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本編
Kir~最高のめぐり逢い~
Kir~最高のめぐり逢い~
夕日で室内が赤く染まる中、潤はルクセンブルグに渡ってからのことを身振り手振りを加え話す。
「俺は雅紀さんにヨーロッパ中を連れまわされたんだ。主にドイツ語圏で最初は言葉で苦労した。一人で営業に回れるまで五年はかかったよ」
「それでもちゃんと納得させてきたんでしょ?」
「勿論。それが真央に相応しい男になるために必要なことだと思えばどんなに辛くても平気だった」
潤の言葉に真央は俯いた。潤にそんな試練を与えてしまった事への後悔だ。潤はそっと真央の手を取り笑いかける。
「俺は真央に相応しい男になれたかな?」
「むしろ私の方が……」
「それはない!」
「潤?」
「真央はあの時点で『俺には勿体ない』って思われてた」
「そうなの?」
「元々ウチは爺さんが立ち上げた会社なんだ。だから、そこまで『由緒正しい家柄』とかじゃない」
「知らなかった……」
「ごめんな。そういうこともきちんと話しておけば良かった……」
潤は真央の手を優しく包む。その瞳には後悔の色が浮かんでいる。自分と離れている間に色々な事が見えてきたのだろう。
(今なら乗り越えられるかもしれない)
真央は過去を乗り越え、潤との新しい未来を描いていこうと決意した。真央は潤の手を握り微笑み返す。それに答えるように潤も握り返したのだった。
「ねぇ、今夜はどうする?」
「折角だから街に出てみるか。それに……」
「それに?」
「先輩に連絡とらないとマズい」
「え?」
「実は先輩のとこに荷物を置いているんだ。でも、ここまで先輩に付いてきただけでマンションの場所は覚えてない」
「そうなの?」
「ああ。真央は先輩のマンションを知っているのか?」
「ううん、詳しくは知らない」
「そうか、弱ったな。俺のスマホは充電が切れてるし……」
「あ!!」
真央は雨水のマンションを知っていそうな人物を思い出した。スマホに登録してあるアドレスからその人物に連絡をするのだった。
二人は六本木のダイニングバーにやってきた。店員にもう一人やってくることを告げて席に着く。しばらくすると待ち合わせた人物が現れる。
「孝子ちゃん。こっち、こっち」
「遅くなってすみません」
「こっちこそごめんね。急に呼び出したりして」
「いえいえ、気になさらないでください」
現れたのは一人の女性だった。真央と親しげに話しているが潤の記憶にない女性だった。
「潤は初めてだったわね」
「ああ」
「初めまして、雨水孝子です」
「雨水?」
潤はその名字に目を丸くする。目の前の女性は困ったような顔をしている。
「彼女、雨水先輩の妹さんなの」
「え!」
「兄がお世話になっています」
「こちらこそ……」
潤があたふたとしていると、孝子はクスクスと笑い始めた。その様子に怪訝な顔をする潤。
「すみません。潤さんって聞いてたとおりの人だなって思って……」
「?」
「明日香の自慢のお兄さん」
「?!」
孝子はクスクス笑いながら事情を説明する。
孝子は雨水の妹で、潤の妹・明日香とはサークル仲間だという。何でも大学入学と共に親元を離れたことを顕政が心配して雫の紹介で親しくしていたのだ。
「明日香にはホントに助けられました」
「あんなやつでも人の役に立つんだな」
「初めのうちは仕方なしに付き合ってくれてたみたいですけど、卒業する頃には一番のめり込んでました。明日香と明日香が『悪友』と呼んでる凪野望美と三人で議論したこともあるんですよ」
「へぇ」
「親友って呼べるのはこの二人です。特に明日香は『無二の親友』といっても過言ではないです」
「そこまで言ってもらえるとアイツも親友冥利に尽きるな」
妹の意外な一面を知って潤は照れくさそうに笑う。その後、三人は楽しく過ごしたのだった。
「今夜は楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ奢っていただいて……」
「気にしなくて良いよ。似もともってきて貰ったお礼だと思ってくれて良いから」
別れ際、孝子からキャリーバッグを受け取りながら潤は申し訳なさそうにする。真央が孝子に顕政のマンションの場所を聞こうと連絡を取ると自分が届けると申し出てくれたのだった。
「いえ、受け取ったのはこの店の近くですから」
「それはそれで申し訳ないな」
「兄が届けたかったようなんですが、生憎今夜はどうしても外せない用があるみたいで……」
「先輩によろしく伝えてね」
「はい。それじゃ、私はこの辺で失礼します」
孝子はそう言って駅へと向かったのだった。
「まさか、先輩の妹さんと明日香が知り合いだったなんてな」
「私も最初は驚いたわ」
「だよな」
「でも、そのおかげで潤との縁を切らずに済んだのかも」
「真央?」
「私のことを孝子ちゃんに紹介したのって明日香ちゃんだから」
「そうだったのか……」
潤は明日香に感謝しつつもそれ以上は口をつぐんだ。少しばかりお調子者なところのある妹のことだ。すぐに恩着せがましくなるに違いない。その考えが顔に出ていたのか真央が笑い始める。
「なんだよ」
「潤って、明日香ちゃんに頭上がらないの?」
「そんなことはない!ただ……」
「ただ?」
「すぐにつけあがる。だから、弱みを見せないようにしてる」
そう真顔で答えれば真央は声を出して笑い出す。それを潤は複雑そうな顔で見つめる。そして、あることに気づいた。それは真央が心からの笑顔を久しぶりに見たということだった。
(真央の心からの笑顔。これからは俺が守るんだ)
潤は思いを新たにし、真央の手をとった。
「潤?」
「これからは俺が真央の笑顔を守るから」
「うん」
真央は握られた手を握り返す。二人の絆を現すように固く握られる。満月に照らされ帰路についたのだった。
帰宅後、潤は荷ほどきをした。しばらくの間は祖父の部屋を使うことになった。それが一息ついてリビングに出てきた。
「何か飲む?」
「じゃ、真央の作るカクテルで」
「お酒、弱いのに?」
「それでも、だよ」
潤は苦笑しつつもそうリクエストした。真央はその言葉に何が込められているのかわかったようでカクテルを作り始める。潤はその姿をじっと見つめる。
真央はワイン・グラスを二つ取り出し、カシス・リキュールを入れたそのグラスに白ワインを注ぎ軽くステアする。出来上がった一方のグラスを差し出す。
「真央?」
「キールよ」
潤はそのカクテルが持つ言葉を確認するためにメニュー表を手に取る。そして、その意味を知り顔をほころばせた。キールに託された言葉は『最高のめぐり逢い』。二人はそれを今かみしめていた。
「私はやっぱりあなたが好き」
「俺もだよ」
「なら、このキールで乾杯しましょう」
「そうだな」
二人はグラスを掲げ、グラスの中身を飲み干し、どちらともなくほほ笑み合う。そして、唇を重ねた。
潤は真央を抱き上げ廊下を突き進み、その奥にある部屋のドアを開けベッドに真央を下ろす。そして、そのまま彼女を押し倒した。
「んっ……」
「真央」
「ねぇ、キールにはもう一つ言葉が隠されてるのよ」
「え?」
「陶酔って言葉がね。だから、今夜は私に酔いしれて。私もあなたに酔いしれたい……」
「お望みとあらば……」
潤は笑みを浮かべると再び唇を重ねるのだった。
夕日で室内が赤く染まる中、潤はルクセンブルグに渡ってからのことを身振り手振りを加え話す。
「俺は雅紀さんにヨーロッパ中を連れまわされたんだ。主にドイツ語圏で最初は言葉で苦労した。一人で営業に回れるまで五年はかかったよ」
「それでもちゃんと納得させてきたんでしょ?」
「勿論。それが真央に相応しい男になるために必要なことだと思えばどんなに辛くても平気だった」
潤の言葉に真央は俯いた。潤にそんな試練を与えてしまった事への後悔だ。潤はそっと真央の手を取り笑いかける。
「俺は真央に相応しい男になれたかな?」
「むしろ私の方が……」
「それはない!」
「潤?」
「真央はあの時点で『俺には勿体ない』って思われてた」
「そうなの?」
「元々ウチは爺さんが立ち上げた会社なんだ。だから、そこまで『由緒正しい家柄』とかじゃない」
「知らなかった……」
「ごめんな。そういうこともきちんと話しておけば良かった……」
潤は真央の手を優しく包む。その瞳には後悔の色が浮かんでいる。自分と離れている間に色々な事が見えてきたのだろう。
(今なら乗り越えられるかもしれない)
真央は過去を乗り越え、潤との新しい未来を描いていこうと決意した。真央は潤の手を握り微笑み返す。それに答えるように潤も握り返したのだった。
「ねぇ、今夜はどうする?」
「折角だから街に出てみるか。それに……」
「それに?」
「先輩に連絡とらないとマズい」
「え?」
「実は先輩のとこに荷物を置いているんだ。でも、ここまで先輩に付いてきただけでマンションの場所は覚えてない」
「そうなの?」
「ああ。真央は先輩のマンションを知っているのか?」
「ううん、詳しくは知らない」
「そうか、弱ったな。俺のスマホは充電が切れてるし……」
「あ!!」
真央は雨水のマンションを知っていそうな人物を思い出した。スマホに登録してあるアドレスからその人物に連絡をするのだった。
二人は六本木のダイニングバーにやってきた。店員にもう一人やってくることを告げて席に着く。しばらくすると待ち合わせた人物が現れる。
「孝子ちゃん。こっち、こっち」
「遅くなってすみません」
「こっちこそごめんね。急に呼び出したりして」
「いえいえ、気になさらないでください」
