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4話
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全然どうでもよくなかった。
そのひとことで、再び身構える。
いつか、イリアが言っていた言葉。
――裏切り者に用があるっていう人間の目的は、大抵『命を奪うこと』
もしもリセスがその類なのだとしたら。
ジオンは背後の屋敷に目を見やる。当然だが、家主が出てくる気配はない。それだけでも、わずかながらの安心材料だ。
「へぇ! どうしてこの森にいるって思ったんですか?」
先に口を開いたのはカルマだった。
「先程説明したのと同じだ。ここなら身を隠すのにうってつけだからな。……ところで」
リセスは顔を傾け、ジオンの背後をチラリと見る。
「こんな場所に屋敷があったとはな」
「あ? あぁ、俺とカルマで住んでる」
ぎくりと顔が強張りそうになったのを必死で抑えこみながらうなずく。
「よかったら、お茶でも飲んでいきます?」
笑顔で誘うカルマの脳天に、ジオンは手刀を入れた。「何するんですか!」と涙目になっている彼に
「兵騎士長は仕事中なんだよ。邪魔しちゃ悪いだろ」
屋敷になんか案内したら裏切り者の存在がバレるだろ、という本音を、もっともらしい理由でごまかした。リセスは小さく鼻を鳴らす。
「正しくは兵騎士副隊長だ」
「あぁ、すまねぇ」
「……あぁ、そうか」
ずっと無表情だった彼女は、そのとき初めて口角を上げた。
「裏切り者はそこにいるのか」
ジオンは息を呑む。隣で同じ反応が聞こえた。
ごまかし文句や言い訳を考えるより先に個別魔法を使っていた。創ったハルバードを手に握る。それより先手を打ってカルマが炎属性の通常魔法を放った。リセスはシールドを張り、それを防ぐ。
「図星だな」
したり顔のリセスを見据えながら、ジオンは内心焦っていた。
彼女はふたりが戦闘態勢に入る前から屋敷に裏切り者がいると確信しているようだった。
だとしたら、何故。
そんなことをほのめかす発言をしないよう、必死に気をつけていたのに。
まさか、個別魔法がイリアと同じ精神干渉系なのか。
思考を読まれてしまったというのなら――。
否、それよりも。
こちらから攻撃を仕掛けてしまった以上、戦闘は免れられない。相手にも臨戦態勢を取らせてしまったのだから。
「主戦は俺が張る。お前は補助を頼む」
ジオンはカルマに耳打ちをする。
「分かりました。隙を見て僕が最上級魔法を撃ちこみますんで、タイミング見て避けてくださいね」
「おう……、は?」
サラッととんでもないことを言ってのけるカルマに唖然としながら、説得する時間もないと仕方なくうなずいた。
ジオンが数歩前に出ると、リセスは高圧的に
「この私を退けるか?」
「その前に確認だ。裏切り者を見つけてどうする?」
「決まってるだろう――殺す」
その眼光にはどす黒く確かな殺意が渦巻いていた。
「だったら、戦うほかねぇだろ」
「……そこまでして奴を守ろうとするか」
改めて指摘されると、反抗心が生まれてしまう。
だがそれでも、間違ってはいない。
「あいつが死んだら俺らまで道連れになるんだよ!」
反発するように吠え、違和感を覚えた。
例えばその制約がなかったとして、それならアルエを守らないのだろうか。
いや、自問している場合ではない。
「所詮は奴の犬というわけか」
鼻で笑い吐き捨てるように言われ、こめかみに青筋を走らせるジオン。
こっちとて意図せず『使役』されたのだ。
そうじゃなかったとしても、そこまで言われる筋合いはない。
「ジオンさん。最上級魔法、もう撃っていいですか?」
リセスの言いように腹を立てたのか、カルマの声音にも怒りがこもっていた。
「まぁ、落ち着けよ。こいつは……まず俺が仕留める!」
ハルバードを力強く握り、一歩踏み出す。
二歩、三歩。四歩、五歩。
「『ジオン・スペルダイヤ』」
名前を呼んだ瞬間、リセスの胸元のペンダントが光った。そんなことに気づかず、ジオンは一気に距離を詰め、斧の部分で切りかかろうと振りかぶる。
刹那。
リセスの手元にハルバードが出現した。柄の部分を両手で持ち、斧を防ぐ。
ジオンは目を瞠った。武器など持っていなかったはずだ。隠し持てるような大きさでもない――明らかに何もないところから出していたのだ。
飽きるほどに使ってきた個別魔法。
自分と同じ『創造』の使い手か、と納得しようとしたところで、引っかかる。
