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4話
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この状況は何なのだろう。
四つ分のティーカップに紅茶を注ぎながら、ジオンの頭には疑問符が浮かんでいた。
戦闘が中断されたあと、アルエはリセスを屋敷に招き入れた。
当然のようにリビングに案内し、アルエとリセスは向かい合って座っている。
ジオンは紅茶を運んでテーブルの上に並べると、入り口側のソファに座っているカルマの隣に腰をかけた。
アルエは紅茶をひとくち啜る。一方、リセスは仏頂面で足と腕を組んだままだ。
「別に毒や薬は入れてねぇぞ」
ジオンは暗に警戒せずに飲むように勧めたが、彼女が紅茶に手を付けることはなかった。
一方で
「元気だったか?」
「……」
「仕事は順調か?」
「……」
「それにしても、こんな辺鄙な場所によく立ち入ったな。仕事の一環か?」
「……」
アルエは他愛もない話題提供、さながら娘との距離感の掴み方が分からない父親がしそうな質問を投げかけ続けている。しかもリセスはそのどれもに無言かつ無反応だ。
仏頂面を通り越してしかめっ面を浮かべている彼女に対し、アルエは口調も表情も普段と変わらない。ジオンの目には、むしろいつもより穏やかに感じた。
「アルエさんとリセスさんは、お知り合いなんですか?」
カルマが尋ねると、アルエはカップをソーサーに置き、微笑んだ。
「知り合いも何も、リセスは私の妹だよ」
「誰が!」
リセスは絡めていた足をほどき、両手でテーブルを叩きながら立ち上がる。カップの中で紅茶が波を立てた。ひとくちも口を付けていないリセスのカップの縁から少しだけ中身が零れ、ソーサーに小さな水たまりを作る。
「あれ? でも苗字、違いますよね?」
「両親は我々が幼い頃に離婚していてね。私は父に、リセスは母に引き取られたのだよ」
何でもないことのようにアルエが答えると、カルマが納得したように「あぁ~」と大きくうなずく。
それにしても――ジオンはふたりを見比べる。
似ているようで、正反対だ。
ふたりとも飄々としているようで感情表現が豊かなところは似ている。
だが、アルエの感情は声音には出ても顔に出ることはほとんどない。
一方、リセスはきっかけ次第で表情がコロコロ変わる。
よく見比べれば、どことなく顔だちも似ていることに気付く。ジオンが抱いた既視感は、口調からアルエを感じたからだったのだろう。
リセスは不機嫌さを露わにしながら鋭い眼光を向ける。
「昔の話だ。もう貴様とは家族でもなんでもない」
吐き捨てるような口調にも、アルエは怒りや嫌悪感を表すことはなかった。
「寂しいことを言うのだな、リセス。血は繋がっているだろう?」
「たとえ血は繋がっていても、私は認めないぞ」
「ふむ……。ずいぶんと嫌われてしまったものだ」
ふたりのやりとりを眺めながら、ジオンの内心は穏やかではなかった。
リセスの目的は裏切り者を捜し出し、命を奪うこと。
この屋敷の住人が――目の前にいる実の家族がそうであると確信している以上、彼女がいつ魔法を放つか、気が気ではない。
先程の戦闘から察するに、最上級魔法を連続で撃てるほどの魔力の強さだ。上級魔法程度、隙を見て簡単に撃てるだろう。もしそうなれば、即座にシールドを張らなければならない。
状況は思った以上に緊迫しているのだ。
にもかかわらず。
「そういえば、リセスさんの個別魔法、あれなんなんですか?」
無邪気に質問を重ねるカルマの呑気さに、ジオンは深いため息を漏らした。和気あいあいと雑談ができる雰囲気ではないというのに。
カルマは構わず続ける。
「通常魔法にはない魔法、たくさん使ってましたよね? あれは個別魔法じゃなきゃありえない。でも、ひとりの人間が複数の個別魔法を持っているのもありえないじゃないですか」
しかし、質問の内容自体はジオンも気になっていた。
思考を読む魔法、罠を仕掛ける魔法、ジオンと同じ個別魔法。
リセスは確かに、個別魔法であろう魔法を使っていた。
彼女は肩をすくめながら鼻で笑う。
「訊かれたからといって、敵に手の内を明かす馬鹿がどこにいる」
「あぁ。それはリセスの個別魔法であって、そうではないからだよ」
あっさりと答えを明かすアルエを、リセスは睨みながら舌打ちをする。やめろ、という警告のつもりだったのかもしれないが、カルマに「どういうことですか?」と説明を促されると
「リセスの個別魔法は『模倣』――魔法の能力は、その名の通りだ」
何故か得意げな様子を見て、リセスは止めるのを諦めたようだ。ソファを軋ませながら勢いよく座り直し、ふてぶてしく背もたれにもたれかかる。
「つまり、相手の個別魔法を真似する魔法っていうことか?」
ジオンが確認すると、アルエは「ご明察にしてご名答」とうなずく。
「首にペンダントを掛けているだろう? 相手の名を呼べば、その者の個別魔法がそれに刻まれるらしい。もっとも、あくまで模倣だから、一度見てからでないと効果がないようだがな」
すかさずカルマが首を傾げた。
「じゃあ、リセスさんも『使役』が使えるんですか?」
「いいや。彼女が模倣できるのは『通常型』に限られるそうだ。まぁ『装備型』は模倣するとなると道具をそろえる必要があるからな」
「確かに。真似するごとに道具を探す、となると大変ですもんね」
会話が弾むごとに、リセスの態度はだんだんとふてぶてしくなっていった。両腕を広げて背もたれの上に乗せている姿は、どうみても客人のそれではない。
「てめぇの魔法でもねぇくせに、事細かに説明しやがって……。しかも私より誇らしげじゃねぇか。なんでだよ」
口元はぶつぶつと悪態をついている。口調は段々と粗悪になっていた。
「それに、仮に『装備型』もできるとしても……てめぇの個別魔法だけは真似しねえ」
リセスは上体を起こし、前方に体重をかける。
「ほう? 何故だ?」
雰囲気も表情も変えずにアルエが尋ねると、彼女は再び鼻で笑い、吐き捨てる。
「当たり前だろ? 誰が裏切り者の魔法など真似るか」
声音が憎悪と軽蔑の色に染まった。
アルエは顎の下に手を添える。
「……リセス。君は何故、ここを探し当てた? 何のために私を捜していた?」
「決まっている。貴様を殺すためだ」
眼光は、声音は、やはり殺意に満ちていた。ジオンは身構える。いつ戦闘が始まってもおかしくはなく、気が抜けない。
それでも、やはりアルエの態度は変わらなかった。
実の妹から向けられる憎悪、軽蔑――殺意にも動じる様子はなく。
その態度が、余計にリセスを苛立たせているようにも感じる。
「あのぉ」
ピリピリとした空気を打ち砕いたのは、カルマだった。
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