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6・リュシアン、暴走する 後
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その後は、お行儀良くお茶とお菓子をいただいた。もちろん自分で。リュシアンはゲームのイメージ通りの王子様に戻り、穏やかな微笑み(それはそれで眩しすぎて心臓に悪い)を浮かべて王宮のことなど話してくれた。おかげで思っていたより楽しい時間を過ごせた。
そして早めにお暇することが出来て、帰りの馬車の中で、私は心の底からほっとしていた。
これで、リュシアンからいったん距離を置くことができる。
好感度を上げまくってしまった私が言ってはいけないけれど、いきなりこの世界に来てしまって、正直恋愛(乙女ゲームですが)どころではない気持ちだ。リアルなリュシアンは目から涎が出そうなほど素敵だったし、きっとジェラールもレオンもシャルルも同じようにイケメン揃いなのだろう。
興味は、もちろんある。でも、私がヒロインでというのはまた別の話だ。
幸い、今日のリュシアンとの話で、私が社交界へ出るまでという2か月の余裕ができた。その間に何とかして帰る方法を見つけたい。……そしてもし、それが出来ないなら。仕方ない、その時はその時で考える。
そんなことを考えながら家に着いた私を待っていたのは、想像もしていなかったリュシアンからの、あまりにも素早い攻撃だった。
「殿下、これはどういうことなのですか」
翌日、王宮の中庭。大輪の薔薇が咲き乱れ、それに加えてジャスミンの香りが漂ってくる。木漏れ日の下に設えられたテーブルに案内された私は、思わず挨拶もそこそこにリュシアンに詰め寄ってしまった。
「やあ、フェリシア。そのドレス、よく似合っているよ。私の思った通りだ」
「ありがとうございます……って、話をそらさないで下さいますか? 私は昨日、どうぞ他のご令嬢方と同じにして下さいとお願いを……」
リュシアンは優雅に首をかしげる。そんな動作ひとつも様になりすぎて、私の気持ちが乱される。
「2人きりで会わない。噂になるような真似はしない。―――その通りにしたつもりだが?」
確かに中庭の隅には護衛らしい人が数人散っているし、人目のある中庭で会うことは男女のお付き合いには含まれないとされている。でも。
「そういうことではありません。なぜ、昨日の今日で、しかもドレスまで……」
そうなのだ。昨日家に帰りついた私を待っていたのは、翌日のご招待と、下級貴族のグランデール家では見ることすら出来ないような、高価なドレスだった。昼の装い用で露出は少なく、上品で清楚なデザインだったけれど、見る人がみればわかる。
ばあやは口もきけなくなってしまうし、お父様は難しい顔で考え込んでしまうし。
それはそうだろう。仮にも第二王子から、連日のお誘いに加えてドレスなど贈られたら、意味などひとつしかない。この世界の住人でない私にだって分かる。まあ、だいぶフェリシア脳ともなじんで、この世界の常識が頭に入って来た私ですが。
「それは仕方がない。私は君が気に入ったのだからね」
「!?」
あまりにストレートな物言いに言葉をなくした私を、リュシアンは流れるようにエスコートして座らせた。メイドさんが静かに近づいて、カップにお茶を注ぎ、離れてゆく。
「出来るなら毎日会いたいし、贈り物をしたいのは当然だろう?」
さすがは王子だ。使用人には耳などないかのように、まったく気にしない。それに比べて私は、メイドさんどころか20メートルも離れた護衛の耳と目までが気になって、顔を上げられない。
「で、殿下……。そういうことが、噂になると困るのですが……」
「大丈夫、今ここには私しかいないだろう。ああ、彼らのことなら心配ない。ここから洩れたら自分たちの首が飛ぶと分かっているからね」
そう言ったリュシアンの瞳が一瞬氷のように光り、私は理解する。やはりリアルな王子様はゲームと違い、優しく美しいだけではないのだと。
そのリュシアンの目が再び細められ、笑顔が浮かんだ。
