何も持たない僕の話

東風花

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嘘みたいな話

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「ねぇ、お兄さん。死にそうな顔しているね」

 久しぶりに出ていった外の世界で、うさん臭い路上の占い師にそう声をかけられた。
 地元の繁華街は平日でも割と人が多いのだが、その占い師が明らかに僕に話しかけていると分かったのは、占い師が僕から一切目を離さないからだ。
 僕は、恐ろしくなって逃げだした。
 うさん臭い占い師だから恐ろしくなったわけではない。人とかかわることが苦痛でしかない人には、その衝動の理由が分かるだろう。
 この世界は、僕にとってはあまりにも生きづらい。
 学校もやめた。
 仕事もしていない。
 僕は、

 真っ当に生きたいのに

「本当に、逃げてばかりだね」

 声に驚いて振り返ると、あの占い師がいた。占い師らしく頭から黒いベールをかぶったその人は、声や背丈だけでは男か女か、若いのか老いているのかさえも判別がつかなかった。
 しかし、なんでわざわざ占い師は、僕を河川敷まで追いかけてきたのだろうか?

「ほんの少しばっかり力があるせいでね、受信しちゃうんだよ」

 僕の思考に答えるように、占い師は言った。占い師の口元が不吉に歪むのが見て取れた。

「よその世界の、誰かを求めている者がいる。どこにいても、どこも、自分の居場所じゃない気がしているんだし、行っておいでよ?」

「は    」

 なんで、知っているんだろう? 僕が、どこにも居場所がないと感じていることを?
 コノヒトはホンモノの、ウラナイシ?

「君を必要としている場所だって、あるかもしれないよ?」

「あ、僕は! 知らないとこでハッ!」

 過呼吸を起こしかけている自分に気づく。

「真面目過ぎるのかもねぇ、君は」

 占い師が、シワシワの手を僕の方へと伸ばす。ああ、この人、お年寄りだ。
 僕はふいに、その手を握った。
 いや、知らない人の手を握るだなんて、いつもの僕なら考えられないことだ。のに、心を掴まれてしまっていたのか、その人の不思議な引力に逆らえなかった。

「いってらっしゃい」

 何も思う暇なく、途端にブラックアウトした。
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