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16.おやすみよい夢を
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「シャーリー、そろそろお前にも教えておこうと思う」
執務室で書類をまとめていると、お父様が真面目な顔で切り出した。
「えええ~~~~~~?!?」
なんとなんと!庭師の、あの息子だと思っていたレオナルド君の話だった。
実は彼は庭師の息子でなく、隣国のやんごとなき血筋の傍系の生まれで、お家騒動でこの領地に逃がされているのだそうだ。そして庭師は本来庭師ではなくレオナルド君のいとこで、レオナルド君を連れて逃げてきて我が家で保護されているんだって。
ええーーーーーー。
「なんでそんな立派なお役目をうちなんかが承っているの?」
「彼の父親は、わたしの学生時代の親友なんだ」
へええええ。お父様ってすごいのね。
あ、そっか、だからレオナルド君はあのゲームの攻略対象なのね。
ただの庭師じゃヒロインと釣り合わないんじゃないかなあと思っていたのよ。
やっぱりここって乙女ゲームなのかしら。
「ん~~~~。ゲームみたいだけど、それもどうか分かんないのよねえ。わたしが子供を産んでその子が大きくなってからじゃなきゃ答え合わせできないんだもん」
わたしがイザベラの母親であったとしても、父親は変わってしまったのだろうし(そうよね、きっと!ライモンドが戻って来たら嫌よ!)、そしたら生まれてくる子供はイザベラじゃないかもしれないわよね。
「わたしはどうしたらいいんだろう。このままここで生きていいのかなあ」
夜中にわたしは考える。
なぜシャーリーはいなくなったの?
「分かるわ。辛かったのよね」
でもシャーリーの嫌だったこと、わたしが嫌だと思ったこと、全部取り除いてあげたわよ。もう楽しいことばかりよ。
突然シャーリーになってしまったわたし。
わたしはなぜここに来たの?
わたしの中にシャーリーの記憶はあるけれど、シャーリーの自我や意志は感じない。まるで入れ替わったよう。
じゃあシャーリーは?この意識はシャーリーに戻ることはないの?
わたしはいいのよ?わたしはもう43歳で、夫も子供もいてそれなりに楽しく幸せに暮らしてきたのよ。
シャーリーなんてわたしの子供みたいなものだ。
かわいそうで見てられなかった。全力で何とかしてあげたいと思った。
全部シャーリーのためにがんばったのだ。
「ねえ、もうわたしは消えていいのよ?シャーリー」
シャーリーからの返事は来ない。
早朝、中庭に出ると庭師に会った。
「お嬢様、おはようございます」
「おはようございます。エミリオさん」
ねえ、わたし、庭師の名前を知ったのよ。エミリオ、素敵な名前よね。優しそうだわ。あ、いえ、優しそうではなく優しいのよ彼。
「旦那様から話を聞かれたんですね」
「ええ。知らないとはいえ今まで失礼なことを……ごめんなさい」
「いいえとんでもないことです。まだしばらくは庭師のエミリオのままで。お願いします」
「はい」
ねえ、こんな話しちゃって、わたし達なんだかとっても深い関係みたいじゃない?ねえ、どうしよう!わたしどんな顔したらいいの?
「お嬢様はこの一年、よく頑張りましたね」
「え?」
そうだ、わたしはこの人にウオーキングの初日から見られている!あの頃のわたし……覚えてるわよね、もちろん。あ~~~そうだそうだ、もうダメだわ。なにがよ。いや、なんかさ。
「陰ながらずっと応援しておりました。お嬢様の努力に、私も励まされました」
そう言ってエミリオはにこりと笑った。優しい曲線を描く眉、目じりに寄る皺、包容力のある優しい笑顔がわたしは大好き。
日向にいるような温かい気持ちになるのよ。
「……」
突然褒められて、エミリオの笑顔に見とれ、わたしは返す言葉が見つからずに俯いた。嬉しさで頬がゆるむ。
ああ、こんな時っていったいどうしたらいいの?
「エミリオがレオナルド君のパパじゃないってことは、エミリオは独身なのよね……違う?あ、そっか恋人とかいるかもしれないわよね」
ぶつぶつ言うわたしをアンナは可笑しそうに見ている。
ねえ、シャーリー、わたしエミリオのことが好きみたい。どうしよう。
好きになるくらいいいわよね?
