魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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69・悪夢 上

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 私が必死に放とうとした魔法は、サラ様の指1本で打ち消されてしまった。

「まだそんな余裕があったの? さすが、というべきかしら。危ないところだったわね」
もうこれ以上、魔法は使えない。私は絶望で息苦しささえ感じる。

「油断しないほうが良さそうね。……口を開けさせて」
サラ様が2人の男に言うと、若いほう、着崩してはいるが魔導師のローブ姿の男が、私を転がして仰向けさせた。抵抗する間もなく、顎を掴んで口を開かされ、そこへサラ様が小瓶を傾ける。吐き出すことは許されず、否応なしに飲み込まされてしまった。

「う……」
かっと体温が上がったような気がした。
「即効性の媚薬を倍以上……。彼らの場合は、すっかり精神がいかれてしまって、私に従うようになったけれど。貴女はどうなるかしらね?」
なぜ? そんなことをしたら、サラ様だって……? そう思ったあたりで私の視界はぐるぐる回り出し、もうまとまった思考など出来なくなってしまった。


「さあ、連れて行きなさい。傷をつけては駄目よ」
笑いを含んだ声が聞こえ、誰かに抱え上げられて運ばれる。カインの引き締まった腕ではない、エリスの鋼のような腕でもない、グリフの逞しい胸でもない……。ちがう、誰なの? いや、離して……。

 柔らかいものの上に下ろされ、腕が離れてほっとしたのも束の間、また知らない手が私の胸元に下りてくる。
 嫌だ、触らないで……! 逃げようと身を捩ったつもりだった。ところが、自分の身体なのに、ほとんど動かすことが出来ない。
「や……」
胸元のボタンを外す手。もうひとつの手が、裾のほうから這い上がってくる。
「ああ、やめ……」
なのに足を這い上がる手に、違う感覚が呼びおこされた。

「ひぁ………」
「ほら、もう気持ちいいでしょ?」
サラ様の声とともに、首筋を撫で下ろす柔らかい手。
「ああっ!」
喉をのけ反らせ、自分の意志とは関係なく漏れる吐息と甘い声に、私は打ちのめされる。私の……声なの?


「!」
敏感になった肌が空気に晒される感覚にひくりと震えた。眩暈に耐えて薄く目を開けると、ローブも下のシャツも、すべてはだけられている。
 目の前にはうつろに笑う、生白い肌のひょろりと細い身体の若い男。足元には、文官の服を着た、髭を生やした小太りな中年男。だらしなく口元を緩め、さわさわと足を撫でている。

 虫酸が走るほど気持ちが悪い。心はそう思っているのに、
「嫌っ! ん……あっ!」
 なぜ、声が出てしまう、震えてしまうの?
 違う、こんな、私じゃない……!

 視界を栗色の髪が塞いだと思った次の瞬間。
「ああぁっ!!」
両胸を掴んで揉みしだかれ、ひときわ高い声をあげてしまった。
「いや、だめぇ! ああ……ぁんっ」
「駄目って反応じゃないわよねぇ?」
 サラ様の嘲笑う声に涙が滲む。それなのに、身体はもはや私の制御を外れ、暴走し始めている。このままではいつかのように、心も引きずられて何も分からなくなってしまう。
 嫌だ、怖い。助けて……!


「心配しなくても、そろそろ素直になれるでしょう。……貴方たち」
サラ様が何か合図をしたのか、男たちが揃って服を脱ぎだした。そして激しく私を嬲りはじめる。
 嫌、やめて。触らないで……!
「あぁん、いやあ! ……んはぁっ!」
 暴走する感覚が、官能が、理性を削っていく。
 男が手を伸ばして、ついにルカ様の首飾りまで外してしまった。
 ああ、……もう駄目かもしれない。涙が溢れたのを最後に、私の記憶はそこで途切れた。




 ◆◇◆

「!?」

 今日はこれで何人目の面接か。まあ王宮の魔導師と違って、興味深い人物もいるにはいるが……。
 そんなことを考えながら、目の前の魔導師の魔力を探っていたルカは、突然感じた気配に目を見開いた。
「ルカ殿?」
ルカの様子を不審に思った長官に頷き、幸い問題のない人物だったので早々に面接を終えた。

「どうされた?」
「ミアが何かに巻き込まれたようです」
驚いた長官が面接の一時中断を認めてくれ、すぐにカイン達が呼び集められた。


 カイン達も報告を終えて戻ったら、先に帰った筈のミアがいないので探していたところだったらしい。
「ミアは、誰かに襲われている可能性が高い」
唐突なルカの発言に、カイン達が硬直した。
「……もう少し詳しく、教えていただけると」
ようやく口を開いたエリスに、ルカの説明が続く。

「ミアの首飾りを外した者がいる。決してそういうふうに作った訳ではないが……あの首飾りには私の魔力が込められているので、必死のあまり私に繋がったのだろう。同時に恐怖や嫌悪、困惑の感情が伝わってきた」
全員が息をのんだ。ルカがそう言うならそうなのだろう。2人の結び付きは深いのだ。

「他に、何か分かることはないですか。場所とか、声とかは?」
ルカは目を閉じて考え込んだ。
「すまない、分からない。……たぶん、封じられているからだと思う。首飾りという繋がりがなければ、おそらく何も洩れないくらい強固な魔法だ」
「それは、高位の魔導師が関わっている、ということでよろしいですか?」
カインが咳き込むように尋ね、ルカが頷いた。


「よし、まずミアが引き返したところから、ミアが誰かと一緒にいなかったか、その相手を探すんだ」
「それはオレがやろう、カイン」
グリフが言うが早いか走り出ていった。

「次は長官殿に願って、今この時間、仕事についていない魔導師をあげてもらう。それから魔力の高い奴を回って確認する」
「僕が行くよ」
エリスが長官室へ向かう。

「ウェイン、これまでのところを陛下に知らせてくれ。その後で、信用できる騎士を何人か借りて準備してくれるか」
「任せろ。嬢ちゃんを頼んだぜ」

「ルカ師は引き続き、ミアの気配を探って下さい。首飾りは外されたとはいえ、何かあるかも知れません」
ルカはまた、暗い顔で頷いた。



 ◆◇◆

「あああ……」
あれからどのくらい経ったのか、もう分からない。サラ様に飲まされた薬と、2人がかりで責められ続けたせいで、私は自分の意志とは関係なく、何度も乱れさせられてしまっていた。快楽に流され、我に返って羞恥と嫌悪に震え……、わずかな意識はその繰り返しだった。

「はあぁんっ! ああまた、いや、もういやぁ……」
もう何度目か、またも達してしまいそうな気配に、情けなくて涙が出る。無理矢理されて、イきたくなんかないのに……。
「やだぁ、やめ……あ、ああ、あ……」
泣きながらも身体ががくがく震え、もう駄目だと思ったその時。


 ガタン! ガタガタ、バタン。
 続き部屋の向こうから激しい物音がして、扉が勢いよく開けられた。

「ミア!!」
涙の向こうに見えたのは、ルカ様。そしてカイン、エリス、グリフ……。
 ああ、来てくれた……。さっきまでと違う涙で、4人が見えなくなって。そのまま、私は気が遠くなってしまった。

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