こんな青春を

門松 梅竹

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屋上には悩みと花瓶を

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誰かがヒーローになりたいと言った。誰かがお金持ちになりたいと言った。誰かが青春したいと言った。
 それを言ったのはどこの人であろうかは知らない。もしかすると、隣人かもしれないし、友人かもしれない、もしかすると親かもしれない。
 だが、おかしな話である。どうして、そのようなことを公言するのか。どうして、自分だけが望んでいるように感じてしまっているのか。
 誰もがハンサムな王子に救われたいという夢を見るし、誰もが悪を成敗して姫を救いたいと夢見る。
 そんなことを夢見るのは当然なのである。誰もがみんな物語の主人公だと思っているし、物語の創作者だと思っている。
 けれども、年を重ねていくことにほとんどの人の物語は他者によって書き換えられてしまうのだ。己物語から奴物語へと....。
 自分はその失望が恐ろしかった。自分がじわじわと殺されていくのが恐ろしかった。だからこそ、自分は初めから何も望まなかった。恋愛も友情も青春すらも。
 そうして早々にして、自分は誰かの物語のモブキャラとなってしまったのである。
 いや、モブでもないな、たぶん背景。
 そこには存在するけれども、話しかけれるけれども、いつかは,そのうちには,
景色と同化して忘れ去られていくのだ。
 けれども、景色にもいいことだってあるのだ。
 そこにいて、誰かの行方を眺め、また誰かの行方を知る。非常に受動的で楽である。

「なぁ、今日は昼飯外で食わね?」

 いつものように机に弁当と水筒を並べていると友人1が問いてきた。ここで僕が彼を友人1と呼んでいるのは名前を覚えていなからだ。
 本音を言うと、こいつの上下名前が読みにくいんだよな。

「食堂か?」

 そういうと、ニヤッと笑い、「まぁまぁ」と僕を誘導する仕草をした。
 とりあえず、場所はまだ秘密みたいなんでついていくことにした。
 歩いている最中、彼の向かう場所を推測していた。まず、一つとして学校裏にあるバルコニーのベンチだと思った。あそこは日当たりが良くて今日のような素晴らしい天気の下では快適だからだ。そして、二つ目は体育館裏だ。体育館裏には学校黙認の林に続く道がある。まさに知る人ぞ知る場所であるが、あそこも素晴らしく管理された芝生があってこの天気では快適だろう。
 だが、この両者は階段を上り続けていることにより否定された。俺たちのクラスは二階、そして現在は三階の途中部分。
 そこで、また考えてみることした。
 一つ目、友人1の所属する写真部。二つ目、空き教室。
 あまり考える時間がなかったため、曖昧になってしまった。
 結果は... また両者ともに否定されてしまった。もう現在は四階の途中。五階には教室は存在しない、ということは。

「屋上か」

「正解だな」

 はっきり言って、学校といえば屋上、青春といえば屋上のように屋上といえば我々学生には欠かせない場所のように感じるが、それはあくまでフィクションの話であって、現実の話ではない。なんといったって、屋上は基本どこも閉鎖されているのだから。

「なぜ屋上に行けるのかって聞きたいんだろ?」

 友人1はポケットからかわいい猫ちゃんのストラップが付いた鍵を取りだし、年季ある扉を開けた。

「パパの知り合いがここの教師でね」

「スネ夫かよ」

 僕の突っ込みとともに屋上に入っていく。天気がいいせいかドア越しの景色はまるで光の国のように目が開けづらかった。

「結構、広いんだな」

 まず、目に入ったのは高さ1メートルほどの鉄格子、次に素晴らしい青空。最後は...
 少女がいた。
 目を凝らさなくても普通に目に見えるが、ここから果ての部分に女生徒がいた。
 髪は長く、本を片手に、近辺には水筒がおかれていた。

「ここは立ち入り禁止じゃないのか?」
 
そう言うと、友人1はポカンとした顔でこちらを見た。

「あぁ、お前も知っているように立ち入り禁止だよ」

「だよな」

 なんだか話がかみ合っていないような気がしたが、とりあえずあの少女は自殺をしようだとかそういう意思はなさそうなので流すことにした。

 昼飯は写真部の話と共に終えた。どうやら友人1は休日にはバイクで山奥に行って写真を撮るだそうだ。

「本当に好きなんだな、写真撮るの」

「おうよ、写真は人生だ」

「人生ねぇ...」

少し空をみて人生を考えてみる。始まりがあり、終わりがある。まず、人生とはこの前提である。そこからその期間に内容を加えていく。仕事とか恋愛とか、趣味だとか。けど、大半は無駄なもので占められるんだと思う。その少ない余白から我々は大いに素晴らしいものを選りすぐらないといけない。
 けど、その余白を埋めてくれる素晴らしいものなんか俺にはあるんだろうか。きっと、趣味にしている読書すらも10のうち1すらもないのだと思う。そして、僕が仮に70まで生きるとしても既に約25パーセントは過ぎている。残りは75パーセント... このまま味のないまま普通に生きるのかねぇ。

「ペシミスティック」

彼は僕の空に出てくる。いや、言い方が悪かった、ただ僕の顔を覗いただけだ。

「その通り」

 とりあえず惰力100パーセントで答える。
 そうして、互いが沈黙になると、チャイムが鳴り響いた。グラウンドは歓声のピークを迎え、大歓声が廊下を響き渡らせる。

「そろそろ、戻りますかね」

 とりあえず、声も出すのが面倒だったので頷く。

 友人1は立ち上がると、右ポケットを探りだし、光り輝く物体を俺に投げた。そいつが飛んでいる間はなにかわからなかったがどうやら鍵のようだった。

「お前の愛人になるつもりはないぞ」

「あほか、俺んちの鍵じゃねぇよ。屋上の鍵だ」

「いらないのか?」

「いらないよ、屋上にはいい写真スポットがないからな」

「この写真脳め」

「その通りだ」

それから少しして、友人1は屋上のドアに手を付けながらこちらを振り返り、口を動かした。

「無意味か有意義かは他人が決めるんじゃなくて、自身が決めるもんだぜ」

そう言い終えると、彼はドアを開けて、屋上から降りていった。ていうか、一緒に戻るんじゃんねのかよ...。

 少し、空を見上げる。雲が流れ、日は差し込み、そして自信を思う。
まったく、僕を見透かすように言いやがって。
 僕は立ち上がった。それから、背筋を伸ばし、深呼吸を二度した。なんだか、肺の空気すべてが入れ替わって、生まれ変わったような気がした。

「さて、午後も頑張りますかね」

 僕はドアノブに手を付ける前に一度屋上全体を振り返ってみた。すると、先ほどいたはずの少女が消えていた。
 だが、その代わりと言うべくか、小さな花瓶がぽつんと置かれていた。
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