4 / 10
幼少期~青年期
拾丸の元服
しおりを挟む
文禄五年九月、拾の元服の儀が禁裏(宮中)にて執り行われた。
秀吉はこれに合わせて御掟などの基本法に加え、徳川家康を筆頭とした五大老、石田三成を筆頭とした五奉行といった職制を導入し秀頼を補佐する体制を整えていく。
更に将来の側近として乳兄弟にあたる木村重成を小姓として付けた。
「これよりは『藤吉郎秀頼』と名乗るがよい。」
その言葉に真新しい直垂に身を包み、烏帽子を被せられた拾改め秀頼は緊張した面持ちで頭を下げる。それを秀吉も実母・淀の方も満足げに目を細めている。
だが、秀頼は幼いながらも不穏な空気を肌で感じ取っていた。
(なんだがちっともうれしそうにない人がいる…)
滞りなく終えられた元服の儀であったが、それは新たなる戦乱の幕開けとも言えたのだった。
*******************************************************
元服より数日後、秀頼は伏見城の一室でぼんやりと庭を眺めていた。
「若様!! またそんなところで!!」
「生駒か…。」
そう言って声をかけてきたのは侍女の生駒。色々と謎の多い奥州訛りの美しい少女だ。
「御母堂様に叱られますよ!」
「別にいいよ…。」
「若様?」
「やっぱりつまんない…。」
「は?」
「誰も僕の相手になってくれないし。」
「そう言えば…。」
「?」
「木村重成というものが若様の小姓になることが決まったそうですよ。」
「ふ~~~ん…。」
「もう、しっかりしてください!!
内府殿の孫娘、千姫様との縁談も決まったというのに…。」
「千ってどんな娘?」
「若様の従妹で、内府殿が目に入れても痛くないほど可愛がられておられると聞き及んでおります。」
「生駒は何でも知ってるんだね。」
「え?」
生駒は挙動不審になる。秀頼は追い打ちをかけるような視線を向ける。流石にこれにどう答えていいか考えあぐねた生駒は口を開けたり閉めたりしている。
そこへ救いの神が現れた。秀頼の乳母である宮内卿局である。
「秀頼様、こちらにおられたのですか。」
「えっと…。」
「本日は重成をお連れしました。」
「重成?」
「私の息子でございます。
殿下の御命令で本日より若様の小姓として仕えることになりました。」
「そう…。」
「生駒、あとは私が取り仕切ります。 其方は下がりなさい。」
「かしこまりました。」
生駒は安堵の表情を浮かべ、その場をそそくさと去っていった。その姿に面白くなくて秀頼は眉間に皺が寄る。
「若様…。」
ため息交じりの宮内卿局に秀頼は首を傾げる。だが、彼女の真意を推し量ることなどできなかった。その後、別室へと移り秀頼は重成と顔合わせをした。
「重成でございます。」
秀頼にとっては初めて出会う同年代である。堅苦しい挨拶など抜きにして語り合いたいと思ったが、如何せん、隣に母が鎮座しておりそうさせぬ雰囲気があった。
(早く終わらないかなぁ。)
秀頼は子供らしからぬ表情を浮かべながら祈る。ほどなくしてその願いはかなうことになる。淀の方が北政所に茶席をと乞われてその場を後にしたのだ。
「はぁ…。」
「秀頼様?」
「やっと、自由だ。」
「は?」
「母上と一緒にいると何もできないんだ。」
「なるほど…。」
「大人ばっかりだし。 これからはよろしくな。」
「はい!」
秀頼は重成と笑いあった。
それから秀頼は重成と連れだって様々なことを学び、時には淀の方や宮内卿局を怒らせるような悪戯を仕掛けたりと楽しい日々を送った。それは秀頼に年相応の時間を過ごさせてくれたのだった。
だが、その優しい日々は唐突に終わりを告げようとしていた。
この時はまだそのような時が訪れようなどとは誰も思っていなかったのであった。
************************************************
お読みいただきありがとうございます
