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01.ノスタルジアから
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――キンっ
それは、ものの一瞬だった。
瑞稀が部屋に入り、扉が極小さな音を立てて閉まった途端、瑞稀の手は椿へと伸びた。
鞘から刀身を抜きながら、そのまま一直線に部屋の奥の椅子に座っている人物へと向かう。
そして、その人物の首にあと数㎝で刃先が当たるという距離で、金属同士がぶつかり合うような音を立てて、動きを止めた。
「…瑞稀、早かったわね。わざわざご苦労様」
喉元に刀を突き付けられた人物は、先程瑞稀と電話をしていた、絢音である。
絢音は今の状況にも関わらず、読んでいた文献から目を離さずに片手を挙げるだけの、なんとも呑気な反応。
「いえ、そちらこそ」
椿を持つ手を小刻みに震わせて、でもその体制を崩す事なく口角を上げる瑞稀。
その表情からは余裕が消えている。
「マスターである私に刃を向くとは、大した度胸じゃないの? ねぇ瑞稀」
絢音は挑発するようにちらりと瑞稀を見た。
「だから、ちゃんと結界張るように言っておいただろう? それにこれは不可抗力だ」
瑞稀は口元意外どこも動かさずに言う。
――否、動けないと言った方が適切か。
「そんな事知ってるわ。椿が操ってるんでしょう?」
面倒くさそうに、溜め息混じりで彩音は瑞稀の刀、椿を見た。
「そうだね。このままだと俺も限界がきて絢音さんを殺してしまいそうなんで、早く椿に謝ってください」
そう言う瑞稀の顔は微笑んでいるが、額は少しばかり汗ばんでいる。
それを見た絢音は盛大に溜め息を一つつき、観念したように口を開いた。
「わーかったわよ。椿、今度の調整は無償で研ぎ師手配してあげるから。瑞稀を解放して」
ひらひらと手を振り、謝ると言うには到底掛け離れた謝罪だが、絢音からこんな言葉が聞けただけでも奇跡だろう。
「だってさ、椿!
そろそろ離してあげよっか?」
俺も限界だし、と瑞稀は自嘲気味に笑うと、ふっと瑞稀の体が軽くなり、自由に動けるようになる。
やっと体の力が抜けた瑞稀は、肩を鳴らして、椿を鞘に戻しながら笑った。
「それにしても、どうして結界張っとかなかったんだよ…」
瑞稀は汗を拭いながら部屋の中央にある椅子に向かう。
忠告をしておいたにも係わらず、そうしなかった絢音に少なからず疑問を持っていた。
「瑞稀が止めてくれるから」
片手に持っていた文献を音を立てて閉じ、立ち上がりながら、当たり前のように絢音は言う。
「操られてる体を無理矢理動かすの、かなり神経使うっていうのに…」
絢音の何故か自信ありげな発言を聞いて、瑞稀は呆れ気味に溜め息をついた。
瑞稀が椅子に座ると、絢音は瑞稀の正面にある椅子に座り、向かい合う形になる。
「さて…そろそろ本題に入るわよ」
絢音は今までにないくらいの真剣な表情を瑞稀に見せ、書斎を指差した後その指を捻って呼び寄せるような動作をした。
すると山のように積み上げられた書類の中から一枚の紙が絢音に向かって来る。
その紙をパシンとキャッチし、一瞥する絢音。
瑞稀は、絢音の真剣な目を見て思わず唾を呑んだ。
「佐倉瑞稀。…本日を以って、このギルド“ノスタルジア”から解雇します」
それは、ものの一瞬だった。
瑞稀が部屋に入り、扉が極小さな音を立てて閉まった途端、瑞稀の手は椿へと伸びた。
鞘から刀身を抜きながら、そのまま一直線に部屋の奥の椅子に座っている人物へと向かう。
そして、その人物の首にあと数㎝で刃先が当たるという距離で、金属同士がぶつかり合うような音を立てて、動きを止めた。
「…瑞稀、早かったわね。わざわざご苦労様」
喉元に刀を突き付けられた人物は、先程瑞稀と電話をしていた、絢音である。
絢音は今の状況にも関わらず、読んでいた文献から目を離さずに片手を挙げるだけの、なんとも呑気な反応。
「いえ、そちらこそ」
椿を持つ手を小刻みに震わせて、でもその体制を崩す事なく口角を上げる瑞稀。
その表情からは余裕が消えている。
「マスターである私に刃を向くとは、大した度胸じゃないの? ねぇ瑞稀」
絢音は挑発するようにちらりと瑞稀を見た。
「だから、ちゃんと結界張るように言っておいただろう? それにこれは不可抗力だ」
瑞稀は口元意外どこも動かさずに言う。
――否、動けないと言った方が適切か。
「そんな事知ってるわ。椿が操ってるんでしょう?」
面倒くさそうに、溜め息混じりで彩音は瑞稀の刀、椿を見た。
「そうだね。このままだと俺も限界がきて絢音さんを殺してしまいそうなんで、早く椿に謝ってください」
そう言う瑞稀の顔は微笑んでいるが、額は少しばかり汗ばんでいる。
それを見た絢音は盛大に溜め息を一つつき、観念したように口を開いた。
「わーかったわよ。椿、今度の調整は無償で研ぎ師手配してあげるから。瑞稀を解放して」
ひらひらと手を振り、謝ると言うには到底掛け離れた謝罪だが、絢音からこんな言葉が聞けただけでも奇跡だろう。
「だってさ、椿!
そろそろ離してあげよっか?」
俺も限界だし、と瑞稀は自嘲気味に笑うと、ふっと瑞稀の体が軽くなり、自由に動けるようになる。
やっと体の力が抜けた瑞稀は、肩を鳴らして、椿を鞘に戻しながら笑った。
「それにしても、どうして結界張っとかなかったんだよ…」
瑞稀は汗を拭いながら部屋の中央にある椅子に向かう。
忠告をしておいたにも係わらず、そうしなかった絢音に少なからず疑問を持っていた。
「瑞稀が止めてくれるから」
片手に持っていた文献を音を立てて閉じ、立ち上がりながら、当たり前のように絢音は言う。
「操られてる体を無理矢理動かすの、かなり神経使うっていうのに…」
絢音の何故か自信ありげな発言を聞いて、瑞稀は呆れ気味に溜め息をついた。
瑞稀が椅子に座ると、絢音は瑞稀の正面にある椅子に座り、向かい合う形になる。
「さて…そろそろ本題に入るわよ」
絢音は今までにないくらいの真剣な表情を瑞稀に見せ、書斎を指差した後その指を捻って呼び寄せるような動作をした。
すると山のように積み上げられた書類の中から一枚の紙が絢音に向かって来る。
その紙をパシンとキャッチし、一瞥する絢音。
瑞稀は、絢音の真剣な目を見て思わず唾を呑んだ。
「佐倉瑞稀。…本日を以って、このギルド“ノスタルジア”から解雇します」
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