* 闇の白虎

慈雨

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01.ノスタルジアから

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『冗談よ、冗・談! ご苦労様。
それより、瑞稀にしては珍しく時間がかかったわねぇ』

「あぁ…魔術を使わずにどこまでやれるかなって。でも最低限は使ったけどね」

瑞稀はそう言って、やっぱり少しきつかったな、と自虐に近い笑みを零した。


『瑞稀、何度も言うけど、そんなに自分を制限しなくて良いのよ?』

「んー、まあ、癖のようなものだから」

半ば呆れたように、だがゆっくり言い聞かせるように言葉を発する。

結局返ってきた答えは予想通りで、絢音はもう溜め息をつくしかなかった。


『11匹も“朱色狼”を刀一本で倒したんだから…自信持てばいいのよ』


朱色狼とは魔物の一種。

朱色狼は単体での戦闘力は微たるものであるが、群れで行動するというのが厄介な特徴だ。

魔術が絶対的な力となるこの世界で、体術のみで戦う事など無謀に近いが、瑞稀は魔術を使う事を極度に嫌っていた。


「刀一本って、簡単に言うと椿が怒るよ?」

未だ手の内にある漆黒の刀。乱闘の後だが刃こぼれもなく、先程の「浄化」によって、こびりついていた血も取り払われた。

瑞稀はそれを鞘に収めながら、冗談っぽく言う。


『あぁ、それは悪かったわ。椿には内緒にしといてよね』

「絢音さん、もう手遅れみたいだ」

鞘の中でカタカタと奮えている刀――椿を見て、苦笑いし、そしてそれを宥めるように一撫でした。


『予想はしてたけどね』

面倒臭そうに頭を掻く絢音が安易に想像出来、瑞稀は思わず笑みを零した。


『…とにかく、魔術使わないでそこまで出来る人なんてそういないんだから。
向上心は認めてあげるけど無理し過ぎよ』

「それは問題ない。
取り返しがつかなくなりそうだったら、ちゃんと魔術も使うつもりだったから」

絢音は内心溜め息をついた。

こうなると瑞稀は止められないと知っているから。


「…で、用事とは一体? わざわざ電話するように言ったくらいだから、何かあるんだよな?」

瑞稀は咳ばらいを一つしてから表情を一変させて本題を切り出す。

これ以上雑談を長引かせても、同じ事を延々言われ続けるだけだろう。


絢音は思い出したように再び口を開いた。


『あぁ、すっかり忘れてたわ。
取り敢えず…電話じゃイマイチ伝わんないから、本部に来てくれるかしら?』

電話した意味ははたしてあったのだろうか…と思わずにはいられない瑞稀。

だが言ったところで軽くあしらわれるのは目に見えている。


「結界、張っておくことをお勧めします」

無言をもって肯定とし、もう一度念をおいた。

ふっと少し口角を上げて笑顔でそう言い、電話を切る。


「よし、じゃあ行きますか!」

椿を片手に持ち、気合いを入れるように力強く呟いて立ち上がる瑞稀。


「…嫌な予感がするのは俺だけ?」

椿を見て困ったように笑い、瑞稀は再び指を鳴らして、その場から姿を消した。
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