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具だくさんのミネストローネにミートボールスパゲティー、ライ麦パン、モッツァレラチーズとロケットのサラダに軽い赤ワイン。
それが今夜の羽柴の夕食だった。
ニンニクの芳ばしい香りが立ちこめるダイニングキッチンで、新たに出した白い皿にショーンの分の食事を取り分けると、ショーンはクンクンと匂いを嗅いだ。ハァと満足そうに溜息をついたがもちろん、声は出ない。
ショーンの分のグラスにグレープジュースを注ぎながら、羽柴は肩を竦める。
「一人分のつもりで作ったから少し量が少なくなったけど。パンとスープならまだお代わりがある」
羽柴がショーンの向かいの椅子に腰掛けると、ショーンが驚いた顔つきをして羽柴を見ていた。
「ん?」
羽柴が小首を傾げると、ショーンは食事を指さして、フライパンで何かを炒めるようなジェスチャーをした後、羽柴を指さした。羽柴はショーンのその愛らしい仕草に思わず微笑んで、頷いた。
「そうだ。俺が作った。だから味は保障しないぞ」
ショーンは上目遣いにいたずらっ子な笑顔を浮かべながら、フォークを手にする。
羽柴が、「いただきます」と日本語で言って両手を併せると、ショーンはきょとんとして、次の瞬間にはフォークを置き、羽柴と同じように両手を併せた。
「どうぞ、召し上がれ」
羽柴はそう言ってやる。ショーンの神妙な顔つきがパッと明るくなって、猛然とパスタを頬張り始めた。
鼻から大きく息を吐き出し、頬をリスのようにいっぱいに膨らませたまま、目を輝かせて羽柴を見る。
「美味いか?」
羽柴が訊くと、ショーンは何度も頷いた。
その後は互いに無言で食べたが、それは嫌な沈黙ではなかった。
ショーンの表情は、相変わらずくるくると変わり、会話をせずとも羽柴は楽しい気分になった。
もちろん羽柴も笑顔をショーンに返したが、その実、心の中では、どうやってショーンからことの顛末を訊き出そうかと考えあぐねていた。どうして、失声症だなんてことになってしまったのか、と。
明らかにショーンは、羽柴に気を使っている。
自分が声が出ないことを羽柴に少しでも同情されないようにと、精一杯明るく振る舞っている。
羽柴は、自分が医者でもないのに、それでも自分が何とかしてやらねばという思いに捕らわれていた。
夕食を終えた後、スケッチブックに伝えたいことを書き付けていたショーンに、羽柴が声を掛けてきた。
「家には知らせてるのかい? ここに来たことを」
羽柴は、ショーンに背を向けて食器を食器洗浄機に入れていたところだったので、ショーンが書いていることに気付かなかったらしい。
ショーンは慌ててページを捲ると、羽柴への返事を書き始める。
声を失って一番歯がゆいと思うことは、こういうところだ。
人に何か伝えたいと思っても、声に出すのと書くのとではスピードが圧倒的に違っていて、会話にタイムラグが出てしまう。
この病気に罹ってからというもの、書きかけのメッセージは大抵忘れ去られて、会話の流れの向こうに消え去ってしまう。
言いたいことの半分も伝えられない。
そしてそのことに人はなかなか気付かない。
羽柴が気付かないとしても、それは当然のことだ。
そのことに対するジレンマを感じたとしても、それを羽柴に伝える勇気はなかった。
もしそんなことを言い出せば、羽柴の気分を悪くするかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。
そんなことを少し考えるだけでも、猛烈に胸が痛くなってしまう。
ひょっとしたら、話ができないことよりも羽柴に嫌われる方がもっと辛いことだと感じてしまうだなんて。
思わず涙が出そうになって、ショーンは唇を噛みしめた。
うまく自分を表現できない己自身に苛々する。
こんなことぐらいで泣きそうになる自分の弱さが辛い。
そんな思いがいつの間にか顔に出ていたらしい。
振り返った羽柴が、「どうした?」と訊いてくる。
何が?と思ってショーンが顔を上げると、羽柴は「そんなに難しい質問だったかい? 眉間に皺が寄ってるよ」と羽柴自身の眉間を指で擦りながら彼は言った。
ショーンは、書きかけていた先の質問の答えをそのまま放っておいて、今の質問の答えを書こうとする。けれどなんだか混乱して、何と書いていいか分からなくなってくる。次第に呼吸が荒くなってきた。
「おい、大丈夫か? 気分が悪い?」
羽柴がショーンの前に跪いて、顔を見上げてくる。
ショーンは堪らず、声の出ない口で、『クソッ! そんなんじゃない! そんなんじゃないんだけど!』と喚いた。それでもやはり声が出なくて、自分の喉を掻きむしる。
「ショーン!」
羽柴は、思わず咄嗟にショーンの両手を掴んで彼の喉元から強い力で引き離す。
