魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

文字の大きさ
14 / 104

14・魔導師の試し 下

しおりを挟む



 都の名はモルシェーンといい、さすがに王都だけあって町並みも立派で人も多く、店もさまざまに目をひいた。それでも必死にルカ様について歩き、ようやく私とルカ様はお城の前に立っていた。

「うわぁ……」
口を開けてお城を見上げる私を置いて、ルカ様はずかずかと城門へ向かっていってしまう。
「ミア、置いていくぞ」
「え、待って下さいルカ様!」

 ルカ様は魔導師の正式なローブ姿で、しかも門番の誰もが顔を知っている。
 私はまだ魔導師ではないので、普通の娘が着るような、スカートの長いワンピースを着ていた。おそらく私一人では、門を通してはもらえなかっただろう。もちろん今回はルカ様に連れられて問題なしだ。


 中に入ると、ルカ様と同じような魔導師の服を着た、若い女性が待っていた。
「お待ちしておりました、ルカ師」
ルカ様が頷くと、その女性は次に私をみて言った。
「こちらの方が……」
「ミアと申します」
私は頭を下げる。女性は少し目元をゆるめて頷いた。

「では、早速ですが、国王陛下と魔導長官は既にお揃いです。ルカ師はどうぞそちらへ。ミア様には私と来て、お仕度をしていただきます」
 ルカ様は彼女に頷いた。そして私をみてまたひとつ頷き、そのまま奥へ歩いていった。


「ではこちらへ」
案内されたのはなんと浴室。
 やっぱり王様の前に出るのだから、綺麗にしなさいってことなのかしら……? 
  お湯を浴びて出てみると、着替えも用意されていた。それはルカ様たち魔導師のローブをごく簡素にしたもので、丈は長いけれど刺繍や飾りはなにもない。

「もしチャージをなさるなら、今この場までなら許されますが?」
女性が声をかけてくれたけど、私には無理なのでありがたく辞退した。人前ではできない、そういう人も多いのだろう。女性もそれ以上はなにも言わなかった。





 またその女性に案内され、今度は長い廊下を進んでいく。突き当たりの大きな扉を開け、中に入ると女性は言った。
「ここから先は、ミア様お一人で。次の扉の向こうに、皆様お揃いですので」
「はい」
私は頷いて進む。緊張で身体が強ばるけれど、去年の今ごろには考えられもしなかったところにいる私。この1年を、無駄にはしたくない。


 ひときわ大きく、重々しい扉を押した。見た目に反して、扉は軽く左右に開いていく。

 扉の向こうは、予想していたよりずっと広い部屋だった。入って正面に、一段高い席が設けられ、立派な椅子に座る男性がみえる。あれが国王様だろう。

 そしてその両脇に魔導師のローブ姿の人物が二人。片方はルカ様、もう一方のかたはルカ様よりもっと歳上。長官様かもしれない。さらにその両脇に、魔導師らしき人が何人も立っている。

 そんなことを考えながら少しだけ歩みより、ルカ様に教えてもらった作法どおりに両膝をつく。


「クルム村のミア、だな」
「はい」
目を伏せている私には、誰に聞かれたのか分からない。
「顔を見せなさい」
言われて顔を起こすと、国王様が私をみて頷いた。どうやら国王様自ら話して下さっていたらしい。

 そして同時に、国王様とルカ様を除くその場の全員が、私の魔力を探っている気配を感じていた。
 長官様が頷いて言った。
「陛下に申し上げます。この者の魔力、間違いなく4属性を有し、最大値8830に間違いございません」
国王様がまた頷く。

「では娘、これよりそなたの魔力を示してもらう」
それはルカ様にも聞いていたことだ。長官様が即興で指示を出し、私はそれにしたがって魔法を使ってみせるのだ。
 私は一礼して立ち上がった。


「この部屋は強力な結界により守られている。どんな魔法を放とうとも心配はいらない。また、陛下を含め我々の心配もしなくて良い」
「はい」

「では行こう。まずは、何か強力な風属性の魔法を」
「はい。……竜巻!」
ルカ様と初めて練習してから一年。私の竜巻は、あの時のルカ様に匹敵する強さになっている。
 場内に黒雲が立ち込め、敷地の半分を埋め尽くす太さの竜巻を、私は場内一周させて消した。
 その場で一礼する。


「よろしい。では次、そなたは光属性も持っておるが、白魔法というと回復に偏りがちだ。白魔法で攻撃に……闇属性以外にも使える魔法があれば見せよ」
「はい」
迷いのない私の返答に、場の魔導師の中には意外そうな顔をする者もいた。

 私は今度は詠唱なしで放った。
 天を振り仰いだ私の右手から、白い光の球が放たれる。高く上がった球は花火のように弾け、白い光の筋が地上に降り注ぐ。それはたちまち硬度を増し、カンカンカンカン!という高い音とともに、床には何百本という光の槍が突き刺さった。
 私がまた一礼すると、槍は仄かに光って消えた。


「ほう……」
国王様が、思わずといった感じに声をだすのが聞こえた。
 私は敢えてルカ様を見ない。見たら一気に気が緩んでしまいそうだから。

 通常、長官様の課題は3つだと聞いた。あとひとつは何だろう?


「最も強いのが光属性と聞いたが、さすがだな。では、その次の強さと聞いている土属性で……。攻撃や防御に限らなくとも良い、そなた独自の、珍しいものを示せ」

 これには一瞬戸惑った。それを見て長官様が聞く。
「どうした、出来ぬか?」
「……伺ってもよろしいですか」
「よい」
「わたくしは、わが師のルカより他に、魔導師のかたにお会いしたことはございません。ですので、わたくしの習得した魔法のうち、どれが珍しいのか……それが分からないのです」

「ならば、魔導師ルカよ」
それまで聞いていた国王様が言った。
「そなたはこの娘の得た魔法を知っているだろう。その中から、この場にふさわしいものを示せ。……そうだな、余計な指示を加えられぬよう、一言で。師弟ならそれでも通じよう。……皆もそれでよいな?」

 長官様をはじめ、魔導師の皆様が一礼した。
「ではルカ殿」
長官様が促す。私はまた目を伏せていた。
「はい、では。ミア、『エリン』だ」
「……はい!」
思わず伏せていた顔をあげて、ルカ様を見てしまう。自分が笑顔になってしまっているのが分かった。


 ルカ様の言った『エリン』とは。嫁ぐエリンがルカ様のもとを去る日に、私がはなむけとして、幸せになるようにとの願いと祝いをこめて披露した魔法だ。
 魔物相手や戦いの場で使える魔法では決してないけれど、ルカ様がそれを、と言ってくれたことが嬉しかった。


 私はまた一礼した後、一度目をとじて心を静める。エリンの笑顔を思い浮かべ、放った。

 国王様の前に、小さな白い花が咲いた。蝶の形に似た白蝶花は、エリンの好きな花。花は見る間に数を増やし、蔓を伸ばし、白いあずまやを作り上げる。

 その直後、周りに一気に花が咲き乱れ、白いあずまやを彩っていく。部屋の境目などは消えて、はるか地平線まで続く花畑に、白いあずまや。
 そしてその入口に、ひとつぽつんと大輪の赤い花。花言葉は『永遠の愛』というロルの花だ。

 次の瞬間、すべては消えた。そして最初に白蝶花が咲いたところに、小さな籠に入った白と赤の花が残った。


 私は籠を拾って一礼する。しばらくの間、長官様をはじめ誰も口をきかなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...