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66・魔導査閲官ルカ 下
しおりを挟むルカ様の言っていたとおり、この数日で魔力を顕現させた子が2人いた。もう1人も、確かに魔力が高まっている。ルカ様の見立ての正確さに内心感嘆しながら、魔力と属性を見て、基本の魔法をひとつ教えた。
「最初は無理に回数をこなさなくていいから、ゆっくり丁寧に練習してね。すんなり出来るようになったら、少しずつ量を増やして大きな魔法にするつもりで、イメージして」
「はい、ミア様。ありがとう!」
カイン達は村長に招かれて、そちらで食事をするそうなので、私は館の皆と食事をさせてもらうことにした。子供たち(特に女の子)の興味は当然カイン達のことだ。
「ミア様、勇者様ってどんな人?」
「カイン様? とても強くて立派な方よ」
「じゃあ、あの王子さまみたいな方は?」
エリスは王子様なんだ、私は微笑んだ。
「エリス様はね、すごく頭のいい方なの」
「すっごく大きな人は? やっぱり怖い人?」
「グリフ様はね、実は一番優しい方」
「ええ、そうなの? …………あともう1人、おじさんがいるよね」
「ウェイン様は、前の勇者モース様ともご一緒していたすごい方なのよ」
「ね、じゃあ、ミア様は誰が一番好きなの?」
「誰と結婚するの?」
やっぱりそれが気になるのね。街の人と同じなので、思わず笑ってしまった。
館の子供たちとの話はつきなかったけれど、村長の奥さんが気をまわして私の両親を呼んでくれた。
「さあ、皆はもう寝る時間だよ。ミア様は仕事でここへ来てるんだからね」
奥さんは子供たちを部屋へ追いたてながら、そのまま両親と食堂をつかうよう言ってくれた。ありがたく座って、両親に近況などを話した。王都へ行って2ヶ月、ようやく安心したと言ってくれて私もほっとした。もちろん、絶対に言えないことはありますけど…………。
私が騎士の宿舎へ戻ると言うと、
「うちで泊まったらいいんじゃないの?」
母は残念そうにそう言った。けれど、
「今はカイン様の受けた任務で来ているから、また今度ね。そのうちお休みをいただけたら」
そう言うと納得してくれた。そして揃って宿舎まで送ってくれ、手を振って帰っていった。
私が宿舎へ帰ると、食堂に灯りがついていた。
「お帰り、ミア」
カインが水を飲んでいた。もう水を浴びて着替えたようで、髪が湿っている。
「カイン! 早かったのね。まだ村長さんと一緒かと…………」
「村長はウェインと意気投合しているよ。俺は作戦を考えるからって帰ってきた」
「そうなの?」
「口実に決まってるだろ」
カインは笑いながら私の腰を抱いて、宿舎の奥へ向かう。
「ルカ師の用は済んだのか?」
「大丈夫。明日、出発出来ます」
館の子たちとの会話を思い出してくすりと笑うと、カインが眉を上げる。
「何?」
「館の子達が、カインやエリスのこと、すごく知りたがってたの」
「悪口言ってないだろうな?」
「内緒です」
「へえ…………それなら」
そこで私の部屋を開け、くるりと私ごと回転して扉に押し付けられた。
「カイン?」
「生意気な口は塞いでおかないと」
「ん…………」
両手で頬を挟んで口づけられ、私はカインの首にしがみついた。
「ミア様、また来てね!」
「ありがとう、ルカ様に『皆がしっかりやってた』って伝えるからね」
翌朝、館の子達に見送られてクルム村を出発した私達は、バメルの森に向かった。
クラーケンの時のようにまた増えていたらどうしよう、という心配もあったけれど、それはなかった。まっすぐ奥の洞窟へ向かって、昨夜考えた作戦を実行する。
土魔法で洞窟の入口を一部塞いで、一度に沢山出て来られないようにした。エリスがその中へ火矢を射込んで、出てきたところを4人で倒していく。
浄化が追いつかないほどのスピードで、ブラッディバットの山が出来た。
「昨日のも合わせて、150体はいたんじゃないか?」
最後のバットの山を私が浄化している横で、カイン達が話し合っていた。
「最初の報告の後で増えたとしても、この差は出るか?」
「いや。5倍近くまで増えたりはしないよ、普通」
「…………とにかく、帰ってまたダール殿に聞いてみよう」
◆◇◆
その頃王宮では、ルカと長官が面接を続けていた。今、2人の前に座るのは深いワイン色の髪を艶やかに結い上げ、艶然と微笑む女性。
「ではサラ殿、属性と魔力、そしてサラ殿独自の魔法をお持ちなら言っていただきたい」
「はい、属性は風、魔力は4800。独自の魔法は…………」
ルカは話を聞きながら、サラの魔力を探っていた。王宮の魔導師ほどになれば、探られる気配が分からない筈はない。だからある意味堂々と探るように見せて、さらにその裏を探るのだ。
サラは見た目30歳くらいにしか見えない。だが自分よりもいくつか歳上だということを、ルカは知っている。これだけ若く見えて、魔力がこの程度なのはどうなのだろう?
長官が次々に質問を続ける。
「近頃になって、魔力が増減したりということはないですか?」
「ございません」
サラがそう言い切った瞬間、ルカは瞬きをひとつした。一瞬、魔力を探る目に映る像がぶれたように感じたのだ。
しかし、ルカはそれ以上何も言わず、表情を変えることもしなかった。最後にサラが微笑んで部屋を出て行ってしばらくして、やっとルカは口を開いた。
「長官殿、彼女の魔力は、何というか、…………隠されている。確かに一見、本人の言う4800に見えますが、それ以上の魔力を秘めているように見えました」
「それは…………、故意に隠している、ということですか? そのようなことが出来るとは…………」
信じ難いという顔の長官に、ルカも頷いた。
「仰るとおり、私にも初めてのことです。ですが、本人が魔力を意識したほんの一瞬、まるで風でカーテンの後ろが見えたように…………膨大な魔力が確かに感じられました」
「それは…………」
その時、次の魔導師が遠慮がちに扉を叩いた。2人は急いで気持ちを切り替え、面接を始めた。
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