リセスの個別魔法は、思考を読み取る類の精神干渉系ではなかったか。
通常魔法に思考を読み取るものはない。物を創る魔法も然りだ。だとするなら、両方とも個別魔法でしかありえない。
だが、それはひとりにつき一つ。例外はない。
個別魔法を二つも持つなど、断じて。
しばらく鍔迫り合いを続けていたが、やがてリセスに弾かれ、ジオンは距離を置く。
「面白い個別魔法だな」
混乱した様子のジオンを見て、リセスは心底楽しそうに笑う。
「せっかくだ。貴様と同じ部分でで戦ってやる」
一歩踏み出して距離を詰める。振りかぶられた斧の部分を、弾く。ジオンも同じように斧で切りかかろうとして弾かれる。それを繰り返していた。
斧と斧がぶつかり合うたびに金属音が響く。
好戦的な性格なのか、リセスは幼い顔立ちにそぐわない獰猛な笑みを浮かべていた。
攻防戦を繰り広げながら、カルマはどこに行ったとさりげなく周りを確認する。しばらくは補助に回る予定のはずだ。
もしかすると、状況的に加勢する余裕がないと考えたのかもしれない。
現状、物理的な武器のぶつかり合いだ。シールドが余計に邪魔になる可能性もある。だからといって下手に通常魔法で攻撃すればジオンを巻き添えにする可能性もある。
無邪気で無鉄砲に見えて、戦闘に関しては頭を働かせる奴だ。そのくらいの想定はきっとしているだろう。それとも、彼に何か作戦があるのか。
見える範囲で確認したところ、周りにカルマの姿は確認できなかった。少なくとも地上にはいないと見える。それとも得意な方法で姿を消しているのか。
集 中が途切れたのか、リセスが思い切り振りかぶった斧に弾き飛ばされる。地に足をつけたまま倒れないように踏ん張る。置かれてしまった距離を再び詰めようと踏み出した瞬間、足元で小さな爆発が起きた。避けてもう一歩進んだ先で植物が芽を生やし、瞬く間に成長し、ジオンに絡まろうと蔓を伸ばす。斧で切れど切れど、地面からまたひとつ、ひとつと植物が同じように生えてくる。
その間にリセスはハルバードを手離し、拳銃を構えていた。ジオンを狙い、炎属性や雷属性など、種類を変えながら魔法の弾を放っていく。
蔓を払いながら弾をすべて避けるのは困難だった。やがてハルバードだけでは対応しきれないと判断し、手放す。直後、火炎放射器を『創造』した。
「全部消し飛べぇぇぇぇ!」
火炎放射器から炎属性の上級魔法が放たれ、迫ってくる蔓を一掃する。
そのひとことで、再び身構える。
いつか、イリアが言っていた言葉。
――裏切り者に用があるっていう人間の目的は、大抵『命を奪うこと』
もしもリセスがその類なのだとしたら。
ジオンは背後の屋敷に目を見やる。当然だが、家主が出てくる気配はない。それだけでも、わずかながらの安心材料だ。
「へぇ! どうしてこの森にいるって思ったんですか?」
先に口を開いたのはカルマだった。
「先程説明したのと同じだ。ここなら身を隠すのにうってつけだからな。……ところで」
リセスは顔を傾け、ジオンの背後をチラリと見る。
「こんな場所に屋敷があったとはな」
「あ? あぁ、俺とカルマで住んでる」
ぎくりと顔が強張りそうになったのを必死で抑えこみながらうなずく。
「よかったら、お茶でも飲んでいきます?」
笑顔で誘うカルマの脳天に、ジオンは手刀を入れた。「何するんですか!」と涙目になっている彼に
「兵騎士長は仕事中なんだよ。邪魔しちゃ悪いだろ」
屋敷になんか案内したら裏切り者の存在がバレるだろ、という本音を、もっともらしい理由でごまかした。リセスは小さく鼻を鳴らす。
「正しくは兵騎士副隊長だ」
「あぁ、すまねぇ」
「……あぁ、そうか」
ずっと無表情だった彼女は、そのとき初めて口角を上げた。
「裏切り者はそこにいるのか」
ジオンは息を呑む。隣で同じ反応が聞こえた。
ごまかし文句や言い訳を考えるより先に個別魔法を使っていた。創ったハルバードを手に握る。それより先手を打ってカルマが炎属性の通常魔法を放った。リセスはシールドを張り、それを防ぐ。
「図星だな」
したり顔のリセスを見据えながら、ジオンは内心焦っていた。
彼女はふたりが戦闘態勢に入る前から屋敷に裏切り者がいると確信しているようだった。
だとしたら、何故。
そんなことをほのめかす発言をしないよう、必死に気をつけていたのに。
まさか、個別魔法がイリアと同じ精神干渉系なのか。
思考を読まれてしまったというのなら――。
否、それよりも。
こちらから攻撃を仕掛けてしまった以上、戦闘は免れられない。相手にも臨戦態勢を取らせてしまったのだから。
