転生おめでとうございます

こおり 司

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安易な言葉の結末⓶

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 校門から出てくる生徒たちの制服は、確かにメイが着ていたものと同じだった。
 ここが彼女の通う中学校で間違いないらしい。
 怪しまれないように振る舞いながら、少し離れた場所から学校の様子を観察する。
 数日考えた結果、陽太は学校で待ち伏せ作戦を実行していた。
 結局メッセージが既読になることはなく、もやもやした感情に耐えられなくなってのことだった。
 放課後になり大勢の生徒たちが校門から出てきては、家路に向かってバラバラに歩いていく。
 メイの姿を見逃すまいと集中して観察をするが、同じ制服を着た集団から一度しか会ったことのない相手を見つけるのはかなり難易度が高い。
 記憶の中のメイの姿も薄れているのに、本当に大丈夫かという気持ちになる。
 そもそも、スムーズに下校する確証もない。
 掃除当番、委員会、部活などなど。
 学生も何かと忙しい。
 ーーできるなら、今日中に会えるといいんだけど。
 こちらは現在進行形でニートをやっているので、時間だけはたっぷりある。
 今日がダメでもまた来ればいいのだが、それはなるべく避けたかった。
 こんなことを何日も続けていては、何時なんどき通報されるとも限らない。
 リャオやウー、マオマオの蔑んだ視線を想像するだけで胃が重くなる。
 世話をしてもらっている立場で警察のお世話にはなりたくない。
 仮に今回がうまく行かなくても、あと一、二回で仕留めないと。
 そんな考えもあって、陽太の集中力はなかなかのものだった。
 ーーいた!
 小一時間が経過した頃、ようやくメイの姿を発見した。
「……」
 遠目だが、どことなく元気がないように見える。
 顔はうつむきがちで、背中も丸い。
 まるで誰にも気がつかれないように縮こまっているようだ。
 とぼとぼと歩いていくメイの後ろからバレないようについていく。
 今日は様子見だけにしようと思っていたが、気が変わった。
「メイ」
「ひっ!?」
 人目が少なくなった住宅街に入ったところで距離を詰め声をかける。
 肩を跳ねさせながら振り向いたメイの表情に絶望が浮かんだ。
「……ヨータさん」
 ーーやっぱりだ。
 間近でメイの顔を確認して、見間違いでなかったことを確認する。
 メイの右頬には大きなガーゼが当てられていた。
 目の下には濃い隈ができ、全体的に少し痩せた印象もある。
 こんな状態になって、なにもなかったはないだろう。
「久しぶり。連絡がとれなくて心配でーー」
 言葉を言いきる前に、メイが逃げるように走り出す。
「ど、どうした!?」
「ついてこないでください!」
 印象通りというか、メイは足が遅かった。
 不意を突かれてもあっという間に追い付くことができ、あの時のように手首を掴んで引き留める。
「放してください!」
「驚かせて悪かった。だから、そんなに逃げなくても」
「警察呼びますよ!」
「そこまで!?」
 ーー俺ってそんなに悪いことしたのか?
「こんなのストーカーです!」
 ーーしてるかもしれない。
 確かにストーカーっぽいなとは思っていたが、こうして正面から断言されるとかなり傷つく。
 慌ててメイから離れ、数歩分の距離を空けた。
 数秒の間が流れる。
「ヨータさん……」
 沈黙を破ったのはメイだった。
「ヨータさんっ、ごめんなざぃ」
「メ、メイ?」
「うわあぁぁん」
 急に泣き出したメイにどうしていいかわからず、陽太はオロオロすることしかできない。
「どうしたんだ? どこか痛いのか?」
 問いかけても泣き声しか返ってこない。
「……大丈夫だ」
 暫し考え、その言葉を絞り出す。
 ごめんなさいと謝られた。
 さっきは陽太を避けようとしていたし、後ろ暗いことがあるのかもしれない。
