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3話
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「そこで私はこう言ったのだよ。『私の運命を、君にも背負ってもらうよ』とね!」
鼻高々に語られた作り話に、イリアは白けた視線を向けていた。アルエの話にはあまりにも誇張や創作が多く、もはや過去とは別物だったのだ。
ジオンは導入の時点から話半分に聞いていたようで、半笑いでソファのひじ掛けに頬杖をついていた。一方、カルマはすっかり信じ切っているようだ、目を輝かせて喜んでいる。
最後まで話を終えると、アルエは「ご清聴、誠に感謝する」と華麗にお辞儀をしてみせた。ぱちぱちと手を叩いていたカルマは、ふいに「あれ?」と首を傾げた。
「魔法学校にいたときはまだ『裏切り者』って呼ばれてなかったんですよね? 何がきっかけでその二つ名がついたんですか?」
「知らん」
アルエは即座に答えた。
きっぱりと、はっきりと。
「だから心外だって言っているのさ。そう呼ばれる謂れは、こちらにはない。だが、気がつけばそんな噂が流れていた」
イリアは紅茶をひとくち啜ると、付け加えて説明する。
「最初の頃はアルエの名前まで周知だったから大変だったわよ。だけど噂って脆いもので、時間が経つと曖昧なものに変わっていくの。いつしか知られてるのは個別魔法と二つ名だけになった。噂が形を変えている間に……ジオン。あんたを調べさせてもらったってわけ」
「んで、ほとぼりが冷めた頃に俺を『使役』したってか」
ジオンの目尻がぴくぴくと動いた。彼からすれば、知らないうちに目をつけられ、計画的に唾までつけられたのだからいい気分はしないだろう。
「そういうことさ。君たちにも、私の運命を背負ってもらうことになるな」
アルエはしたり顔を浮かべる。「はいはいはい! アルエさんの運命、背負います!」と、なぜか本に名が刻まれていないカルマが目を輝かせた。「どうせ逃げられねぇんだろ」とジオンは仕方なさそうに後頭部をわしわしと掻いた。
紅茶を飲み干し、イリアは席を立つ。談笑する三人に背を向け、こっそり二階への階段を上った。
アルエの語った作り話は聞くに堪えなかった。
別に思い出を汚されたとか、そんな感傷的なことで拗ねているわけではない。
単純に不快だった。
交渉の末に『使役』された話が、アルエが勝手にイリアの名を呼んだことに改変されていたのが。
自らアルエに着いていこうと思った話が、脅しをかけて無理やり側にいさせていることになっていたのが。
――アルエが自らを悪者に仕立て上げようとしているのが。
(死にそうになっておいて、自分の身より私を優先しようとしたくせに)
本人は否定するだろうが、あのときイリアを呼び出したのは、おそらく助けてほしかったからではない。刻んだままの名前を解放しようとして召喚してしまったのだ――自分の死を悟ってしまったから。
(ほんと、なにを考えているのやら)
自室に着くなりベッドに飛び込み、枕に顔をうずめる。深く息を吐くと、体温が顔全体に跳ね返った。
それにしても。
仰向けに寝転がり、天井を見つめながらイリアは思い返す。
アルエは瀕死状態になるまでの大怪我を負っていた。血だまりの赤黒さも、傷口の深さも脳裏に焼き付いてしまっている。
本来、それほどまでの傷なら最上級回復魔法でしか完治は難しい。イリアがかけた上級の回復魔法など気休めでしかなかったのだ。
なのに、なぜあんなにも完膚なきまでに傷口が塞がったのだろう?
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