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5章 竜国編
44話 愚者の策
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「な、な、な、な……。
何を考えているのだね、君は!」
少女の人形……しかも、ベリゼノアに似せて作られた代物だ。
それを動かして遊んでいた。
何時、攻め込んでくるか解らない非常時でもある。
激怒するのも解らなくもない。
だが、それは勘違いである。
この人形こそ、魔女達が作りし極秘兵器であった。
「これから連れて行こうと思っていた。
ベリゼ姉の方から来てくれたのは、何か情報を掴めたからなのか?」
「そんな事より、これは何だね。
遊んでいる暇はないと解らない、鳥頭ではないと信じていたのに……」
機能調査のために、能力測定を行っているところだ。
様々な器具を使って測定する訳だが、ゲームセンターみたいな筐体が並べられている。
それが遊んでいるように見えてしまう訳だが……。
いや実際、遊び感覚で楽しむことも出来る代物ばかりだ。
「秘密裏に開発していた物らしくて、調整が出来てないらしい。
だから、機能が正常に動くか確認している」
……と言いつつも、風太も測定機で遊んでいたわけだが。
青楓なら、大喜びで遊んだだろうな。
今度連れてこようと思うぐらいには、楽しんでいた。
それがバレているのかベリゼノアは、ジト目で見つめる。
「どうして、筋肉ムキムキのゴリラではなく、
このお人形で試しているのかね?
あー、まさか私に対して嫌がらせではあるまいな」
「それは開発者に聞いてくれ。
意見を出した俺にも責任があると思って、こうして実験を手伝っている」
「ほおー、私にそっくりに作れば性能が上がると言ったのかね?
その根拠を是非聞きたいのだよ」
ベリゼノアは風太に駆け寄ろうとして、スカートの裾を踏み転ぶ。
上げ底で歩きにくい上に、長いスカートが足に絡みつくのである。
普段はゆっくりと歩くのだが、怒りで我を忘れていた。
そんな彼女を風太は抱き支える。
「危ないな。
怪我はないか?」
「ふんっ。
心に大きな傷ができてしまったのだよ。
君は少しは反省出来ないのかね」
「ごめん。
悪かった」
「まあいい許そう、寛大な姉に感謝するのだよ。
では私の手で、実戦向きかテストしてあげよう」
姉……、血の繋がりもなく、ただの書面上の設定に過ぎない。
拘る理由が有るのだろうか?
表示から読み取れたのか、ディアムが耳元で囁く。
「お嬢様には姉が3人居たのですが、ずっと子供扱いされる事に不満を持っていたようです。
ですから、弟妹が欲しいと仰っていました」
「へぇー。
成る程、少しの間だけでも夢を叶えてあげるか」
ベリゼノアは、術棒を指揮者にでもなったかのように振る。
強く、弱く、大きく変化を付け。
「地獄からの赤い音撃、灰となって散れ。
この世に痕跡一つなく消え去るのだよ」
棒の先から放たれた炎の玉は、人形……つまりロベルアに直撃した。
身動き一つ取ることもなく、全身が燃え上がり炎が包む。
「魔女と恐れられていたと言うのに、この程度。
なんと嘆かわしい、この程度の力しか無いなんて、まだネズミに噛まれたほうが痛い」
ロベルアの手に炎が集まり球体となる。
見えざる衣によって、直撃を逃れ相手の術を奪ったのである。
投げ返すことで反撃へと転ずるのだが、無防備な所に投げ返せば即死させてしまう危険性があった。
売られた喧嘩だが、味方への攻撃は制約によって出来ない。
「生まれ持った資質、法術に適正のない私がどれだけ苦労して……。
この程度の人形すら燃やすことが出来ない。
ディアム、代わりに全力で潰すのだよ!」
「かしこまりました。
では、私が相手しましょう」
「メイドは戦闘するのが当たり前なのか?
