理由があるなら教えて下さいますか」
―――この女性は信用できるだろうか。
一瞬考えたアメリアだが、この女性に無理ならもうチャンスはないだろう。そう思って、思い切って口を開いた。
「はい、聞いて下さいませ」
思えば、自分の計画を誰かに話したのは初めてだった。ハンナは途中で口を挟むことはなく、最後まで話を聞いてくれた。
「そこまで思い詰めてこられたのですね……」
話し終えたアメリアに、小さくため息をついてハンナは言った。
「お嬢様、正直に申し上げて、何の職業でも、どんなに器用な方でも、一年や二年ではそれで食べてゆけるようにはなれません」
「はい」
やはりだめだろうか。アメリアは下を向いた。
「ですが、本当に二年頑張ってくだされば、自分のドレスくらいなら作れるようになりますし、小さな工房の親方の下で雇ってもらえる程度にはなれるかもしれません」
アメリアはパッと顔を上げた。
「あとはお嬢様の努力しだいです。ここまで通ってこられますか?」
ハンナの顔が笑っている。アメリアは姿勢を正し、頭を下げた。
「はい、頑張ります。どうか私に教えて下さい」
「私、刺繍は大好きだから、きっと出来ると思うの。ラウラのご両親の知り合いに、仕立ての親方さんはいないかしら?」
するとラウラは眉を寄せた。
「お嬢様、それは無理です」
「あら、どうして? お知り合いでは無理?」
ラウラは首を振り、説明してくれた。
ドレスの仕立ては、革小物や宝飾品、武具などと同様に、親方を中心に工房で行われる。それは当然師弟制で、弟子は最低でも五年は住み込みで雑用もこなしながら技術を習得するものだ。
「ですから、お料理のときのようにはいかないのです」
「そうなのね……。さすがに住み込みは無理だわ……」
がっかりするアメリアに、ラウラは慰めるように言った。
「まあ、一応両親に聞いてはみますけど……あまり期待はなさらないでくださいね」
ところが数日後、ラウラが思いがけない話を持ってきた。
「祖母の知り合いに、昔はドレスの工房をやっていた人がいるんです。今は息子に譲って、ひとりで暮らしてるんですって。教えてくれるかは分かりませんが、とりあえず、祖母が紹介してくれるそうですよ?」
願ってもない話だ。翌日、アメリアは早速出かけて行った。
ラウラの祖母の知り合いという女性は、町の外れのこじんまりとした家に住んでいた。
「うちの親戚の娘で、最近この街へ来たのよ」
そう紹介される。ラウラの家族はもちろんアメリアの素性を知っているが、町の人と関わるときは、親戚の娘ということにして、伯爵家の名前は出したことがなかった。
世間話を少ししたところで、ラウラの祖母は帰っていった。するとその女性―――ハンナが態度を改めた。
「あなたはカレンベルク家のお嬢様ですね」
「え!?」
驚くアメリアにハンナは微笑んだ。
「私はこれでも、王宮の方々のドレスを手掛けたこともあるのですよ。普通の町の人は知りませんが、私はその金色の瞳の意味を存じております。その瞳を持つ以上、あなたは王家の血を引く、貴族のご令嬢」
ラウラがカレンベルク家へ奉公に出ていることは、きっと彼女の祖母が話したのだろう。それならアメリアに結び付くのは当然のことだ。アメリアは腹を決めた。
「素性を偽ったことをお詫びします、ハンナさん。お察しの通り、私はカレンベルクの娘アメリアです」
ハンナは深く頷いた。さすがに大きな工房を構えていた女性だけあって、深い洞察力と懐を持つ女性のようだ。
「そのお嬢様が、なぜまた仕立てなどなさろうというのですか。見たところ、ただの気まぐれとも思えません。他所へは洩らしません、理由があるなら教えて下さいますか」
―――この女性は信用できるだろうか。
一瞬考えたアメリアだが、この女性に無理ならもうチャンスはないだろう。そう思って、思い切って口を開いた。
「はい、聞いて下さいませ」
思えば、自分の計画を誰かに話したのは初めてだった。ハンナは途中で口を挟むことはなく、最後まで話を聞いてくれた。
「そこまで思い詰めてこられたのですね……」
話し終えたアメリアに、小さくため息をついてハンナは言った。
「お嬢様、正直に申し上げて、何の職業でも、どんなに器用な方でも、一年や二年ではそれで食べてゆけるようにはなれません」
「はい」
やはりだめだろうか。アメリアは下を向いた。
「ですが、本当に二年頑張ってくだされば、自分のドレスくらいなら作れるようになりますし、小さな工房の親方の下で雇ってもらえる程度にはなれるかもしれません」
アメリアはパッと顔を上げた。
「あとはお嬢様の努力しだいです。ここまで通ってこられますか?」
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「はい、頑張ります。どうか私に教えて下さい」
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