 だから、不安で泣いているのかも。
「大丈夫だから、落ち着こう。な?」
 陽太の言葉にようやく反応したメイの涙が徐々に止まっていく。
「落ち着いたか?」
 なるべくメイを刺激しないよう、優しい声音で再度問いかければ、彼女はゆっくりと頷いた。
「あの」
 鼻を啜りある方向を指差しながら、
「ここだと人目が気になるので、私の家に来ませんか?」
 爆弾発言をした。
 さっきまで拒絶していた相手に言う台詞ではない。
「ここだと困るのか?」
「……はい」
「……わかった」
 メイの表情から本当に困るのだと理解した陽太は了承する。
「こっちです」
「ご両親には友達ってことで怪しまれないかな?」
 なにせ現役女子中学生と元男子高校生だ。
 友達よりも恋人の方が違和感がない気がするが、メイの両親の前で彼氏宣言はごめん被りたいところだった。
「私の両親は共働きなので、この時間は家にいないですよ」
「そ、そうなんだ……」
 とりあえず、これ以上の言及は止めた。
 気にすれば気にするだけ自分が汚い存在のなような気がしてきたのだ。
 メイの自宅に到着し、リビングに通される。
「すみません、わざわざ家にまで来てもらって」
 ソファに座っている陽太に飲み物を出し、メイも向かいに腰を下ろす。
「誰かに見られたらと思うと怖くて……」
「怖いって、どうして?」
「……あの日、ヨータさんに万引きを止めてもらった日、二人でカフェにいたのを例のグループの子に見られていて。それで……万引きから逃げるために知り合いに協力してもらって助けてもらったって勘違いされちゃって」
 卑怯者。
 意気地なし。
 そんな風に罵られるようになり、余計に目を付けられたのだという。
「すぐにヨータさんがメッセージをくれたので相談しようかと思ったんですけど、迷惑になるかなって考えたら返信もできなくて、ごめんなさい」
「いや、俺の方こそそんなことになってるなんて知らずに不用心に会いに来て。こっちこそ悪かった」
 だからあんな風に逃げたのか。
 また陽太に会ったせいでいじめがひどくなることを恐れての行動だったのだ。
「私、ヨータさんと約束した通り断ったんです。汚名返上のチャンスをやるからまた万引きをして来いって言われて。でも、あの子たちは納得しなくて、万引きの強要以外にも嫌がらせをしてくるようになって……」
 メイの瞳が再び涙で濡れ、声が震える。
「この前とうとうグループのリーダーの子に呼び出されて、無理やり人気のない所に連れていかれました。そこにはその子の兄がいて、妹の言うことを聞けって脅してくるんです。その子の兄はこの辺で有名な不良グループの一人で、これ以上生意気な態度をとるなら仲間を呼んで痛い目に遭わせるって。逃げたんですけどすぐに捕まって、殴られて……」
 ポロポロと流れる涙を拭うこともせず、両手で顔を覆いながらメイは続ける。
「わ、私、怖くて、それ以上断れなくて。……しちゃったんです、万引き。ごめんなさい、ごめんなさい!」
 ――あっ、俺が間違ってた。
 泣き続けるメイを見て、思った。
 まだ大丈夫とか、自分の力で解決できるとか、安易な言葉で片づけるべきことではなかった。
 暴力の恐怖。
 犯罪を犯したという罪悪感。
 誰にも相談できない孤独。
 そんなものに苛まれて眠ることができなかったのかもしれない。
 痩せたように見えるのも、食欲が落ちてしまっているからではないのか。
 ーー俺のせいだ。
 善人面して話しでも聞くなんて言って、状況を悪化させた。
 ーー俺の責任だ。
 いきすぎたいじめがどんか結末を生むのか、陽太が一番わかっていなければならなかったのに、結局は他人事として受け止めていた。
 ーーどうにかしなくちゃ。
 泣き続けるメイを見ながら漠然と思う。
 ーー俺がメイを助けるんだ。
 それでも確かに、強く強くそう決意した。

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