白鷹の貴公子、大海を往く~豊臣秀頼冒険異聞~

氷室龍

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幼少期~青年期

御拾丸、誕生

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――――――――文禄二年八月・大阪城――――――――

この日、一人の赤子が生まれた。
時の権力者、太閤・豊臣秀吉の側室である淀の方が産んだ二人目の赤子。秀吉にとっては三番目の男児たるその子は『ひろい』と名付けられる。この『拾』こそ不運の貴公子・豊臣秀頼である。
『拾』の名の由来は『捨て子は育つ』との風習が当時あったからだ。
だが、『すて』と名付けられた拾の兄・鶴松は僅か三歳で夭折。この為、秀吉は近臣・松浦重政に命じて一旦庭に捨てさせそれを拾ったという形を取った。そうして付いたのが『拾』という名であった。
時に秀吉五十七歳の時のことである。

「可愛いのぉ。 儂はおみゃにこの日の本全てを譲りたいでのぉ。」
「殿下…。」
「佐吉! ええか。 おみゃの持てる知恵をすべて注いで拾を育てるんじゃ。」
「はっ。 この命尽きるとも必ずやお育てして見せます!!」

秀吉はこの時全てを佐吉こと石田三成に任せた。三成もそれに答えるべく粉骨砕身励むことになる。そして拾は多くの侍女たちに傅かれ、『掌中の珠』とでもいうかの如く大事に育てられた。
とはいえ、既に関白の職は養継子である秀次に引き継がれている。

「佐吉、何ぞ知恵はにゃあか?」
「では、秀次様のご息女の一人を御拾様の許嫁とされて位は如何でしょう。」
「ほう。 そりゃ妙案だで。」

こうして、拾の誕生から二か月で秀次の息女との婚約が発表される。この時は万事滞りなく引き継がれると思われていた。だが、運命の歯車は少しずつ繰り始め、やがてそれは多くの血を流す結果を呼ぶ。
拾が二歳になった文禄四年七月、それは起きた。
突如、秀次は関白の職をはく奪され高野山に幽閉。その後、謀反の疑いで切腹。更には妻子は赤子に至るまで悉く斬首となった。それだけではない。秀吉自身が築き、秀次に譲った聚楽第も跡形もなく取り壊した。
そして、代わりに伏見城を築かせ淀の方や拾を伴い移り住んだのだった。


「御拾様、そちらは危のうございます。」
「さ、御母堂様に叱られますよ。」

拾は既に兄・鶴松の亡くなった歳となっていた。淀の方の意向もあり側に仕えるのは女官たちばかり。そのことにウンザリし始めていた。自分の周りには友人と呼べるものが誰一人いなかったからだ。

「つまんない…。」

拾は小さく呟く。池の鯉を眺めがら寂しそうにしていたのだった。それに気を留めていたのは傅役の片桐且元かつもとだった。

(ふむ、これは何とかせねば…。)

且元は三成に相談することにする。

「とは言え、例の一件もある。 すぐには無理だ。」
「秀次様の一件か…。」
「うむ…。」

且元ばかりか三成も暗く沈む。
秀次の一件からまだ一年ほどしかたっていない。秀吉は諸大名に起請文を作成し血判署名をさせていた。これにより拾の後継者としての地位は確立される。だが、これに納得していない者もいる。出羽の最上、陸奥の伊達がその筆頭だ。最上義光よしあきは秀次との約定に従い愛娘を上洛させていた。その直後に例の一件が起き、愛娘は捕らえられ、連座させられ斬首されたのである。
伊達政宗も秀次と懇意にしていたと理由で秀吉に叛意があると疑われ家督を長子でまだ四歳の兵五郎に譲れと脅しされたのだ。流石にこの措置はやりすぎと皆が止めたのは言うまでもない。
三成はその事後処理に苦慮していた。近頃は武断派と呼ばれる加藤清正や福島正則とも折り合いが悪い。三成は頭を抱えるより仕方なかった。

「すまん…。」
「いや、謝らねばならぬのは俺の方だ。」
「三成…。」
「鶴松さまの死に、御拾さまの誕生。 何かが殿下の中で変わり始めている。」
「それは儂も感じている。」
「御拾さまの元服、急いだほうが良いのかもしれぬ。」
「なるほど…。」
「元服をすれば、小姓を側近くおいても何の問題もない。 折を見て殿下にお話してみよう。」
「頼む。」

こうして拾の元服への準備が始まるのだった。


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