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10歳 人喰い狼と、アイスクリーム
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「またね、キース」
「うん……あの、ローザ」
いつものように別れの挨拶を交わした後、キースが躊躇いがちに言葉を続けた。
普段とは異なる流れに、ローザが首を傾げる。
「どうしたの? 忘れもの?」
「ううん。そうじゃないんだ。
ええと……あの……」
よほど言いづらいことなのか、キースはなかなか次の言葉を発せないようだった。
しばらく俯いて口ごもった後、決心したように顔を上げる。
「あの、ローザ。今度のお休み、あいてる?」
「うん、あいてるよ」
「じゃあ……もしよかったら、二人で植物園に行かない?」
「植物園?」
「うん。学校のちかくに、新しく出来たんだ。
外国の植物や魔法植物が一年中見られるみたいで、世界の珍しいバラをたくさん集めたバラ園もあるんだって。
ローザも花が好きだし、せっかくだからいっしょに行きたいと思って……どうかな」
「行きたい!」
花が好きなローザにとって、珍しい草花を見られるというのは魅力的だったのだろう。
目を輝かせてそう言った後、はっとした様子で私とサラを見た。
「パステール、サラ。行ってもいい?」
「そうね。もう十歳だし……植物園くらいなら、二人で行ってもいいわ」
「ほんとう? やった」
サラの言葉に、ローザが満面の笑みを浮かべた。
まだまだ子どもだと思っていたが、そうか。ローザももう十歳か。
あと五年もすれば大人になることを考えると、この辺りで学校以外の場所へ友人同士で出かけさせるのもいいかもしれない。
「じゃあ、今度のお休みの十時にここで待ち合わせしようか」
「うん、十時ね。すごく楽しみ。
前の日、ちゃんと寝られるかな。しんぱい」
今から楽しみで仕方ないのだろう。そわそわとしているローザに、キースが「僕もだよ」と笑いかけた。
マギアスも、友人と久々に会う前日や戦いに赴く直前はなかなか眠れないと言っていた。
人間は楽しみなことがあると眠れなくなる質なのかもしれない。
「またね、ローザ」
「うん、またね! キース」
今度こそ別れの挨拶を告げて、キースが公園の入口へ駆けだしていく。
それを見送るローザの頬は、夕日に照らされても分かるほど真っ赤だった。
その理由が初めて私やサラの付き添い無しに出かける興奮からか、様々な花を見られる喜びからか、それともキースと共に出かけるためかは、分からなかったが。
「ねえ、サラ。サラはリボンと髪飾り、どっちが似合うと思う?
両方付けた方がいいかな」
「そうねえ……私はリボンの方が好みね。
ローザの髪は綺麗だから、あまり飾り付けすぎない方が素敵だと思うわ」
次の休日、朝食を終えてすぐにローザが身支度に取りかかった。
普段学校に出かけるときよりも念入りに服やリボンを選んでいる。
今は、髪に付けるのを赤いリボンにしようか薔薇の髪飾りにしようか悩んでいるようだ。
「パステールは?」
「髪飾りの方が、私は好きだ。
前にキースからもらった薔薇の砂糖漬けと同じ色だし、よく似合う」
「じゃあ、髪飾りにする!」
長いこと悩んでいたローザだが、キースの名前が決め手だったのだろう。
薔薇の髪飾りを頭の右側につけたあと、姿見をじっと見つめた。
今着られる服の中で一番気に入っている薄紅色のエプロンドレスの裾を持って、身体を右にひねったり左にひねったりしている。
「植物園にいっても、変じゃないかな? かわいい?」
「ええ、とても。おひめさまみたいで素敵よ」
サラの言葉に、不安げだったローザの顔がようやく明るくなった。
正直なところ、どんな格好をしていても笑っているローザが一番可愛らしいと思う。
もちろん、それを口に出すことはしないが。
「そろそろ行きましょうか。今から行けば、ちょうど待ち合わせの時間ぴったりに着くと思うわ」
「キース、もう来てるかな。それともわたしが一番のりかな」
「どうかしら。キースも今頃は、身支度で悩んでいる頃かもしれないわ。
お財布とハンカチは持った?」
「うん。ちゃんと持ったよ」
ローザが大きく頷いて、肩に掛けた小さなポシェットを叩いた。