秀吉はこれに合わせて御掟などの基本法に加え、徳川家康を筆頭とした五大老、石田三成を筆頭とした五奉行といった職制を導入し秀頼を補佐する体制を整えていく。
更に将来の側近として乳兄弟にあたる木村重成を小姓として付けた。
「これよりは『藤吉郎秀頼』と名乗るがよい。」
その言葉に真新しい直垂に身を包み、烏帽子を被せられた拾改め秀頼は緊張した面持ちで頭を下げる。それを秀吉も実母・淀の方も満足げに目を細めている。
だが、秀頼は幼いながらも不穏な空気を肌で感じ取っていた。
(なんだがちっともうれしそうにない人がいる…)
滞りなく終えられた元服の儀であったが、それは新たなる戦乱の幕開けとも言えたのだった。
*******************************************************
元服より数日後、秀頼は伏見城の一室でぼんやりと庭を眺めていた。
「若様!! またそんなところで!!」
「生駒か…。」
そう言って声をかけてきたのは侍女の生駒。色々と謎の多い奥州訛りの美しい少女だ。
「御母堂様に叱られますよ!」
「別にいいよ…。」
「若様?」
「やっぱりつまんない…。」
「は?」
「誰も僕の相手になってくれないし。」
「そう言えば…。」
「?」
「木村重成というものが若様の小姓になることが決まったそうですよ。」
「ふ~~~ん…。」
「もう、しっかりしてください!!
内府殿の孫娘、千姫様との縁談も決まったというのに…。」
「千ってどんな娘?」
「若様の従妹で、内府殿が目に入れても痛くないほど可愛がられておられると聞き及んでおります。」
「生駒は何でも知ってるんだね。」
「え?」
生駒は挙動不審になる。秀頼は追い打ちをかけるような視線を向ける。流石にこれにどう答えていいか考えあぐねた生駒は口を開けたり閉めたりしている。
そこへ救いの神が現れた。秀頼の乳母である宮内卿局である。
「秀頼様、こちらにおられたのですか。」
「えっと…。」
「本日は重成をお連れしました。」
「重成?」
「私の息子でございます。
殿下の御命令で本日より若様の小姓として仕えることになりました。」
「そう…。」
「生駒、あとは私が取り仕切ります。 其方は下がりなさい。」
「かしこまりました。」
生駒は安堵の表情を浮かべ、その場をそそくさと去っていった。その姿に面白くなくて秀頼は眉間に皺が寄る。
「若様…。」
ため息交じりの宮内卿局に秀頼は首を傾げる。だが、彼女の真意を推し量ることなどできなかった。その後、別室へと移り秀頼は重成と顔合わせをした。
「重成でございます。」
秀頼にとっては初めて出会う同年代である。堅苦しい挨拶など抜きにして語り合いたいと思ったが、如何せん、隣に母が鎮座しておりそうさせぬ雰囲気があった。
(早く終わらないかなぁ。)
秀頼は子供らしからぬ表情を浮かべながら祈る。ほどなくしてその願いはかなうことになる。淀の方が北政所に茶席をと乞われてその場を後にしたのだ。
「はぁ…。」
「秀頼様?」
「やっと、自由だ。」
「は?」
「母上と一緒にいると何もできないんだ。」
「なるほど…。」
「大人ばっかりだし。 これからはよろしくな。」
「はい!」
秀頼は重成と笑いあった。
それから秀頼は重成と連れだって様々なことを学び、時には淀の方や宮内卿局を怒らせるような悪戯を仕掛けたりと楽しい日々を送った。それは秀頼に年相応の時間を過ごさせてくれたのだった。
だが、その優しい日々は唐突に終わりを告げようとしていた。
この時はまだそのような時が訪れようなどとは誰も思っていなかったのであった。
************************************************
お読みいただきありがとうございます
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる