転生おめでとうございます

こおり 司

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安易な言葉の結末⓵

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 あれから一週間が経った。
 破壊されたドアもすっかり元通りになり、家具や日用品も少しずつ増えている。
 あの後、改めてウーとマオマオが部屋に訪ねてきた。
 陰の鬼の角を換金したからその報酬を分けて持ってきたのだ。
 その中にはリャオが倒した陰の鬼の分も入っているらしい。
「君たちの仕事を横取りしたようなものなので」
 そう言われて渡されたのだとか。
 最初こそ自分はなにもしてない、むしろ足を引っ張っただけだと主張し受け取りを拒否したが、最終的には半場強制的に渡される形で受け取ることになった。
 鬼になって初めての収入に少しだけテンションが上がる。
 何もしてないないのにという気持ちはあれど、やはり金銭が手に入るのは素直に嬉しい。
 リャオから渡された分と合わせると、贅沢しなければしばらくの間は生活できそうだ。
 それからは比較的ゆっくりと日々を過ごした。
 部屋でのんびり過ごしたり、街を散策したり。
 その時に偶然見つけた古道具屋で格安の家具を何点か見つけ、部屋の中にも若干ながら生活感が滲み始めている。
 リャオやウー、マオマオに鬼についてや鬼の世界について教えてもらった時もあった。
 基本的なルールは人間の世界と変わらないらしく、暮らしていくのにそこまで支障はなさそうなので安心した。
「警察とか自衛隊とか普通にいるよ」
 鬼の世界は無法地帯なのかと心配する陽太に、マオマオが笑いながら教えてくれた。
「陰の鬼を見ちゃったら暴力的な印象になっちゃうよね」
「でも、最初のうちは力加減は気にしておいた方がいいぞ。人間から鬼に転生すると力加減が難しい時とかあるからな。普通の鬼より俺たちみたいなのの方が身体能力高いから」
「だから陰の鬼狩りもやっていけるんだよ」
 この時の話の流れで自分の身を守れるに越したことはないと、今後二人から戦闘訓練を受けることになった。
 鬼の身体に慣れるためにも、身体の動かし方や力加減を覚えた方が何かと便利だかららしい。
「また陰の鬼に襲われないとも限らないし」
 確かに一理ある。
 あの夜だって、能力は無くとも訓練経験があれば避けることぐらいはできたかもしれない。
 日常生活を送っていれば一人でいる時の方が圧倒的に多いわけだし、運良く助けがくることだって望めない。
 陽太に至っては人間だった頃の記憶やいじめのことなど、まだ人間の世界へ行って調べたいことも沢山ある。
 そうすればおのずと陰の鬼に出くわす可能性が上がるわけだ。
「よろしくお願いします」
 二人に対して頭を下げる陽太に、ウーとマオマオも慌てて
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 と頭を下げた。
 三方向からのお願いしますに暫し黙ったあと、最終的には笑って終わった。
 昼間に、あの踏切へ行った時もあった。
 その時間だと陰の鬼の行動は消極的であまり姿を現すことがないらしいと教えてもらっていたからだ。
 踏み切りにはいくつもの花束が供えられていた。
 明らかにあの日電車に跳ねられ命を落とした人に対するお供えものだ。
 そのお供えものを死んだ自分が見ていることが不思議である。
 ――死んだ実感がないし。
 本当にこれらは自分のために供えられたものなのか疑いが浮かぶ始末だ。
 別の誰かのためのものだったとしても、そうなんだで受け入れられる、そんなレベル。
 この花束の中に、陽太の両親が置いたものもあるのだろうか。
 当然両親の顔は覚えていないし、身元がわかるものは学生証しか見つからなかったので、自宅の場所もわからない。
 何か思い出せはしないかと町中を歩いてみたが、記憶にない景色を眺めただけだった。
 道ですれ違ってもきっとわからないんだろうなとそんな自分が情けなく感じると同時に、本当にすれ違って陽太に気がつかれた場合もそれはそれで説明が困るなと、まだ起こってもいない事象を想像してしまう。
 実は鬼に転生して元気にやってます、記憶喪失ではありますが、なんて自殺をしたはずの息子が現れて言い出したら卒倒ものだろう。
 角を隠すために買った帽子を、目深に被りなおす。
 ――やっぱりバレたらだめか。
 両親だろうが、友人だろうが、ただの知り合いだろうが、鬼になった陽太の存在を知られてはいけない。
 ありがたいことなのかはわからないが、何も覚えていないので未練も寂しさも感じないのだし。
 寂しさといえば、どうも陽太には友人と呼べるような相手はあまりいないようだったことにはそこはかとなく落ち込んだ。
 スマホの中を調べた際、使用していたであろうメッセージアプリがあったので開いてみたが、中には両親と数人の連絡先しか登録されていなかった。
 メッセージの内容も学校の連絡事項のような当たり障りのないものが多く、遊びの約束なんかはほとんど見受けられなかった。
 ――でも、いじめられていたんだったら当然かもな。
 いじめを受けている人間が友達が多くて充実した学校生活を送っているわけがない。
 きっと、頼れる相手もいなかったのだろう。
 写真フォルダも空だったし、スマホからはこれ以上情報を得ることはできそうになかった。
 そんな感じで日々を過ごす中、気になることが一つ。
 それは、メイと連絡がとれていないことだった。
 教えてもらったIDを検索してメッセージを送ってみたが、既読はついても返信が送られてくることはなかったのだ。
 気が変わったのだろうか。
 最初はそう思った。
 よく知りもしない相手とメッセージのやりとり。
 後々冷静になって面倒になったのかもしれない。
 あの時は万引き未遂の後ということもあって精神的に弱っていただろうし、無意識に心のよりどころを求めていた可能性もある。
 それならそれでいいかとも思ったのだが、彼女の周りのことを考えると心配が拭えないのも事実だった。
 メイに対するいじめはどうなったのだろう。
 解決したのだろうか。
 そのことだけでも確かめられないかと考えたが、仮に嫌がっていた場合のことを考えると不用意に追加でメッセージを送ることもできない。
 結局、最初のメッセージを送ってからなんのアクションも起こせないままでいた。
「その中学校ならここの学区内ですよ」
 夕食時、なんとなくリャオにメイの着ていた制服の特徴を話してみると、案外近くに学校があることが判明した。
「ここからだと歩きで三、四十分くらいですかね。それがどうかしましたか?」
「いや……、街で学生をよく見るから気になっただけ」
「あぁ、あの辺は学生の遊び場ですからね」
 そうなのか。
 確かに思い返してみれば学校帰りらしい学生をよく見かけた気がする。
 若者向けの店が多いのもそのせいか。
 だったら、そのうちまたメイと会えるかもしれない。
 ――いや、でも。
 浮かんだ考えをすぐに否定する。
 そんな偶然があるだろうか。
 あったとしても確率が低い気がする。
 そうなってくるとここはやはり。
「なんだなんだ。気になる女子でも見つけたのか? ナンパか!?」
「違う」
 なぜか嬉々として会話に入ってきたウーを一刀両断する。
 ここはやはり、メイの通う中学校に行ってみるしか方法はないかもしれない。
 校門で待っていれば、登下校している限り絶対に見つかるはずだ。
 声をかけるかけないは別として、様子だけでも知っておきたい。
 ――俺ってストーカー気質なのか?
 一抹の不安が過ったが、陽太の考えは変わらなかった。
 どうしても、このまま放っておく気にはなれなかったのだ。
 ――まずは、様子を見るだけ。
 そう決めて、胸のざわつきを誤魔化すように食事を再開した。
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