前日にしっかりと中身を確認していたようなので、問題はないだろう。
早速、街へ向かうことにした。
「植物園に行くときは、大通りを通るようにね。
それから、移動時間のことも考えて少し早めに植物園を出るのよ。
普段と同じ時間に植物園を出たら、学校に着く頃には真っ暗になるから」
「うん、わかった」
いずれは通る道だと分かってはいても、やはりサラも初めて子どもだけで学校の外を歩かせるのは不安なのだろう。
街の入口から学校の前に着くまでの間、植物園に行くまでや到着した後の注意事項を細々と教え込んでいた。
懐かしいものだ。
私がマギアスの使い魔として初めて戦いに赴いた時も、サラは私にずっと「危ないと思ったら、すぐに逃げるのよ。もうちょっと頑張れるとか意地張らないこと。あんた弱いんだから」と言い続けていた。
逃げればマギアスの名誉に傷がつくと言い返した時など「あんたが逃げたくらいで傷つくような名誉を、マギアスは持ってないわよ」とひどく叱られたことは覚えている。
結局サラのサポートとマギアスの戦略によって無事勝つことが出来たのだが、もしサラの言うことを聞いていなければ私はきっと無茶をして敗北していただろう。
昔を懐かしみながら歩いていると、いつのまにか学校の前に着いていた。
校内に立つ時計塔は、約束の五分前の時刻を示している。
ちょうどいい時間のようだ。
「あ、キース!」
普段は人でいっぱいのここも、休日の今日は閑散としている。
おかげで、キースはすぐに見つかった。
私の腹の毛から手を離したローザが、嬉しそうに声を上げて駆けていく。
「キース、早いね。いっぱい待った?」
「ううん。僕も、今来たところなんだ」
「そうなんだ、よかった」
キースも今来たところだと聞いて、ローザは安心したようだった。
胸をなで下ろすローザに、キースが手を差し出した。
「じゃあ、行こうか」
「うん。パステール、サラ。いってくるね」
「ええ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「二人とも、転ばぬようにするのだぞ」
「はーい」
「いってきます」
大きく手を振ったローザと軽く会釈をしたキースが、二人仲良く公園を出て行った。
もちろん、その手はしっかりと握られている。
二人の背中が見えなくなった頃、サラが私の前にふわりと降りた。
「あとは私が魔法で様子を見ておくから、あんたはそこら辺で寝てたら?
なんかあったら叩き起こすけどね」
「ああ、そうさせてもらおう」
サラの魔法があれば、二人の様子を確認することは造作も無い。
魔法が使えない私はサラのいうとおり、ローザ達の身に何か起こったときに備えて身体を休めておくのがよいだろう。
……と、分かってはいるのだが……。
「サラ」
「なによ。私が魔法で見てるだけじゃ心配? いい度胸ね」
「いや、そうではないのだが……」
「じゃあ、あんたも街で遊びたいの?」
サラの問いかけに、またしても首を横に振った。
それに近いが、そこまで壮大な望みは抱いていない。
「学校の周囲を見てまわりたいのだ」
普段は子どもが多いためあまり長く留まっていては邪魔になるだろうとローザを送り届けてすぐに帰っていたが、今は静かだ。
辺りをゆっくりと巡っても問題無いだろう。
「いいわよ。この辺りなら、すぐにあんたに連絡できるもの。
行ってらっしゃい。でも、人間にはあまり近づかないようにね。
あんた、図体ばっかり大きいんだから」
「私は魔狼の中では小さい方なのだが……サラは行かないのか?」
「あら、息抜きしたいんでしょう? 私が着いていってもいいの」
「サラと居て緊張する時期は、もう過ぎた」
そういうと、サラは「そりゃあ、三百年も一緒にいればそうでしょうよ」と私の頭に体当たりした。
痛みの代わりに、頭がほかほかと暖かくなる。
「いいわ。放っておいたらあんた、マギアスの時みたいに一騒動起こしそうだもの」
「その件は、本当にすまない……」
「まあ、食べたのがマギアスでまだよかったわよ。
マギアスなら、あんたに食べられたって知ってもきっと大笑いするだけだもの。
ローザは食べないでちょうだいね」
サラの言葉に大きく頷いた。
未だに大切な人を土の下に埋める違和感はあるが、人間にとってはそれが普通だ。