よく見ると、ショーンの喉元には、新しいものから古いものまで、幾筋もの引っ掻き傷ができていた。目にするだけで痛々しい。
さっきまでのショーンの元気は、やはり空元気だったのだ。
本当はこんなにも傷ついて、こんなにも心が弱っている。
思わず羽柴はショーンの身体を引き寄せて抱き締めた。
ショーンがビクリと身体を震わせる。
ショーンが正気のあるうちに、羽柴がこうしてショーンを抱き締めたのは初めてのことだった。
ショーンは躊躇っているようだったが、羽柴はなおもショーンをしっかりと抱き締めた。
羽柴の目の先に、ショーンの持っていたペンとスケッチブックが床に転がっている。
ショーンを片腕で抱き締めたまま、羽柴がスケッチブックを指先で捲ると、書きかけの文章がいくつもいくつもあった。
羽柴は、ショーンが声を失ったことで他人とのコミュニケーションがスムーズに取れないことを今頃になって痛感した。
そしてページを捲っていた羽柴の指が止まる。
ついさっき、羽柴が質問する前に書きかけていたショーンの言葉。
『こんなややこしい俺だけど、今晩泊めてもらってもいい?』
それを見て、羽柴は自分に対する激しい怒りと、こんな状況なのにまだ気を使っているショーンのことを不憫に感じた。
── ああ、何てことだ!
彼のことを救いたいと思っていたのはついさっきのことなのに、自分は早くも彼をこんなにも追いつめてしまった。傷つけてしまった。
すれ違いはほんの些細なことなのかもしれないが、今のショーンにとっては、とても大きくて重要なことなのだ。
全く、本当に何てこった。
羽柴は、唇を噛み締める。後悔先に立たずとはこのことだ。
「・・・俺はバカだ・・・。質問責めにして、君を混乱させてしまうなんて。許してくれ」
羽柴の言葉を聞いてか、ついにショーンが泣き始める。
声もなく、喉の奥をヒクつかせて息を吐く。
羽柴が髪の毛から背中にかけてゆっくりと撫でていくと、段々と身体の強ばりが緩んでくる。
「いくらでも、君の気の済むまでここにいたらいい。何も心配することはない。心配することはないんだよ・・・」
ショーンのえづく息が一際大きくなる。
「泣くだけ泣いてしまえばいい。君が落ちつくまで俺はここにいるから」
こんなにも魂に傷を受けた人を抱き締めるのは、随分と久しぶりだ。
五年前、謂われのない差別を受け、深く傷ついていた真一をこの腕に抱き締めた。そしたら、真一の心の痛みが心臓の鼓動を伝わって自分の身体の中にも流れ込んできた。
あの時と同じような痛みが、今羽柴の身体の中に入り込んでくる。
まるでシンクロしているように感じた。
羽柴は深く目を閉じる。
── 俺の身体が、彼の悲しみや辛さを全部吸い取ってしまえばいいのに。
真一の時には願っても決して叶うことのなかったこと。
真一は、羽柴に彼の『荷物』を背負わせてくれることは決してなかった。
今なら、それができるような気がした。
あれから随分羽柴も色々な経験をして、本当の意味で大人になった。
そして腕の中にいる彼は、こんなにも若くて自分に人生に戸惑っていて。
小さなディバックひとつで、羽柴の元を訪ねてきた。
間違いなく彼は、助けを求めに来たのだ。
広い世界の中で、敢えて彼は自分に救いを求めてきた。
それはそれなりの『運命』だろう。
出会い方は偶然だったが、今晩の再会は必然。
それならば。
自分ができることならば、できる限りしよう。
彼がまた再び本当の笑顔を浮かべられるように。
人生を輝かせられるように。
羽柴は、優しくショーンの髪を撫で続けた。
それからしばらくして、ショーンはようやく落ち着きを取り戻すと、スケッチブックに謝罪の言葉を書き付けた。
羽柴は「君が謝る必要は何もない。悪いのは俺だから」と答えると、ショーンは少し困ったような顔をしてみせた。
羽柴はそんなショーンに自分の方を真っ直ぐ見るように言った。そしてゆっくりと自分に言い聞かせるように言った。
「ショーン、約束しよう。俺は、君が伝えたいことを書き終わるまで何も言わない。だから君も、書くことを諦めないでくれ。俺に言いたいことがあったら、俺の身体を叩くなり、手を叩いて音を立てるなりして、俺の注意をひくこと。いいね。会話は、交互で言い合うからこそ会話なんだ。俺は君と『会話』をしたい」
ショーンはまた少し瞳を潤ませながら、コクリと頷いた。
「風呂の準備をしよう。顔、洟水でグチャグチャだぞ」
羽柴がニヤッと笑みを浮かべて言うと、ショーンは鼻の下を擦りながら苦笑いを浮かべた。
ようやく普段の彼が戻ってくる。テレビの中の彼とは違う、羽柴の知っている純朴な青年の姿が。
羽柴がショーンの身体を放すと、彼は名残惜しそうな顔を少しだけしてみせた。
前にも思ったが、ショーンは無意識のうちにでもスキンシップを好んでいるようだ。