「君が心配することはない。私に任せておけば良いのだ、フェリシア」
―――すみません、それが一番困るんですが。
昨日と変わらぬ幸せそうなリュシアンを目の前にして、私はこっそりとため息を吐いた。
そして早めにお暇することが出来て、帰りの馬車の中で、私は心の底からほっとしていた。
これで、リュシアンからいったん距離を置くことができる。
好感度を上げまくってしまった私が言ってはいけないけれど、いきなりこの世界に来てしまって、正直恋愛(乙女ゲームですが)どころではない気持ちだ。リアルなリュシアンは目から涎が出そうなほど素敵だったし、きっとジェラールもレオンもシャルルも同じようにイケメン揃いなのだろう。
興味は、もちろんある。でも、私がヒロインでというのはまた別の話だ。
幸い、今日のリュシアンとの話で、私が社交界へ出るまでという2か月の余裕ができた。その間に何とかして帰る方法を見つけたい。……そしてもし、それが出来ないなら。仕方ない、その時はその時で考える。
そんなことを考えながら家に着いた私を待っていたのは、想像もしていなかったリュシアンからの、あまりにも素早い攻撃だった。
「殿下、これはどういうことなのですか」
翌日、王宮の中庭。大輪の薔薇が咲き乱れ、それに加えてジャスミンの香りが漂ってくる。木漏れ日の下に設えられたテーブルに案内された私は、思わず挨拶もそこそこにリュシアンに詰め寄ってしまった。
「やあ、フェリシア。そのドレス、よく似合っているよ。私の思った通りだ」
「ありがとうございます……って、話をそらさないで下さいますか? 私は昨日、どうぞ他のご令嬢方と同じにして下さいとお願いを……」
リュシアンは優雅に首をかしげる。そんな動作ひとつも様になりすぎて、私の気持ちが乱される。
「2人きりで会わない。噂になるような真似はしない。―――その通りにしたつもりだが?」
確かに中庭の隅には護衛らしい人が数人散っているし、人目のある中庭で会うことは男女のお付き合いには含まれないとされている。でも。
「そういうことではありません。なぜ、昨日の今日で、しかもドレスまで……」
そうなのだ。昨日家に帰りついた私を待っていたのは、翌日のご招待と、下級貴族のグランデール家では見ることすら出来ないような、高価なドレスだった。昼の装い用で露出は少なく、上品で清楚なデザインだったけれど、見る人がみればわかる。
ばあやは口もきけなくなってしまうし、お父様は難しい顔で考え込んでしまうし。
それはそうだろう。仮にも第二王子から、連日のお誘いに加えてドレスなど贈られたら、意味などひとつしかない。この世界の住人でない私にだって分かる。まあ、だいぶフェリシア脳ともなじんで、この世界の常識が頭に入って来た私ですが。
「それは仕方がない。私は君が気に入ったのだからね」
「!?」
あまりにストレートな物言いに言葉をなくした私を、リュシアンは流れるようにエスコートして座らせた。メイドさんが静かに近づいて、カップにお茶を注ぎ、離れてゆく。
「出来るなら毎日会いたいし、贈り物をしたいのは当然だろう?」
さすがは王子だ。使用人には耳などないかのように、まったく気にしない。それに比べて私は、メイドさんどころか20メートルも離れた護衛の耳と目までが気になって、顔を上げられない。
「で、殿下……。そういうことが、噂になると困るのですが……」
「大丈夫、今ここには私しかいないだろう。ああ、彼らのことなら心配ない。ここから洩れたら自分たちの首が飛ぶと分かっているからね」
そう言ったリュシアンの瞳が一瞬氷のように光り、私は理解する。やはりリアルな王子様はゲームと違い、優しく美しいだけではないのだと。
そのリュシアンの目が再び細められ、笑顔が浮かんだ。
「君が心配することはない。私に任せておけば良いのだ、フェリシア」
―――すみません、それが一番困るんですが。
昨日と変わらぬ幸せそうなリュシアンを目の前にして、私はこっそりとため息を吐いた。
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