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14・魔導師の試し 下
しおりを挟む都の名はモルシェーンといい、さすがに王都だけあって町並みも立派で人も多く、店もさまざまに目をひいた。それでも必死にルカ様について歩き、ようやく私とルカ様はお城の前に立っていた。
「うわぁ……」
口を開けてお城を見上げる私を置いて、ルカ様はずかずかと城門へ向かっていってしまう。
「ミア、置いていくぞ」
「え、待って下さいルカ様!」
ルカ様は魔導師の正式なローブ姿で、しかも門番の誰もが顔を知っている。
私はまだ魔導師ではないので、普通の娘が着るような、スカートの長いワンピースを着ていた。おそらく私一人では、門を通してはもらえなかっただろう。もちろん今回はルカ様に連れられて問題なしだ。
中に入ると、ルカ様と同じような魔導師の服を着た、若い女性が待っていた。
「お待ちしておりました、ルカ師」
ルカ様が頷くと、その女性は次に私をみて言った。
「こちらの方が……」
「ミアと申します」
私は頭を下げる。女性は少し目元をゆるめて頷いた。
「では、早速ですが、国王陛下と魔導長官は既にお揃いです。ルカ師はどうぞそちらへ。ミア様には私と来て、お仕度をしていただきます」
ルカ様は彼女に頷いた。そして私をみてまたひとつ頷き、そのまま奥へ歩いていった。
「ではこちらへ」
案内されたのはなんと浴室。
やっぱり王様の前に出るのだから、綺麗にしなさいってことなのかしら……?
お湯を浴びて出てみると、着替えも用意されていた。それはルカ様たち魔導師のローブをごく簡素にしたもので、丈は長いけれど刺繍や飾りはなにもない。
「もしチャージをなさるなら、今この場までなら許されますが?」
女性が声をかけてくれたけど、私には無理なのでありがたく辞退した。人前ではできない、そういう人も多いのだろう。女性もそれ以上はなにも言わなかった。
またその女性に案内され、今度は長い廊下を進んでいく。突き当たりの大きな扉を開け、中に入ると女性は言った。
「ここから先は、ミア様お一人で。次の扉の向こうに、皆様お揃いですので」
「はい」
私は頷いて進む。緊張で身体が強ばるけれど、去年の今ごろには考えられもしなかったところにいる私。この1年を、無駄にはしたくない。
ひときわ大きく、重々しい扉を押した。見た目に反して、扉は軽く左右に開いていく。
扉の向こうは、予想していたよりずっと広い部屋だった。入って正面に、一段高い席が設けられ、立派な椅子に座る男性がみえる。あれが国王様だろう。
そしてその両脇に魔導師のローブ姿の人物が二人。片方はルカ様、もう一方のかたはルカ様よりもっと歳上。長官様かもしれない。さらにその両脇に、魔導師らしき人が何人も立っている。
そんなことを考えながら少しだけ歩みより、ルカ様に教えてもらった作法どおりに両膝をつく。
「クルム村のミア、だな」
「はい」
目を伏せている私には、誰に聞かれたのか分からない。
「顔を見せなさい」
言われて顔を起こすと、国王様が私をみて頷いた。どうやら国王様自ら話して下さっていたらしい。
そして同時に、国王様とルカ様を除くその場の全員が、私の魔力を探っている気配を感じていた。
長官様が頷いて言った。
「陛下に申し上げます。この者の魔力、間違いなく4属性を有し、最大値8830に間違いございません」
国王様がまた頷く。
「では娘、これよりそなたの魔力を示してもらう」
それはルカ様にも聞いていたことだ。長官様が即興で指示を出し、私はそれにしたがって魔法を使ってみせるのだ。
私は一礼して立ち上がった。
「この部屋は強力な結界により守られている。どんな魔法を放とうとも心配はいらない。また、陛下を含め我々の心配もしなくて良い」
「はい」
「では行こう。まずは、何か強力な風属性の魔法を」
「はい。……竜巻!」
ルカ様と初めて練習してから一年。私の竜巻は、あの時のルカ様に匹敵する強さになっている。
場内に黒雲が立ち込め、敷地の半分を埋め尽くす太さの竜巻を、私は場内一周させて消した。
その場で一礼する。
「よろしい。では次、そなたは光属性も持っておるが、白魔法というと回復に偏りがちだ。白魔法で攻撃に……闇属性以外にも使える魔法があれば見せよ」
「はい」
迷いのない私の返答に、場の魔導師の中には意外そうな顔をする者もいた。
私は今度は詠唱なしで放った。
天を振り仰いだ私の右手から、白い光の球が放たれる。高く上がった球は花火のように弾け、白い光の筋が地上に降り注ぐ。それはたちまち硬度を増し、カンカンカンカン!という高い音とともに、床には何百本という光の槍が突き刺さった。
私がまた一礼すると、槍は仄かに光って消えた。
「ほう……」
国王様が、思わずといった感じに声をだすのが聞こえた。
私は敢えてルカ様を見ない。見たら一気に気が緩んでしまいそうだから。
通常、長官様の課題は3つだと聞いた。あとひとつは何だろう?
「最も強いのが光属性と聞いたが、さすがだな。では、その次の強さと聞いている土属性で……。攻撃や防御に限らなくとも良い、そなた独自の、珍しいものを示せ」
これには一瞬戸惑った。それを見て長官様が聞く。
「どうした、出来ぬか?」
「……伺ってもよろしいですか」
「よい」
「わたくしは、わが師のルカより他に、魔導師のかたにお会いしたことはございません。ですので、わたくしの習得した魔法のうち、どれが珍しいのか……それが分からないのです」
「ならば、魔導師ルカよ」
それまで聞いていた国王様が言った。
「そなたはこの娘の得た魔法を知っているだろう。その中から、この場にふさわしいものを示せ。……そうだな、余計な指示を加えられぬよう、一言で。師弟ならそれでも通じよう。……皆もそれでよいな?」
長官様をはじめ、魔導師の皆様が一礼した。
「ではルカ殿」
長官様が促す。私はまた目を伏せていた。
「はい、では。ミア、『エリン』だ」
「……はい!」
思わず伏せていた顔をあげて、ルカ様を見てしまう。自分が笑顔になってしまっているのが分かった。
ルカ様の言った『エリン』とは。嫁ぐエリンがルカ様のもとを去る日に、私が餞として、幸せになるようにとの願いと祝いをこめて披露した魔法だ。
魔物相手や戦いの場で使える魔法では決してないけれど、ルカ様がそれを、と言ってくれたことが嬉しかった。
私はまた一礼した後、一度目をとじて心を静める。エリンの笑顔を思い浮かべ、放った。
国王様の前に、小さな白い花が咲いた。蝶の形に似た白蝶花は、エリンの好きな花。花は見る間に数を増やし、蔓を伸ばし、白いあずまやを作り上げる。
その直後、周りに一気に花が咲き乱れ、白いあずまやを彩っていく。部屋の境目などは消えて、はるか地平線まで続く花畑に、白いあずまや。
そしてその入口に、ひとつぽつんと大輪の赤い花。花言葉は『永遠の愛』というロルの花だ。
次の瞬間、すべては消えた。そして最初に白蝶花が咲いたところに、小さな籠に入った白と赤の花が残った。
私は籠を拾って一礼する。しばらくの間、長官様をはじめ誰も口をきかなかった。
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