さっきは咄嗟に抱き締めてしまったが、最初は戸惑っていた彼も、最後は羽柴の身体にしがみつくようにしていた。やはりどこか寂しがりな体質なのかもしれない。
ショーンがそれで安心するのなら、これからもスキンシップをしていった方がいいのかもしれないな・・・と羽柴は思った。
その日の夜は、早く眠りにつくことにした。
ショーンが風呂に入っている間に、羽柴はショーンの寝床を整えるためにロフトに上がった。
ショーンはどうせ下のソファーで眠ると言い出すだろうが、今度こそ羽柴はそうさせるつもりはなかった。
ロフトに比べ、リビングは冷える。
あのホテルの部屋よりずっと広くて、夜は空調を切るから、更に冷たくなる筈だ。
それに比べロフトは高い位置にあるせいか、温かい。
夏場は暑くて、ロフトにある床に沿った窓を片っ端から開ける羽目になるが、冬場には返ってそれが強みになる。
空調を切った後でも、温かい空気がロフトに溜まっていて、しばらく・・・少なくとも寝入るまでは結構温かいのだ。
ただ問題は、ベッドである。
シングルにしては広めといっても、やはりセミダブルよりは狭い。
大の男が二人眠るには些か窮屈だ。
ぴったりと抱き合って眠るなら何とか大丈夫だが、果たしてショーンがそれを嫌がらずに受け入れてくれるだろうか。
「最悪、俺がベッドの下でエアマットレスと寝袋ってことだな」
羽柴は、玄関の物置の中から冬用の寝袋と小さく畳んだエアマットを持ってロフトに上がったが、それはロフトにあるクローゼットの中にひとまず置いておいた。
代わりに、以前使っていた枕を取り出し、ベッドの上に置く。万が一掛け布団が奪い合いになった時のために、毛布も取り出して上にかけた。
下で、パタンとドアが閉まる音がする。
ロフトから下を覗くと、パステルグリーン色した羽柴のパジャマを着てバスタオルを頭に被った格好のショーンが、スリッパをパタパタいわせながら、リビングに歩いてきた。
「上だよ、ショーン」
羽柴が声を掛けると、ショーンが足を止め、羽柴を見上げてきた。
食事と温かい風呂に十分浸かったことで、ようやく顔色がよくなってきた。頬と唇が子どものように赤く火照っている。
別に惚気た訳ではないのだが、その可愛らしさに思わず羽柴は顔を綻ばせた。
いや、もうすぐ二十歳を迎えようとする、身長も身体付きも立派な青年を捕まえて、『可愛い』とは、酷く失礼なことと思うのだが。
可愛いだなんて、あまり口に出して言わない方がいいな、と思いつつ、羽柴が手招きをすると、ショーンがまたスリッパをパタパタといわせ、ロフトに上がってきた。
「髪の毛乾かそう。そこに座って」
タオルでゴシゴシと髪の毛を拭いているショーンをベッドの端っこに座らせると、羽柴は、まるで父親が幼い子どもにするようにドライヤーでショーンの髪を乾かした。
ワシャワシャと髪を掻き乱しながら、ドライヤーの風を当てる。
ショーンはタオルを首に掛け、されるがままになっている。
羽柴が、首の後ろのうなじの部分に手を這わせると、くすぐったいのかピクリと身体を震わせたが、大した抵抗も見せず、大人しくしていた。
ショーンの赤い髪は、見た目の色のトーンから柔らかく見えるが、実際は結構張りがある。少しクセがあり、毛先が自然にあちらこちらを向いていて、整髪料をつけなくても手ぐしで整えると様になるというような扱いやすい髪だ。出会った時より少し髪が伸びて、耳に毛が少しかかっている。髪の毛が乾くに従って、ブラウン色に見えていた髪が、輝くばかりの濃い赤毛に変化していく。
きっと金をかけて手入れしているのだろうが、毛染めでこの色を出しているとしてもその割に痛んだ髪は全くなく、手触りは実に艶やかだった。
「先に寝てて。俺、風呂入ってくるから」
羽柴がそう言うと、ショーンはキョトキョトと周囲を見回した。
「取り敢えず、ベッドで寝てていいよ」
羽柴がそう言うと、ショーンはテレくさそうに唇をキュッと引き結ぶと、コクリと頷いた。
ショーンがベッドの中でリラックスできる時間を見計らって風呂から上がった羽柴は、ショーンと同じようにバスタオルでゴシゴシと髪の毛を拭きながら、リビングのオーディオセットの電源を入れた。
オーディオ台になっているキャビネットを開けると、羽柴が日本から持参したジャズの名盤が現れる。
羽柴は、どのレコードをかけようかと思案したが、ふいに一枚のジャケットを取り出した。
そのレコードは、真一が「知っている」と言って正月に一緒になって聴いたことのあるトミー・フラナガンのLP盤だ。真一とは一緒に様々なジャズの名盤を聴いてきたが、一番最初にこれを聴いた。思えば、この時、付き合って初めて大喧嘩したんだっけ。
羽柴はフッと微笑みを浮かべる。
── あの時は本当にいろんな意味で余裕がなくて、切羽詰まった恋愛してたからなぁ・・・。