いずれローザに死が訪れるときは、人間らしく土の下に埋葬しよう。
……その時が訪れるのは、なるべく先の未来であって欲しいが。
ローザの送り迎え以外でサラと並んで歩くのは久しぶりだった。
まして森の外を歩くなど、マギアスが生きていた頃以来かもしれない。
昔は時折、マギアスに頼まれて街へ買い物に出かけたものだ。
そういうと、サラは「あんた、妙なところで記憶力がいいのね」と呆れたように上下に揺れた。
「あの頃のあんたは、ちょっとでも興味を惹かれるものがあるとすぐ寄り道するから引き留めるのが大変だったわ」
「そうだろうか……おお、あれは!」
「言った傍から……ローザに「寄り道しちゃダメよ」なんて、言えないわね」
声を上げた私に、サラがため息を吐いた。
だが、本当に懐かしいものを見つけたのだ。
「サラ、アイスクリームだ!」
「ああ、はいはい。あんた、好きだったものねえ……」
普段ローザの送り迎えに利用している通りとは反対側の通りで見つけたのは、アイスクリームの屋台だった。
果物を凍らせたものから牛乳にチョコレートや干しぶどうを加えたものなど様々な味があるが、中でもいちご味のアイスクリームが私の大好物なのだ。
ビスケットにアイスクリームを挟んだものなどもうたまらない。
昔はマギアスに「パステールはまだ小さいから、少しだけだよ」と言われて半分しか食べられなかったのだが、今なら……。
「あんたは小さいから、少しだけね」
「わ、私は十分大きくなったぞ……」
「馬鹿ね、身体の大小じゃないわ。
あんた、私よりも年下でしょう」
「……それを言っては、私は一生アイスクリームを腹一杯食べられないではないか」
私とサラが生きているかぎり、年齢差が縮まることはない。
サラの言い分を認めるなら、私はずっと「小さい」ままになる。
そう言うと、サラが楽しげに宙を揺れて「あら、よく分かったわね」と笑った。
「大体、アイスクリームを食べ過ぎるとお腹を冷やすわよ。
マギアスもそれを分かっててあんたに制限掛けてたんだから、我慢しなさい。
不摂生で、ローザが結婚する前に死んじゃっても知らないわよ」
「結婚?!」
結婚。
その単語は、私が今まで考えたこともないものだった。
マギアスは結婚をしなかったし、私も番を持とうと考えたことは一度もない。
彼が私の子を望んだならそれに従っただろうが、彼は「パステール。もし君に好きな子ができたら、遠慮せずに言っていいからね」と言っただけで無理に番や子を望むことはなかった。
結局その好きな子とやらは出来なかったし、仮に出来たとしても思いが成就することはなかったと思うが。
魔狼は皆、すべからくプライドが高い。
魔力がない上に人間の使い魔となった私の番になってもよいという雌は、まずいないだろう。
だが、ローザは私ともマギアスとも違う。
あと五年もすればローザは十五歳。立派な成人だ。
大人になってすぐ……とはいかないだろうが、生きるうちによい番を見つけるかもしれない。
そうなればもちろん、ローザは結婚するのだ。
「そうか……ローザももうすぐ、結婚を考える頃か。
相手は一体、どのような人間なのだろうか」
「さあね。ローザ次第よ。
なんとなく予想は出来るけど、人生って分からないものだから」
「ローザと愛し合うことのできる人間であればよいのだが」
そう言うと、サラは「大丈夫よ。きっとね」と笑った。
「もしローザを泣かせるような奴だったら、燃やしちゃえばいいんだから」
「うむ、そうだったな。
……ところでサラ。アイスクリームは半分か?」
「そこは忘れないのね……仕方ないわね。一番小さいのを一つならいいわ。
ゆっくり食べるのよ」
「もちろんだ」
サラの許可は下りた。早速、アイスクリームを買うとしよう。
早速屋台へ向かうと、店主が「いらっしゃい」と愛想よく笑った。
「おつかいかい?」
別におつかいではないのだが、ここで違うと言えば使い魔ではないのかと思われかねない。
「ああ」と短く頷くと、途端に店主が破顔した。
「そうなのかい。使い魔だけでおつかいなんて、偉いねえ。
なにを頼まれたんだい」
「いちご味のアイスクリームサンドを一つ欲しい」
「はいよ」
人のよい笑みを浮かべて、店主がピンク色のアイスクリームをビスケットで挟んだ。
