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56・王妃様
しおりを挟む「王妃様がね……。そういえば元は魔導師って聞いたっけか……」
グリフが私をひょいっと馬に引っ張り上げながら言うと、ウェインが思い出すような目をした。
「ああ、そういやご成婚の時に話題になってたな。……属性までは覚えていなかったが」
「それにしても便利だね、今の魔法」
口々に話す面々をよそに、カインはしばらく考えていたが、顔を上げて言った。
「よし、考えたんだが」
「モルシェーンへ戻ってナーシュへ向かっては時間がかかりすぎる。食糧はギリギリだが、ナーシュへ直行する」
全員が賛成して頷く。
「だが、今後のことを考えると、さっきのような連絡が出来るかどうかは重要に思える」
これも全員頷く。
「だから、誰か1人モルシェーンに戻って、陛下と王妃様に話してもらおうかと思うんだが」
間髪いれずにエリスが言った。
「うん、僕が行くよ」
「頼んでいいか、エリス」
エリスはカインの肩を小突いて笑う。
「カイン、最初からそのつもりだったよね?」
「おまえ以外に、陛下と渡り合える奴がいないからな」
カインも笑って肩を叩いた。
エリスはカインと短く話し合って、あわただしく出発していった。……私にしっかりと口づけてから。
私達も途中から道を変え、ナーシュへ向かう。
「なあ、カイン。クラーケンって、すげえデカいよな? あれが異常発生って、まずくないか?
「ああ、それがちょっと違うらしい。クラーケンは1体なんだが、それより小さな蛸の魔物が周りにぞろぞろ出てくるとかいう話だ」
それを聞いたウェインが首をかしげる。
「それも聞いたことねえ話だな。魔物が魔物を産むみたいに聞こえるが」
「そうなんだ。……どうしてこう、常に妙な違和感がつきまとうのか……」
「何しろ、エリスが上手く王妃様に頼んでくれるといいな」
「そうですね……」
その夜はまた、私は1人でテントで休んだ。カインとグリフは残念そうだったけど、そうそう洞窟などありません……。
◆◇◆
王宮の魔導師たちの住まいは、閑散としていた。コカトリスの討伐に半数以上が駆り出されたからだ。
残った者も王宮の魔法に関わる仕事を分担しているので、それはそれで忙しい。
その忙しい仕事を抜け出して、魔導師サラの部屋を訪れた若い魔導師の男。……1時間ほどしてそっと出てくると、また急いで仕事に戻っていった。
部屋の中では、サラがあっという間に着替え、化粧を直していた。乱れたベッドも再び整えられ、さっきまで男がいた雰囲気は微塵も感じられない。
そして数時間後。今度は、窓をコツコツと叩く音がした。バルコニーには魔導師ではなく、王宮の文官らしい男。
サラは飛びきり妖艶な笑顔を浮かべて迎え入れ、ほどなく2人はベッドに倒れこんだ。そして男が果てると、サラの身体がふわりと光る。
男が出て行った後、サラは再び身なりを整え、真剣な顔で長い呪文を唱え続けた……。
◆◇◆
カインの一行と別れて馬を飛ばしたエリスは、騎士団長の率いる討伐部隊とは別の道を通り、かれらより早く王都へ到着した。まず館へ帰り、旅塵にまみれた身体を清めてから王宮へ急ぐ。
勇者カインの代理ということですぐさま国王に面会が許され、王のサロンに招き入れられる。
「なるほど、話は分かった」
国王はすぐに王妃を呼ぶように計らった。
「信頼のおける魔導師がいない訳ではないが、魔導師を使うと手続きやら記録やら、何かと面倒がついてくる。ならば王妃に頼んだほうが早い」
……そして陛下が関われるからですよね、とエリスが内心で呟いているうちに、もう王妃がやってきた。
「まあ、お役に立てるなら嬉しゅうございます。ミアさんとはもう少しお話ししてみたかったのですわ」
話を聞いた王妃は大喜びで、早速試してみようとする。
さすが陛下の奥方様だ、とエリスは思った。
◆◇◆
ナーシュへ向かって2日目の夜。カインとグリフが作ったスープに、私が魔法で一気に育てた葡萄をそえて夕食を済ませた。
ちなみに私の土属性の魔法は、なにもないところから植物を生やすことも可能だ。でもできればそこに生えている植物を使うほうが楽だし、効果も高い。ただ欲しいものが必ずしもそこにあるとは限らないので、私は沢山の種を持ち歩いている。それだけでもぜんぜん違うのだ。
食後にお茶(ウェインはお酒)を飲んでしばしくつろいでいると、頭上に風の気配を感じた。例の魔法だと気づいて、焚き火にかからないよう急いで離れる。
『ミアさんね?』
一度だけご挨拶させていただいたことのある、水晶でできた鈴のような、澄んだ美しいお声。
「は、はい! ミアでございます。王妃様」
まさか本当に、しかもいきなり王妃様ご本人から話しかけられるなんて。一気に緊張した私を、はるか遠くの王都から、王妃様はころころと笑った。
『そんなに固くなる必要はないわ。わたくしお役に立てて本当に嬉しいの。陛下はご自分はさんざんお出ましになるくせに、私にはなかなか参加させてくださらないのだもの。出来ることなら、あなた方と一緒に魔物討伐に行きたいくらいなのに』
「は、はあ……、ありがとうございます」
おそらくお近くに陛下もいらっしゃるだろうに、返事に困ることをさらりと仰られて、私は困惑する。近寄ってきたカイン達も、ぽかんと口を開けているようだ。
『さあ、それで? ここには陛下もエリスもいらっしゃいます。何でもお話しなさい?』
「は、はい。では……」
王妃様と私の魔法を通しての、あちらとこちら7人での話し合いは、思ったより長かった。
私達は明日の昼頃にはナーシュに到着する。現状をみて、明日もう一度王妃様にお話しさせていただくことにした。
「いやあまったく……あの国王陛下の、ってお方だな」
「さすが、あの陛下が惚れ込んで王妃に迎えられたってだけのことはある」
お話を終えた後、カインとグリフは感心しきりだ。
確かに王妃様は、初めの印象とは違って、優しくてお綺麗な……というだけの方ではなかった。
天真爛漫で、……たくましくて。それに何と言っても、陛下のことを本当にお好きでいらっしゃるのが伝わってきて、失礼ながら、私は王妃様のことが大好きになってしまった。
私もいつの日か、あんなふうに好きでたまらない誰かと添っている……、そんな未来があるだろうか?
ふとそんなことを思ってみたりする。それは3人と、この先どうなっていくのか、ということに大きな関係が……。
また考え始めた自分を叱咤する。
―――そんな遠い未来の心配は、今は置いておく。
ルカ様の言っていた通り、私に今出来ることをするのだ。
……さて、魔力のチャージ、どうしたらいいでしょう……?
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