「主戦は俺が張る。お前は補助を頼む」
ジオンはカルマに耳打ちをする。
「分かりました。隙を見て僕が最上級魔法を撃ちこみますんで、タイミング見て避けてくださいね」
「おう……、は?」
サラッととんでもないことを言ってのけるカルマに唖然としながら、説得する時間もないと仕方なくうなずいた。
ジオンが数歩前に出ると、リセスは高圧的に
「この私を退けるか?」
「その前に確認だ。裏切り者を見つけてどうする?」
「決まってるだろう――殺す」
その眼光にはどす黒く確かな殺意が渦巻いていた。
「だったら、戦うほかねぇだろ」
「……そこまでして奴を守ろうとするか」
改めて指摘されると、反抗心が生まれてしまう。
だがそれでも、間違ってはいない。
「あいつが死んだら俺らまで道連れになるんだよ!」
反発するように吠え、違和感を覚えた。
例えばその制約がなかったとして、それならアルエを守らないのだろうか。
いや、自問している場合ではない。
「所詮は奴の犬というわけか」
鼻で笑い吐き捨てるように言われ、こめかみに青筋を走らせるジオン。
こっちとて意図せず『使役』されたのだ。
そうじゃなかったとしても、そこまで言われる筋合いはない。
「ジオンさん。最上級魔法、もう撃っていいですか?」
リセスの言いように腹を立てたのか、カルマの声音にも怒りがこもっていた。
「まぁ、落ち着けよ。こいつは……まず俺が仕留める!」
ハルバードを力強く握り、一歩踏み出す。
二歩、三歩。四歩、五歩。
「『ジオン・スペルダイヤ』」
名前を呼んだ瞬間、リセスの胸元のペンダントが光った。そんなことに気づかず、ジオンは一気に距離を詰め、斧の部分で切りかかろうと振りかぶる。
刹那。
リセスの手元にハルバードが出現した。柄の部分を両手で持ち、斧を防ぐ。
ジオンは目を瞠った。武器など持っていなかったはずだ。隠し持てるような大きさでもない――明らかに何もないところから出していたのだ。
飽きるほどに使ってきた個別魔法。
自分と同じ『創造』の使い手か、と納得しようとしたところで、引っかかる。
リセスの個別魔法は、思考を読み取る類の精神干渉系ではなかったか。
通常魔法に思考を読み取るものはない。物を創る魔法も然りだ。だとするなら、両方とも個別魔法でしかありえない。
だが、それはひとりにつき一つ。例外はない。
個別魔法を二つも持つなど、断じて。
しばらく鍔迫り合いを続けていたが、やがてリセスに弾かれ、ジオンは距離を置く。
「面白い個別魔法だな」
混乱した様子のジオンを見て、リセスは心底楽しそうに笑う。
「せっかくだ。貴様と同じ部分でで戦ってやる」
一歩踏み出して距離を詰める。振りかぶられた斧の部分を、弾く。ジオンも同じように斧で切りかかろうとして弾かれる。それを繰り返していた。
斧と斧がぶつかり合うたびに金属音が響く。
好戦的な性格なのか、リセスは幼い顔立ちにそぐわない獰猛な笑みを浮かべていた。
攻防戦を繰り広げながら、カルマはどこに行ったとさりげなく周りを確認する。しばらくは補助に回る予定のはずだ。
もしかすると、状況的に加勢する余裕がないと考えたのかもしれない。
現状、物理的な武器のぶつかり合いだ。シールドが余計に邪魔になる可能性もある。だからといって下手に通常魔法で攻撃すればジオンを巻き添えにする可能性もある。
無邪気で無鉄砲に見えて、戦闘に関しては頭を働かせる奴だ。そのくらいの想定はきっとしているだろう。それとも、彼に何か作戦があるのか。
見える範囲で確認したところ、周りにカルマの姿は確認できなかった。少なくとも地上にはいないと見える。それとも得意な方法で姿を消しているのか。
集 中が途切れたのか、リセスが思い切り振りかぶった斧に弾き飛ばされる。地に足をつけたまま倒れないように踏ん張る。置かれてしまった距離を再び詰めようと踏み出した瞬間、足元で小さな爆発が起きた。避けてもう一歩進んだ先で植物が芽を生やし、瞬く間に成長し、ジオンに絡まろうと蔓を伸ばす。斧で切れど切れど、地面からまたひとつ、ひとつと植物が同じように生えてくる。
その間にリセスはハルバードを手離し、拳銃を構えていた。ジオンを狙い、炎属性や雷属性など、種類を変えながら魔法の弾を放っていく。
蔓を払いながら弾をすべて避けるのは困難だった。やがてハルバードだけでは対応しきれないと判断し、手放す。直後、火炎放射器を『創造』した。
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