入口を守っていたから、相当強い筈」
「辺境の貴族に、そんな権力はないのだよ。
ディアムだけが特別で、他のメイドは一般人でしかない」
メイドの仕事は家事等であり、細かく分業されており専門の仕事をこなす。
村人を雇用することで、生活を支える収入源となっている。
「ふーん。
だとしたらカミューラは何者なんだ?」
「腹違いの姉、つまり極悪非道な愚者なのだよ。
ああー可愛い妹に何を残してあげられるのか~そうだ……と言って、
私に領主の地位を押し付けて逃げた臆病者!」
悔しそうにダンダンと踏みつけて起こり始める。
感情がすぐ行動に現れるようだ。
大人しくしていれば可愛いのだけど……。
「君……、ベリゼ姉は権力を手に入れたんだろう。
策謀を考えるのは得意そうだと思うけど?」
楽観過ぎて話にならない策しか聞いてないけど。
ご機嫌取りでしか無いけど、今は彼女に冷静で居て欲しい。
癇癪を起こして、村人達が不信を抱くようなことがあれば、信じてもらえずどんな策でも無に帰す。
狂人扱いされた姫のように、信用を取れないのは致命的だ。
「待たせてしまった。
早く初めてくれ給え」
「では、行きます。
貫く刃の炎増殖付加……!」
術棒は力を一点に集中させる目的で使われる。
先端に集まった力の源から、無数の炎の刃が放たれる。
ロベルアは的確に、それをはたき落としていく。
見えざる衣でも貫通するほどの威力があるからだ。
「反撃を許しくれれば、打つ返すことも出来るのに……。
煩わしいハエのように飛んできて卑しいですわ」
「では更に、曲射、分裂反射を付与」
放たれる炎の刃の軌道がぐにゃりと変動しホーミングするように波打つ。
更に床や壁に当たれば、分裂して増えて襲う。
四方八方からの多角的な攻撃だった。
弾幕ゲーのような膨大な数。
ロベルアはそれを巧みにも手足全身を使い、空中で回転し舞うように対処する。
人間を超えた、機械的な機敏さと精密さ。
「そんな、王国式の法術……、宮廷術師に匹敵すると言うのに。
まさか手を抜いている、そんな事は許さないのだよ」
気になる言葉だったが、秘密を暴くのは野暮だろう。
「いいえ、全力です。
これなら実戦でも活躍できるでしょう」
並の人間なら間違いなく受けきることは不可能。
見ている方も熱気で汗だくになる、炎の中心に平然と立って居られるのも人形だからだろう。
それでもまだ物足りないなんて、どれだけの物を見せれば納得するのだろうか?
「だったら俺が試してやろうか?」
その言葉に反応してセウファがものすごい速さで、ロベルアの前に立ちはだかり庇う。
「駄目です。
風太殿なら、一瞬で灰にしてしまいます」
「何をビビッているの?
今の私に敗北はない、実力を試して上げてもいいわ」
ロベルア自身も生身だった頃よりも遥かに素早く、そして強くなっている事に気づいていた。
その奢りが態度に成って現れている。
挑発的におしりペンペンして、笑っているのだ。
「良いですか、よーく聞いて下さい。
炎魔将を一撃で葬り、地形を変えてしまったほどの力を持つのです」
それは風太が召喚した怪獣の一撃だ。
魔法の力は、封印の影響もあって制限が掛かっている。
それ程の高威力は出せないだろう。
「それは面白い。
益々その力を受けきれるか試してみたい」
ロベルアの方は強気で自信があるようだ。
セウファは困り果てて、オロオロしていたが床に転がっている玉に気づき笑みを浮かべた。
「では、これでお願います」
渡されたのはピンポン玉の入った箱。
実戦では石や矢が飛んでくるのだが……。
「君は俺をどう思っているんだ?
まあ良いけど」
「手加減してあげて下さい。
少し伸びた鼻をへし折る程度で良いです」
「口の中に入れてご覧、あーん」
ロベルアは完全に調子に乗っていた。
口を開いたまま、挑発するように変な踊りをする。
パンッ
軽く指で弾いただけだ。
玉は彼女の口の中に吸い込まれるように入っていた。
「ぺっ、不意打ちするなんて卑劣。
さあ来なさい」
「じゃあ、上手く避けてくれ」
パンッ、パンッ、パンッ……。
的確に放った玉が彼女の口に収まっていく。
リスのように口がパンパンに広がって間抜けな顔になっていた。
「うううぅぅっ……げほげほ……。
待って下さい、見えないです」
彼女の目の性能は人よりも優れており、減速させてゆっくりと動きを観察できる。
予測計算も素早く、体の動きから予知する事もできた。
にも関わらず、見失ったのは人の動きを超えたいたからに他ならない。
いつの間にか成長を遂げて、身体能力も桁外れに成っていた。
「困ったな、これだと証明に成らないだろう。
もう少し頑張ってくれ」
「では私が投げると言うのでは如何でしょうか?
