魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

文字の大きさ
66 / 104

66・魔導査閲官ルカ 下

しおりを挟む

 ルカ様の言っていたとおり、この数日で魔力を顕現させた子が2人いた。もう1人も、確かに魔力が高まっている。ルカ様の見立ての正確さに内心感嘆しながら、魔力と属性を見て、基本の魔法をひとつ教えた。
「最初は無理に回数をこなさなくていいから、ゆっくり丁寧に練習してね。すんなり出来るようになったら、少しずつ量を増やして大きな魔法にするつもりで、イメージして」
「はい、ミア様。ありがとう!」


 カイン達は村長に招かれて、そちらで食事をするそうなので、私は館の皆と食事をさせてもらうことにした。子供たち(特に女の子)の興味は当然カイン達のことだ。

「ミア様、勇者様ってどんな人?」
「カイン様? とても強くて立派な方よ」
「じゃあ、あの王子さまみたいな方は?」
エリスは王子様なんだ、私は微笑んだ。
「エリス様はね、すごく頭のいい方なの」
「すっごく大きな人は? やっぱり怖い人?」
「グリフ様はね、実は一番優しい方」
「ええ、そうなの? …………あともう1人、おじさんがいるよね」
「ウェイン様は、前の勇者モース様ともご一緒していたすごい方なのよ」

「ね、じゃあ、ミア様は誰が一番好きなの?」
「誰と結婚するの?」
やっぱりそれが気になるのね。街の人と同じなので、思わず笑ってしまった。


 館の子供たちとの話はつきなかったけれど、村長の奥さんが気をまわして私の両親を呼んでくれた。
「さあ、皆はもう寝る時間だよ。ミア様は仕事でここへ来てるんだからね」
奥さんは子供たちを部屋へ追いたてながら、そのまま両親と食堂をつかうよう言ってくれた。ありがたく座って、両親に近況などを話した。王都へ行って2ヶ月、ようやく安心したと言ってくれて私もほっとした。もちろん、絶対に言えないことはありますけど…………。


 私が騎士の宿舎へ戻ると言うと、
「うちで泊まったらいいんじゃないの?」
母は残念そうにそう言った。けれど、
「今はカイン様の受けた任務で来ているから、また今度ね。そのうちお休みをいただけたら」
そう言うと納得してくれた。そして揃って宿舎まで送ってくれ、手を振って帰っていった。





 私が宿舎へ帰ると、食堂に灯りがついていた。
「お帰り、ミア」
カインが水を飲んでいた。もう水を浴びて着替えたようで、髪が湿っている。
「カイン! 早かったのね。まだ村長さんと一緒かと…………」
「村長はウェインと意気投合しているよ。俺は作戦を考えるからって帰ってきた」
「そうなの?」
「口実に決まってるだろ」
カインは笑いながら私の腰を抱いて、宿舎の奥へ向かう。

「ルカ師の用は済んだのか?」
「大丈夫。明日、出発出来ます」
館の子たちとの会話を思い出してくすりと笑うと、カインが眉を上げる。
「何?」
「館の子達が、カインやエリスのこと、すごく知りたがってたの」
「悪口言ってないだろうな?」
「内緒です」
「へえ…………それなら」

 そこで私の部屋を開け、くるりと私ごと回転して扉に押し付けられた。
「カイン?」
「生意気な口は塞いでおかないと」
「ん…………」
両手で頬を挟んで口づけられ、私はカインの首にしがみついた。





「ミア様、また来てね!」
「ありがとう、ルカ様に『皆がしっかりやってた』って伝えるからね」
翌朝、館の子達に見送られてクルム村を出発した私達は、バメルの森に向かった。

 クラーケンの時のようにまた増えていたらどうしよう、という心配もあったけれど、それはなかった。まっすぐ奥の洞窟へ向かって、昨夜考えた作戦を実行する。

 土魔法で洞窟の入口を一部塞いで、一度に沢山出て来られないようにした。エリスがその中へ火矢を射込んで、出てきたところを4人で倒していく。
 浄化が追いつかないほどのスピードで、ブラッディバットの山が出来た。


「昨日のも合わせて、150体はいたんじゃないか?」
最後のバットの山を私が浄化している横で、カイン達が話し合っていた。
「最初の報告の後で増えたとしても、この差は出るか?」
「いや。5倍近くまで増えたりはしないよ、普通」
「…………とにかく、帰ってまたダール殿に聞いてみよう」



 ◆◇◆

 その頃王宮では、ルカと長官が面接を続けていた。今、2人の前に座るのは深いワイン色の髪を艶やかに結い上げ、艶然と微笑む女性。
「ではサラ殿、属性と魔力、そしてサラ殿独自の魔法をお持ちなら言っていただきたい」
「はい、属性は風、魔力は4800。独自の魔法は…………」

 ルカは話を聞きながら、サラの魔力を探っていた。王宮の魔導師ほどになれば、探られる気配が分からない筈はない。だからある意味堂々と探るように見せて、さらにその裏を探るのだ。
 サラは見た目30歳くらいにしか見えない。だが自分よりもいくつか歳上だということを、ルカは知っている。これだけ若く見えて、魔力がこの程度なのはどうなのだろう?


 長官が次々に質問を続ける。
「近頃になって、魔力が増減したりということはないですか?」
「ございません」
 サラがそう言い切った瞬間、ルカは瞬きをひとつした。一瞬、魔力を探る目に映る像がぶれたように感じたのだ。
 しかし、ルカはそれ以上何も言わず、表情を変えることもしなかった。最後にサラが微笑んで部屋を出て行ってしばらくして、やっとルカは口を開いた。


「長官殿、彼女の魔力は、何というか、…………隠されている。確かに一見、本人の言う4800に見えますが、それ以上の魔力を秘めているように見えました」
「それは…………、故意に隠している、ということですか? そのようなことが出来るとは…………」
信じ難いという顔の長官に、ルカも頷いた。

「仰るとおり、私にも初めてのことです。ですが、本人が魔力を意識したほんの一瞬、まるで風でカーテンの後ろが見えたように…………膨大な魔力が確かに感じられました」
「それは…………」

 その時、次の魔導師が遠慮がちに扉を叩いた。2人は急いで気持ちを切り替え、面接を始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...