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後日談・家族の肖像 中

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「侯爵様、おめでとうございます! それはそれは可愛らしい、双子のお嬢様ですよ。奥方様もお元気です」
無事に産まれたのは、少し前から響く産声で分かってはいた。けれどどういう訳か、実際に部屋へ入って赤ん坊を目にするまでは、何度経験しても実感が湧いてこない。

「シャル、ご苦労だった」
さすがに疲れた顔をしてはいたが、シャルロットは光り輝くようだった。女性が一番美しいのは出産直後だ、という話があるが、本当かもしれない。ジェラールは子供を授かるたびにそう思ってきた。
「ジェラール……」
 まずは妻にキスをして、それから横に並ぶ赤子たちに目を移す。

 双子だからか、上の3人の息子達よりも小さいようだ。バラ色の頬、額に貼りつく金髪はまだ薄い。
「今は目は開いてないか……。シャルに似たようだな」
「黒髪ではないわね。瞳はまだ変わるけど、さっきは水色に見えたわ」
「きっと美人になるぞ」
そっと指先で小さな頬に触れながらジェラールが言うと、シャルロットが笑った。
「気が早いわよ」


 そこへノックの音がして、ジェラールが呼ばせておいた子供たちが入って来た。
「かあさま、僕の赤ちゃんは?」
「ベルナール、おまえの赤ちゃんじゃない。僕たちの妹だ」
ベルナールは兄の言葉を聞かず、ベッドに駆け寄った。

「うわあ、小さい! コンスタンと同じ金髪だね!」
 すると4歳になって急に子供らしくなったコンスタンが、ベルナールを押しのけて緑の瞳でのぞき込む。
「ぼくとおんなじ?」
「そうだよ、コンスタン。これからはお兄ちゃんになるんだよ」
そう言ってアントワーヌは、優しい目で妹たちを眺める。
「可愛いなあ。……お母様、妹を産んでくれて本当にありがとう」

 一気に騒がしくなったからか、眠っていた赤子たちが目を覚まし、泣きだした。
「さあ、妹たちへのご挨拶はここまでだ。お母様と妹たちを休ませてあげよう」
ジェラールが微笑み、子供たちを引き連れて出て行った。






「おかあさま、早く!」
「おにいさまが帰ってきちゃう!」
娘二人に引っ張られ、玄関ホールへ向かいながらシャルロットは苦笑した。

 13歳になった長兄アントワーヌは今年から王立学院へ入学し、普段は寮生活を送っている。今日から休暇で久しぶりに帰ってくるので、娘たちは朝からやれリボンだドレスだと大騒ぎをしていた。明るい金髪はハーフアップにし、瞳と同じ菫色のリボンが結ばれている。これで4歳なのだから女の子は末恐ろしい。

「やあデルフィーヌにエメリーヌ、すごく可愛いね」
双子の妹のおしゃれを目ざとく褒めるのは、一番歳の近いコンスタンだ。誰に似たのか、8歳にして女の子の扱いにやたらと長けている。
 そして弟の発言で初めて気がついたベルナールは、それを見てニコニコ笑う。
「本当だ、おしゃれしたんだね。兄上も喜ぶよ、きっと」
見た目はジェラールに瓜二つなのに、まったく天然というか、実に暢気な性格に育ったものだ。

「ほんとう? ベルナールにいさま」
「ありがとう、コンスタンにいさま」
頬を染めて喜ぶ双子たちだが、その時聞こえた馬車の音で、揃ってぴょんと飛び上がった。
「おにいさまだ!」
「どうして僕達は『にいさま』で、兄上だけが『おにいさま』なんだろうね?」
歓声をあげる妹たちを見て、ベルナールが笑った。


「おにいさま!」
「お帰りなさい!」
4ヵ月ぶりに帰宅したアントワーヌは、両側からしがみつく妹たちに笑顔を向けながら、まっすぐシャルロットのほうへ歩いてきた。
「ほら、お兄様がご挨拶をするまで待ちなさい」
 アントワーヌを迎えに行っていたジェラールが娘たちを引き留める。ちょっと口を尖らせながらも、2人は素直に手を放した。

「母上、ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
手を伸ばしてそっと抱き寄せ、額にキスをしようとしてシャルロットは戸惑った。
「あら、また背が伸びたのね? もうすぐ追い越されてしまうかしら」
「夏を越すころには、そうなるかもしれないな」
ジェラールの声に頷いて、シャルロットは改めて長男を眺める。

 入学前は少し屈んでキスをして送り出したものが、今はほんの少し上を向かないと額に届かない。自分と10センチくらいしか違わないようだ。
 剣や乗馬にも励んでいるようで、すらりとした少年の身体に、しなやかな筋肉がついてきている。あっという間に自分を追い抜いて、大人の男になってゆくのだろう。


 そんなシャルロットの感慨も、娘たちにぶち壊された。
「おにいさま、もうご挨拶は終わった?」
「おかあさま、エメリーヌもご挨拶していい?」
笑って頷くと、双子は歓声をあげてアントワーヌに飛びついた。それから慌てて一歩下がると、ドレスをつまんで一丁前にお辞儀をする。
「おかえりなさいませ、おにいさま」
「お待ちしてましたわ、おにいさま」

 これにはアントワーヌも目じりを下げた。
「ただいま、デルフィーヌ、エメリーヌ。上手にご挨拶ができるようになったんだね?」
「ほんとう? おにいさま」
「おかあさまに教えてもらったの!」
 アントワーヌは手を伸ばして、2人の頭を撫でる。
「どこのレディかと思ったよ」
とたんにきゃあっと叫び、双子はせっかくのレディぶりを放棄して走り回った。

「お帰りなさい、兄上。まったくあの2人ときたら……、兄上は特別なんだからな」
「普段いないからだよ。それよりベルナール、殿下に聞いたぞ。カミーユに勝ったそうじゃないか」
「まぐれだよ、きっと」

 嫡男として勉学に励むアントワーヌは、剣も乗馬も人並み以上にはこなすが、特に目立つほどではなかった。
 ところが次男のベルナールは、本を開いてもぼんやりしていることもあり、あまり勉強は好きではない。そのかわり王子たちと一緒に指導を受けている剣の腕前は群を抜いていて、まだ11歳ながら、ときには大人と互角の勝負をすることもあると聞く。
「僕は兄上と違って、剣しか取り柄がなさそうだからなあ」
ベルナールは照れたように笑った。



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