アイスクリームが溶けないようにか、その動作はとても素早い。
マギアスと共にアイスクリームを買いに来た時も、店員の動きを目で追っては「パステールはアイスクリームが本当に好きだね」とマギアスに笑われたものだった。
サラから受け取った硬貨と引き替えにアイスクリームが入った紙袋を受け取ると、店主が「おまけだよ」といってビスケットを一枚くれた。
ふわりと香るバターの匂いに、ついつい尾を振ってしまう。
昔から、癖なのだ。あるいは本能と言うべきやもしれぬ。
「礼を言う」
「まいど。落とさないように気をつけるんだよ」
その言葉に頷いて、袋を落とさないようしっかりと咥えた。
屋台を離れると、サラが「よかったじゃない」とくすくす笑った。
「あんた、ビスケットも好きでしょう」
あいにく、今は袋を咥えているので話すことが出来ない。
だから代わりに、大きく頷いた。
アイスクリームもいいが、ビスケットもケーキも甘いものならなんでも大好きなのだ。
マギアスが一番好きな太陽の国の言葉で「菓子」という意味であるパステールを名前としてもらうくらい。
「うまい」
邪魔にならないよう人のいない場所でアイスクリームにかぶりつくと、数百年ぶりの冷たさと甘さが口いっぱいに広がった。
果実もうまいし、サラが時折焼いてくれる菓子もうまいが、アイスクリームは格別だ。
サラに「ゆっくり食べるのよ」と言われていなければ、きっとあっという間に食べ終えてしまっただろう。
「あんた、本当にアイスクリームが好きねえ」
私の頭に乗ったサラが、感心したように呟いた。
アイスクリームを発明した人間は、私の知る中で五番目くらいに好きな人間に入るだろう。
それくらい、アイスクリームは至高なのだ。
おまけとしてもらったビスケットまでゆっくりと食べ終えたあと、再び散策を始めることにした。
学校の周囲を一周しながら、サラととりとめの無い言葉を交わす。
以前の日常が戻ってきたような気分だった。
決して今の日々に不満があるわけではないが、たまにはこうしてサラといっしょにゆっくり過ごすのもよいものだ。
「あら」
学校の門の前で休んでいると、サラがふと声を上げた。
「あの子達、そろそろもどってくるみたい」
「時間が経つのは早いものだな」
まだ少ししか経っていないと思っていたのだが、気がつけばもう夕暮れ時だ。
ローザ達が帰ってきてもおかしくない。
立ち上がった私の頭に、サラが乗った。
「振り落とさないでよ。そんなことしたら、ヒゲをちりちりにしてあげるから」
「それはダメだ……しかし、楽しかったな」
学校の周囲を歩いて、アイスクリームを食べる。
言葉にすると大したことの無いように感じられるが、昔を思い出すよい時間だった。
私の言葉に、サラが「そうね」と頷くように上下に揺れた。
「たまには、あんたと外でゆっくりするのも悪くないわね」
「うむ。よいアイスクリーム屋も見つけたしな」
「言っておくけど、毎回は買わないわよ。身体に悪いもの。
たまにね」
「ううむ……」
思わず唸ったが、そういえばマギアスもアイスクリームだけは三回に一回しか買わなかったと思い出して諦めることにした。
それに、せめてローザがよき番を見つけるまでは見届けたい。
「サラは、マギアスとよく似ておるな」
「そうね……なにせ、半生を共にしたパートナーだもの。
似るに決まってるじゃない」
そう言って、サラがくすりと笑った。
「パステール! サラ!」
ちょうどその時、聞き慣れた声が耳に届いた。
どうやら、ローザとキースが帰ってきたようだ。
行きと同じくしっかりと手を握ったまま、こちらに駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、二人とも」
「怪我はないか」
「うん。わたしもキースも、一回もころばなかったよ。
ね、キース」
「そうだね。ローザ、ずっと花に夢中だったから」
胸を張るローザを見て、キースが穏やかに微笑んだ。
聞けば、二人とも一日のうち半分は薔薇園にいたのだという。
「植物園でね、バラのジャムのサンドイッチをたべたの。
すごくおいしかったよ」
「お茶も、魔法植物とハーブを調合したものだったよね」
「うん。キースが頼んだお茶ね、すごいの。
さいしょは青いのに、レモンをいれるとピンクになるの!