この程度の事、受けてくれますよね」
「そうだな、君が投げて来ると良い」
「その言葉、後悔すると良い。
反撃の時をどれほど待ち望んだか知れ!」
殺意を感じ、風太は全神経を集中し一点に。
剛速球で放たれた玉がゆくっりと迫ってくるのが見える。
色が無くなり白と黒の世界、何もかもがゆっくりと動く。
彼女はインチキをして、魔法を込めて軌道を制御した上に加速させていた。
成る程、そんな事をするのか……。
玉を手で受け止めて行くだけで精一杯だった。
「ズルは良くない。
魔法を使っただろう?」
「なっ……、全部受け止めるなんてあり得ない。
間違いなく肉体を粉砕できる威力で……」
ロベルアは試しに壁に投げつける。
ドンと共に壁が凹み穴が空いた。
それを生身で受け止められるものはそう居ない、仮に掴んだとしても骨を砕き貫く程の威力だ。
「実力は見てせて貰った。
そこその強さだと解っただけでも儲けものだよ」
止めなければ施設が破壊されてしまう予感があった。
管理が行き届いていない、老朽化が進む建物。
何かの拍子に、崩れても不思議ではない。
ベリゼノアは、表情には出さなかったが足がガクガク震えかなりビビッていた。
スカートが長くて足が隠れていなければ、気づかれていただろう。
「納得してくれて良かった。
それで別の話があったからここに来たんだろう?」
ディアムは、何も言わず椅子を用意しベリゼノアを座らせる。
そう彼女だけが、気づいていた。
「奴らの狙いが解ったのだよ。
竜殺しと呼ばれている代物を探しているらしい」
「それはどんな武器なんだ?」
大剣一本で、そんな事ができるとは思えないけど……。
ミサイルなんかで撃ち落としたとかの方がありそう。
いやまさか……。
「姫がでっち上げた、真っ赤な嘘なのだよ。
そもそも、そんな強力な武器があるなら使っている」
まあ確かに、竜人相手に無双出来るとしたら、人間なんて瞬殺出来るだろう。
「核兵器なんて言い出したらどうしようかと思った。
入口にあった危険マーク……」
「それは異界人避けの記号らしい。
効果はあったのか知りたいのだよ」
「まあ、放射能汚染されていないか、結構怖いと思ったけど……。
あんまし立ち入りたくはないな」
「ハハハッ。
そんなものより怖い魔素があると言うのに……。
あれは侵食し物質すら変質させてしまう」
核兵器は過去に使われた物として記録上のものでしか無い。
それを間近に体験した者とは温度差がある。
それすら知らない相手に理解してもらうのは難しい。
前世の国々が、戦略の駆け引きに使うような凶悪な物なのだが……。
「同じぐらい怖いと思って欲しいな。
けど本当に無いのか?」
「仮に作られていたとしても、管理もせずに放置しているのだよ。
錆びて使い物にならなくなっているとは考えないのかね?」
古代の武器が、泥沼に埋まっていても無事だった。
普通に考えれば、異常をきたして使えないだろう。
「所で騙す必要があったんだ?
