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日常に追加された
十一、
しおりを挟む「なに?杉野自炊でも始めたの?」
「違う。俺が作った訳じゃない」
「そうだろうな。こんなちゃんとしたご飯作ってるイメージないし」
「うん、作らない」
「即答かよ」
失礼なことを言われているような気がするが、然程気にならないので適当に流す。平田も一応聞いてはきたものの、あまり興味はないようでそれ以上は何も言わなかった。
「げ、チョコのパン買ったと思ったのにレーズンパンだった。紛らわしい」
「食べれたら良くない?」
「全然違う味だろ。俺には杉野と違ってこだわりがあるの」
「どっちも甘いのに」
「クリームパンで良ければ変えるよ」
「その方がマシだな。サンキュ、清水」
「弁当の後にパン食べられる胃袋が信じられない」
「杉野は普段食べなさすぎ」
三人でたわいのない話をしながら昼食を囲む。だが、次第に俺は話すのが面倒くさくなっていって二人が勝手に話し始める。いつものことなので、二人を放っておいて弁当を食べ進める。
「来週からテスト期間だけど平田勉強してる?ノートいる?」
「いや、なんだかんだ先輩たちの教え守って授業は真面目に受けてるから大丈夫」
「偉い。ってか部活休みになるの辛い。部員に会えない」
「また勉強会開けば?」
「来てくれるかな?」
「新田くらいはくるんじゃない?そういや霜塚さんがフォトムはじめたよ」
「……なんだって?」
(あ、始まった。)
静かに聞いていたがなんとなく清水の雰囲気が変わったのが分かる。
「偶然見つけたけど一週間くらい前からだった。SNSするとは思わなかったけどDMで確認したから本人だよ」
「アカウント教えて」
「はいよー」
「うわ、流石オシャレな写真の数々。でも、まだ先輩方誰もフォローしてない。霜塚先輩が自分からフォローすると思えないし教えた方がいいのか?いやでも人知れずこっそり始めたいのかもしれないし。鍵アカにされでもしたら本末転倒だな。でも人知れず始めたい人がこんなにはっきりと本名で作るだろうか。じゃあやっぱり繋がりたいけど遠慮してできないだけなんじゃないか。それとなく松本先輩や濱谷先輩に伝えてもいいか。もしかしたら上手くいけばフォトム上で先輩方のやりとりが見える?合法的に?幸せすぎないか?二人がフォローしたら佐野先輩と努先輩がフォローするのも時間の問題だし、前島先輩は……まあわからないけど。え、なに?今日は大安?神社行って神様にお礼参り行った方がいい?」
「神社行くなら付き合うよー。女子達にこれ以上恨まれないように祈りに行く」
(流石平田。清水の暴走に少しも動じていない。)
時々清水は卒業していったバレー部の先輩が絡む事となると暴走して一人で喋り続けることがある。初めてこうなった時は得体の知れなさに少々困惑したが「推し事だから気にしないで」と言われて正直ひいた。それ以降、こうなったら放っておいて平田に任せるようになった。
しかし、こんなにも夢中になれる好きな人達がいるのはすごいことなのかもしれない。俺には無理だ。
二人から意識を弁当に移す。もう殆ど食べ終えた。
(ケリーの作る玉子焼きは甘いのか。)
なんとなくイメージ通りだし、甘い味付けの方が好きな俺にとっては嬉しかった。アパートには玉子焼き用の四角いフライパンは無かったはずだが、器用に巻いてある。調味料だって、美恵子さんが今年来た時に買い揃えたものの殆ど手付かずだったはずだ。そういえば普段冷奴としてしか食べないが、豆腐ハンバーグなんてよく思いついたな。人間より吸血鬼の食生活の方が良い食生活をしているんじゃないかとさえ思う。
(美味しいな……ん?)
ふと会話が止まっていることに気づいた。不思議に思い視線を二人にむけると、平田は驚いた表情を浮かべ、清水は無表情で俺にスマホを向けていた。
「なに?」
「気にしなくていい。なんでもない」
「あー、そうだな……なんでもない」
どこか満足した様子の清水と煮え切らない反応の平田に首を傾げながら、残りの弁当を食べ終えた。その後、清水から「あげる」と一口チョコを貰った。
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