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6歳 人喰い狼と、魔法の手紙
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先日、ローザが六歳になった。
赤ん坊の頃は泣いてばかりいるローザだったが、最近は笑顔でいることが多い。
時折怒ったり駄々を捏ねたりすることもあるが、少し経てばそれが嘘だったかのようにけろっとしている。
サラは「ああいうところは、きっとあんたに似たのね」とくすくす笑っていた。
「しかし、私とローザは血が繋がっていないぞ」
「何も血の繋がりだけが全部じゃないわ。
一緒にいれば、そのうち似てくるものよ」
「私とサラは、正反対な気もするが……」
「あら。あんた、マギアスが嫌いなの?」
サラの問いかけに驚いて首を横に振ると「なら、似てるところがあるじゃない」と返された。
なるほど。当たり前のことだから気がつかなかったが、確かにそこはそっくりだ。
「ローザが好きなのも同じでしょ。それに森でのんびりするのが好きなところも同じだし。
これ以上あんたと似たところが増えたら、生活が破綻しちゃうわ」
「そうか。意外と共通点があるのだな」
「私、あんたのそういう鈍いところが大好きよ」
「にぶい? 鼻は鋭いと思うのだが」
「そうじゃないわよ。馬鹿ね、もう」
そう言って、サラが鈴を転がすような声で笑った。
相変わらず、サラの言葉は難解だ。
「パステール、サラ!」
ふわふわと宙を漂うサラを眺めていると、服を着替えたローザが駆け寄ってきた。
今日は腰まで伸びた黒い髪を横の一房だけ編み込んで、赤いリボンを付けている。
ローザは最近、出かける一時間前から姿見に向かっては一生懸命髪型を整えていた。
友人に流行りの髪型や、かわいいリボンの結び方をおしえてもらったのだそうだという。
魔法なら簡単に済ませられるのではないかと聞いたら「それじゃだめなの」と怒られてしまったのは一月前のことだ。
その甲斐あってか、初めのうちは髪にリボンを結ぶだけでも三十分はかかっていたのに、最近ではこうした凝った髪型も手早く出来るようになっていた。
これも、成長の証だろう。
「準備が出来たのね。それなら、行きましょうか」
「うん。パステールも、おそろいのリボンつけよう」
「そうだな。つけてくれるか」
そう言って足を折ると、ローザは鼻歌交じりに私の尻尾と耳に赤いリボンを付けてくれた。
肩にはレースのカーテン……ではなく、レースのカーテンを縫い合わせて作ったマントが巻かれる。
カーテンでは着脱が大変だからと、ローザがサラに教わって縫い上げた代物だ。
今はシンプルなデザインだが、そのうちリボンやフリルを縫い付けられるのではないかと密かに戦々恐々としている。
マントを着け終わると、ローザは満足そうに頷いて私の背に乗った。
早速、街へ出かけるとしよう。
「えっと……またね、ローザ」
「……うん」
夕暮れ時、いつものようにキースがローザを送りに来た。
だが、その間に流れる空気はどことなくぎこちない。
ふだんは別れの挨拶を交わしてからも二言三言言葉を交わすのに、今日はすぐに別れてしまった。
気分の問題だろうか。
「さて、そろそろ帰るか……ど、どうした? ローザ」
キースが公園を後にしたのを見送ってローザの方を見ると、ローザが白い頬を真っ赤に染めて泣きじゃくっていた。
どこか痛むのか、気分が悪いのか、あるいは物をなくしたのか。
いくら尋ねてもローザは涙をこぼすばかりで、返事はない。
どうしたものかとサラに視線をやると、サラが小さく揺れて「ローザ」と声をかけた。
「かわいい顔が、涙でぐしゃぐしゃよ。
顔を洗いにいきましょうか」
「……うん」
しゃくり上げる合間に小さく頷いて、ローザとサラが手洗い場へと向かった。
サラは私よりもずっと賢く、経験も豊富だ。
きっと、ローザをなだめてくれるだろう。
すっかり日が暮れた頃、ローザとサラがもどってきた。
