2 / 15
2.転生しても、また地味
しおりを挟む
そして話は今世に移る。
今いる世界は私が前世を生きていた場所と似ている部分もあるが、違う部分の方が多い。違いを逐一具体的に述べると長くなるので割愛するが、雰囲気というざっくりとした観点において簡単に述べるなら、転生先はかなりファンタジックだ。私が前世で子どもの頃に親しんだ、ヨーロッパの児童書に描かれている挿絵のような感じを彷彿とさせると言ったら良いだろうか。あるいは、ちょっと古風な王道RPGっぽさがあるとでも言おうか。
ただ、そうは言っても魔法やら呪いやら不老不死の薬やらといったものが登場するようなマジもんのファンタジー世界ではない。ドラゴンもユニコーンも妖精も多分いない。しかし美しい森や草原の間を澄んだ川が流れ、のどかな田園や牧草地が広がっている様を見ていると、今にもエルフやドワーフが現れそうな気さえする。村には水車や藁葺き屋根の家々があり、周りには畑や牧場が見える。街にはさまざまな商店や住宅の他に石造りの教会もあり、決まった時間に鐘の音が響く。新鮮な青果や魚、花、牛乳、穀物などの種々雑多な品物が並ぶ市場からは賑やかな声が聞こえてくる。そびえ立つ荘厳な城は古く、その中には威厳に満ちた王族が歴史とともに暮らしている。なんとも情緒があってロマンティックだ。私の大好物である。
こんなロマン溢れる美しい世界に転生したのにもかかわらず、残念なことに二度目の人生でも私は全てにおいて純度100%の地味人間であった。全て思い出した今、前世と全く変わらないこの有様に対して心の底から何でだよと思う。同時に、前世で死後聞いたのはやはり悪魔の笑い声だったのだと確信している次第だ。
そういえば、前世で徳を積めば生まれ変わった後の世で恩恵を受けられるとか聞いたことがある。悪行を重ねれば、その報いを受けるとも。おそらく私は毒にも薬にもならないような人間だったため、同スペックのままなのだろう。逆縁の罪を着せられて、賽の河原で小石を積む羽目にならなかっただけ良かったと思うべきなのだろう。そう考えて私は自分を無理矢理納得させた。
ちなみに、今の私の名前は「エマ・ヘスティア・ユリシーズ」という。なんだか大仰なようだが、この世界ではごく一般的な名前である。まあ、前世の名前である「倉田香奈」とそう変わらない。ちなみにこの世界にもキラキラネームに当たるような名はあるので、そういう自分に似合わぬ煌びやかな名前でなくてよかったと心底思っている。
ところで、私は自分が転生者だと言うことを長いこと自覚しないまま生きていた。確信したのは17歳の時だった。いささか遅すぎである。生まれた時から、というのは無理でも、私がまだ純粋無垢な幼女だった頃あるいはせめて思春期の頃に分かっていれば私の人生は今とは違った様相だったかもしれない。
今思うと、物心ついた頃から不思議な感覚に陥ることは良くあったのだ。初めての経験であるはずなのにどこか懐かしく思うということは日常茶飯事だった。奇妙な夢を見ることもあった。起きている時にふと何かの情景が脳をかすめるようにちらつくこともあった。それでも、それらが前世の記憶だとは思わなかった。
私は物語の世界に入ったつもりになってあれこれと空想して遊ぶのが好きだったので、「そのせいで不思議な夢を見たり妙に既視感を感じたりするのかな?」ぐらいに思っていた。それぐらい鈍感な私であったが、それでも実は12歳頃に一度「もしかしたら自分は誰かの生まれ変わりなのではないか?」と疑ったことがあった。
しかし、その考えはすぐに打ち消された。何冊かの書物は私に、転生者というのは選ばれた特別な人であることを教えた。どの本を読んでも、聖人あるいは天才と大体相場は決まっていた。そのため私は、自分が転生者ではないと結論づけた。書物というのは本当に玉石混淆で、当てにならないものはとことん当てにならないと今なら言えるが、当時の私は素直だったため何者かもよく分からない著者をあっさり信じた。
しかし、断片的で靄がかかったようだった前世の記憶は次第に鮮明になっていった。当時17歳だった私は
「自分は頭がおかしいのだろうか、空想と現実の区別が付いていないのだろうか」