それでね、お砂糖をいれると真っ赤になって、時間が経つと透明になるの!」
「ほう。魔法か?」
色の変わるお茶など初めて聞いた。
驚いて尋ねると、ローザが首を縦に振った。
「うん、魔法植物のお茶なんだって。えっと、名前は……」
「イーリスルルディ。虹の花だよ」
「あ、そうだった。にじの花って名前なの」
「そうか。珍しい植物もあったものだな」
「あとね、あとね……」
植物園はよほど楽しかったのだろう。ローザの話は止まるところを知らなかった。
まだ話したりないというように言葉を続けようとしたローザに、サラが声をかける。
「そろそろ夜になるわ。おはなしは家でゆっくり聞くから、今は帰りましょう」
「……うん」
よほど植物園に未練があるのか、それともキースと離れたくないのか、ローザは不満げだった。
渋々といった様子で手を離し、キースに向き直る。
「また、二人でお出かけしようね」
「うん。約束だよ、ローザ」
そう言って、キースが笑った。
きっと近いうちに、また今日のように二人だけで出かけることもあるだろう。
その訪れが寂しいような、楽しみなような、そんな不思議な感覚だった。
「うん……あの、ローザ」
いつものように別れの挨拶を交わした後、キースが躊躇いがちに言葉を続けた。
普段とは異なる流れに、ローザが首を傾げる。
「どうしたの? 忘れもの?」
「ううん。そうじゃないんだ。
ええと……あの……」
よほど言いづらいことなのか、キースはなかなか次の言葉を発せないようだった。
しばらく俯いて口ごもった後、決心したように顔を上げる。
「あの、ローザ。今度のお休み、あいてる?」
「うん、あいてるよ」
「じゃあ……もしよかったら、二人で植物園に行かない?」
「植物園?」
「うん。学校のちかくに、新しく出来たんだ。
外国の植物や魔法植物が一年中見られるみたいで、世界の珍しいバラをたくさん集めたバラ園もあるんだって。
ローザも花が好きだし、せっかくだからいっしょに行きたいと思って……どうかな」
「行きたい!」
花が好きなローザにとって、珍しい草花を見られるというのは魅力的だったのだろう。
目を輝かせてそう言った後、はっとした様子で私とサラを見た。
「パステール、サラ。行ってもいい?」
「そうね。もう十歳だし……植物園くらいなら、二人で行ってもいいわ」
「ほんとう? やった」
サラの言葉に、ローザが満面の笑みを浮かべた。
まだまだ子どもだと思っていたが、そうか。ローザももう十歳か。
あと五年もすれば大人になることを考えると、この辺りで学校以外の場所へ友人同士で出かけさせるのもいいかもしれない。
「じゃあ、今度のお休みの十時にここで待ち合わせしようか」
「うん、十時ね。すごく楽しみ。
前の日、ちゃんと寝られるかな。しんぱい」
今から楽しみで仕方ないのだろう。そわそわとしているローザに、キースが「僕もだよ」と笑いかけた。
マギアスも、友人と久々に会う前日や戦いに赴く直前はなかなか眠れないと言っていた。
人間は楽しみなことがあると眠れなくなる質なのかもしれない。
「またね、ローザ」
「うん、またね! キース」
今度こそ別れの挨拶を告げて、キースが公園の入口へ駆けだしていく。
それを見送るローザの頬は、夕日に照らされても分かるほど真っ赤だった。
その理由が初めて私やサラの付き添い無しに出かける興奮からか、様々な花を見られる喜びからか、それともキースと共に出かけるためかは、分からなかったが。
「ねえ、サラ。サラはリボンと髪飾り、どっちが似合うと思う?
両方付けた方がいいかな」
「そうねえ……私はリボンの方が好みね。
ローザの髪は綺麗だから、あまり飾り付けすぎない方が素敵だと思うわ」
次の休日、朝食を終えてすぐにローザが身支度に取りかかった。
普段学校に出かけるときよりも念入りに服やリボンを選んでいる。
今は、髪に付けるのを赤いリボンにしようか薔薇の髪飾りにしようか悩んでいるようだ。
「パステールは?」
「髪飾りの方が、私は好きだ。
前にキースからもらった薔薇の砂糖漬けと同じ色だし、よく似合う」
「じゃあ、髪飾りにする!」
長いこと悩んでいたローザだが、キースの名前が決め手だったのだろう。
薔薇の髪飾りを頭の右側につけたあと、姿見をじっと見つめた。
今着られる服の中で一番気に入っている薄紅色のエプロンドレスの裾を持って、身体を右にひねったり左にひねったりしている。
「植物園にいっても、変じゃないかな? かわいい?」
「ええ、とても。おひめさまみたいで素敵よ」
サラの言葉に、不安げだったローザの顔がようやく明るくなった。
正直なところ、どんな格好をしていても笑っているローザが一番可愛らしいと思う。
もちろん、それを口に出すことはしないが。
「そろそろ行きましょうか。今から行けば、ちょうど待ち合わせの時間ぴったりに着くと思うわ」
「キース、もう来てるかな。それともわたしが一番のりかな」
「どうかしら。キースも今頃は、身支度で悩んでいる頃かもしれないわ。
お財布とハンカチは持った?」
「うん。ちゃんと持ったよ」
ローザが大きく頷いて、肩に掛けた小さなポシェットを叩いた。
前日にしっかりと中身を確認していたようなので、問題はないだろう。
早速、街へ向かうことにした。
「植物園に行くときは、大通りを通るようにね。
それから、移動時間のことも考えて少し早めに植物園を出るのよ。
普段と同じ時間に植物園を出たら、学校に着く頃には真っ暗になるから」
「うん、わかった」
いずれは通る道だと分かってはいても、やはりサラも初めて子どもだけで学校の外を歩かせるのは不安なのだろう。
街の入口から学校の前に着くまでの間、植物園に行くまでや到着した後の注意事項を細々と教え込んでいた。
懐かしいものだ。
私がマギアスの使い魔として初めて戦いに赴いた時も、サラは私にずっと「危ないと思ったら、すぐに逃げるのよ。もうちょっと頑張れるとか意地張らないこと。あんた弱いんだから」と言い続けていた。
逃げればマギアスの名誉に傷がつくと言い返した時など「あんたが逃げたくらいで傷つくような名誉を、マギアスは持ってないわよ」とひどく叱られたことは覚えている。
結局サラのサポートとマギアスの戦略によって無事勝つことが出来たのだが、もしサラの言うことを聞いていなければ私はきっと無茶をして敗北していただろう。
昔を懐かしみながら歩いていると、いつのまにか学校の前に着いていた。
校内に立つ時計塔は、約束の五分前の時刻を示している。
ちょうどいい時間のようだ。
「あ、キース!」
普段は人でいっぱいのここも、休日の今日は閑散としている。
おかげで、キースはすぐに見つかった。
私の腹の毛から手を離したローザが、嬉しそうに声を上げて駆けていく。
「キース、早いね。いっぱい待った?」
「ううん。僕も、今来たところなんだ」
「そうなんだ、よかった」
キースも今来たところだと聞いて、ローザは安心したようだった。
胸をなで下ろすローザに、キースが手を差し出した。
「じゃあ、行こうか」
「うん。パステール、サラ。いってくるね」
「ええ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「二人とも、転ばぬようにするのだぞ」
「はーい」
「いってきます」
大きく手を振ったローザと軽く会釈をしたキースが、二人仲良く公園を出て行った。
もちろん、その手はしっかりと握られている。
二人の背中が見えなくなった頃、サラが私の前にふわりと降りた。
「あとは私が魔法で様子を見ておくから、あんたはそこら辺で寝てたら?
なんかあったら叩き起こすけどね」
「ああ、そうさせてもらおう」
サラの魔法があれば、二人の様子を確認することは造作も無い。
魔法が使えない私はサラのいうとおり、ローザ達の身に何か起こったときに備えて身体を休めておくのがよいだろう。
……と、分かってはいるのだが……。
「サラ」
「なによ。私が魔法で見てるだけじゃ心配? いい度胸ね」
「いや、そうではないのだが……」
「じゃあ、あんたも街で遊びたいの?」
サラの問いかけに、またしても首を横に振った。
それに近いが、そこまで壮大な望みは抱いていない。
「学校の周囲を見てまわりたいのだ」
普段は子どもが多いためあまり長く留まっていては邪魔になるだろうとローザを送り届けてすぐに帰っていたが、今は静かだ。
辺りをゆっくりと巡っても問題無いだろう。
「いいわよ。この辺りなら、すぐにあんたに連絡できるもの。
行ってらっしゃい。でも、人間にはあまり近づかないようにね。
あんた、図体ばっかり大きいんだから」
「私は魔狼の中では小さい方なのだが……サラは行かないのか?」
「あら、息抜きしたいんでしょう? 私が着いていってもいいの」
「サラと居て緊張する時期は、もう過ぎた」
そういうと、サラは「そりゃあ、三百年も一緒にいればそうでしょうよ」と私の頭に体当たりした。
痛みの代わりに、頭がほかほかと暖かくなる。
「いいわ。放っておいたらあんた、マギアスの時みたいに一騒動起こしそうだもの」
「その件は、本当にすまない……」
「まあ、食べたのがマギアスでまだよかったわよ。
マギアスなら、あんたに食べられたって知ってもきっと大笑いするだけだもの。
ローザは食べないでちょうだいね」
サラの言葉に大きく頷いた。
未だに大切な人を土の下に埋める違和感はあるが、人間にとってはそれが普通だ。
いずれローザに死が訪れるときは、人間らしく土の下に埋葬しよう。
……その時が訪れるのは、なるべく先の未来であって欲しいが。
ローザの送り迎え以外でサラと並んで歩くのは久しぶりだった。