五年も経つと、あの時漲っていた情熱がまるで冷めてしまったかのような感覚があるが、自分自身ではそうでないことを祈っている。
あくまで、真一に匹敵するほどの想いを焦がせる相手に出会っていないだけなんだと思いたかった。
真一の死に出会い、それから以後、それを悔いて毎日泣いて暮らしていたわけではない。
それは真一の願いに反していたし、羽柴自身もそうであるべきではないと思ったからだ。
けれど今でも真一という存在を手放せない自分がいる。── いや、この表現は些か適切ではない。手放せないのではなく、次のステップに進めないでいるのだ。
チリチリと胸元でロケットが揺れた。
まるで真一に責められているような気になった。
羽柴は大きく息を吐き出す。
とにかく、今は俺の問題より、彼の問題の方が最優先課題だ。
── 真一、お前の優しさを傷ついた彼の魂に降り注いでやってくれ。どうか。どうか。
トミー・フラナガンのLPを額にピッタリとつけて、羽柴は祈るような仕草をした。
ショーンがもし、羽柴のことを優しいと感じたのなら、それは羽柴が真一からもらった優しさだと羽柴は考えていた。
むろん、羽柴だって真一と付き合う前から「優しい人」とよく言われていたが、およそ真一には及ばない。むしろ真一から『本当の優しさ』を学んだのだ。真一は、真にその意味を知っていた。
きっと真一なら、自分よりもっと上手にショーンの傷を癒せるだろうと羽柴は思う。ともすれば、あっという間にショーンの声も飛び出していたかもしれない。
── 俺は、バタ臭いところがあるからな・・・。
う~んと羽柴は唸って、トミー・フラナガンのLPをレコードプレーヤーの上にのせた。
眠る時にかける曲としては些かテンポの良すぎる演奏だったが、それでも真一の魂がそこにもこもっているような気がして、迷わなかった。
あの跳ねるようなアップテンポのピアノがスピーカーから零れてくる。
音を若干絞って電気を消しロフトに上がると、朧気な明かりの中、ベッドの中では気持ちよさそうにショーンが微睡んでいた。瞼が重たいのか、ゆっくりと瞬きを繰り返している。
羽柴は更にロフトの明かりも絞って、フットライトだけ残すと、ベッドに腰掛けた。
「よければ、俺を隣に入れてくれるかい?」
羽柴が囁くと、ショーンは素直に身体を寄せて場所を空けてくれる。
以前のように、ソファーで寝る!とごねるつもりはないらしい。
これも真一効果かな?と思いつつ、羽柴はゆっくりとショーンの隣に身体を滑り込ませる。
「ショーン、もっとこっちに寄ってこれるか? でないとどちらかがベッドから転げ落ちる」
ショーンはスンと鼻を鳴らし、羽柴の胸に頭をのせてきた。
恋人同士でもないのに、男二人が狭いベッドで抱き合って眠るなど、およそ普通ではないのだろうが、如何せん状況が状況だ。許してもらおう・・・と羽柴は思って、ショーンの背中に手を回した。
ふいにショーンが大きな瞳で羽柴を見上げてくる。
薄暗い明かりの中でも輝きを失わない茜色の瞳。
こうして穏やかな表情を浮かべるショーンは、少しだけ大人びて見える。さっきまで、やけにはしゃいでいただけに、そのギャップは大きく感じた。
今はまだ十代の初々しさを残しているが、あと数年もすれば、もっと男らしい精悍な顔付きになってくるに違いない。そして彼は、今と違った新たな美しさを手に入れることになる筈だ。
あまりにじっと見つめられたので、羽柴は「ん?」と首を傾げた。
ショーンは、静かにゆっくりと満面の微笑みを浮かべ、口を動かした。
声なき声で彼は何かを言ったが、結局何を言っているか読みとれなかった。
「何だい、ショーン?」
羽柴はそう声を掛けたが、既にショーンは目を閉じて、穏やかな眠りに落ちていた。
それが今夜の羽柴の夕食だった。
ニンニクの芳ばしい香りが立ちこめるダイニングキッチンで、新たに出した白い皿にショーンの分の食事を取り分けると、ショーンはクンクンと匂いを嗅いだ。ハァと満足そうに溜息をついたがもちろん、声は出ない。
ショーンの分のグラスにグレープジュースを注ぎながら、羽柴は肩を竦める。
「一人分のつもりで作ったから少し量が少なくなったけど。パンとスープならまだお代わりがある」
羽柴がショーンの向かいの椅子に腰掛けると、ショーンが驚いた顔つきをして羽柴を見ていた。
「ん?」
羽柴が小首を傾げると、ショーンは食事を指さして、フライパンで何かを炒めるようなジェスチャーをした後、羽柴を指さした。羽柴はショーンのその愛らしい仕草に思わず微笑んで、頷いた。
「そうだ。俺が作った。だから味は保障しないぞ」
ショーンは上目遣いにいたずらっ子な笑顔を浮かべながら、フォークを手にする。
羽柴が、「いただきます」と日本語で言って両手を併せると、ショーンはきょとんとして、次の瞬間にはフォークを置き、羽柴と同じように両手を併せた。
