魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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67・サラの名前 上

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 ◆◇◆

 今までなかった面接などというものを、サラは他の魔導師のように単純に考えてはいなかった。ましてあのルカが長官? そんなものになりたがる訳がない。
 何か裏がある、そう思った。そして自分が退室した部屋で、なにやら話し合っているらしいのを感じた。

 覚られただろうか、封印している魔力のことを。長官もルカも、何の気配も感じさせなかったけれど……。サラは拳を握りしめる。美しく整えた爪が、掌に食い込んでいることには気づかなかった。



 ◆◇◆

「長官には悪いが、わしは絶対に魔導師の仕業だと思っとる」
翌朝、ブラッディバットの件を報告すると、ダール様は興奮して大きな声でまくし立てた。今日は長官様がいないので、完全に言いたい放題だ。
「召喚とやらを行う奴は、まず少ない数を召喚し、報告が上がって討伐隊が出てから数を増やしているに違いない。まったく根性の悪いやり方じゃ」


「まさか、と思いたいけど……、確かにそう考えるとしっくり来るね」
「でも本当に召喚なんか出来る奴がいるのか?」
カイン達もまだ半信半疑という感じだ。

「王宮以外の魔導師も面接するんだろ? そこで見つかるのかな」
「過去には本当にいたらしいし、特殊魔法ってのは分からないんだろう、ミア?」
「はい。ルカ様には、何か気配が見える時もあるらしいけど……。私には、どういう感じなのかも分からないです。特殊魔法持ちの方にお会いしたこともないし」


 王宮の魔導師の面接は、今日でほぼ終わる予定。明日からは、国内の魔導師を集めて面接をすることになっている。

「ルカ師の我慢がそろそろ限界になって来てるのが、見ても分かるよ」
カインが苦笑したけど、私にはそれどころではない。側に寄るのも怖いくらいです……。





 国内の魔導師の面接が始まった初日、また私達は討伐に向かった。
 今回も報告を大幅に上回る大量の魔物に、私達は苦労させられた。魔力もギリギリを探るような使い方を続けていると、やはり疲れ方が激しい。カイン達が常に気にかけてくれるので何とかなっているけれど。

 一晩野営し、翌日「勇者の館」へ戻ってくると、思いがけない人が待っていた。
「ショーンじゃないか! どうしたんだ?」
先代勇者、モース様の専属魔導師だったショーン様だ。
「留守中に入り込んで済まない。アンナが入れてくれたので甘えてしまったよ」
ショーン様はカインに謝って、引退後に趣味で作っているという花を私に下さった。

 ショーン様は引退後、故郷の村に帰って暮らしている。今回は魔導師の面接のために、王都へ出てきたそうだ。
「ショーン殿なら面接など断っても良かったのでは?」
カインが聞くと、ショーン様は優しげに笑った。
「いいんだよ、事情も気になったし。いい機会だからウェインやモースに会っていこうと思ってね」
「よし、後でモースも呼んで飲みに行こう」
ウェインが張り切った。


 陛下への報告はカイン達3人に任せて、私はショーン様にいろいろとお話を聞かせていただいた。その途中、ふと思い付いたことがあった。
「ショーン様は、たしか特殊魔法をお持ちなんですよね?」
頷くショーン様を、ウェインが笑う。
「そうそう、熊に乘れるくせに馬には使えない魔法な」
「仕方ないんだよ、馬のほうが知性が高いから。……すまない、ミア殿。何か聞きたいことでも?」

「失礼なお願いなのですが。ショーン様の魔力を視させていただいてもよろしいですか?」
さすがに先代勇者と20年以上も共に行動していた方だ。ふんわり優しい雰囲気にも関わらず、すぐに私の考えを見抜いた。

「ああ、今日の面接に関わることだね、構わないよ。特殊魔法持ちに会うのは初めてかい?」
「はい、……不躾なことをお願いしてすみません」
「いいよ、やってみなさい」
にっこり笑って私を見る。ウェインも興味深げだ。
「ありがとうございます」


 聞いていた通り、ショーン様の属性は風。魔力は、さすが勇者専属というべき高魔力、5120。普通はこれだけしか視ない。特殊魔法があっても、視えないのが普通。

「どうだい? 何か分かるかい?」
「すみません、通常の魔力しか……。ルカ様には視えるそうですが」
「そのようだね。うん、そうだ。そのまま視ていてごらん?」
ショーン様のお考えが分からないけれど、言われたまま視ていると。
「!」
 一瞬、視界がゆらいだ。続いてもう一度、今度はもう少し強く。水面が揺れるような感覚だった。
「どうだい?」

 慌ててショーン様に視線を戻すと、変わらず穏やかに笑っている。
「今のは?」
「初めのは、特殊魔法のことを考えた。二度目のは、馬場の馬に向けて、魔法を使ってみたよ。何か感じたようだね」
「はい、ありがとうございます」
「礼には及ばないさ。君の魔力なら分かるだろうと思ったからね」

 その後、ショーン様はウェインに連れられて飲みに行った。必要もないのに魔力を視させて下さったショーン様に、私は心から感謝した。





 王都モルシェーンの近く……馬で半日から1日程度の距離には、町や村がいくつもある。その中でも比較的近い町、ヨルンから急な使いが届いた。
 ヨルンは王都の西、街道から森を抜けた先にある。その森から見たこともない巨大な狼の群れが出てきて、町を襲っている。町は全ての門を閉ざしているが、破られるのは時間の問題。救援を乞う、というもの。

 王都の近くに、今までそんな魔物が出たことはなかった。急いでダール様に確認すると、
「信じ難いが、フェンリルかも知れん。100年も前は国中にいた。今はほとんどいなくなったが、北の国境近くの森に、僅かにいると聞いたことがある」

 何故そんな魔物が、とは、もはや誰も言わない。
 折悪しく、騎士団は南の沿岸に討伐に出ていて、さほどの人数が残っていなかった。仕方なく、急いで準備を整え、私達だけで出発した。


 結果から言うと、討伐は何とか成功した。
 熊ほどもある銀色の狼は、100頭あまりもいただろうか。それが既に町を囲んでいたため、私達はそれを一度に相手にする羽目になった。

 さすがの4人も、100頭にいっぺんに囲まれては動きが取れなくなる。私が高いところに避難して、上から雷で麻痺させたり、壁をつくって囲まれないように補助をして、ようやく思い切り戦えるようになった。それでもフェンリルの群れ相手では無傷というわけにもいかず、私はその後は回復と浄化に追われ、討伐が終わって気が付くと、またも魔力が1300ほどになっていた。

 解放されたヨルンの町の人たちは喜びと感謝に沸いたけれど、王都がほぼ空になっている上、私の残り魔力のこともあり、私達は早々に引き上げた。




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