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10.とある闇の事端
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兵士は改めて正親の顔を見て、困ったような顔をした。彼の目は青く、吸い込まれそうな目だ。
「やはり、私が来るべきではありませんでした。
現場には慣れていない」
正親はその目に囚われてしまったように、動けなくなった。次の瞬間、その膝から崩れ落ちる。
背後に近付いていた他の兵士に気付かなかったのだ。
「正親さん!」
明日美の悲痛な叫びは正親の耳には届かない。
「安心してください。麻痺しているだけです」
青い目の兵士は正親に近付いて、顔を覗き込んだ。
自身の顎に手を当てて、考える素振りを見せる。
「少し効力が強すぎる。脳は動いて目と耳の機能が残るくらいの効き目が理想だ…まだ改良の余地はありますねえ」
「真柴室長、早く終わらせてください」
正親を攻撃した兵士は、青い目のーー真柴を急かす。
真柴は再び瑞稀に近付き、その頬をなぞった。
「何故…こんな事を…?」
明日美は投げ出された時に 強く打ち付けた肩を庇いながら、真柴に問う。
「未知への執着といったところかな。君たちの生み出したものは、これからの未来にとても意味のある素晴らしい命だ」
恍惚とした真柴の笑みに、思わず明日美は背筋を震わせた。
「そこの君、重要な役割与えよう。私は子どもを抱きかかえた事がないのだよ」
真柴は指示を出し、兵士はそれに従う。
出て行こうとした真柴の足を、明日美は強く掴んだ。
「絶対に瑞稀を返してもらうから…!」
「責任持ってお預かりしますので」
怪しく笑った真柴は、明日美の肩を蹴った。
明日美はうずくまり、ただ足音を聞いていた。
いくつもの足音が、遠ざかっていく。
人間の足音、馬車馬の走る音、駕籠の離れていく音。
音が去るとともに、絶望は大きくなった。
その夜はとても長くて、だが夜が明けるのはとても早く残酷だった。
**
「非合法的です」
「感謝してるよ。全て責任は私がとる」
「WGの名前を利用して」
「偽りではない。事実だ」
「あの夫婦は貴方を一生恨むでしょう」
「恨まれる事には免疫がある」
馬車の駕籠の中では何でもないような会話が行き来していた。
一方には感情はない。そこに小さな命が息をしているだけだった。
「やはり、私が来るべきではありませんでした。
現場には慣れていない」
正親はその目に囚われてしまったように、動けなくなった。次の瞬間、その膝から崩れ落ちる。
背後に近付いていた他の兵士に気付かなかったのだ。
「正親さん!」
明日美の悲痛な叫びは正親の耳には届かない。
「安心してください。麻痺しているだけです」
青い目の兵士は正親に近付いて、顔を覗き込んだ。
自身の顎に手を当てて、考える素振りを見せる。
「少し効力が強すぎる。脳は動いて目と耳の機能が残るくらいの効き目が理想だ…まだ改良の余地はありますねえ」
「真柴室長、早く終わらせてください」
正親を攻撃した兵士は、青い目のーー真柴を急かす。
真柴は再び瑞稀に近付き、その頬をなぞった。
「何故…こんな事を…?」
明日美は投げ出された時に 強く打ち付けた肩を庇いながら、真柴に問う。
「未知への執着といったところかな。君たちの生み出したものは、これからの未来にとても意味のある素晴らしい命だ」
恍惚とした真柴の笑みに、思わず明日美は背筋を震わせた。
「そこの君、重要な役割与えよう。私は子どもを抱きかかえた事がないのだよ」
真柴は指示を出し、兵士はそれに従う。
出て行こうとした真柴の足を、明日美は強く掴んだ。
「絶対に瑞稀を返してもらうから…!」
「責任持ってお預かりしますので」
怪しく笑った真柴は、明日美の肩を蹴った。
明日美はうずくまり、ただ足音を聞いていた。
いくつもの足音が、遠ざかっていく。
人間の足音、馬車馬の走る音、駕籠の離れていく音。
音が去るとともに、絶望は大きくなった。
その夜はとても長くて、だが夜が明けるのはとても早く残酷だった。
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「非合法的です」
「感謝してるよ。全て責任は私がとる」
「WGの名前を利用して」
「偽りではない。事実だ」
「あの夫婦は貴方を一生恨むでしょう」
「恨まれる事には免疫がある」
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一方には感情はない。そこに小さな命が息をしているだけだった。
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