「どうぞ、召し上がれ」
羽柴はそう言ってやる。ショーンの神妙な顔つきがパッと明るくなって、猛然とパスタを頬張り始めた。
鼻から大きく息を吐き出し、頬をリスのようにいっぱいに膨らませたまま、目を輝かせて羽柴を見る。
「美味いか?」
羽柴が訊くと、ショーンは何度も頷いた。
その後は互いに無言で食べたが、それは嫌な沈黙ではなかった。
ショーンの表情は、相変わらずくるくると変わり、会話をせずとも羽柴は楽しい気分になった。
もちろん羽柴も笑顔をショーンに返したが、その実、心の中では、どうやってショーンからことの顛末を訊き出そうかと考えあぐねていた。どうして、失声症だなんてことになってしまったのか、と。
明らかにショーンは、羽柴に気を使っている。
自分が声が出ないことを羽柴に少しでも同情されないようにと、精一杯明るく振る舞っている。
羽柴は、自分が医者でもないのに、それでも自分が何とかしてやらねばという思いに捕らわれていた。
夕食を終えた後、スケッチブックに伝えたいことを書き付けていたショーンに、羽柴が声を掛けてきた。
「家には知らせてるのかい? ここに来たことを」
羽柴は、ショーンに背を向けて食器を食器洗浄機に入れていたところだったので、ショーンが書いていることに気付かなかったらしい。
ショーンは慌ててページを捲ると、羽柴への返事を書き始める。
声を失って一番歯がゆいと思うことは、こういうところだ。
人に何か伝えたいと思っても、声に出すのと書くのとではスピードが圧倒的に違っていて、会話にタイムラグが出てしまう。
この病気に罹ってからというもの、書きかけのメッセージは大抵忘れ去られて、会話の流れの向こうに消え去ってしまう。
言いたいことの半分も伝えられない。
そしてそのことに人はなかなか気付かない。
羽柴が気付かないとしても、それは当然のことだ。
そのことに対するジレンマを感じたとしても、それを羽柴に伝える勇気はなかった。
もしそんなことを言い出せば、羽柴の気分を悪くするかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。
そんなことを少し考えるだけでも、猛烈に胸が痛くなってしまう。
ひょっとしたら、話ができないことよりも羽柴に嫌われる方がもっと辛いことだと感じてしまうだなんて。
思わず涙が出そうになって、ショーンは唇を噛みしめた。
うまく自分を表現できない己自身に苛々する。
こんなことぐらいで泣きそうになる自分の弱さが辛い。
そんな思いがいつの間にか顔に出ていたらしい。
振り返った羽柴が、「どうした?」と訊いてくる。
何が?と思ってショーンが顔を上げると、羽柴は「そんなに難しい質問だったかい? 眉間に皺が寄ってるよ」と羽柴自身の眉間を指で擦りながら彼は言った。
ショーンは、書きかけていた先の質問の答えをそのまま放っておいて、今の質問の答えを書こうとする。けれどなんだか混乱して、何と書いていいか分からなくなってくる。次第に呼吸が荒くなってきた。
「おい、大丈夫か? 気分が悪い?」
羽柴がショーンの前に跪いて、顔を見上げてくる。
ショーンは堪らず、声の出ない口で、『クソッ! そんなんじゃない! そんなんじゃないんだけど!』と喚いた。それでもやはり声が出なくて、自分の喉を掻きむしる。
「ショーン!」
羽柴は、思わず咄嗟にショーンの両手を掴んで彼の喉元から強い力で引き離す。
よく見ると、ショーンの喉元には、新しいものから古いものまで、幾筋もの引っ掻き傷ができていた。目にするだけで痛々しい。
さっきまでのショーンの元気は、やはり空元気だったのだ。
本当はこんなにも傷ついて、こんなにも心が弱っている。
思わず羽柴はショーンの身体を引き寄せて抱き締めた。
ショーンがビクリと身体を震わせる。
ショーンが正気のあるうちに、羽柴がこうしてショーンを抱き締めたのは初めてのことだった。
ショーンは躊躇っているようだったが、羽柴はなおもショーンをしっかりと抱き締めた。
羽柴の目の先に、ショーンの持っていたペンとスケッチブックが床に転がっている。
ショーンを片腕で抱き締めたまま、羽柴がスケッチブックを指先で捲ると、書きかけの文章がいくつもいくつもあった。
羽柴は、ショーンが声を失ったことで他人とのコミュニケーションがスムーズに取れないことを今頃になって痛感した。
そしてページを捲っていた羽柴の指が止まる。
ついさっき、羽柴が質問する前に書きかけていたショーンの言葉。
『こんなややこしい俺だけど、今晩泊めてもらってもいい?』
それを見て、羽柴は自分に対する激しい怒りと、こんな状況なのにまだ気を使っているショーンのことを不憫に感じた。
── ああ、何てことだ!