何か別の何かがあると思うんだけど」
「フフッ、感のいい君に答えを教えてあげよう。
竜人の秘密が書かれた書物が禁書庫に眠っているのだよ」
同人誌を封印していたあの禁書庫か。
木を隠すには森の中と言うし、そんなエロ本の中に真面目な本があるとは誰も思わないよな。
「そんなもの渡してしまったら良いだろう。
人の命よりも大切だとは思えない」
「もし彼らが手にすれば、竜人族は滅びる。
そうなれば世界の均衡が崩壊するのだよ」
既に均衡は崩壊して居るのだが……。
「何を恐れている。
俺にも解るように教えて欲しい」
「王国は、人間以外を排除しようと考えているのだよ。
そうなれば四つ耳族、竜人も排除の対象となる」
本来なら、魔族と戦った英雄の子孫として称えられても良い。
それが見た目だけで、迫害を受けるのは異様だった。
それが益々、加速して滅ぼすなんて結論になるのは不思議だ。
「それは許せない。
共に行きていく未来を勝ち取るには、王国の横暴を阻止しないとな」
「色々と、彼らの戦略を聞き出しているのだよ。
準備は任せ給え」
反撃の準備が整い出陣しようかという時、鳩が飛んでくる。
「何だって、首都が陥落……。
議会は何を考えて降伏を選んだというのだ」
ベリゼノアは、首都から届いた手紙をグシャグシャに握りつぶす。
早々に議会は、王国に降伏し首都の門を開いてしまったのである。
なだれ込む王国兵によって、略奪と殺戮が行われ惨劇が繰り広げられていた。
派遣した騎士団も、時期に全滅するだろう。
最後の言葉を託し鳩を飛ばした彼らの気持ちを思うと、悔しさであれていた。
「私に力があれば……、死なせずに済んだ。
悔しいのだよ」
王国派の議員が権力を持ったために……。
一部の者達が私腹を肥やしただけで、国が滅びることになった。
多くの民を犠牲にする、その貪欲さ。
悪魔ではないか。
そう彼女は、怒りに任せ壁を叩く。
「どうしたんだ?
準備はで来ている、後は君が号令を出してくれ」
「作戦は中止にする。
予期しないことが起きたのだよ」
「身勝手な事を言うんだな。
なら勝手にさせてもらう」
「そんな人形一つで何が出来る。
竜人が来ても、もう既に付いた決着を変えることは出来ないのだよ」
国の代表が降伏してしまったら、抵抗する意味はない。
せいぜい出来るとしたら逃げることぐらいだろう。
「王国は君達を生贄にするつもりだ。
生きるために最後まで抵抗すると思っていたんだけど」
「国際法がある。
今は魔族と人類の総力戦の最中、むやみに命を奪ったりはしないのだよ」
領地は王国のものと成り、民は王国の法によって管理される。
彼らの法でも占領下の虐殺を禁止しているのは間違いない。
「本当にそう思っているのか?
わざわざ暗殺を偽装して戦争を起こしたのは何故」
「結婚すれば国の併合もできて何もかも手に入れることはできたのだよ。
それを蹴ってまでしたかった事……、なっ、……異界人を転生させるための生贄を手に入れる為」
国際協定で人間の国間の領土争いは禁止されている。
今はまだ、帝国の方が国力も大きく、王国だけでは太刀打ちが出来ない。
だから、策謀によって仕掛けたのは玉国の方だと主張できる状況を作ったわけだ。
魔族に通じているとでっち上げてしまえば、魔族の進行を食い止めたと言う免罪符まで手にできる。
「さてどうする?」
「愚かだったのは私のようだよ。
我々の平穏な日々を手にするために戦う!」
軍服に着替えロベルアは古代の武器を手にする。
棒に、ての字の突起が付いた武器だ。
十手である。
彼女は上下逆に持ち、突起の部分で殴ろうと考えていた。
「待て、逆向きに持つんだ。
持ち手の紐が朽ちて無くなっているな……」
間に合せにハンカチを渡す。
「りんごすら粉砕する手に、そんな物は必要ないです。
でも好意は無碍にできないから、ありがたく使ってあげますわ」
敵対的なのか、好意的なのか……、良く解らない。
彼女の振る舞いからは悪意が漏れているが……。
「ふふーん。
作戦は簡単で猿にでも解るのだよ。
この投石機に乗って、敵陣を突破して背後に居る大将を討ち取る」
「この女は正気なのか?
私なら敵陣の中央を突破する事も容易いのに……」
「この戦いは彼らにとっては異界人の実力を試す実験に過ぎないのだよ。
正面から向かえば、異界人との戦いにもつれ込んで負ける」
「はあぁぁぁっ。
異界人に負けるって何の根拠があって言っている!」
「弟にボコボコに負けた事も忘れたのかね。
ふんっ、ポンコツ人形には難しい話だったようだよ」
「むむっ、言わせておけば……。
セウファ反論してくれ、私を作った者達に事を侮辱した事を後悔させるような一発を」
「私に振られても困りますが……、良いでしょう。
ここに王国が調べた脅威度の調査記録があります」
間者によって記録された資料だ。
貴族の評価が記されている機密情報である。
「どうしてその資料を君が持っているのかね?