よく顔を洗ったのか、目元が多少赤くなっているもののいつも通りの顔だ。
ただ、その唇はへの字に固く結ばれていたが。
「暗くなったし、一度家に帰りましょう」
「ああ。ローザ、私に乗れるか?」
そう尋ねると、ローザは無言で頷いて私の上に乗った。
いつもよりも幾分か強く、背中の毛が握られる。
街から森まではサラの魔法で移動できるが、森から家までは歩く必要がある。
魔法で家に直接移動が出来ないよう、マギアスが生前に結界を張ったためだ。
他の魔法使いからの襲撃を防ぐ為には必要なことだと言っていたが、この時ばかりはすぐに家にたどり着けない仕様が歯痒かった。
家に戻ると、ローザは小さく「ありがとう」と言って私の背から降りた。
やはり、まだ元気はもどっていないようだ。
何があったのか尋ねたい気持ちは山々だが、森を駆けている途中でサラに「無理に聞き出しちゃダメよ」と釘を刺されている。
ローザから話し出す時を、今はおとなしく待つことにした。
夕食を終えると、ローザが私の腹にもたれかかった。
私の腹の毛を撫でつけては掻き乱し、ということを繰り返している。
少々くすぐったいが、好きにさせておこう。
「……わたし、キースにいじわるしちゃったの」
どのくらい経っただろう。
細い月が窓から見えるようになった頃、ローザが口を開いた。
「いじわる?」
予想外の告白に、つい聞き返してしまった。
贔屓目かもしれないが、ローザは誰かに嫌がらせをするような性格ではないと思っていたのだ。
私の問いかけに、ローザは小さく頷いた。
「キースにね、学校への入学許可証が来たんだって。
もう七歳になったから」
ああ、なるほど。もうそんな年か。
この国では、七歳から十五歳まで学校に通うことが義務づけられている。
国が運営する学校か、それとも個人が経営する学校かは人によって異なるが、通わないという選択肢はない。
ローザよりも一つ年上のキースが今年から学校に通うようになるのは当然だった。
「わたし、それアメリアから聞いたの。
来月から二人とも学校に通うのよ、今からたのしみ……って」
アメリアというのは、ローザがいつもあそんでいる子どもたちの一人だ。
キースと同い年のアメリアは自分よりも一つ年下のローザを妹のように可愛がっている。
ローザが流行りの髪型やかわいいリボンの結び方を教わるのは、いつも彼女だった。
「学校にいくこと教えくれなかったのは、わたしのこときらいになったからなのかなって、もやもやして……。
そしたら、キースとおはなしできなくなっちゃったの」
顔を合わせる度にいろいろな感情がこみ上げてきて、何も言えなくなってしまったそうだ。
思うに、キースが学校へ通うことを言わなかったのはローザがそれを知っていると思っていたためだろう。
それに、来年になればローザも同じ学校に入学するのだ。
わざわざ言わずともいいと考えていたのかもしれない。
ただ、ローザにそれが伝わらなかっただけで。
「キースは心配してくれたけど、わたし何もいえなくて。
ばいばいするまでにあやまろうって思ってたのに、やっぱりいえなかったの」
結局、最後まで謝れないまま別れることになってしまったのだと言って、ローザが私の毛皮に顔を埋めた。
「わたし、キースのこと無視しちゃったの。
キース、なにもしてないのに」
そう言って、ローザがまた泣き出した。
「このままずっとあやまれなくて、キースとおはなしできなくなったらどうしよう」
そんな大げさな、とは言えなかった。
ささいな事がきっかけで戦争にまで発展した例はいくつも知っている。
さすがにそこまではいかなくとも、一度こじれたものを元にもどすのは困難だ。
マギアスも、時折友人達と言い争うことがあった。
どの国と同盟を結ぶか、魔法薬の材料として優れているのはどちらの薬草か、卵を焼いた料理にかける調味料は塩かトマトソースか……など、争いの種は様々だ。
その割には数日もすると何事もなかったかのように手紙をやりとりしていたのだが……そうだ。
