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81・勅命 上
しおりを挟む「また異常発生だぁ!? 何を考えてんだあの女は?」
グリフが素っ頓狂な声を出した。
「グリフ、まだ誰の仕業かは分かってないから」
エリスの声も気のせいか疲れているようだ。
「だってよ、今さら他の奴の仕業とか言うほうが無理だろ」
エリスもカインも反論はしない。むしろ他の人の仕業ならどんなにいいか、と私も思う。
「グリフ、頼むから落ち着け」
陛下のところへ報告に行ったはずが、逆に新たな異常発生の報告をもらって帰ってくることになった私たちは、そのまま訓練場にいた3人に声をかけて、館に戻ったところだった。
「で、どうするんだ? 討伐出るのか?」
ウェインが聞いた。カインは眉をしかめる。
「今、王都から4日もかかるところなんて、いかにもじゃないか?」
「うん、僕もそう思う。何かわざとらしい感じだよね」
カインが考え込む。実は陛下も同じように感じられたようで、騎士団を出そうかという話にもなっていた。
「陛下は、朝までに俺達が出るかどうか決めるよう仰って、判断は任せられた」
「狙いはどっちなんだ? 俺達が王都にいたほうがいいのか、それとも……」」
カインがウェインの話を遮った。
「正直言って、……分からない。これは陽動なのか、餌なのか」
私は、こんなに迷うカインを見るのは初めてだった。それはウェインも同じだったのだろう。
「迷ってる場合じゃないだろう」
カインを見て、言い聞かせるように話し始める。
「誰の仕業か正確に、なんて言ってる余裕はない。十中八九、もうほとんどそうとしか思えねえなら……、ここは思い切って動け、カイン。迷うな。お前の直感を信じろ」
「オレもそう思うぜ。怪しいやつは片っ端から取っ捕まえるくらいでいいんじゃないのか?」
エリスもグリフの発言にさすがに苦笑しつつ、
「攻撃は最大の防御って言うからね。ただ問題は……」
そう言いながらカインを見る。カインは頷いた。
「ああ。直感どころか、誰が怪しいのかさえ分からないってことだ」
そしてウェインを見て続けた。
「俺も、手があるなら先に仕掛けたい。だが、もしソフィアが既にもうアデルの姿をしていないとしたら、俺達はどうやって見分けたらいいんだ?」
ウェインは頷く。とっくに分かっていることだ。
「俺だってんなこた分からねえよ。ただ、考え込んでちゃ駄目だ。分からねえなりに、それでも動けることを探すんだ」
「は?」
私達4人の視線が集まった。
「説明してくれ、ウェイン」
「動くというよりは、準備だな」
ウェインは慎重に前置きしてから話し始めた。
「あの女の仕業だとして、まずどうやって捕えるか、だ。見分けられたとしても、いつかみたいに目の前から消えられたんじゃ、いくら追っかけてもキリがねえ。魔力封じの道具だけで大丈夫なのか、他に何か方法があるのか、その辺をはっきり確認したい。必要なものがあるなら、それを準備する」
エリスが頷いた。
「確かにそうだね。長官は魔導師側だから言いたがらないけど、何かまだありそうな気はするよ」
「ああ、俺もそう思う。それから、捕えられたとして、元王妃だというあの女、どう扱うんだ? まあ裁くのは陛下にお任せするんだろうが、もし王族扱いなら、縄のかけ方から移送まで違うだろ? カイン、そのあたり聞いてるか?」
カインは不機嫌そうに首を振った。
「いや、確認してなかった……。そうか、陛下とよく話さないといけないな」
要するにウェインが言いたいのは、できる限り確認と話し合いをして準備を整えるということだ。そしてその辺をつめておかないと、ソフィアにまた裏をかかれてしまうだろう。他にも確認すべきことを話し合い、カインはいくらか気を取り直した。
「よし、異常発生は騎士団に出てもらう。陛下にその旨を報告と、話し合いの願いを出してくる」
そして足早に王宮に戻っていった。
その間にウェインは私にも言った。
「嬢ちゃん、戦うことや技術のことは分からないから仕方ねえ。だがよ、おまえさんはもっとどんどん口を出したほうがいい。的外れだっていいんだ。それがカインのヒントにもなり、後押しにもなる」
ウェインの言うとおりだ。すっかり頼り切って、作戦については任せていれば大丈夫くらいに思っていた私は、それではいけないと知って素直に頷いた。
「今日はいいこと言うねえ、親父さん」
グリフが笑って茶々を入れ、意外にまじめな顔で続ける。
「この中で、魔法のことが分かるのはミアだけだ。今回はそれを避けては進めねぇ。だから、ミアの気になることは言ってくれよ」
気になるというより、知りたいことはあったので、私は口を開いた。
「私も、自分が魔法を使う以外のことは……あまり分からなくて。過去に、魔導師が何か罪を犯したときは、どんな扱いをされたの?」
例えば、王宮の北東に罪人を収容する牢がある。魔導師がそこへ入ったことはあるのだろうか。そうだとしたら、魔力封じのようなことをされるのか? でないと、魔法で容易く逃げられるだろう。
その魔力封じについても、よく分からない。どうにかする方法があるのなら、知っておきたい。
それと、特殊魔法を感知するのは無理としても、王宮の魔導師に協力してもらえれば、王都の中に紛れている、高魔力の存在くらいは探し出せるのでは……と思っているのだけど。でも私では協力どころか、おそらく口すらきいてもらえない。陛下か長官様に聞いてもらったほうがいいだろうか?
「俺の知る限り、魔導師がそれほど大きな罪を犯したのは……数件しかねえな。女に振られて逆上して、魔法で焼き殺したってのがいたが、奴はさすがに死罪になった。ほとんどの事件の罪は軽くて、牢に入ったのは……」
「ウェイン、だいぶ前に文官と組んで、長いこと王宮の物資を横流ししてたのがいたよね」
「ああ、そうか。あれは北の牢に入ったな。たしか1年くらいか」
けれど、ウェインもエリスも、その時魔力をどうしたのかまでは知らなかった。
「ミア、気になるなら聞きに行こう。僕も一緒に行くよ」
エリスが立ち上がった。
「うん、ありがとう。そうする」
「ああ、それがいい。じゃ、俺達は訓練場に戻ってるか、グリフ?」
「そうだな。エリス、どうせカインに会うだろ? そう言っといてくれよ」
「了解」
私達はまた王宮へ、カインの後を追うように出て行った。
カインがいるかと思って陛下のサロンの前まで行ってみると、ちょうど長官様が入っていくところだった。
すると入れ違いに、カインが顔を出して私達を呼んだ。
「長官殿に聞いた。どうした?」
理由を話すと、カインは頷いて、
「それなら今からする話も聞いたほうがいい」
そして中へ入れてくれた。
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