まさか貴女が、記した物……」
「いいえ、拝借してきたものです。
それより、注目して欲しいのは貴方の評価、最下位となっています」
「なっ……、この私が、最下位?
あり得ない、評価の基準が間違っているのだよ」
戦闘能力に関して、武芸はからっきしで三流の相手にも負ける程。
法術は大した脅威はなく、ろうそくに火を灯すのが精々。
戦略は妄想も良い所で、無茶で現実とかけ離れて意味不明。
全くの脅威にならず。
「それでこんな変な策を……。
まだ風太が指揮を取ったほうがまし」
「俺は、そんな経験殆無いから無理。
こんな苔にした奴の鼻を明かしたいから変えずに行こう」
「風太まで……、それなら私に任せて下さい。
こんな妄想女よりも、遥かに優れた策で敵を打ち任せてみせます」
「君は暗殺が得意だろう。
だったら、首取って戻ってくれば良い」
「くっ……、所詮は使い捨ての道具でしか無いということね。
まあ良い、期待通りにやってやります」
投石機、攻城兵器として使われている。
テコの原理を利用して石を投げ飛ばす原始的な代物だ。
丸まった格好で乗り、投げ飛ばす。
「一発勝負、私の弾道計算が正しければ一発で成功します。
失敗してあらぬ方向に飛んでしまったら、ごめんなさい」
兎耳を立てて、風の音から風速を予測しての事だ。
止めてある縄を切れば飛んでいく。
斧を手にブンブン振り、気持ちを整える。
「早くして、この待っている時の強さは半端ない。
うぎああぁぁぁっ」
声を発したと同時に、縄を切ったのだ。
空高く飛び跳ね飛んでいる雀達が驚き避ける。
地表に王国兵が隊列を整えようと動いている様子が見えた。
まだ準備が整っていない。
「てっ、着地の事を考えてない……。
はあぁぁっ、風よ!」
落下する直前に風の法術でクッションを作り激突を避ける。
スタッと、着地し軍帽を被り笑みを浮かべた。
「敵襲!」
兵士達が慌てふためく様子が見て取れる。
長い髪を掻き上げて、落ち着いた様子でロベルアし歩みを進めた。
「あれは辺境領主ベリゼノアではないのか?」
兵士達は動揺して剣を持つ手が震えていた。
いや、あまりに間抜けすぎて笑いが堪えられず震えていたのだった。
「クスッ……」
「敵を前に、随分と余裕とは……。
側近すら、まともな兵を置けないほどに衰退させた王子の罪は重い」
卑劣な方法で粛清しなければ、王国に居た優れた人材が失われることもなかった。
最も悔しいのは、ロベルア自身がそれを止める子ど出来ずに捕らえられてしまったことだ。
兵士達は剣を構えているが、手を出す様子はない。
あえて仕掛けてくるのを待ち、反撃で甚振って遊ぼうと舐めていた。
十手みたいな、見慣れない棒しか持っていない事も油断を誘うことに繋がる。
「大将に会いたい、彼に侵略を止めて欲しいと伝えて欲しい。
どうかお願いします」
微塵もそんな事を思っては居ない。
敵を粉砕して実力を見せつけることしか考えになかった。
兵士達はゲラゲラと腹を抱えて笑い始める。
それを合図にロベルアは動いた。
兵士の兜を叩き割っていく。
取り囲んでいた兵士達は瞬く間に仲間が倒れて行くことに驚くが何も出来ないままに屍となっていた。
洗練された動き、的確に最短で仕留めていく精度。
「死神……」
陣を守備する兵士達は全員伏していた。
布で囲われた本陣に入ると老人が座っている。
大将は老骨の騎士、初めから第2王子に付いた貴族。
しかし戦いに赴くような人物ではない。
どちらかと言えば、文官であり政治の方面で活躍していた。
そんな彼がどうしてこんな戦いに出向いてきたのか。
幾ら人材が不足していると言っても、不自然に思えた。
「引退したと思っていました。
どうしてこの戦場にいるのかしら?」
「貴女とは初めてあった筈。
さよう、病が進行し剣を握ることも出来ない」
恐らく、彼を打ち取っても戦いは終わらない。
何故なら、彼が本当の大将ではないからだ。
だが、仕留めなければ策が破綻する。
「これも運命、貴方の命を貰いましょう」
「一つ頼みを聞いてもらえないか?