彼のことを救いたいと思っていたのはついさっきのことなのに、自分は早くも彼をこんなにも追いつめてしまった。傷つけてしまった。
すれ違いはほんの些細なことなのかもしれないが、今のショーンにとっては、とても大きくて重要なことなのだ。
全く、本当に何てこった。
羽柴は、唇を噛み締める。後悔先に立たずとはこのことだ。
「・・・俺はバカだ・・・。質問責めにして、君を混乱させてしまうなんて。許してくれ」
羽柴の言葉を聞いてか、ついにショーンが泣き始める。
声もなく、喉の奥をヒクつかせて息を吐く。
羽柴が髪の毛から背中にかけてゆっくりと撫でていくと、段々と身体の強ばりが緩んでくる。
「いくらでも、君の気の済むまでここにいたらいい。何も心配することはない。心配することはないんだよ・・・」
ショーンのえづく息が一際大きくなる。
「泣くだけ泣いてしまえばいい。君が落ちつくまで俺はここにいるから」
こんなにも魂に傷を受けた人を抱き締めるのは、随分と久しぶりだ。
五年前、謂われのない差別を受け、深く傷ついていた真一をこの腕に抱き締めた。そしたら、真一の心の痛みが心臓の鼓動を伝わって自分の身体の中にも流れ込んできた。
あの時と同じような痛みが、今羽柴の身体の中に入り込んでくる。
まるでシンクロしているように感じた。
羽柴は深く目を閉じる。
── 俺の身体が、彼の悲しみや辛さを全部吸い取ってしまえばいいのに。
真一の時には願っても決して叶うことのなかったこと。
真一は、羽柴に彼の『荷物』を背負わせてくれることは決してなかった。
今なら、それができるような気がした。
あれから随分羽柴も色々な経験をして、本当の意味で大人になった。
そして腕の中にいる彼は、こんなにも若くて自分に人生に戸惑っていて。
小さなディバックひとつで、羽柴の元を訪ねてきた。
間違いなく彼は、助けを求めに来たのだ。
広い世界の中で、敢えて彼は自分に救いを求めてきた。
それはそれなりの『運命』だろう。
出会い方は偶然だったが、今晩の再会は必然。
それならば。
自分ができることならば、できる限りしよう。
彼がまた再び本当の笑顔を浮かべられるように。
人生を輝かせられるように。
羽柴は、優しくショーンの髪を撫で続けた。
それからしばらくして、ショーンはようやく落ち着きを取り戻すと、スケッチブックに謝罪の言葉を書き付けた。
羽柴は「君が謝る必要は何もない。悪いのは俺だから」と答えると、ショーンは少し困ったような顔をしてみせた。
羽柴はそんなショーンに自分の方を真っ直ぐ見るように言った。そしてゆっくりと自分に言い聞かせるように言った。
「ショーン、約束しよう。俺は、君が伝えたいことを書き終わるまで何も言わない。だから君も、書くことを諦めないでくれ。俺に言いたいことがあったら、俺の身体を叩くなり、手を叩いて音を立てるなりして、俺の注意をひくこと。いいね。会話は、交互で言い合うからこそ会話なんだ。俺は君と『会話』をしたい」
ショーンはまた少し瞳を潤ませながら、コクリと頷いた。
「風呂の準備をしよう。顔、洟水でグチャグチャだぞ」
羽柴がニヤッと笑みを浮かべて言うと、ショーンは鼻の下を擦りながら苦笑いを浮かべた。
ようやく普段の彼が戻ってくる。テレビの中の彼とは違う、羽柴の知っている純朴な青年の姿が。
羽柴がショーンの身体を放すと、彼は名残惜しそうな顔を少しだけしてみせた。
前にも思ったが、ショーンは無意識のうちにでもスキンシップを好んでいるようだ。
さっきは咄嗟に抱き締めてしまったが、最初は戸惑っていた彼も、最後は羽柴の身体にしがみつくようにしていた。やはりどこか寂しがりな体質なのかもしれない。
ショーンがそれで安心するのなら、これからもスキンシップをしていった方がいいのかもしれないな・・・と羽柴は思った。
その日の夜は、早く眠りにつくことにした。
ショーンが風呂に入っている間に、羽柴はショーンの寝床を整えるためにロフトに上がった。
ショーンはどうせ下のソファーで眠ると言い出すだろうが、今度こそ羽柴はそうさせるつもりはなかった。