と本気で心配し始めていた。だがすぐに、驚くべき事実が判明した。なんという偶然か、縁者の中に転生者がいたのだ。
その人と話しているうちに、私は自分も彼と同じ転生者であると確信した。後述するが、その人とは私が子どもの頃から面識があった。私は得体の知れない感覚の正体が分かって安堵した。自分の気が違っているわけでは無いと分かった上に、信頼する人が自分と同じ転生者であるという事実が嬉しかった。私はこれまでになく興奮して相手を質問攻めにし、何時間も話し込んだ。そして話せば話すほど芋づる式に色々なことを思い出し、前世の記憶は私の中で明瞭なものになっていった。
だが悲しいことに、あまり幸せな思い出はなかった。そのためせっかく思い出しても暗い気持ちになることが多かった。特に、前世での最後の日を思いだしたときは非常に辛かった。私は数日に渡ってずっと鬱々とした気持ちだった。あまり眠れぬ夜を過ごし、それを周囲に悟られないように気を使って余計に疲れ、少しやつれた。
それだけショックが大きかったが、何日か経つとそれなりに気持ちの整理もついてくる。前世は残念な結果に終わったが、私には今世があるのだ。次こそはベッドの上で安らかに人生を終えたい。転生してもやっぱり地味なのは諦めるとして、運の悪さだけは引き継いでいないことを心底願う。そして、私の末期の願いもぜひ叶えたい。あんな死に方はもうごめんだし、次も寂しく惨めな思いでこの世を去るのはもっと嫌だ。絶対に、金輪際、お断りだと私は強く思った。
今いる世界は私が前世を生きていた場所と似ている部分もあるが、違う部分の方が多い。違いを逐一具体的に述べると長くなるので割愛するが、雰囲気というざっくりとした観点において簡単に述べるなら、転生先はかなりファンタジックだ。私が前世で子どもの頃に親しんだ、ヨーロッパの児童書に描かれている挿絵のような感じを彷彿とさせると言ったら良いだろうか。あるいは、ちょっと古風な王道RPGっぽさがあるとでも言おうか。
ただ、そうは言っても魔法やら呪いやら不老不死の薬やらといったものが登場するようなマジもんのファンタジー世界ではない。ドラゴンもユニコーンも妖精も多分いない。しかし美しい森や草原の間を澄んだ川が流れ、のどかな田園や牧草地が広がっている様を見ていると、今にもエルフやドワーフが現れそうな気さえする。村には水車や藁葺き屋根の家々があり、周りには畑や牧場が見える。街にはさまざまな商店や住宅の他に石造りの教会もあり、決まった時間に鐘の音が響く。新鮮な青果や魚、花、牛乳、穀物などの種々雑多な品物が並ぶ市場からは賑やかな声が聞こえてくる。そびえ立つ荘厳な城は古く、その中には威厳に満ちた王族が歴史とともに暮らしている。なんとも情緒があってロマンティックだ。私の大好物である。
こんなロマン溢れる美しい世界に転生したのにもかかわらず、残念なことに二度目の人生でも私は全てにおいて純度100%の地味人間であった。全て思い出した今、前世と全く変わらないこの有様に対して心の底から何でだよと思う。同時に、前世で死後聞いたのはやはり悪魔の笑い声だったのだと確信している次第だ。
そういえば、前世で徳を積めば生まれ変わった後の世で恩恵を受けられるとか聞いたことがある。悪行を重ねれば、その報いを受けるとも。おそらく私は毒にも薬にもならないような人間だったため、同スペックのままなのだろう。逆縁の罪を着せられて、賽の河原で小石を積む羽目にならなかっただけ良かったと思うべきなのだろう。そう考えて私は自分を無理矢理納得させた。
ちなみに、今の私の名前は「エマ・ヘスティア・ユリシーズ」という。なんだか大仰なようだが、この世界ではごく一般的な名前である。まあ、前世の名前である「倉田香奈」とそう変わらない。ちなみにこの世界にもキラキラネームに当たるような名はあるので、そういう自分に似合わぬ煌びやかな名前でなくてよかったと心底思っている。
ところで、私は自分が転生者だと言うことを長いこと自覚しないまま生きていた。確信したのは17歳の時だった。いささか遅すぎである。生まれた時から、というのは無理でも、私がまだ純粋無垢な幼女だった頃あるいはせめて思春期の頃に分かっていれば私の人生は今とは違った様相だったかもしれない。
