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17・三人の騎士 上
しおりを挟む席につく前にご挨拶させていただいた王妃様は、優しい印象のとても美しい方だった。陛下からエリンの魔法のことをお聞きになったらしく、今度見たいと言ってくださった。
食事はなごやかに始まり、まずは飲み物が配られた。
「今日は名高い魔導師ルカに会わせたい若者がいてな、同席させることにした。紹介しよう」
国王陛下がそう仰って、ルカ様が一旦グラスを置いた。私もそれにならって手を止める。
「こちらから、カイン、エリス、グリフだ。3人とも我が国きっての騎士だ」
するとカインと言われた男性が頭を下げる。
「カインです。ルカ師には以前一度お会いしていますが」
ルカ様は微笑んで答える。
「覚えている。立派になられたな」
「ありがとうございます」
カイン様は炎のような赤毛に水色の瞳、ルカ様よりもはるかに背が高く、一見細く見える身体はかなり鍛えられているらしかった。態度は堂々として自信に満ちていて、まさに騎士といった雰囲気の方だ。
「エリスでございます、ルカ師。お目にかかれて光栄です」
柔らかな声で挨拶するエリス様は、サラサラの長い銀髪に灰色の瞳。髪の色と、騎士には見えない細い体のせいか、ルカ様に雰囲気が似ている。いつも微笑んでいるようなイメージの、とても頭の良さそうな方。
「グリフです、よろしくお願いします」
グリフ様は、……とにかく大きな方だった。胸も腕も、鎧のような筋肉に覆われて、椅子の上で窮屈そうにしている。日焼けした浅黒い肌に短くした黒髪で、整った顔なのだが表情が厳しい。なのに笑うと琥珀色の瞳が見えなくなって、優しそうに変わるのが印象的だった。
「そして今日はもう一人紹介しなくてはならない。ルカの弟子で、今日魔導師の資格を得たばかりだが。もう噂で聞いていよう、魔導師ミアだ」
私は慌てて頭を下げる。
「ミアです。未熟者ですがよろしくお願いいたします」
するとカイン様が柔らかく微笑んで言った。
「ああ、あなたが4属性持ちのミア殿。こちらこそよろしく」
「ご存じなのですか?」
「4属性を持つエメラルドの瞳の乙女、という噂はもう半年も前から広まっていますよ」
私は赤くなった。
「そんな言われ方を……しているのですか?」
それに答えたのはエリス様で、
「その通りです。……ですが、こんなに美しい方だとは知りませんでしたね」
……さ、さすが王宮の皆様、お世辞がお上手で……。
そう分かっていても、どう答えて良いか分からない私は、下を向いて赤くなった顔を隠すことしかできない。
見かねてルカ様が助け船を出してくれた。
「騎士諸君、これは田舎育ちで、こういう場に慣れていないのだ。あまりからかわないでやってくれ」
カイン様とエリス様は微笑んでルカ様に一礼して、話題をおさめてくれた。
なのに、今まで黙っていたグリフ様が突然、
「いや、オレたちはからかってなんかいません。ミア殿は本当に綺麗な方です」
そう呟いて、横からエリス様に肘をつつかれた。
私はまた赤くなってしまったが、カイン様が急いでルカ様に他の話題を出したので、食事はまた何事もなかったように続けられた。
食事を終えた後、陛下はルカ様をお近くに呼んで、何かを話された。ルカ様は少し困ったようにしていたけれど、私を振り返った。
「ミア、私はまだ陛下と話があるのだが……、しばらく待っていられるか? それとも先に宿へいくか?」
「道が不案内ですので、待たせていただけるならお待ちします」
そこへカイン様が来て言った。
「ルカ師、良ければ我々がミア殿に王宮の案内でも致しますが、如何ですか?」
私はびっくりしてルカ様を見上げた。ルカ様は3人に尋ねる。
「今をときめく騎士殿に、そのようなことを頼めるのか?」
「え、ルカ様!」
「ルカ師のお役に立てますなら、何でもありません」
エリス様が嬉しそうに答え、グリフ様も横で頷いた。
「ではお願いする。ミア、王宮について少し教えていただくといい」
そしてルカ様は陛下と行ってしまった。
「ではミア殿、行きましょう」
私は3人の騎士様に囲まれて、内心途方にくれたのだった。
◆◇◆
「やれやれ、あの娘……。魔導師としては大した器だが、自分の価値というものを全く理解していないな」
国王の、公ではない本当の私室。ここへ入ったことのある者は限られている。ルカはその限られたうちの一人だった。
「しかし陛下もお人が悪い。せめて私にくらい、言っておいていただいても……」
「止せ止せ、ルカ。その喋りを聞いていると、こっちの肩がこって敵わん」
国王はそう言って、ドカッと椅子に座り込む。
ルカはため息をついた。
「分かったよ、本当におまえは策士だ。……まさか今日も今日、あんな見合いのようなことまで考えているとは知らなかった」
ルカも向かいの椅子に座って足を組む。
「今ここへ俺を呼んだのだって、あの3人がどうするか興味があったからだろう?」
国王は人の悪そうな笑いを浮かべた。この部屋以外では、絶対に見せない顔だ。
「あの3人なら心配ない。技量も人柄も、おれが保証する。……まあ全く女の影がない、などとは言わんが」
ルカは国王を軽く睨む。
「それはそうだろう。騎士で、なおかつあれだけの見た目なら女が寄って来ないほうがおかしい」
「見た目、と言えば。あの娘も、試しの時とはずいぶん変わっていたじゃないか。髪と化粧、まさかおまえがさせた訳じゃあるまい?」
「あれは、サラのしたことだ」
国王は目を丸くした。
「サラ? なんで彼女が?」
「俺が知るか」
ルカは不機嫌に黙りこむ。その様子をみて国王は諦めたように話題を戻した。
「……まあいい。とにかく、あの娘は早急に相手を見つけることが必要だ。あいつらに限らないとしても、多少は男に慣れておいてもいいだろう」
そして用意されていた酒を注いでルカに差し出した。
「まあ、一杯くらいは飲んでいけ」
◆◇◆
「ここが大広間です。さきほどミア殿が魔導師の資格を受けられた広間の、倍の大きさがあります」
私は3人の騎士様に案内され、王宮のあちこちを見学していた。緊張していた私だけれど、騎士様たちは優しく親切で、少しずつ話ができるようになっていた。
もう夕食後の時間だったが、さすがに王宮のなかは照明が途切れることはなく、見学に困ることもなかった。
「お疲れではありませんか? ここなら陛下のお部屋からの通り道ですから、ここで待ちましょう」
そう言ってカイン様が椅子をひいて下さったのは、1時間もたったころで、廊下の数ヶ所に設けられた休憩スペースのような所だった。
3人の騎士様の魔物討伐のお話などを聞いていると楽しくて、さほど待たないうちにルカ様が戻ってきた。
騎士様たちは今度はルカ様と私を城門まで送ってくれて、私たちはようやく宿に戻った。
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