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79・零れた言葉
しおりを挟む王宮から下がり、館へ帰ってきた私達は、夕食を食べながらグリフとウェインにも説明した。
「そうだったのか、……たぶんそれで間違いないよな」
大きな肉をひと切れ飲み込んだグリフが、納得したように頷いた。ウェインは手にしたワイングラスをテーブルに戻して、私を心配そうに見やった。
「だが、嬢ちゃんを囮にするしかないのか。姿も変わってるかもしれないってことは、近づいても魔法を使わなけりゃ分からねえんだろ。大丈夫なのか?」
「四六時中、まわりの魔力を探ってるわけにもいかないからね」
エリスもそのあたりはやや不安げだ。
「仕方ない。この館以外で、ミアは絶対に1人にしない。アンナにも、たとえ知り合いでも館に入れないでくれるように頼んでおくし、都合のつく限り誰かが残るという事にする」
少しばかり窮屈に感じるけれど、今回は仕方がない。ソフィアがもしまた姿を変えていたら、私に見分けられるかどうか。ウェインのいう通り、魔力を使わない状態で後ろから近づかれたとしたら、たぶん気が付かないと思うから。
「ミア、頼む。俺達のためにも、十分に用心してくれ」
カインの言葉に、私は素直に頷いた。
次の日から、本当に誰か1人は訓練に行かず、館に残ってくれるようになった。館の中なので必ずしも私に貼りついているわけではないけれど、サロンや庭で体を動かしたり、いくらかはある書類仕事を片付けたりして、時折私の様子を見に来る。そして私が外出するときには、必ず一緒に来てくれた。
「ミア、今何してる?」
魔法で洗って乾かしたローブを畳んでいると、カインが部屋に入ってきて聞いた。
「もう終わるけど。なあに?」
カインは適当に返事をして長椅子に座り、私のすることを見ている。実はこれ、カインだけではない。
普段、訓練場で激しく身体を動かしている3人なので、館で訓練をしているくらいでは物足りない。かといってそれ以上のことも出来ず、手持ちぶさたになると私のところへやって来るのだ。
「終わったか?」
しまい終えて振り返ると、カインが私を手招きしている。
やっぱり。ちょっとだけ苦笑ぎみに、カインの隣に腰を下ろすと、腰を抱いて引き寄せられて……密着したまま、それでも最初のうちは他愛ない話をしているのだけれど。
「きゃ、カイン……!」
いつの間にかカインの手がさまよい始め、気がつくと膝に乗せられている。
「……また?」
頬を赤らめる私に口づけを落として、カインは目許を笑わせる。
「嫌か?」
軽くまとめていた髪を撫でて、こめかみに唇を這わせながら、髪をほどいて指を差し入れる。
「嫌ならやめるぞ?」
耳元で低く囁かれたら、今さら嫌だなんて言えるわけがない。その声と、欲望に濡れた目を見ただけで、私の腰はとっくに疼いてしまっている。
「嫌じゃない……恥ずかしいだけ……」
瞳をそらしながらそう言うと、カインがまた笑う。
「恥ずかしいって、まだ慣れないのか」
「だって、まだ明るいのに……」
本当は、明るいとかそれだけじゃない。
何回こういうことをしたって、絶対に平気になんかなれないと思う。彼らの手が触れるたびに、あられもない声をあげてしまう私。そしていつも、もうこれ以上感じることなんで出来ないと思うのに、彼らは毎回その先の世界を見せてくれる。もうすっかりそれが、何をされてもはしたなく乱れてしまう自分が分かっているから、何度抱かれても慣れることはできない。
ところで、3人は昼間のことなどまるで知らないように、夜は夜で、私の部屋へやってくる。幸か不幸か、毎回チャージと回復がなされてしまう私は、彼らの激しい愛撫にたとえ気を失っても、後に残ることがない。
それほど何度でも求めてもらえることは嬉しい……けれど、彼らのあまりの体力に驚いてしまう。
ちなみに私の部屋は、私がいる限り無条件で音が封じられるよう、完全防音の術を施した。もうだいぶ前のこと。それはもう、必死に呪文を編みました……。
「ん……」
カインがうなじを掴んで、唇を塞いだ。空いた手が器用にローブの合わせを広げ、私の胸をあらわにする。次のひと撫でで肩まで剥かれて、もはやローブの上半身は袖が通っているだけだ。
カインは私を抱き上げてベッドに移動した。私を包むように覆い被さり、首筋を唇で辿りながら、カインが呟いた。