今思うと、物心ついた頃から不思議な感覚に陥ることは良くあったのだ。初めての経験であるはずなのにどこか懐かしく思うということは日常茶飯事だった。奇妙な夢を見ることもあった。起きている時にふと何かの情景が脳をかすめるようにちらつくこともあった。それでも、それらが前世の記憶だとは思わなかった。
私は物語の世界に入ったつもりになってあれこれと空想して遊ぶのが好きだったので、「そのせいで不思議な夢を見たり妙に既視感を感じたりするのかな?」ぐらいに思っていた。それぐらい鈍感な私であったが、それでも実は12歳頃に一度「もしかしたら自分は誰かの生まれ変わりなのではないか?」と疑ったことがあった。
しかし、その考えはすぐに打ち消された。何冊かの書物は私に、転生者というのは選ばれた特別な人であることを教えた。どの本を読んでも、聖人あるいは天才と大体相場は決まっていた。そのため私は、自分が転生者ではないと結論づけた。書物というのは本当に玉石混淆で、当てにならないものはとことん当てにならないと今なら言えるが、当時の私は素直だったため何者かもよく分からない著者をあっさり信じた。
しかし、断片的で靄がかかったようだった前世の記憶は次第に鮮明になっていった。当時17歳だった私は
「自分は頭がおかしいのだろうか、空想と現実の区別が付いていないのだろうか」
と本気で心配し始めていた。だがすぐに、驚くべき事実が判明した。なんという偶然か、縁者の中に転生者がいたのだ。
その人と話しているうちに、私は自分も彼と同じ転生者であると確信した。後述するが、その人とは私が子どもの頃から面識があった。私は得体の知れない感覚の正体が分かって安堵した。自分の気が違っているわけでは無いと分かった上に、信頼する人が自分と同じ転生者であるという事実が嬉しかった。私はこれまでになく興奮して相手を質問攻めにし、何時間も話し込んだ。そして話せば話すほど芋づる式に色々なことを思い出し、前世の記憶は私の中で明瞭なものになっていった。
だが悲しいことに、あまり幸せな思い出はなかった。そのためせっかく思い出しても暗い気持ちになることが多かった。特に、前世での最後の日を思いだしたときは非常に辛かった。私は数日に渡ってずっと鬱々とした気持ちだった。あまり眠れぬ夜を過ごし、それを周囲に悟られないように気を使って余計に疲れ、少しやつれた。
それだけショックが大きかったが、何日か経つとそれなりに気持ちの整理もついてくる。前世は残念な結果に終わったが、私には今世があるのだ。次こそはベッドの上で安らかに人生を終えたい。転生してもやっぱり地味なのは諦めるとして、運の悪さだけは引き継いでいないことを心底願う。そして、私の末期の願いもぜひ叶えたい。あんな死に方はもうごめんだし、次も寂しく惨めな思いでこの世を去るのはもっと嫌だ。絶対に、金輪際、お断りだと私は強く思った。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。
千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!?
でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。
舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。
放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。
そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。
すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。
見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!?
転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店!
※20260116執筆中の連載作品のショート版です。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる