96 / 104
96・新たな発見 下
しおりを挟む「ええ、名前はシーラと名乗りましたよ。歳は16だと。おっしゃるとおり、父親が帰らないから探しに来たと言ってました」
質素な宿の主夫婦は、私達の訪れに目を丸くして話してくれた。毎日町に出て父親を探していた、と。名前はまた変わっていたけれど、特徴はカナで間違いない。
「3日前の昼頃でした。急に戻ってきて、『ほかの町で父に会った人がいたので、そこへ行ってみる』と言って部屋を引き払ったんです。あの子にしては慌てて荷物をまとめて、すぐに出ていきました」
声こそ出さなかったけれど、私は思わずカインと目を合わせた。3日前の昼頃というと、まさに秘薬が完成したときではないか。
「あの、お願いがあるのですが……」
私は宿の主に願って、カナが使っていた部屋に入らせてもらった。幸いカナの泊まった後、部屋はまだ空いていた。
「何か分かったのか、ミア?」
何も感じられない。これは逆に、何も残していかなかったということだ。主夫婦の前なので頷くだけに留め、私達はその宿を後にした。
「どうだった、ミア?」
館に戻って、カインが聞いた。
「うん、部屋が完全に清めてあった。あれは、魔導師クラスの魔力がないと出来ない。やっぱりソフィアで間違いないと思う」
全員が頷いた。
「やっぱり、秘薬に感づいて逃げたんだと思うか?」
「秘薬の存在自体は知らないと思うけど。ソフィアくらいだと、完成した瞬間の気配を感じ取って、何か不安に思ったのかも」
ということは、ソフィアは今、おそらく王都にはいないと思われる。
「戻ってくる気かな」
「ああ。あいつの目的は今も嬢ちゃんだ。……と言ってももう執念だけで、先の事なんか考えられなくなってるんだろう」
グリフが私の肩に手を置いた。
「だよな。まともな判断力が残ってりゃ、ミアなんか諦めてこのまま逃げるしかないはずだよ」
カインはいつかの私の言葉を思い出したのだろう、大きく息を吐いた。
「それなら……、王都の門で、ソフィアが戻って来るのを待ち伏せればいいんじゃない?」
「それはそうだが……、カナの人相が正確でない以上、ミアの魔力に頼るしかないぞ?」
開門から閉門まで、14時間。しかも今日か明日かもわからない。
「長官に、信頼できる魔導師を何人か出してもらおうか?」
「いや、それなんだけど。ウェイン、いっそのことショーン師に頼めねぇか? 王宮の魔導師より、断然信頼できると思うんだが」」
翌朝6時、王都モルシェーンの町の門が開く。開門と同時に動き出すのは、旅人を乗せた馬車に、森へ狩りや採集に行く人々。そして巡回に出てゆく騎士達……。外から入ってくる人は、まだほとんどいない。ごく稀に、閉門に間に合わず野宿になった強者(つわもの)がいるくらいだ。
朝靄の中行きかう人々を、門番を担当する騎士たちが見守っていた。
門の左右には2階建ての細長い建物があり、倉庫として使われている。その一番端の一画に、エリスと私で潜り込んでいた。
この建物は有事の際には防塞兼物見としても使うよう想定されているので、小さな窓がいくつか空けてあり、門全体を見渡せるようになっている。
「ミア、まだ外から来るには早いから。もう少しゆっくりしていていいよ」
エリスがこちらを見て言ってくれるけれど、実はエリスには、私が見えていない。いつかルカ様の館で使っていたのと同じような、封の術を施した布をすっぽり被っているからだ。
「それにしてもすごい布だね。本当に見えないよ」
「そう? なら良かったけど」
「声は聞こえるんだね」
昨日の話し合いで、ソフィアがまた戻ってくるのをここで待ち受けることになり、急いで布を用意した。ソフィアが門を通る際に、私の気配や魔力に気付かれては元も子もないからだ。姿だけでなく、そういうものも封じるように作ったので、長官様に実験台になっていただいたときは、魔力を探っても気付かれなかった。私が加減すれば声は届けられるし、触れれば感触はある。ここにいる間は被っているつもりだ。
「午後にはウェインがショーン師を連れてきてくれるって言ってたから、少しは休めるよ」
「うん、ありがとう。でも今日のところは大丈夫」
2時間ほどたつと、近くの村や町からの馬車が門を通るようになってきた。馬車は門を通過する際、中を検めるきまりだ。中がすべて見える訳ではないけれど、エリスが窓から確認し、私はひそかに魔力を探る。他にも徒歩や馬で通る人も、だんだん増えてきているけれど、今のところ怪しい気配はなかった。
ふと、門の向こうから、大きな魔力の気配が近づいてくるのを感じた。もちろんソフィアとは限らないのだが、確認するまでは気を緩められない。私はエリスに合図を送った。エリスは窓に張り付いて目をこらす。
次第に近づく気配はかなり大きくて、相当魔力が高いだろうと思われた。私は緊張して手を握りしめていたけれど、突然、あることに気がついた。
「エリス、これ……ショーン様」
そう、ウェインが迎えに行ったショーン様の魔力だ。窓からも見えたらしく、エリスも笑った。
ウェインと共に見張り部屋に入って来たショーン様は、私の纏う布を見て感心した。
「なるほど、道理でほとんど分からなかった筈だね。それなら大丈夫だろう」
今日は夕方から閉門までを、ショーン様が担当して下さることになった。
「じゃ、館で詳しい説明と、腹ごしらえさせてからまた来るぜ」
ウェインがそう言って、ショーン様と出ていった。
結局その日はソフィアは現れず、ショーン様は館に泊まって皆と飲み交わしていた。
◆◇◆
王都モルシェーンから半日ほどのところにある、ヨルンの町。以前フェンリルが出て、ミア達一行が討伐にきたこともある。歴史のある古い町並みは有名だが、古いだけあって外れの方には空き家や廃屋も点在する。
そのうちの比較的新しい一軒の家に、明かりが灯っていた。ルカやミアならば分かっただろうが、強力な術によって、外からは見えないようにされていた。
そして家の中も、外からは想像もつかないほど居心地の良い部屋になっている。
長椅子にいるのはシーラ……ソフィアだ。栗色の髪を下ろし、シルクのドレスに身を包んで、ワインを口に運ぶ。
が……、ふいに舌打ちをし、ワインのグラスをテーブルに戻した。手荒く扱われたグラスが音をたてる。
―――ワインすら飲めないなんて。
15歳のシーラの味覚は、ワインを受け付けないようだった。
本人は気づいているのかどうか、着ているシルクのドレスも、シーラの身体に合っていない。子供が大人の服を着たようで、雰囲気もサイズさえもそぐわない。
―――やはりこんな身体ではだめだ。私に相応しくない。
……そして思うのは、あのとき逃がした獲物。
百年以上も王宮で暮らし、突然追われる生活になったのが原因か。それとも何度も乗り移ることを繰り返したからか。本当の理由は誰にも分からない。だが確かにソフィアの精神は、微妙にバランスを崩しかけていた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる