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第2章 召喚術師と黒魔術師
砂場の夢
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痛かった。
突き飛ばされて、思わず後ろについた手に砂がメリメリと食い込んでいる。
その手の平の砂の感触があまりにもリアルで、現実を見失いそうになる。
―――夢を見ていた。
昔から大抵の時は、夢を夢と認識できていた。
自分の手のひらを見ると、それが余りに小さい。
その手の大きさから、今日はこれが夢なんだと知った。
「やーい、オトコオンナ」
「キモいんだよ、もやし」
目の前には男の子が二人。
顔は何だか靄がかかっているようにあやふやだった。
どうやらここはどこかの公園で、たった今この二人に突き飛ばされたようだった。
俺は小さい頃は特に根暗で、人とうまく喋れなかった。
ちびで、声も高くて、その容姿によく揶揄われていた。
そんな意気地なしな自分。
でもここは夢の中だ。
「ふっざけんなよ……!」
勢い良く立ち上がると、目の前の二人を思いっきり押した。
でも夢の中の自分は余りにも非力で、相手はびくともしない。
靄のかかったその顔に口だけが浮かんで、こちらを馬鹿にして笑っていることだけが分かる。
「……こいつバッカだな、ウゼェんだよ」
ドンッとまた押されて、俺は思わずまた後ろにのけ反る。
今度は思いっきり尻もちをついた。
その痛みに涙が出そうになった。
どうして、こんなに世界は理不尽なのだろう。
自分の弱さと不甲斐なさに、目の前の二人を見ながら悔しくてしょうがなかった。
―――その時、目の前の二人が背中を押されたのか、俺の方向へ突然倒れた。
「イッテェ……!」
「誰だよ、おい!」
俺は驚いて、尻もちをついたまま、見上げるとそこには見知った顔があった。
夢の中でも鮮明に再現された、その顔は、幼いながらも間違いようがなかった。
―――これは遠い昔の記憶だ。
「エルをバカにしてんじゃねぇよ!お前らのほうが、よっぽどバカだからな!」
相手の力量を悟ったのか、その二人組はお互いの顔を見合わせる。
俺の方を一度だけ睨むと、口々にぶつぶつ言いながらどこかへ走り去っていった。
俺はしばらく呆けていた。
その時、公園の柵の外から声がした。
「おーい! 何してんだよ、サム行こうぜ!」
俺を助け起こそうと、その"人"は手を伸ばしたところで、外の方を向く。
「おーう! 今行く!」
その大きな声に俺は思わずまた萎縮する。
その"人"は慌てて、俺に向き直る。
「じゃな、エル。何かあったら俺に言えよ、な」
そう言ってニカッと笑う、少年の微笑みに、あぁボクは君が好きだったんだと思い知る。
走り去るその背中に思わず、手を伸ばす。
その背中はもうずっと遠くて、触れたくても手は届かない。
思い出した。
あの時ボクはありがとうも言えなくて、ただ見つめることしかできなかった。
君はボクのヒーローだった。
そう、いつだって。
ボクは君に追いつこうと頑張っているんだよ、知っているかな。
*
目を覚ますと、いつもの朝がやってきた。
少しずつ覚醒する頭の中で、嫌な夢を見たな、と憂鬱な気分になる。
小さい頃とはいえ、自分の昔の嫌な記憶を見るのは気持ちが良いものではない。
あの日の砂場の感触だって、もうずっと忘れていたはずなのに、突然こんな拍子に思い出させてくれる。
「昨日、サムとあんな話をしたからかな……」
眠い目をこすりながら、体を起こした。
壁にかかっている時計を見ると、針は朝の6時を指していた。
準備をして朝飯に向かうには、まだ少し余裕がありそうだった。
「あぁ……ていうか俺は昨日サムに……。どんな顔をして会えばいいんだろう」
ひとまず俺はベッドから起き上がると、顔を洗うために洗面所へ向かった。
そこで、入り口の扉の下に一枚の紙が挟まっているのに気付いた。
屈んで紙を取り、広げると、そこにはサムの文字があった。
+
昨日はごめんな。
俺は俺で、エルのためにできることをしばらく探してみたいんだ。
また連絡するよ。
サム
+
その内容を見て、思わず寝間着のまま俺は廊下に出た。
サムの部屋は確かもう一つ下の階の同じ号室だったはず。
「どういうことだよ……」
階段を一つ飛ばしで駆け降りると、サムの部屋の前にたどり着いた。
でもその部屋からは、サムはもう居なくなっていた。
突き飛ばされて、思わず後ろについた手に砂がメリメリと食い込んでいる。
その手の平の砂の感触があまりにもリアルで、現実を見失いそうになる。
―――夢を見ていた。
昔から大抵の時は、夢を夢と認識できていた。
自分の手のひらを見ると、それが余りに小さい。
その手の大きさから、今日はこれが夢なんだと知った。
「やーい、オトコオンナ」
「キモいんだよ、もやし」
目の前には男の子が二人。
顔は何だか靄がかかっているようにあやふやだった。
どうやらここはどこかの公園で、たった今この二人に突き飛ばされたようだった。
俺は小さい頃は特に根暗で、人とうまく喋れなかった。
ちびで、声も高くて、その容姿によく揶揄われていた。
そんな意気地なしな自分。
でもここは夢の中だ。
「ふっざけんなよ……!」
勢い良く立ち上がると、目の前の二人を思いっきり押した。
でも夢の中の自分は余りにも非力で、相手はびくともしない。
靄のかかったその顔に口だけが浮かんで、こちらを馬鹿にして笑っていることだけが分かる。
「……こいつバッカだな、ウゼェんだよ」
ドンッとまた押されて、俺は思わずまた後ろにのけ反る。
今度は思いっきり尻もちをついた。
その痛みに涙が出そうになった。
どうして、こんなに世界は理不尽なのだろう。
自分の弱さと不甲斐なさに、目の前の二人を見ながら悔しくてしょうがなかった。
―――その時、目の前の二人が背中を押されたのか、俺の方向へ突然倒れた。
「イッテェ……!」
「誰だよ、おい!」
俺は驚いて、尻もちをついたまま、見上げるとそこには見知った顔があった。
夢の中でも鮮明に再現された、その顔は、幼いながらも間違いようがなかった。
―――これは遠い昔の記憶だ。
「エルをバカにしてんじゃねぇよ!お前らのほうが、よっぽどバカだからな!」
相手の力量を悟ったのか、その二人組はお互いの顔を見合わせる。
俺の方を一度だけ睨むと、口々にぶつぶつ言いながらどこかへ走り去っていった。
俺はしばらく呆けていた。
その時、公園の柵の外から声がした。
「おーい! 何してんだよ、サム行こうぜ!」
俺を助け起こそうと、その"人"は手を伸ばしたところで、外の方を向く。
「おーう! 今行く!」
その大きな声に俺は思わずまた萎縮する。
その"人"は慌てて、俺に向き直る。
「じゃな、エル。何かあったら俺に言えよ、な」
そう言ってニカッと笑う、少年の微笑みに、あぁボクは君が好きだったんだと思い知る。
走り去るその背中に思わず、手を伸ばす。
その背中はもうずっと遠くて、触れたくても手は届かない。
思い出した。
あの時ボクはありがとうも言えなくて、ただ見つめることしかできなかった。
君はボクのヒーローだった。
そう、いつだって。
ボクは君に追いつこうと頑張っているんだよ、知っているかな。
*
目を覚ますと、いつもの朝がやってきた。
少しずつ覚醒する頭の中で、嫌な夢を見たな、と憂鬱な気分になる。
小さい頃とはいえ、自分の昔の嫌な記憶を見るのは気持ちが良いものではない。
あの日の砂場の感触だって、もうずっと忘れていたはずなのに、突然こんな拍子に思い出させてくれる。
「昨日、サムとあんな話をしたからかな……」
眠い目をこすりながら、体を起こした。
壁にかかっている時計を見ると、針は朝の6時を指していた。
準備をして朝飯に向かうには、まだ少し余裕がありそうだった。
「あぁ……ていうか俺は昨日サムに……。どんな顔をして会えばいいんだろう」
ひとまず俺はベッドから起き上がると、顔を洗うために洗面所へ向かった。
そこで、入り口の扉の下に一枚の紙が挟まっているのに気付いた。
屈んで紙を取り、広げると、そこにはサムの文字があった。
+
昨日はごめんな。
俺は俺で、エルのためにできることをしばらく探してみたいんだ。
また連絡するよ。
サム
+
その内容を見て、思わず寝間着のまま俺は廊下に出た。
サムの部屋は確かもう一つ下の階の同じ号室だったはず。
「どういうことだよ……」
階段を一つ飛ばしで駆け降りると、サムの部屋の前にたどり着いた。
でもその部屋からは、サムはもう居なくなっていた。
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