「ならば、手紙を書いてはどうだ」
「てがみ?」
ローザが首を傾げた。
「そうだ。手紙なら、相手に渡すまで言いたいことをじっくり考えられる。
書いた物を渡すだけだから、うまく話が出来なくとも大丈夫だ」
マギアスは友人と手紙でやりとりをすることが多かった。
特に言い争いをしたあとはそうだ。
マギアスなら魔法ですぐに友人達に会いにいけるのにどうして手紙を書くのかと聞くと、彼は「文字を書くという行為を挟む分、手紙の方がうまく自分の気持ちを伝えられるんだ」と、はにかみながら教えてくれた。
「おてがみ、キースは受け取ってくれるかな」
「分からない。だが、キースは今日も見送りに来てくれただろう。
口も聞きたくない、手紙も受け取りたくないような相手を見送りには、来てくれないと思うがな」
「……うん。
おてがみ、書いてみる」
そう言って、ローザが立ち上がった。
への字に曲がっていた唇は、いつの間にか元に戻っている。
まだ満面の笑みを浮かべるところまではいかないが、ひとまずローザの悩み事が一つ解決したようだ。
あとは、無事に仲直りできればいいのだが。
私の気持ちを見抜いたのか、サラがくすりと笑って私の耳に乗った。
「大丈夫よ。きっと、明日には笑ってるわ。
あの二人、よく似てるもの」
「ならば、よいのだが……」
翌日、公園へ行くと入口にキースの姿が見えた。
「あ、キース……」
「ローザ」
私の腹の毛を掴んでいたローザの手に、微かに力がこもる。
だが、それも一瞬のこと。
次の瞬間には、ローザはキースの傍に駆け寄っていた。
「あの……あの、これあげる」
「手紙?」
「きのうのこと……」
それだけで、ローザの意思は伝わったらしい。
キースが「ありがとう」と笑って手紙を受け取った。
「向こうの花壇に、ハイドランジアが咲いたんだ。ローザの好きな、赤いの。
いっしょに見にいこうか」
「……うん」
伸ばされたキースの手に、ローザがおずおずと手を乗せる。
その日の夕方、もどってきたローザとキースがいつものように満面の笑みで別れの挨拶を交わしていたことは、いうまでもない。
赤ん坊の頃は泣いてばかりいるローザだったが、最近は笑顔でいることが多い。
時折怒ったり駄々を捏ねたりすることもあるが、少し経てばそれが嘘だったかのようにけろっとしている。
サラは「ああいうところは、きっとあんたに似たのね」とくすくす笑っていた。
「しかし、私とローザは血が繋がっていないぞ」
「何も血の繋がりだけが全部じゃないわ。
一緒にいれば、そのうち似てくるものよ」
「私とサラは、正反対な気もするが……」
「あら。あんた、マギアスが嫌いなの?」
サラの問いかけに驚いて首を横に振ると「なら、似てるところがあるじゃない」と返された。
なるほど。当たり前のことだから気がつかなかったが、確かにそこはそっくりだ。
「ローザが好きなのも同じでしょ。それに森でのんびりするのが好きなところも同じだし。
これ以上あんたと似たところが増えたら、生活が破綻しちゃうわ」
「そうか。意外と共通点があるのだな」
「私、あんたのそういう鈍いところが大好きよ」
「にぶい? 鼻は鋭いと思うのだが」
「そうじゃないわよ。馬鹿ね、もう」
そう言って、サラが鈴を転がすような声で笑った。
相変わらず、サラの言葉は難解だ。
「パステール、サラ!」
ふわふわと宙を漂うサラを眺めていると、服を着替えたローザが駆け寄ってきた。
今日は腰まで伸びた黒い髪を横の一房だけ編み込んで、赤いリボンを付けている。
ローザは最近、出かける一時間前から姿見に向かっては一生懸命髪型を整えていた。
友人に流行りの髪型や、かわいいリボンの結び方をおしえてもらったのだそうだという。
魔法なら簡単に済ませられるのではないかと聞いたら「それじゃだめなの」と怒られてしまったのは一月前のことだ。
その甲斐あってか、初めのうちは髪にリボンを結ぶだけでも三十分はかかっていたのに、最近ではこうした凝った髪型も手早く出来るようになっていた。
