* 闇の白虎

慈雨

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10.とある闇の事端

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バタバタと足音は瑞稀のいる部屋の前で止まった。
扉が大きな音を立てて、崩れ落ちる。


「第三研究室 室長、真柴 蓮。貴方のしている実験はWG非公認よ。じきに実験停止命令が降りるわ。
ーー瑞稀を返しなさい」

強い魔術の気配を感じた。瑞稀は、母の明日美が魔術を使うところを見るのは初めてだった。

瑞稀の姿を確認すると、明日美は涙を浮かべて微笑んだ。


「やれやれ…ここまで押し入って来るとは。
貴方たちも犯罪者になるつもりですか?」

「この実験が明るみに出れば、私たちの行動は正当化される。
子どもを家に連れて帰るだけよ。何が悪いの?」

キツく睨みを効かせて、掌を真柴に向ける。
明日美の背中合わせにして、正親も二丁の拳銃を構え 後ろを守っていた。


「ああ、非常に面倒な人たちだ。世界の役に立つ実験だ。未来のための実験なんだよ。何故解らない?」

「どんな利益を生もうとも、罪のない子 一人の人生を奪う理由にはならないわ」

対極する二人の意見は、いつまで口論しても交わりそうになかった。


明日美の指がパチンと鳴る。
風がびゅうと吹いて、真柴の頬に傷を付けた。


「次はきちんと当てるわ。瑞稀を解放しなさい」


真柴も魔術を使うが、やはり彼の得手は研究や頭脳を使う事である。
攻撃、防御には向いていなかった。

一方、明日美は王手はかけずとも、確実に真柴を追い込んでいく。


ーー薄っすらと思い出した瑞稀の記憶には、家の棚に飾られた父母の写真があった。
二人ともギルドのコートを着ていた気がする。

二人はギルドで出会ったんだろうか。
もし家に帰れたら、もっと二人の事を知りたいと瑞稀は思った。


いよいよ真柴の背中が壁に着いた。

正親は明日美を気にしつつ、出入り口を守る。


「瑞稀を返してくれれば、これ以上は危害を加えないわ」

明日美の強い眼差しを上から見て、真柴は一つ大きく深呼吸をする。

そして、目を閉じて袖口を触った。


改めて、真柴は研究員である。
戦闘に使う武器の研究や、魔力の新しい使い方、効率化が得意分野だ。

袖口には小さなスイッチが隠されていた。

それを押すと、閃光弾のように眩しい光が部屋を包んだ。


真柴は辺りが見えないながらも、魔力の気配や感覚を頼りに瑞稀の方へと走る。


「瑞稀!!」

明日美が叫んだ。それが、瑞稀への最後の言葉だった。
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