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4話
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(ていうか……カルマは何をしてやがる!)
ジオンがひとりで対応できなかったときのためにカルマが必要だったのだ。それなのに、然るべきときにシールドも張ってくれなかった。そもそも、どこにいるのかさえ未だつかめていないのだ。
ふと、視線が頭上に向く。なるほど、と納得し、悟られないように逸らす。
カルマは翼装置を広げて空中にいたのだ。
確か、戦闘を始める前に言っていた。
――隙を見て僕が最上級魔法を撃ちこみますんで
おそらく、邪魔されないように空中で最上級魔法の呪文の詠唱をしようと思ったのだろう。足に風属性の魔法をまとう方法はリセスに見破られている。同じやり方では看破されてしまう。
詠唱の最中に魔法は使えない。それなら、補助ができなかったというのもうなずける。
それに、そういうことなら。
リセスに近づけないこの状況はむしろ都合がいい。
相変わらず撃たれてくる魔法の弾を火炎放射で相殺していく。その間に、カルマは呪文を唱える。
「炎を司りし魔の精よ
我が魔力を以て 力を分け与え給え
求むは強大なる炎の力
偉大なる魔の精 ブレイズ・フェアリの名を以て
そなたと結ぶは仮契約
いざここに 我の名を捧げよう――」
カルマの周りに炎でできた無数の槍が出現する。ジオンはそれを確認すると、火炎放射器を放り、シールドで弾を防ぐ。攻撃はせずに防御に徹した。最上級魔法をもろに受ければ、さすがにリセスを無力化できるだろう。
しかし、ふたりは気づいていなかった。
銃を撃ちながら、リセスも口を動かしていることに。
「出でよ! ファイアランス!」
カルマが唱えた瞬間、リセスをめがけて炎の槍が降り注ぐ。流れ弾を喰らわないよう、ジオンは翼装置を広げて空中に避難した。
炎がリセスを呑み込む。カルマとジオンのいる上空にも熱風が伝わってきた。
これで、無力化できたはず。
炎の勢いが治まり、彼女の姿が露わになって――驚愕した。
辺りは焼け野原になっていた。
それなのに。
リセスは無傷だった。
地面も、彼女の周辺は焦げ跡すらなかった。
まるで、炎属性最上級魔法が自ら避けたかのように。
地上に降り立てばその理由に気づくのは容易だった。ドーム状の薄い膜がリセスを覆っていたのだ。
それが何かなど、嫌でも察してしまう。
無属性最上級防御魔法――リセウス。
最上級魔法を防ぐ方法など、それしかないのだから。
「驚いた。私以外に最上級魔法を使える奴がいたとはな」
戸惑うふたりをよそに、リセスは楽しそうに笑みを浮かべる。
言葉の割に、大して驚いた様子も見せない。むしろ余裕そうだ。
いつの間に、と唇を噛み締めるジオンに、カルマが耳打ちをした。
「ジオンさん、大丈夫です。最上級魔法を撃ったあとですし、相手の魔力に余裕はないと思いますよ!」
最上級魔法を使えば、かなりの魔力を消費する。続けて強力な通常魔法を撃つのは魔力を使い果たす恐れがあり、自殺行為と言っても過言ではない――良くて中級までだろう。
一方、ジオンには魔力に余裕がある。
これなら、まだ勝算が――
「なんだ? 最上級魔法が撃てるのはテウチル、貴様だけか。そして――これ以上は使えない、と」
小声の会話を聞き取ったのか、リセスは高笑いをしてみせた。
「私はもう一発、最上級魔法が使えるぞ」
ふたりは息を呑んだ。
「ハッタリです! だって、ありえない!」
カルマは叫ぶ。
いくら強い魔力を持っているからといって、連続で最上級魔法を使うなど。
「なら、証拠に――貴様が使ったものと同じ炎属性最上級魔法を撃ってみせよう」
リセスは左手を前に伸ばす。
「炎の力を司りし魔の精よ」
何の躊躇いもなく呪文の詠唱を始めた辺り、ハッタリではないことは明白だった。
「我が魔力を以て 力を分け与え給え」
上級魔法の防御魔法では最上級魔法は防げない。
ならば、詠唱をやめさせるしか方法はない。
否。
リセスは無属性最上級魔法に守られている状態だ。どんな魔法も弾かれてしまう。
ジオンは咄嗟に銃を『創造』し、地面に銃口をつけて引き金を引く。真正面からの攻撃が不可能なら、地中を伝って無属性最上級魔法の内側を狙おうとした。しかし、地割れを起こしたのはやはりリセスの周辺だけだった。
ドーム状の防御壁だと思っていたそれは、球体だったのだ。
呪文の詠唱が終わる頃、あるいは終わったと同時に無属性最上級魔法を解くつもりなのだろう。それまでこちらの攻撃を通じさせないように。
だとしたら、狙い目はあの防御壁が消えた瞬間だ。
それを狙って、なんでもいいから魔法を撃ちこめば――
そのときだった。
屋敷の扉が勢いよく開く。戦闘をしていた一同は、思わず注目した。
「五月蝿い」
家主――アルエ・クロームが、普段に見せない剣幕で顔を出したのだ。
「何を騒いでいる。元気がいいのは良いことだが、こちらは次回作のプロット作成に勤しんで寝不足なんだ。静かにしてくれないか」
アルエの目の下にはうっすらと隈ができていた。
いつもなら「また徹夜したのか!」「ちゃんと寝ろって言ってるだろ!」とジオンの怒号が飛ぶ場面だが、状況がそれどころではない。一番出てきてほしくないタイミングで、あっさりと姿を現してしまったのだ。
この屋敷に裏切り者がいることが割れている以上、家主がそうであると察せられて然るべきだ。ジオンとカルマに向けている最上級魔法を、アルエに放つ危険性がある。
だが、その心配は杞憂に終わった。
リセスの詠唱は止まっていた。
先程まで浮かべていた笑みは消え、目を丸めている。
そこにいると確信していた割に、まさか本当にいたとは、と表情が語っていた。
ふと、アルエの視線がリセスを捉える。
見知らぬはずの相手に驚くでもなく、訝しむわけでもなく。
いつもの口調で言ってのけた。
「おや、リセスじゃないか。久しぶりだな」
ジオンがひとりで対応できなかったときのためにカルマが必要だったのだ。それなのに、然るべきときにシールドも張ってくれなかった。そもそも、どこにいるのかさえ未だつかめていないのだ。
ふと、視線が頭上に向く。なるほど、と納得し、悟られないように逸らす。
カルマは翼装置を広げて空中にいたのだ。
確か、戦闘を始める前に言っていた。
――隙を見て僕が最上級魔法を撃ちこみますんで
おそらく、邪魔されないように空中で最上級魔法の呪文の詠唱をしようと思ったのだろう。足に風属性の魔法をまとう方法はリセスに見破られている。同じやり方では看破されてしまう。
詠唱の最中に魔法は使えない。それなら、補助ができなかったというのもうなずける。
それに、そういうことなら。
リセスに近づけないこの状況はむしろ都合がいい。
相変わらず撃たれてくる魔法の弾を火炎放射で相殺していく。その間に、カルマは呪文を唱える。
「炎を司りし魔の精よ
我が魔力を以て 力を分け与え給え
求むは強大なる炎の力
偉大なる魔の精 ブレイズ・フェアリの名を以て
そなたと結ぶは仮契約
いざここに 我の名を捧げよう――」
カルマの周りに炎でできた無数の槍が出現する。ジオンはそれを確認すると、火炎放射器を放り、シールドで弾を防ぐ。攻撃はせずに防御に徹した。最上級魔法をもろに受ければ、さすがにリセスを無力化できるだろう。
しかし、ふたりは気づいていなかった。
銃を撃ちながら、リセスも口を動かしていることに。
「出でよ! ファイアランス!」
カルマが唱えた瞬間、リセスをめがけて炎の槍が降り注ぐ。流れ弾を喰らわないよう、ジオンは翼装置を広げて空中に避難した。
炎がリセスを呑み込む。カルマとジオンのいる上空にも熱風が伝わってきた。
これで、無力化できたはず。
炎の勢いが治まり、彼女の姿が露わになって――驚愕した。
辺りは焼け野原になっていた。
それなのに。
リセスは無傷だった。
地面も、彼女の周辺は焦げ跡すらなかった。
まるで、炎属性最上級魔法が自ら避けたかのように。
地上に降り立てばその理由に気づくのは容易だった。ドーム状の薄い膜がリセスを覆っていたのだ。
それが何かなど、嫌でも察してしまう。
無属性最上級防御魔法――リセウス。
最上級魔法を防ぐ方法など、それしかないのだから。
「驚いた。私以外に最上級魔法を使える奴がいたとはな」
戸惑うふたりをよそに、リセスは楽しそうに笑みを浮かべる。
言葉の割に、大して驚いた様子も見せない。むしろ余裕そうだ。
いつの間に、と唇を噛み締めるジオンに、カルマが耳打ちをした。
「ジオンさん、大丈夫です。最上級魔法を撃ったあとですし、相手の魔力に余裕はないと思いますよ!」
最上級魔法を使えば、かなりの魔力を消費する。続けて強力な通常魔法を撃つのは魔力を使い果たす恐れがあり、自殺行為と言っても過言ではない――良くて中級までだろう。
一方、ジオンには魔力に余裕がある。
これなら、まだ勝算が――
「なんだ? 最上級魔法が撃てるのはテウチル、貴様だけか。そして――これ以上は使えない、と」
小声の会話を聞き取ったのか、リセスは高笑いをしてみせた。
「私はもう一発、最上級魔法が使えるぞ」
ふたりは息を呑んだ。
「ハッタリです! だって、ありえない!」
カルマは叫ぶ。
いくら強い魔力を持っているからといって、連続で最上級魔法を使うなど。
「なら、証拠に――貴様が使ったものと同じ炎属性最上級魔法を撃ってみせよう」
リセスは左手を前に伸ばす。
「炎の力を司りし魔の精よ」
何の躊躇いもなく呪文の詠唱を始めた辺り、ハッタリではないことは明白だった。
「我が魔力を以て 力を分け与え給え」
上級魔法の防御魔法では最上級魔法は防げない。
ならば、詠唱をやめさせるしか方法はない。
否。
リセスは無属性最上級魔法に守られている状態だ。どんな魔法も弾かれてしまう。
ジオンは咄嗟に銃を『創造』し、地面に銃口をつけて引き金を引く。真正面からの攻撃が不可能なら、地中を伝って無属性最上級魔法の内側を狙おうとした。しかし、地割れを起こしたのはやはりリセスの周辺だけだった。
ドーム状の防御壁だと思っていたそれは、球体だったのだ。
呪文の詠唱が終わる頃、あるいは終わったと同時に無属性最上級魔法を解くつもりなのだろう。それまでこちらの攻撃を通じさせないように。
だとしたら、狙い目はあの防御壁が消えた瞬間だ。
それを狙って、なんでもいいから魔法を撃ちこめば――
そのときだった。
屋敷の扉が勢いよく開く。戦闘をしていた一同は、思わず注目した。
「五月蝿い」
家主――アルエ・クロームが、普段に見せない剣幕で顔を出したのだ。
「何を騒いでいる。元気がいいのは良いことだが、こちらは次回作のプロット作成に勤しんで寝不足なんだ。静かにしてくれないか」
アルエの目の下にはうっすらと隈ができていた。
いつもなら「また徹夜したのか!」「ちゃんと寝ろって言ってるだろ!」とジオンの怒号が飛ぶ場面だが、状況がそれどころではない。一番出てきてほしくないタイミングで、あっさりと姿を現してしまったのだ。
この屋敷に裏切り者がいることが割れている以上、家主がそうであると察せられて然るべきだ。ジオンとカルマに向けている最上級魔法を、アルエに放つ危険性がある。
だが、その心配は杞憂に終わった。
リセスの詠唱は止まっていた。
先程まで浮かべていた笑みは消え、目を丸めている。
そこにいると確信していた割に、まさか本当にいたとは、と表情が語っていた。
ふと、アルエの視線がリセスを捉える。
見知らぬはずの相手に驚くでもなく、訝しむわけでもなく。
いつもの口調で言ってのけた。
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