これも、成長の証だろう。
「準備が出来たのね。それなら、行きましょうか」
「うん。パステールも、おそろいのリボンつけよう」
「そうだな。つけてくれるか」
そう言って足を折ると、ローザは鼻歌交じりに私の尻尾と耳に赤いリボンを付けてくれた。
肩にはレースのカーテン……ではなく、レースのカーテンを縫い合わせて作ったマントが巻かれる。
カーテンでは着脱が大変だからと、ローザがサラに教わって縫い上げた代物だ。
今はシンプルなデザインだが、そのうちリボンやフリルを縫い付けられるのではないかと密かに戦々恐々としている。
マントを着け終わると、ローザは満足そうに頷いて私の背に乗った。
早速、街へ出かけるとしよう。
「えっと……またね、ローザ」
「……うん」
夕暮れ時、いつものようにキースがローザを送りに来た。
だが、その間に流れる空気はどことなくぎこちない。
ふだんは別れの挨拶を交わしてからも二言三言言葉を交わすのに、今日はすぐに別れてしまった。
気分の問題だろうか。
「さて、そろそろ帰るか……ど、どうした? ローザ」
キースが公園を後にしたのを見送ってローザの方を見ると、ローザが白い頬を真っ赤に染めて泣きじゃくっていた。
どこか痛むのか、気分が悪いのか、あるいは物をなくしたのか。
いくら尋ねてもローザは涙をこぼすばかりで、返事はない。
どうしたものかとサラに視線をやると、サラが小さく揺れて「ローザ」と声をかけた。
「かわいい顔が、涙でぐしゃぐしゃよ。
顔を洗いにいきましょうか」
「……うん」
しゃくり上げる合間に小さく頷いて、ローザとサラが手洗い場へと向かった。
サラは私よりもずっと賢く、経験も豊富だ。
きっと、ローザをなだめてくれるだろう。
すっかり日が暮れた頃、ローザとサラがもどってきた。
よく顔を洗ったのか、目元が多少赤くなっているもののいつも通りの顔だ。
ただ、その唇はへの字に固く結ばれていたが。
「暗くなったし、一度家に帰りましょう」
「ああ。ローザ、私に乗れるか?」
そう尋ねると、ローザは無言で頷いて私の上に乗った。
いつもよりも幾分か強く、背中の毛が握られる。
街から森まではサラの魔法で移動できるが、森から家までは歩く必要がある。
魔法で家に直接移動が出来ないよう、マギアスが生前に結界を張ったためだ。
他の魔法使いからの襲撃を防ぐ為には必要なことだと言っていたが、この時ばかりはすぐに家にたどり着けない仕様が歯痒かった。
家に戻ると、ローザは小さく「ありがとう」と言って私の背から降りた。
やはり、まだ元気はもどっていないようだ。
何があったのか尋ねたい気持ちは山々だが、森を駆けている途中でサラに「無理に聞き出しちゃダメよ」と釘を刺されている。
ローザから話し出す時を、今はおとなしく待つことにした。
夕食を終えると、ローザが私の腹にもたれかかった。
私の腹の毛を撫でつけては掻き乱し、ということを繰り返している。
少々くすぐったいが、好きにさせておこう。
「……わたし、キースにいじわるしちゃったの」
どのくらい経っただろう。
細い月が窓から見えるようになった頃、ローザが口を開いた。
「いじわる?」
予想外の告白に、つい聞き返してしまった。
贔屓目かもしれないが、ローザは誰かに嫌がらせをするような性格ではないと思っていたのだ。
私の問いかけに、ローザは小さく頷いた。
「キースにね、学校への入学許可証が来たんだって。
もう七歳になったから」
ああ、なるほど。もうそんな年か。
この国では、七歳から十五歳まで学校に通うことが義務づけられている。
国が運営する学校か、それとも個人が経営する学校かは人によって異なるが、通わないという選択肢はない。
ローザよりも一つ年上のキースが今年から学校に通うようになるのは当然だった。
「わたし、それアメリアから聞いたの。
来月から二人とも学校に通うのよ、今からたのしみ……って」
アメリアというのは、ローザがいつもあそんでいる子どもたちの一人だ。