ロフトに比べ、リビングは冷える。
あのホテルの部屋よりずっと広くて、夜は空調を切るから、更に冷たくなる筈だ。
それに比べロフトは高い位置にあるせいか、温かい。
夏場は暑くて、ロフトにある床に沿った窓を片っ端から開ける羽目になるが、冬場には返ってそれが強みになる。
空調を切った後でも、温かい空気がロフトに溜まっていて、しばらく・・・少なくとも寝入るまでは結構温かいのだ。
ただ問題は、ベッドである。
シングルにしては広めといっても、やはりセミダブルよりは狭い。
大の男が二人眠るには些か窮屈だ。
ぴったりと抱き合って眠るなら何とか大丈夫だが、果たしてショーンがそれを嫌がらずに受け入れてくれるだろうか。
「最悪、俺がベッドの下でエアマットレスと寝袋ってことだな」
羽柴は、玄関の物置の中から冬用の寝袋と小さく畳んだエアマットを持ってロフトに上がったが、それはロフトにあるクローゼットの中にひとまず置いておいた。
代わりに、以前使っていた枕を取り出し、ベッドの上に置く。万が一掛け布団が奪い合いになった時のために、毛布も取り出して上にかけた。
下で、パタンとドアが閉まる音がする。
ロフトから下を覗くと、パステルグリーン色した羽柴のパジャマを着てバスタオルを頭に被った格好のショーンが、スリッパをパタパタいわせながら、リビングに歩いてきた。
「上だよ、ショーン」
羽柴が声を掛けると、ショーンが足を止め、羽柴を見上げてきた。
食事と温かい風呂に十分浸かったことで、ようやく顔色がよくなってきた。頬と唇が子どものように赤く火照っている。
別に惚気た訳ではないのだが、その可愛らしさに思わず羽柴は顔を綻ばせた。
いや、もうすぐ二十歳を迎えようとする、身長も身体付きも立派な青年を捕まえて、『可愛い』とは、酷く失礼なことと思うのだが。
可愛いだなんて、あまり口に出して言わない方がいいな、と思いつつ、羽柴が手招きをすると、ショーンがまたスリッパをパタパタといわせ、ロフトに上がってきた。
「髪の毛乾かそう。そこに座って」
タオルでゴシゴシと髪の毛を拭いているショーンをベッドの端っこに座らせると、羽柴は、まるで父親が幼い子どもにするようにドライヤーでショーンの髪を乾かした。
ワシャワシャと髪を掻き乱しながら、ドライヤーの風を当てる。
ショーンはタオルを首に掛け、されるがままになっている。
羽柴が、首の後ろのうなじの部分に手を這わせると、くすぐったいのかピクリと身体を震わせたが、大した抵抗も見せず、大人しくしていた。
ショーンの赤い髪は、見た目の色のトーンから柔らかく見えるが、実際は結構張りがある。少しクセがあり、毛先が自然にあちらこちらを向いていて、整髪料をつけなくても手ぐしで整えると様になるというような扱いやすい髪だ。出会った時より少し髪が伸びて、耳に毛が少しかかっている。髪の毛が乾くに従って、ブラウン色に見えていた髪が、輝くばかりの濃い赤毛に変化していく。
きっと金をかけて手入れしているのだろうが、毛染めでこの色を出しているとしてもその割に痛んだ髪は全くなく、手触りは実に艶やかだった。
「先に寝てて。俺、風呂入ってくるから」
羽柴がそう言うと、ショーンはキョトキョトと周囲を見回した。
「取り敢えず、ベッドで寝てていいよ」
羽柴がそう言うと、ショーンはテレくさそうに唇をキュッと引き結ぶと、コクリと頷いた。
ショーンがベッドの中でリラックスできる時間を見計らって風呂から上がった羽柴は、ショーンと同じようにバスタオルでゴシゴシと髪の毛を拭きながら、リビングのオーディオセットの電源を入れた。
オーディオ台になっているキャビネットを開けると、羽柴が日本から持参したジャズの名盤が現れる。
羽柴は、どのレコードをかけようかと思案したが、ふいに一枚のジャケットを取り出した。
そのレコードは、真一が「知っている」と言って正月に一緒になって聴いたことのあるトミー・フラナガンのLP盤だ。真一とは一緒に様々なジャズの名盤を聴いてきたが、一番最初にこれを聴いた。思えば、この時、付き合って初めて大喧嘩したんだっけ。
