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『夢から覚めてもそこにいる人』
しおりを挟む「何がガトーショコラだ」
オレは桃のゼリーとスポドリが入ったコンビニ袋をひっさげ、アイツのお母さんに挨拶した後、二階にあがり部屋のドアをあけた。
「おい、生きてるか」
ベッドでお行儀よく寝ているアイツはこちらも見ずに転がったままだ。
朝から姿を見ないと思ったら『風邪ひいちゃった。帰りにループのガトーショコラよろしくね?』なんてメールが飛んできた。
ループってのは近くの高いケーキ屋だ。
あんな砂糖の塊に千円も二千円も出すヤツの気が知れん。
もちろんオレは買ったことも食ったこともない。
「おい」
「……ヒビキ」
目を閉じたまま返事をするが、どうも声に力がない。
鬼のかく乱ともいうが、コイツも熱を出せば憎まれ口も出てこないらしい。
「ほれ。見舞いだ」
「……」
枕の横に置く。
しかし。
「なんだよ、寝てんじゃねぇか」
さっきオレの名前を呼んだのは寝言か。
夢の中までオレの事をからかってるとか本当に性格が悪い。
「ったく。お、この前の続きか」
本棚を見るとオレがコイツから借りて読んでいたマンガの続きがある。
「せっかく来たし、礼の一つも言われてから帰るか」
見舞いだけ置いて帰るのもしゃくだ。
オレは性悪野郎が目覚めるのを待ちつつマンガを読み始めた。
しばらくして。
「ヒビキ」
「んお? 起きたか。見舞い持ってきてやったぞ」
病人がベッドの上からマンガを読んでいたオレを見ていた。
「お見舞い? ……今、ヒビキが飲んでるそれの事?」
「まだ半分残ってる」
ノドが乾いたのでつい飲んじまった。
「安心しろ。他にもある」
「え? ケーキ、本当に買ってきてくれたの……なにそれ」
「桃ゼリー」
オレはゼリーを枕元に放り投げ、立ち上がりマンガを棚にしまった。
「せいぜい大事にしな」
「一応、ありがと……ボク、寝言とか言ってなかった?」
「お前、夢の中でもオレをからかってるだろ」
夢の中でもオレにちょっかいをかけにくるとか、どんだけヒマ人だ。
「ふふ。なにそれ、ボクがヒビキの名前でも呼んだとか?」
笑いごとじゃねぇぞ、この野郎。
オレが無言の肯定とばかりに、にらんでいると。
あれ?
「……ん? なんかさっきより顔、赤くなってないか?」
「そ、そうだね。ちょっと熱があがったかも。うつすといけないから早く帰りなよ」
「お前ほどヤワじゃない。どれ?」
手を額にあてようとしたら。
「いいから! 帰りなって!」
ベッドの中に潜り込んでしまった。
ガキかコイツは。
「ったく。飲み物は別で用意しろ」
「あ、それでいいから置いていって!」
「はいはい」
半分も残っていない、ぬるくなったスポドリだが本人がいいってんなら、まぁ。
翌日。
ケロっとした顔で登校したアイツは、熱でぶっ倒れて休んでいたオレにケーキを買ってきてくれた。
「誰がヤワじゃないって? ほら、あーん?」
「自分で食える!」
「あーん?」
「くそ……」
悔しい。
けど、うまい。
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