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第2章 召喚術師と黒魔術師

青髪の男の子

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「人混みではぐれると困るし、また勝手に駆け出していくと危ないから」

と少女に俺はそう言って、少女と手を繋ぎながら街中を探していた。
少女は俺への警戒心をなくしたのか、安心しきったように手を繋がれている。
別に全く構わないのだが、そんなに無防備だと、おっさんに目を付けられるぞ。気を付けてくれ。

しばらく街中を探していたが一向にそのペットは見つからなかった。
少女がルイは森が好き、だというので、街からそう遠くない森に今やってきたところである。

「どうしてその……ルイはいなくなっちゃったんだ?」
「その、ちょっと、失敗しちゃって。……このまま放っとくと危ないから」

どういうことだ……?
その失敗の内容を聞いてみたが、薬とか、火事とか、物騒な答えが返ってくるばかりで、少女が何を言っているのか、いまいちわからなかった。
時折、聞いた質問とは違う答えが返ってくる。
この少女、ちょっとだけ何かズレている気がする。

―――まあいいか。
俺はそれよりも、少女がぶつかってきた時に気になった事を聞いてみることにした。

「ところで、さっき俺が君の事、助け起こそうとした時、『どうして』って言ったのはなんでなんだ? 普通の奴なら助け起こそうと手くらい差し伸べるもんじゃないか?」

俺がそう問いかけると、少女はこちらの顔を伺う。
そして今度は視線をずらすと、なんだか言いづらそうに、もじもじしている。
いくら俺相手とはいえ、もじもじは常識的に可愛すぎるから止めてくれ。
なんていうか、小動物を見て撫でまわしたい的な感情だ。

「その、大人の男の人の目が……ちょっと怖いんです。大体ああいう時は目の奥底にイヤな感情が見える、から……」

―――なるほど。
つまりあまりにもこの子が可愛いために、大人からいやらしい目で見られるということなのであろう。
確かにこの格好をして、こんな風にもじもじしていて、しかもあんな風に涙ぐむ様を見たら、大の男には何かクるものがあるのかもしれない。

「でもエルさんは違った……。大人の男の人は、ボクの事、いつも変な目で見るのに……。だからちょっと嬉しくて」

当たり前だ。俺は女の子に興味がないんだからな。
―――て、あれ?今何て言ったか?ボク?

「今、ボクって……」

と、俺が疑問をぶつけようとしたが、少女は俯いてもじもじしたままこちらを見ていなかった。
そして突然意を決したように、真剣な顔で俺の顔を覗き込んだ。

「あの……! エルさんのこと、おにぃ……って呼んでもいいですか?」
「おにぃ!?」

俺は思わず声を荒げてしまった
しかし衝撃的であると同時に、少しだけ甘美な響きだった。

(おにぃ……)

―――うん、悪くない。
しかし、その相手はこの可愛らしい少女だ。

「……いや、それはなんていうか、悪くはないんだが、ちょっと問題があるっていうか……」

その時、突然、森の向こうでピカッと光るものがあった。
俺と少女はその方向に視線を向ける。

「今、向こうで光が!……ルイかもしれない!」

すると少女は俺と繋いでいた手をパッと放して、一目散に駆けだしてしまった。
ツタだらけの危ない道を、飛んだり跳ねたりしている。

「おい、危ないぞ!」

俺が後ろで声をかけたが、こちらを見ようともせず、そのまま突き進んでいく。
仕方ない。ついていくしかない。
どうやらこの少女、何かに気を取られると、そこにしか目が行かなくなってしまう性格のようだ。

視界の開けた広場で俺はとんでもないものを見た。
それは大きな緑色の体で、上空に向かって火を吹く―――竜だった。
その全身は広場にある巨大な大木よりも高かった。

「いたーー!! ルイ、もうバカァ! 探したんだから」

そう言って、少女は一目散にその竜に駆け寄っていく。
俺は恐怖のあまり、近寄ることをせず、木の陰に隠れた。
駆け寄る少女は、一歩間違えれば竜の巨大な足に踏みつぶされてしまいそうだ。

「待て! これがルイ? これのどこが子猫サイズなんだよ!」

俺が身をひそめながら、少女に聞こえるように大声で突っ込む。

「……あ、そっか。ごめんなさい! いつもは子猫くらいなんだけれど。ボクが開発した薬を間違えて飲んで、巨大化しちゃったの。それで暴れて外に出てしまって……」

ほう。なるほど……?
開発した薬ってなんだ……?
そもそも子猫サイズとはいえ、竜を見るのは俺も初めてで、実在していることすら疑っていた。
それに、やっぱり今のは聞き間違いじゃない。

俺の頭の中はクエスチョンマークだらけになる。

「なぁ、本当にその竜……ルイはペットなのか?」

「だからペットじゃないよ。正しくは召喚獣。ボクは召喚術師なんだ、見習いだけどね。ルイはボクの大切な家族で、それで一番のお気に入りなの」

「開発した薬ってのは……?」

「え、そのままの通りだよ? ボクが開発した薬。召喚術師としては見習いだけど、薬の調合は一流だよ。おうちは薬屋さんなんだ。そうだ! 今度ウチにおいでよ!」

しかし、さっきからこの少女が話す内容が、俺はほとんど耳に入っていなかった。
俺は確かめなければならない。

「なぁ、その、ボク……って……?」

すると少女はハッと我に返ったように、口元に手を当てた。

「あ……ボク、実は男なんだ。おにぃ、騙してたみたいで、ごめんなさい。……言うタイミングがなくって」

男?おとこ?
今この女の子、「男」って言いました?
この可愛さでオトコノコということですか?
―――俺の頭は今世紀で最大の大混乱に陥っていた。

「……でもおにぃなら、ボクが男だからって嫌いになんて……ならないよね……? だって、だって。おにぃはボクのこと変な目で見なかったもん」

「……ま、待って。待ってくれ」

だって、こんなかわいい恰好をして、こんなにかわいい声をしているのに……
俺はもう一度この少女の足元から頭の先まで見るが、全く信じられない。

少女は悪びれもせず俺に向かってエヘヘッと笑うと、「この子をお家に返さなくちゃね」と先ほどの大きな竜に飛び乗った。

「ねぇ!……ボク、おにぃのことが好きになっちゃった!……またね!」

すると突然広場に大きな風が吹いた。
木々がガサガサと揺れ、俺の視界は舞い落ちる木の葉で一杯になった。
思わず両腕で顔を覆うと、その場に伏せた。

風が止み、空を見上げると、そこには一匹の竜と、かろうじて一人の少女が乗っているのが見えた。

「ばいばーい! おにぃ!!」

俺はアホみたいに口を開けたまま、竜が飛び去っていくのを見つめていた。
俺は嵐のように過ぎ去っていったその姿を見送りながら、訳が分からなくなって帰った。
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