魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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15・「魔導師ミア」 上

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「いや、美しいものを見せてもらった」
沈黙を破ったのは国王様だった。
「その上、確かに攻撃でも防御でもない。ルカ、見事な選択よ。どうだ、長官?」
「は、確かに珍しいものでございました」

 長官様の戸惑いの理由は分かっていた。普通、こういう時は誰しも、いかに強い魔力をアピールするかに意を用いるものだから。攻撃や防御でなくてもよいと言われても、大抵は派手な攻撃魔法を出してくるものなのだ。

 そこへお花畑など見せた私は、やる気のなさを問われてもおかしくない。
 それでも私に悔いはなかった。ルカ様があれを勧めて下さった上に、国王様にお目にかけて喜んでいただけたのだから。


「さて、長官。それに魔導師ルカよ」
国王様が言い出した。
「通常なら、これで魔力の調べは終わるのだが、私にひとつ頼みがあってな」
「……陛下?」

 そこで国王様は私を見た。
「以前、魔導師ルカより聞いたことがある。複数属性を持つものは、それらを繋いでひと続きの魔法として放つことができる、と」
 確かに、ルカ様は私にもそう言った。

「ミア、可能なら、そなたにそれを見せてもらいたい。そなたの持つ、4つの属性の魔法をひとときに放つところを」
「陛下! それはあまりに急な……」
ルカ様が庇うように言ったが、国王様は取り合わない。
「控えよ、ルカ。私はそなたではなく、弟子に聞いている。━━━どうだ、ミア?」

 私はルカ様をみた。気遣うように私を見守っている。


「国王様、━━━国王陛下。わたくしはまだ、未熟でございます。先の竜巻のような大きな魔法ではなく……ほんの小さな、ささやかな魔法でもお許しいただけますか? 」
「ほう、それなら今見せてくれるというのか?」
国王様、じゃなく国王陛下は興味深そうに私を見る。
「はい。ひとつだけできるものがございます。……ご満足いただけるかはわかりませんが」

「それで良い。仮に失敗したとしても、それは問わぬ。私が勝手に願ったことなのだからな。良いな、長官?」
そこまで陛下に言われては、長官様も頷かないわけにはいかない。

「では、やってみよ、ミア」
「はい。……長官様、お願いがございます。陛下と、皆様にかけてある結界を、一時外していただきたいのです。危険な魔法は使いませんし、もし万一そんな事になれば、わが師ルカが私を殺しても止めるでしょう。どうか、お願いいたします」

 私が頭を下げると同時に、陛下の「許す」という声がした。長官様は目を白黒させたけれど、結局はそうして下さった。


 私はまた目を閉じる。4属性それぞれを撚り合わせるため、私は長い詠唱をはじめた。

 それはあの森……ルカ様の館の森。心地よいそよ風に頬をなぶられ、時折ひんやりした霧が流れて睫毛に水滴をつける。周りには香りのよい草花が次々と開いては実をつけて、次には霧の隙間から眩しい光が差し込んで輝く……。
 そこで魔法を解いた。
「クルム村近くの森をお見せしましたが……、皆様のお髪を濡らしてしまいました。申し訳ございません」

「なるほど、ただの幻ではないということだな。……これもそうか」
陛下は膝の上の蔓草を摘まんで振った。緑の香りが漂う。

 そして陛下は機嫌よく言った。
「間違いなく、4属性が発動していた。初めて見せてもらった、礼をいうぞ、ミア」
私は黙って頭を下げる。

 そして陛下はご機嫌のまま退出された。
 威厳を取り戻した長官様が私に言う。
「ご苦労だった、クルム村のミア。師のルカ殿とともに休憩を取り、夕刻にもう一度参られよ」
そこで結果を受け、認められれば魔導師の資格が与えられるのだ。

「はい、長官様。ありがとうございました」
私は皆様に頭を下げ、ルカ様について退出した。






 ルカ様は一度着替えて王宮から出て、モルシェーンの町の飯屋で食事をさせてくれた。店ではルカ様は顔馴染みのようで、店主がテーブルに案内しながら声をかける。

「ルカ様、今回は可愛い娘さんをお連れだね? ははぁ、ついに身を固める気になりましたか」
「馬鹿をいうな。これは弟子だ」
すると横からおかみさんがかん高い声を上げる。
「え、じゃあルカ様、その娘が噂の4属性もちかい!?」

 とたんに店内がシーンと静まりかえった。そして皆が私に注目し、ざわめきだす。
 店主は頭を掻いた。
「この馬鹿、でかい声を出しやがって……。ルカ様、すみません。隣の部屋を開けますから、そちらでお食事なさって下さい。お嬢さんもすみませんね」


 ルカ様は苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど、さすがに店を出ることはせず、店主の用意した別室に案内された。
「噂になってるって、本当だったんですね……」
私は単純に驚いたけれど、ルカ様の機嫌はまだ直らないらしい。
「ふん、当たり前だ、分かってなかったのか?」
「だってルカ様、私は魔法の練習以外に村の外へ出たことなんてありませんから」

 そこへ店主が料理を運んできた。おかみさんも一緒にきて平謝りする。なんだか頼んだ以上のものが並べられた気がするけど、二人ともルカ様の顔色をみて、そそくさと部屋を出ていった。


 お料理はおいしかった。ルカ様も機嫌を直し、話題は当然さっきの魔法のことになる。個室にいなければ話せなかったし、かえって良かったのかも。

「よい出来だった。はじめの、長官からの3つについては文句のつけようがないだろう」
「本当ですか? あ、エリンのあれも、問題ないのですか? 全く実戦むきではないのでどうかと……」
「だからこそ、長官や王宮の魔導師たちの印象に残るだろう。それに……」
そこでルカ様は笑う。
「陛下はあれで、意外とロマンチストでな」
「え……?」


「それより、最後の4属性魔法は知らなかった。いつ呪文を編み上げた?」
「それぞれの呪文を、別々には作ってありました。ですが、撚り合わせて放つのは、実は……」
「初めてだったのか? まったくおまえは……」

 呆れるルカ様に、私は身をすくめる。しかしルカ様は笑った。
「よくやった。あの呪文を編み上げられる力を、理解出来ない魔導師たちではない。本当によくやったぞ」

 ルカ様と私は水のグラスで乾杯し、食事を終えた。





「クルム村のミア、そなたを魔導師に任ずる」
お城に戻った私たちは広間に案内され、そこで国王陛下が重々しく宣言なさった。

 その後、長官様から魔導師の証の指輪が渡され、試しの時に着たローブの上から、本物の魔導師のローブを着せかけられる。


 私は「魔導師ミア」になった。


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