現れたのは一人の女性だった。真央と親しげに話しているが潤の記憶にない女性だった。
「潤は初めてだったわね」
「ああ」
「初めまして、雨水孝子です」
「雨水?」
潤はその名字に目を丸くする。目の前の女性は困ったような顔をしている。
「彼女、雨水先輩の妹さんなの」
「え!」
「兄がお世話になっています」
「こちらこそ……」
潤があたふたとしていると、孝子はクスクスと笑い始めた。その様子に怪訝な顔をする潤。
「すみません。潤さんって聞いてたとおりの人だなって思って……」
「?」
「明日香の自慢のお兄さん」
「?!」
孝子はクスクス笑いながら事情を説明する。
孝子は雨水の妹で、潤の妹・明日香とはサークル仲間だという。何でも大学入学と共に親元を離れたことを顕政が心配して雫の紹介で親しくしていたのだ。
「明日香にはホントに助けられました」
「あんなやつでも人の役に立つんだな」
「初めのうちは仕方なしに付き合ってくれてたみたいですけど、卒業する頃には一番のめり込んでました。明日香と明日香が『悪友』と呼んでる凪野望美と三人で議論したこともあるんですよ」
「へぇ」
「親友って呼べるのはこの二人です。特に明日香は『無二の親友』といっても過言ではないです」
「そこまで言ってもらえるとアイツも親友冥利に尽きるな」
妹の意外な一面を知って潤は照れくさそうに笑う。その後、三人は楽しく過ごしたのだった。
「今夜は楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ奢っていただいて……」
「気にしなくて良いよ。似もともってきて貰ったお礼だと思ってくれて良いから」
別れ際、孝子からキャリーバッグを受け取りながら潤は申し訳なさそうにする。真央が孝子に顕政のマンションの場所を聞こうと連絡を取ると自分が届けると申し出てくれたのだった。
「いえ、受け取ったのはこの店の近くですから」
「それはそれで申し訳ないな」
「兄が届けたかったようなんですが、生憎今夜はどうしても外せない用があるみたいで……」
「先輩によろしく伝えてね」
「はい。それじゃ、私はこの辺で失礼します」
孝子はそう言って駅へと向かったのだった。
「まさか、先輩の妹さんと明日香が知り合いだったなんてな」
「私も最初は驚いたわ」
「だよな」
「でも、そのおかげで潤との縁を切らずに済んだのかも」
「真央?」
「私のことを孝子ちゃんに紹介したのって明日香ちゃんだから」
「そうだったのか……」
潤は明日香に感謝しつつもそれ以上は口をつぐんだ。少しばかりお調子者なところのある妹のことだ。すぐに恩着せがましくなるに違いない。その考えが顔に出ていたのか真央が笑い始める。
「なんだよ」
「潤って、明日香ちゃんに頭上がらないの?」
「そんなことはない!ただ……」
「ただ?」
「すぐにつけあがる。だから、弱みを見せないようにしてる」
そう真顔で答えれば真央は声を出して笑い出す。それを潤は複雑そうな顔で見つめる。そして、あることに気づいた。それは真央が心からの笑顔を久しぶりに見たということだった。
(真央の心からの笑顔。これからは俺が守るんだ)
潤は思いを新たにし、真央の手をとった。
「潤?」
「これからは俺が真央の笑顔を守るから」
「うん」
真央は握られた手を握り返す。二人の絆を現すように固く握られる。満月に照らされ帰路についたのだった。
帰宅後、潤は荷ほどきをした。しばらくの間は祖父の部屋を使うことになった。それが一息ついてリビングに出てきた。
「何か飲む?」
「じゃ、真央の作るカクテルで」
「お酒、弱いのに?」
「それでも、だよ」
潤は苦笑しつつもそうリクエストした。真央はその言葉に何が込められているのかわかったようでカクテルを作り始める。潤はその姿をじっと見つめる。
真央はワイン・グラスを二つ取り出し、カシス・リキュールを入れたそのグラスに白ワインを注ぎ軽くステアする。出来上がった一方のグラスを差し出す。
「真央?」
「キールよ」
潤はそのカクテルが持つ言葉を確認するためにメニュー表を手に取る。そして、その意味を知り顔をほころばせた。キールに託された言葉は『最高のめぐり逢い』。二人はそれを今かみしめていた。
「私はやっぱりあなたが好き」
「俺もだよ」
「なら、このキールで乾杯しましょう」
「そうだな」
二人はグラスを掲げ、グラスの中身を飲み干し、どちらともなくほほ笑み合う。そして、唇を重ねた。
潤は真央を抱き上げ廊下を突き進み、その奥にある部屋のドアを開けベッドに真央を下ろす。そして、そのまま彼女を押し倒した。
「んっ……」
「真央」
「ねぇ、キールにはもう一つ言葉が隠されてるのよ」
「え?」
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