「まだ慣れないのは、俺も同じなのかもしれないな」
「……え?」
カインは私の顔が見られるくらいまで身体を起こした。
「おまえのこういう姿を、感じる顔を見る度に、どうしようもなく溺れちまう……。何度抱いても、どれだけ啼かせても……まだだ、もっと、って思って止まらないんだ」
「カイン……」
「それに、ソフィアの件があった。おまえを絶対に守る、と心に決めていても、おまえがいなくなった時のことを思い出すと、怖くなる。情けない話だが……俺の腕に抱いて、確かめずにいられなくなるんだ」
僅かに目を細め、痛みに耐えるような顔でカインが私を見つめている。
思いがけない言葉にどうしていいか分からなくて、私はカインに、ただ両手を差し伸べた。強く抱きしめられ、カインの香りに包まれる。すると私の口からも、ひとりでに言葉が零れ出た。
「私も、怖い」
「ミア……」
カインが私を抱いたまま横向きになった。私はカインの胸に顔を寄せる。
「守ってくれるって、信じてる。この前の時も、ちゃんと助けに来てくれた。―――でも、怖いの」
カインの手に力がこもった。
「私には理解できない理由で、向けられる悪意が怖い。ソフィアがいる限り、狙われなくちゃいけないの? それもたぶん、単に魔力が高いってことだけで……。だけど、それでも私には……。アデルか、他の誰かの体だと思うと、どうしたらいいか分からなくなる。それも怖いの」
「ミア、それは俺達のすることだ。おまえが気にする必要はない」
そう言われるだろうとは思っていた。私はカインの目を見て言った。
「そう言ってくれる気持ちは嬉しい。でもそれじゃ駄目だと思うの。正直、私が自分でソフィアを倒すことは出来ないかもしれないけど……。でも少なくとも、後ろで何も考えないで守られてるだけじゃいけないって」
「ミア……」
話しているうちに、以前からお腹の底に澱のように沈んでいたある考えが頭から離れなくなって……ついに口から滑り落ちてしまった。
「もし、もし私がソフィアに乗り移られたら……、カインには分かる?」
カインは目を剥いて、私の肩を掴んだ。
「何を言うんだ!?」
でも私はカインを見つめたまま、同じ問いを繰り返した。
「カインには……貴方達なら、分かる?」
カインは唇を噛みしめ、一度ぎゅっと目を閉じてから答える。
「分かるさ。決まってるだろう」
この先を言ったら、カインを傷つけることになるのかもしれない。心のどこかで制止する声を感じるけれど、やはり言わずにいられない。
「じゃあお願いがあるの。もしそうなったら、絶対に私を、殺してね」
「!?」
カインが跳ね起きた。あのカインが、いつも堂々と自信に満ちあふれている勇者カインが、真っ青な顔をして私を見つめる。やがて震えるような声で言った。
「そんなこと、言わないでくれ」
私もゆっくり身を起こし、カインと向き合う。
「ひどいことを言ってるのは分かってる。でも、どうしても嫌なの。私の身体を、他の誰かに好きにされるなんて……。まして、貴方達に触れられたらって思うと……!」
「ミア! もうやめろ」
カインが私を、胸に引き寄せた。瞼に押し付けられたカインのシャツが濡れて、私は初めて自分が泣いていたことに気が付いた。
「もう考えるな。―――大丈夫、おまえの望まないことはしない。本当にもしもの時は、言ったとおりにする」
「カイン……、カイン、ごめんなさい」
「謝らなくていい。それに、絶対にそんなことにさせない。ソフィアは俺達で捕らえる」
「カイン……」
「怖くて当たり前だ。ミアは俺達騎士と違って、訓練をしてきた訳でも、危険に隣り合ってきた訳でもないんだから。―――ずっと、我慢してきたんだろ? 悪かった、気づいてやれなくて」
私はカインの胸に顔を埋めたまま、首を振る。
「一緒なら、怖くないと思ってたの。一緒にいられなくなるかも、って思ったら……急に怖くなって……」
「大丈夫だ。絶対に一緒にいる。これからずっとだ」
泣きながら頷く私の顔を上げて、カインがそっと口づけた。
「一緒にいる。絶対に、離れない」
そして私を抱いたまま、そっとベッドへ倒れ込む。
「離さないで……」
その先は口づけで言葉にならなかった。涙も恐怖も、時間までも忘れて、私はカインに溺れさせられていった。
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