まして森の外を歩くなど、マギアスが生きていた頃以来かもしれない。
昔は時折、マギアスに頼まれて街へ買い物に出かけたものだ。
そういうと、サラは「あんた、妙なところで記憶力がいいのね」と呆れたように上下に揺れた。
「あの頃のあんたは、ちょっとでも興味を惹かれるものがあるとすぐ寄り道するから引き留めるのが大変だったわ」
「そうだろうか……おお、あれは!」
「言った傍から……ローザに「寄り道しちゃダメよ」なんて、言えないわね」
声を上げた私に、サラがため息を吐いた。
だが、本当に懐かしいものを見つけたのだ。
「サラ、アイスクリームだ!」
「ああ、はいはい。あんた、好きだったものねえ……」
普段ローザの送り迎えに利用している通りとは反対側の通りで見つけたのは、アイスクリームの屋台だった。
果物を凍らせたものから牛乳にチョコレートや干しぶどうを加えたものなど様々な味があるが、中でもいちご味のアイスクリームが私の大好物なのだ。
ビスケットにアイスクリームを挟んだものなどもうたまらない。
昔はマギアスに「パステールはまだ小さいから、少しだけだよ」と言われて半分しか食べられなかったのだが、今なら……。
「あんたは小さいから、少しだけね」
「わ、私は十分大きくなったぞ……」
「馬鹿ね、身体の大小じゃないわ。
あんた、私よりも年下でしょう」
「……それを言っては、私は一生アイスクリームを腹一杯食べられないではないか」
私とサラが生きているかぎり、年齢差が縮まることはない。
サラの言い分を認めるなら、私はずっと「小さい」ままになる。
そう言うと、サラが楽しげに宙を揺れて「あら、よく分かったわね」と笑った。
「大体、アイスクリームを食べ過ぎるとお腹を冷やすわよ。
マギアスもそれを分かっててあんたに制限掛けてたんだから、我慢しなさい。
不摂生で、ローザが結婚する前に死んじゃっても知らないわよ」
「結婚?!」
結婚。
その単語は、私が今まで考えたこともないものだった。
マギアスは結婚をしなかったし、私も番を持とうと考えたことは一度もない。
彼が私の子を望んだならそれに従っただろうが、彼は「パステール。もし君に好きな子ができたら、遠慮せずに言っていいからね」と言っただけで無理に番や子を望むことはなかった。
結局その好きな子とやらは出来なかったし、仮に出来たとしても思いが成就することはなかったと思うが。
魔狼は皆、すべからくプライドが高い。
魔力がない上に人間の使い魔となった私の番になってもよいという雌は、まずいないだろう。
だが、ローザは私ともマギアスとも違う。
あと五年もすればローザは十五歳。立派な成人だ。
大人になってすぐ……とはいかないだろうが、生きるうちによい番を見つけるかもしれない。
そうなればもちろん、ローザは結婚するのだ。
「そうか……ローザももうすぐ、結婚を考える頃か。
相手は一体、どのような人間なのだろうか」
「さあね。ローザ次第よ。
なんとなく予想は出来るけど、人生って分からないものだから」
「ローザと愛し合うことのできる人間であればよいのだが」
そう言うと、サラは「大丈夫よ。きっとね」と笑った。
「もしローザを泣かせるような奴だったら、燃やしちゃえばいいんだから」
「うむ、そうだったな。
……ところでサラ。アイスクリームは半分か?」
「そこは忘れないのね……仕方ないわね。一番小さいのを一つならいいわ。
ゆっくり食べるのよ」
「もちろんだ」
サラの許可は下りた。早速、アイスクリームを買うとしよう。
早速屋台へ向かうと、店主が「いらっしゃい」と愛想よく笑った。
「おつかいかい?」
別におつかいではないのだが、ここで違うと言えば使い魔ではないのかと思われかねない。
「ああ」と短く頷くと、途端に店主が破顔した。
「そうなのかい。使い魔だけでおつかいなんて、偉いねえ。
なにを頼まれたんだい」
「いちご味のアイスクリームサンドを一つ欲しい」
「はいよ」
人のよい笑みを浮かべて、店主がピンク色のアイスクリームをビスケットで挟んだ。
アイスクリームが溶けないようにか、その動作はとても素早い。
マギアスと共にアイスクリームを買いに来た時も、店員の動きを目で追っては「パステールはアイスクリームが本当に好きだね」とマギアスに笑われたものだった。
サラから受け取った硬貨と引き替えにアイスクリームが入った紙袋を受け取ると、店主が「おまけだよ」といってビスケットを一枚くれた。
ふわりと香るバターの匂いに、ついつい尾を振ってしまう。
昔から、癖なのだ。あるいは本能と言うべきやもしれぬ。
「礼を言う」
「まいど。落とさないように気をつけるんだよ」
その言葉に頷いて、袋を落とさないようしっかりと咥えた。
屋台を離れると、サラが「よかったじゃない」とくすくす笑った。
「あんた、ビスケットも好きでしょう」
