流星

リュウ

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No.1-1

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電車の発車ベルの音が聞こえる。

聞き慣れたような、少し違和感があるような。少なくとも布団の中で聞くような音じゃないと思い、しっかりと瞼を開ける。

見覚えのない室内。そして隣には見知った男。ただ、久々に見る彼の姿に一瞬気後れした。

わたし立花遙子はること比良井さんは同じ会社の先輩後輩の関係。

3年間ほぼ毎日顔を合わせていた私と比良井さんだったが、4年前にお互い別の部署異動となってからは自然と疎遠になっていった。

昨日約1年振りに顔を合わせた時は互いにきごちなかったものの、時間が経つにつれて当時の親しかった記憶を思い出し、躊躇することもなく体を重ねた。

3年振りくらいかな。

部署異動になった当初週1回の頻度で飲みに行き、その後どちらかの家で時間を過ごした。週1回が月1回となり、気付けば半年、1年と会わない日が続き、自然と比良井さんが自分の生活から消えていった。どちらがなにかを言ったわけでもなにかが起こったわけでもなく、ただなんとなく。それがわたしと比良井さんの関係。

比良井さんが目を覚ました。寝起きでなにも身に纏っていない彼とは対照に、わたしは既に部屋を出れる格好だった。

「シャワー入った?」という彼の問いに首を横に振る。

1年半前に引っ越したという彼の部屋はわたしの知らない空間だった。昨夜比良井さんと浴室に入った覚えはあったが、家主の許可なくシャワーを浴びることに躊躇した。

「家に帰るだけだし、大丈夫。ありがとうございます。」

本音はシャワーを浴びたかったけれども、シャワーを浴びたら遅めの朝ご飯、それからゆったり過ごし、気付いたら夜になってしまいそうな予感がした。それがいつものわたしの彼の終末の過ごし方だったから。

駅まで送るという彼の親切を断り、スマートフォン片手に最寄り駅までの道程を歩く。

土曜日の9時前。平日だったら通勤通学でもう少し人が多いのかなと考えながら辺りを見回す。美味しそうな焼き鳥屋や花屋、鯛焼き屋など、昨夜歩いてる時には気付かなかった発見がある。前に比良井さんが住んでいた街はまるで自分が暮らしているかのように馴染んでいたが、この場所もいずれそうなるのだろうか。一瞬そんなことを考えたが、今は全く想像がつかなかった。

電車に乗った頃、比良井さんからショートメールが来た。昨日はありがとう、そして朝まで付き合わせて悪かった。こちらこそありがとうございました、と返信しようとしたタイミングで、次回飲みのお誘いがきた。日程は再来週の水曜日。日程指定、しかも平日なんて珍しいなと思った時、あることに気が付いた。3月13日。わたしの誕生日だ。少し悩んだ後、断りのメールを入れた。その日は用事があるので他の日はいかがですか、と。本当は13日になにも用事はないけれども、誕生日当日に曖昧な関係の人、特に比良井さんと一緒に過ごすのはなんとなく気が引けた。

比良井さんのメールにすぐ返信したものの、比良井さんからのメールはしばらく来なかった。シャワーを浴びてるのか、また寝入ってしまったのか、あるいはわたしからのメールの内容に勘ぐってるのか。真相は分からないからこちらも考えない。毎日のように会ってた頃と今は違う。今のわたしはもうすぐ30歳。比良井さんの言動に一喜一憂していた24、5歳のわたしはここにはもういない。
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