魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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16・「魔導師ミア」 下

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 その後、ルカ様は国王陛下に呼ばれて行った。私がお庭の見える廊下で待っていると、ルカ様が何故か足音荒く戻ってきた。
「どうかなさったのですか?」
「全く……。陛下から夕食のお招きだ」
「それは……。私は宿でお待ちすれば……」
「馬鹿、おまえも出るんだ」
「えええぇ!?」
ルカ様は呆れた顔をして私を見下ろす。
「どちらかというとおまえが主役だぞ、ミア?」

 それはあくまで国王個人の私的な招き、という体裁をとっていた。陛下とルカ様は昔からの友人でもあり、陛下がルカ様をお招きになるついでに、弟子の私もご招待下さるということで。
「実際は私なぞ口実にすぎん。陛下は前からおまえに興味津々なのだ」
ルカ様が苦々しげに言うけれど、私には訳が分からない。
「4属性など見たことないからな。国王らしく振る舞うのは上手いが、あれは子供のようなところがあるお方なのだ」

 さすがルカ様、仮にも国王様をそんなふうに……。それにしても、今の王宮の魔導師のなかに、たしか3属性持ちがいると聞いたんだけど。そんなに違うものなのかしら?

 ともかく、もうあまり時間がない。
「ルカ様。とりあえず、服装は、今日いただいたローブでいいんですよね?」
あとはせめて見苦しくないように髪を整えて……。
「あ、私お城のお食事なんて分かりません! 何か決まりでもあるんでしょうか?」

 ルカ様はため息をついて私を眺める。
「ミア、頼むから落ち着いてくれ。いつも通りのおまえで大丈夫だから」
「でも……」

 その時、涼やかな笑い声がして、聞き覚えのある声がかけられた。
「ルカ師、しばらくミア様をお借りしたいのですが宜しいでしょうか?」
振り返ると、初めに案内をしてくれた若い魔導師の女性だった。

「私にミア様のお支度をお手伝いさせて下さいませ。お食事の間までお連れしますのでご心配なく」
ルカ様は怪訝そうな顔で聞く。
「支度など、なりたての魔導師に必要は……、それにサラ殿、なぜ貴女が?」
サラ殿と呼ばれたその女性はまた笑う。

「ほほほ、その昔"王宮の魅惑の魔導師ルカ"と浮き名を流したルカ師でも、女性の身仕度には未だ無頓着でいらっしゃる」
「サラ殿、そんな昔のことを……っ!」
「ご心配なく。少し髪を整える程度のことです。ではミア様、こちらへ」
慌てて見上げると、ルカ様はしぶしぶと言う感じで頷いている。ひとつ頭を下げて、私はサラ様の後を追った。






「先程の浴室は、私的に使うことは出来ません。申し訳ないのですが、私の部屋へおいで下さい」
サラ様はそう言って、王宮の奥の方へとどんどん進んでいく。私はもうついていくしかない。
「あ、あの……、サラ、様?」
「何でしょう?」
「サラ様は、ルカ様とはお知り合いなのですか?」


 サラ様はひとつの扉を開けて、私を招き入れた。
 そして振り返って微笑む。
「ええ、私はルカ師とは古い知り合いなのです」
私は首をかしげる。
「……でも、サラ様は……ずいぶんお若いですよね?」
 するとサラ様は、鈴を転がすような声で笑った。
「まあ、ありがとう。でも私は、ルカ師よりも歳上なのですよ?」

 私はあまりの驚きに声も出なかった。
「……え……え?」
サラ様はただにっこりと微笑んでいる。そしていくつかの引き出しから、いくつも何かを取りだした。
「さあ、まずは湯を浴びて清めていらっしゃい。王宮では、身分の高い方にお会いする前にはそうするのが決まりです」


 その後、私はサラ様によって髪を結い上げられ、薄く化粧をされた。
「もう一人前の女性なのだし、まして貴女は皆の注目と信頼を集める魔導師となったのですから、身だしなみには気を配らなくてはなりません」
それから女性のローブの着方、飾り紐やアクセサリーの重ね方などを詳しく教えてくれる。

「ルカ師はそういうことにはほとんど関心がないし、魔法以外に拘る必要などないと仰るかも知れない。でも残念ながら、特に女性魔導師は見た目によって扱いが変わることもあるのです」
そこでサラ様は悪戯っぽく笑った。
「私達だって、醜男よりはルカ師のような方が良いですからね?」


「さ、これで良いでしょう。会食の間まで送りますよ」
 鏡の中の私は、別人のようだった。特に派手な化粧をされてはいないのに、髪は艶々と輝き、頬と唇に薄くのせられた紅が、娘らしさを際だたせている。
 思わず見入ってしまっていると、サラ様がまた笑う。
「そのくらい自分でできるようになるのですよ」


 サラ様についてまた王宮の中を歩きながら、私は気になっていたことを尋ねてみた。
「サラ様、なぜ私にここまでして下さったのですか?」
サラ様は足をとめて振り返った。
「貴女とはきっとまたお会いすることもあるでしょう。機会があればお教えします」
サラ様は微笑んだまま、何も話さなかった。





「ルカ様」
廊下の向こうにルカ様がいたので駆け寄っていくと、振り返ったルカ様が私を見て絶句した。
「いかがです、ルカ師?」
サラ様が艶然と微笑んで尋ねる。
「あ、いや……変わるものだな……」

 サラ様は吹き出した。
「ミア様、ルカ師のこれは誉め言葉のうちとお思いなさい。━━━では、私はこれで」
「サラ様、ありがとうございました」

 サラ様の後ろ姿を見送っていると、ルカ様が聞いた。
「……サラ殿と、何か話したのか?」
「身嗜みと、お化粧について少し教えていただきました。あとは……ルカ様の古いお知り合いと聞きましたが、あまりに若く見えるので驚きました」

「ああ、彼女も属性はひとつきりだが、非常に魔力が高いからな。ミア、おまえも将来はあのように若くいるかも知れないぞ」
「……まだ想像もつきません」


 会食の間には、まだ誰も来ていなかった。国王陛下の私的なお部屋ということだけれど、館の子たちなら30人は並べるテーブルがあって、そこに8人分の席が用意されていた。

 部屋の隅にルカ様と立って、豪華なシャンデリアや銀の食器に見とれていると、反対側の扉が開いて国王陛下が入ってきた。その後ろには王妃様とおぼしき方、長官様と続いた。
 それからさらに3人の、若い男性が入って来た。


 ルカ様が小さな声で「そういうことか……」と呟いたけれど……。私は緊張していて、それがどういうことかなどと考えもしなかった。



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