あいにく、今は袋を咥えているので話すことが出来ない。
だから代わりに、大きく頷いた。
アイスクリームもいいが、ビスケットもケーキも甘いものならなんでも大好きなのだ。
マギアスが一番好きな太陽の国の言葉で「菓子」という意味であるパステールを名前としてもらうくらい。
「うまい」
邪魔にならないよう人のいない場所でアイスクリームにかぶりつくと、数百年ぶりの冷たさと甘さが口いっぱいに広がった。
果実もうまいし、サラが時折焼いてくれる菓子もうまいが、アイスクリームは格別だ。
サラに「ゆっくり食べるのよ」と言われていなければ、きっとあっという間に食べ終えてしまっただろう。
「あんた、本当にアイスクリームが好きねえ」
私の頭に乗ったサラが、感心したように呟いた。
アイスクリームを発明した人間は、私の知る中で五番目くらいに好きな人間に入るだろう。
それくらい、アイスクリームは至高なのだ。
おまけとしてもらったビスケットまでゆっくりと食べ終えたあと、再び散策を始めることにした。
学校の周囲を一周しながら、サラととりとめの無い言葉を交わす。
以前の日常が戻ってきたような気分だった。
決して今の日々に不満があるわけではないが、たまにはこうしてサラといっしょにゆっくり過ごすのもよいものだ。
「あら」
学校の門の前で休んでいると、サラがふと声を上げた。
「あの子達、そろそろもどってくるみたい」
「時間が経つのは早いものだな」
まだ少ししか経っていないと思っていたのだが、気がつけばもう夕暮れ時だ。
ローザ達が帰ってきてもおかしくない。
立ち上がった私の頭に、サラが乗った。
「振り落とさないでよ。そんなことしたら、ヒゲをちりちりにしてあげるから」
「それはダメだ……しかし、楽しかったな」
学校の周囲を歩いて、アイスクリームを食べる。
言葉にすると大したことの無いように感じられるが、昔を思い出すよい時間だった。
私の言葉に、サラが「そうね」と頷くように上下に揺れた。
「たまには、あんたと外でゆっくりするのも悪くないわね」
「うむ。よいアイスクリーム屋も見つけたしな」
「言っておくけど、毎回は買わないわよ。身体に悪いもの。
たまにね」
「ううむ……」
思わず唸ったが、そういえばマギアスもアイスクリームだけは三回に一回しか買わなかったと思い出して諦めることにした。
それに、せめてローザがよき番を見つけるまでは見届けたい。
「サラは、マギアスとよく似ておるな」
「そうね……なにせ、半生を共にしたパートナーだもの。
似るに決まってるじゃない」
そう言って、サラがくすりと笑った。
「パステール! サラ!」
ちょうどその時、聞き慣れた声が耳に届いた。
どうやら、ローザとキースが帰ってきたようだ。
行きと同じくしっかりと手を握ったまま、こちらに駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、二人とも」
「怪我はないか」
「うん。わたしもキースも、一回もころばなかったよ。
ね、キース」
「そうだね。ローザ、ずっと花に夢中だったから」
胸を張るローザを見て、キースが穏やかに微笑んだ。
聞けば、二人とも一日のうち半分は薔薇園にいたのだという。
「植物園でね、バラのジャムのサンドイッチをたべたの。
すごくおいしかったよ」
「お茶も、魔法植物とハーブを調合したものだったよね」
「うん。キースが頼んだお茶ね、すごいの。
さいしょは青いのに、レモンをいれるとピンクになるの!
それでね、お砂糖をいれると真っ赤になって、時間が経つと透明になるの!」
「ほう。魔法か?」
色の変わるお茶など初めて聞いた。
驚いて尋ねると、ローザが首を縦に振った。
「うん、魔法植物のお茶なんだって。えっと、名前は……」
「イーリスルルディ。虹の花だよ」
「あ、そうだった。にじの花って名前なの」
「そうか。珍しい植物もあったものだな」
「あとね、あとね……」
植物園はよほど楽しかったのだろう。ローザの話は止まるところを知らなかった。
まだ話したりないというように言葉を続けようとしたローザに、サラが声をかける。
「そろそろ夜になるわ。おはなしは家でゆっくり聞くから、今は帰りましょう」
「……うん」
よほど植物園に未練があるのか、それともキースと離れたくないのか、ローザは不満げだった。
渋々といった様子で手を離し、キースに向き直る。
「また、二人でお出かけしようね」
「うん。約束だよ、ローザ」
そう言って、キースが笑った。
きっと近いうちに、また今日のように二人だけで出かけることもあるだろう。
その訪れが寂しいような、楽しみなような、そんな不思議な感覚だった。
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