羽柴はフッと微笑みを浮かべる。
── あの時は本当にいろんな意味で余裕がなくて、切羽詰まった恋愛してたからなぁ・・・。
五年も経つと、あの時漲っていた情熱がまるで冷めてしまったかのような感覚があるが、自分自身ではそうでないことを祈っている。
あくまで、真一に匹敵するほどの想いを焦がせる相手に出会っていないだけなんだと思いたかった。
真一の死に出会い、それから以後、それを悔いて毎日泣いて暮らしていたわけではない。
それは真一の願いに反していたし、羽柴自身もそうであるべきではないと思ったからだ。
けれど今でも真一という存在を手放せない自分がいる。── いや、この表現は些か適切ではない。手放せないのではなく、次のステップに進めないでいるのだ。
チリチリと胸元でロケットが揺れた。
まるで真一に責められているような気になった。
羽柴は大きく息を吐き出す。
とにかく、今は俺の問題より、彼の問題の方が最優先課題だ。
── 真一、お前の優しさを傷ついた彼の魂に降り注いでやってくれ。どうか。どうか。
トミー・フラナガンのLPを額にピッタリとつけて、羽柴は祈るような仕草をした。
ショーンがもし、羽柴のことを優しいと感じたのなら、それは羽柴が真一からもらった優しさだと羽柴は考えていた。
むろん、羽柴だって真一と付き合う前から「優しい人」とよく言われていたが、およそ真一には及ばない。むしろ真一から『本当の優しさ』を学んだのだ。真一は、真にその意味を知っていた。
きっと真一なら、自分よりもっと上手にショーンの傷を癒せるだろうと羽柴は思う。ともすれば、あっという間にショーンの声も飛び出していたかもしれない。
── 俺は、バタ臭いところがあるからな・・・。
う~んと羽柴は唸って、トミー・フラナガンのLPをレコードプレーヤーの上にのせた。
眠る時にかける曲としては些かテンポの良すぎる演奏だったが、それでも真一の魂がそこにもこもっているような気がして、迷わなかった。
あの跳ねるようなアップテンポのピアノがスピーカーから零れてくる。
音を若干絞って電気を消しロフトに上がると、朧気な明かりの中、ベッドの中では気持ちよさそうにショーンが微睡んでいた。瞼が重たいのか、ゆっくりと瞬きを繰り返している。
羽柴は更にロフトの明かりも絞って、フットライトだけ残すと、ベッドに腰掛けた。
「よければ、俺を隣に入れてくれるかい?」
羽柴が囁くと、ショーンは素直に身体を寄せて場所を空けてくれる。
以前のように、ソファーで寝る!とごねるつもりはないらしい。
これも真一効果かな?と思いつつ、羽柴はゆっくりとショーンの隣に身体を滑り込ませる。
「ショーン、もっとこっちに寄ってこれるか? でないとどちらかがベッドから転げ落ちる」
ショーンはスンと鼻を鳴らし、羽柴の胸に頭をのせてきた。
恋人同士でもないのに、男二人が狭いベッドで抱き合って眠るなど、およそ普通ではないのだろうが、如何せん状況が状況だ。許してもらおう・・・と羽柴は思って、ショーンの背中に手を回した。
ふいにショーンが大きな瞳で羽柴を見上げてくる。
薄暗い明かりの中でも輝きを失わない茜色の瞳。
こうして穏やかな表情を浮かべるショーンは、少しだけ大人びて見える。さっきまで、やけにはしゃいでいただけに、そのギャップは大きく感じた。
今はまだ十代の初々しさを残しているが、あと数年もすれば、もっと男らしい精悍な顔付きになってくるに違いない。そして彼は、今と違った新たな美しさを手に入れることになる筈だ。
あまりにじっと見つめられたので、羽柴は「ん?」と首を傾げた。
ショーンは、静かにゆっくりと満面の微笑みを浮かべ、口を動かした。
声なき声で彼は何かを言ったが、結局何を言っているか読みとれなかった。
「何だい、ショーン?」
羽柴はそう声を掛けたが、既にショーンは目を閉じて、穏やかな眠りに落ちていた。
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