キースと同い年のアメリアは自分よりも一つ年下のローザを妹のように可愛がっている。
ローザが流行りの髪型やかわいいリボンの結び方を教わるのは、いつも彼女だった。
「学校にいくこと教えくれなかったのは、わたしのこときらいになったからなのかなって、もやもやして……。
そしたら、キースとおはなしできなくなっちゃったの」
顔を合わせる度にいろいろな感情がこみ上げてきて、何も言えなくなってしまったそうだ。
思うに、キースが学校へ通うことを言わなかったのはローザがそれを知っていると思っていたためだろう。
それに、来年になればローザも同じ学校に入学するのだ。
わざわざ言わずともいいと考えていたのかもしれない。
ただ、ローザにそれが伝わらなかっただけで。
「キースは心配してくれたけど、わたし何もいえなくて。
ばいばいするまでにあやまろうって思ってたのに、やっぱりいえなかったの」
結局、最後まで謝れないまま別れることになってしまったのだと言って、ローザが私の毛皮に顔を埋めた。
「わたし、キースのこと無視しちゃったの。
キース、なにもしてないのに」
そう言って、ローザがまた泣き出した。
「このままずっとあやまれなくて、キースとおはなしできなくなったらどうしよう」
そんな大げさな、とは言えなかった。
ささいな事がきっかけで戦争にまで発展した例はいくつも知っている。
さすがにそこまではいかなくとも、一度こじれたものを元にもどすのは困難だ。
マギアスも、時折友人達と言い争うことがあった。
どの国と同盟を結ぶか、魔法薬の材料として優れているのはどちらの薬草か、卵を焼いた料理にかける調味料は塩かトマトソースか……など、争いの種は様々だ。
その割には数日もすると何事もなかったかのように手紙をやりとりしていたのだが……そうだ。
「ならば、手紙を書いてはどうだ」
「てがみ?」
ローザが首を傾げた。
「そうだ。手紙なら、相手に渡すまで言いたいことをじっくり考えられる。
書いた物を渡すだけだから、うまく話が出来なくとも大丈夫だ」
マギアスは友人と手紙でやりとりをすることが多かった。
特に言い争いをしたあとはそうだ。
マギアスなら魔法ですぐに友人達に会いにいけるのにどうして手紙を書くのかと聞くと、彼は「文字を書くという行為を挟む分、手紙の方がうまく自分の気持ちを伝えられるんだ」と、はにかみながら教えてくれた。
「おてがみ、キースは受け取ってくれるかな」
「分からない。だが、キースは今日も見送りに来てくれただろう。
口も聞きたくない、手紙も受け取りたくないような相手を見送りには、来てくれないと思うがな」
「……うん。
おてがみ、書いてみる」
そう言って、ローザが立ち上がった。
への字に曲がっていた唇は、いつの間にか元に戻っている。
まだ満面の笑みを浮かべるところまではいかないが、ひとまずローザの悩み事が一つ解決したようだ。
あとは、無事に仲直りできればいいのだが。
私の気持ちを見抜いたのか、サラがくすりと笑って私の耳に乗った。
「大丈夫よ。きっと、明日には笑ってるわ。
あの二人、よく似てるもの」
「ならば、よいのだが……」
翌日、公園へ行くと入口にキースの姿が見えた。
「あ、キース……」
「ローザ」
私の腹の毛を掴んでいたローザの手に、微かに力がこもる。
だが、それも一瞬のこと。
次の瞬間には、ローザはキースの傍に駆け寄っていた。
「あの……あの、これあげる」
「手紙?」
「きのうのこと……」
それだけで、ローザの意思は伝わったらしい。
キースが「ありがとう」と笑って手紙を受け取った。
「向こうの花壇に、ハイドランジアが咲いたんだ。ローザの好きな、赤いの。
いっしょに見にいこうか」
「……うん」
伸ばされたキースの手に、ローザがおずおずと手を乗せる。
その日の夕方、もどってきたローザとキースがいつものように満面の笑みで別れの挨拶を交わしていたことは、いうまでもない。
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