お仕事も楽しいわ。すっごくやりがいがある。
先日、お父様が王都にタウンハウスを購入した。
地方領主は年に一度報告の義務がある。よほどの理由が無ければ皆王都へ行き城に上がる。その時期の王都は夜会や様々な催しですごくにぎわうのよ。うちはずっと宿をとっていたのだけど、ついに買ったのよ。タウンハウス。別邸よ。
「金策に困った貴族が売り出していた館なんだが、買い手が付かなくて困っていてね。それでうちに話が回ってきたんだ。いやあ、うちも立派になったもんだな」
お父様はちょっと嬉しそう。それなりの貴族は王都に別邸を構えるものだ。それがステイタスなのよね。
でもそれってあのゲームに出てくる、イザベラが主催したお茶会の舞台になった別邸なんじゃないの?!庭でお茶会してた、レオナルドがいたあそこでしょ?
わたしの子供はそこに住んで王都の学園に通うことになるのかしら。そしてゲームが開始されるってわけ?
ダメよ!絶対阻止しなきゃ!
シャーリー、あなた戻ってこないの?
わたしこのままここで生きていくの?
ねえ、今は無理でも、いつでも戻ってきていいからね。
もしわたしが妊娠したらその子になってもいいよ。
イザベラなんて名前じゃなくて、もっと可愛い名前にしてあげる。
すっごく大事にかわいがってあげるからね。
「絶対に乙女ゲームの悪役のとりまきになんてさせないから。安心してね」
わたしは今夜もシャーリーに話しかける。
本当は少し怖い。
明日目が覚めたら、わたしはわたしでないかもしれない。
わたしはもうどこにもいないかもしれない。
だからこれは業務連絡だ。
一日の終わりに、シャーリーへの引継ぎ。
今日ここまでやりましたよ。明日はこの続きからですよ。
そうしてやっとわたしは眠りにつく。
明日わたしがここにいなかったら。誰かがわたしになっているなら。
わたしはこの世界からお別れだ。
さようなら。
また明日、わたしがわたしなら、そしたらまたよろしくね。
布団の中でわたしはそっと目を閉じる。
おやすみ、シャーリー。またあした。
完
***
最後までお読みいただきありがとうございました。
いいねや感想、とても嬉しく励みになりました。
またお会いできましたら幸いです。
執務室で書類をまとめていると、お父様が真面目な顔で切り出した。
「えええ~~~~~~?!?」
なんとなんと!庭師の、あの息子だと思っていたレオナルド君の話だった。
実は彼は庭師の息子でなく、隣国のやんごとなき血筋の傍系の生まれで、お家騒動でこの領地に逃がされているのだそうだ。そして庭師は本来庭師ではなくレオナルド君のいとこで、レオナルド君を連れて逃げてきて我が家で保護されているんだって。
ええーーーーーー。
「なんでそんな立派なお役目をうちなんかが承っているの?」
「彼の父親は、わたしの学生時代の親友なんだ」
へええええ。お父様ってすごいのね。
あ、そっか、だからレオナルド君はあのゲームの攻略対象なのね。
ただの庭師じゃヒロインと釣り合わないんじゃないかなあと思っていたのよ。
やっぱりここって乙女ゲームなのかしら。
「ん~~~~。ゲームみたいだけど、それもどうか分かんないのよねえ。わたしが子供を産んでその子が大きくなってからじゃなきゃ答え合わせできないんだもん」
わたしがイザベラの母親であったとしても、父親は変わってしまったのだろうし(そうよね、きっと!ライモンドが戻って来たら嫌よ!)、そしたら生まれてくる子供はイザベラじゃないかもしれないわよね。
「わたしはどうしたらいいんだろう。このままここで生きていいのかなあ」
夜中にわたしは考える。
なぜシャーリーはいなくなったの?
「分かるわ。辛かったのよね」
でもシャーリーの嫌だったこと、わたしが嫌だと思ったこと、全部取り除いてあげたわよ。もう楽しいことばかりよ。
突然シャーリーになってしまったわたし。
わたしはなぜここに来たの?
わたしの中にシャーリーの記憶はあるけれど、シャーリーの自我や意志は感じない。まるで入れ替わったよう。
じゃあシャーリーは?この意識はシャーリーに戻ることはないの?
わたしはいいのよ?わたしはもう43歳で、夫も子供もいてそれなりに楽しく幸せに暮らしてきたのよ。
シャーリーなんてわたしの子供みたいなものだ。
かわいそうで見てられなかった。全力で何とかしてあげたいと思った。
全部シャーリーのためにがんばったのだ。
「ねえ、もうわたしは消えていいのよ?シャーリー」
シャーリーからの返事は来ない。
早朝、中庭に出ると庭師に会った。
「お嬢様、おはようございます」
「おはようございます。エミリオさん」
ねえ、わたし、庭師の名前を知ったのよ。エミリオ、素敵な名前よね。優しそうだわ。あ、いえ、優しそうではなく優しいのよ彼。
「旦那様から話を聞かれたんですね」
「ええ。知らないとはいえ今まで失礼なことを……ごめんなさい」
「いいえとんでもないことです。まだしばらくは庭師のエミリオのままで。お願いします」
「はい」
ねえ、こんな話しちゃって、わたし達なんだかとっても深い関係みたいじゃない?ねえ、どうしよう!わたしどんな顔したらいいの?
「お嬢様はこの一年、よく頑張りましたね」
「え?」
そうだ、わたしはこの人にウオーキングの初日から見られている!あの頃のわたし……覚えてるわよね、もちろん。あ~~~そうだそうだ、もうダメだわ。なにがよ。いや、なんかさ。
「陰ながらずっと応援しておりました。お嬢様の努力に、私も励まされました」
そう言ってエミリオはにこりと笑った。優しい曲線を描く眉、目じりに寄る皺、包容力のある優しい笑顔がわたしは大好き。
日向にいるような温かい気持ちになるのよ。
「……」
突然褒められて、エミリオの笑顔に見とれ、わたしは返す言葉が見つからずに俯いた。嬉しさで頬がゆるむ。
ああ、こんな時っていったいどうしたらいいの?
「エミリオがレオナルド君のパパじゃないってことは、エミリオは独身なのよね……違う?あ、そっか恋人とかいるかもしれないわよね」
ぶつぶつ言うわたしをアンナは可笑しそうに見ている。
ねえ、シャーリー、わたしエミリオのことが好きみたい。どうしよう。
好きになるくらいいいわよね?
お仕事も楽しいわ。すっごくやりがいがある。
先日、お父様が王都にタウンハウスを購入した。
地方領主は年に一度報告の義務がある。よほどの理由が無ければ皆王都へ行き城に上がる。その時期の王都は夜会や様々な催しですごくにぎわうのよ。うちはずっと宿をとっていたのだけど、ついに買ったのよ。タウンハウス。別邸よ。
「金策に困った貴族が売り出していた館なんだが、買い手が付かなくて困っていてね。それでうちに話が回ってきたんだ。いやあ、うちも立派になったもんだな」
お父様はちょっと嬉しそう。それなりの貴族は王都に別邸を構えるものだ。それがステイタスなのよね。
でもそれってあのゲームに出てくる、イザベラが主催したお茶会の舞台になった別邸なんじゃないの?!庭でお茶会してた、レオナルドがいたあそこでしょ?
わたしの子供はそこに住んで王都の学園に通うことになるのかしら。そしてゲームが開始されるってわけ?
ダメよ!絶対阻止しなきゃ!
シャーリー、あなた戻ってこないの?
わたしこのままここで生きていくの?
ねえ、今は無理でも、いつでも戻ってきていいからね。
もしわたしが妊娠したらその子になってもいいよ。
イザベラなんて名前じゃなくて、もっと可愛い名前にしてあげる。
すっごく大事にかわいがってあげるからね。
「絶対に乙女ゲームの悪役のとりまきになんてさせないから。安心してね」
わたしは今夜もシャーリーに話しかける。
本当は少し怖い。
明日目が覚めたら、わたしはわたしでないかもしれない。
わたしはもうどこにもいないかもしれない。
だからこれは業務連絡だ。
一日の終わりに、シャーリーへの引継ぎ。
今日ここまでやりましたよ。明日はこの続きからですよ。
そうしてやっとわたしは眠りにつく。
明日わたしがここにいなかったら。誰かがわたしになっているなら。
わたしはこの世界からお別れだ。
さようなら。
また明日、わたしがわたしなら、そしたらまたよろしくね。
布団の中でわたしはそっと目を閉じる。
おやすみ、シャーリー。またあした。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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