そこの箱を燃やして欲しい」
陣の端に置かれた木箱。
彼から視線を外した一瞬、指先を向けていた。
放たれる石の弾撃。
ロベルアの瞳を狙ったもの。
狙いすました一撃だからこそ、避けやすく陣の布に穴を開けるだけ。
「あー、嬉しくてつい笑みが溢れてしまいました。
そうでなくては、騎士として最後まで戦う姿勢に感激です」
十手の一撃で彼の首は折れ即死だった。
木箱の中には銃が入っていた。
彼は使いたくなかったのだろう。
火の法術でドロドロに溶かして形すら残さない。
「約束は守りましたわ。
では、失礼します」
陣を出ようとした時、女騎士が入ってくる。
今までの相手とは格が違う、緊張感に背筋が凍り身構えた。
「私はチャナタ、今は王国に追われる身です。
玉国の騎士よ、貴方達とは戦うつもりはない」
血で汚れた外套、歪み曲がった大剣には激戦を切り抜けてきたような痕跡が見られる。
正体不明の相手、油断をしたら殺されるかも知れない。
「では何用で、この陣に来られたのかしら?
王国の旗が上がっているのが見えなかった訳では無いでしょう」
「私を狙っているのかと思って先手を打ちに来た。
先を越されるとは思っても見なかった」
いくら強者でも、たった一人で挑むのは無謀過ぎる話だ。
そもそも、無名な彼女を王国が兵を動かして討伐するのがあり得ない。
ロベルアの推理に欠けているものがあった。
チャナタは道に迷い、王国の主要な砦を陥落させつつ帝国を目指していた。
旧体制派の刺客として、名声がうなぎ登りで各地で指名手配されるほどに有名である。
「この戦いは貴方には関係のないことです。
去りなさい」
「そういう訳には、愛する者の元へ戻るために帝国へ行かなければならない。
ここを通らせてもらう」
「ハハッ、帝国に行くなら別の道を通りなさい。
この先は辺境の領地で行き止まりです」
「では案内して欲しい。
私はこれまでに迷いに迷って、様々な場所を巡り場所が解らなくなっている」
今度は方向音痴だと言い出す。
怪しい、信用できる要素が何も無いと言うのに連れて行く事など出来るはずがない。
しかし……。
「ならば、手伝って欲しいです。
我が領地を守るために戦っている所、この軍勢を撃退できたら案内してあげましょう」
「その言葉、忘れないように。
私と共にある英霊達よ、今しばらくの力を貸してください」
チャナタの祈りに答え、地面から骸骨の兵士が現れる。
風太によって、創られた魔骸骨の生き残りだ。
千程いたのだが、役目を終え朽ちると共に花々へと変わっていった。
その中でも、チャナタに賛同し共に戦うと決めた者達が残り旅を続けている。
「まさか、死霊術師。
御主人様以外にも……」
「何を勘違いしているのか知らないが……。
これは愛しの彼が護衛に付けてくれた精鋭の騎士です」
ロベルアは、その言葉だけでゾッとした。
風太の関係者たとすれば、怪我をさせたりすればどうなるか解らない。
丁重に扱うなんて、面倒なことに……。
丁度、同じ頃風太達は迫りくる王国兵を眺めていた。
サーシャリは出番だと、竜人の旗を振り上げる。
敵兵が、そんな物で止まる訳もなく大声を張り上げて迫ってくる。
「竜化の法気高き黄金の竜となりて……」
そんな都合の良い法術が使えるわけもなく、ただの演出に過ぎない。
風太は彼女に呪文に合わせて怪獣の姿を映し出していた。
水の糸を作り出し、それを高速で回転させることで反射するスクリーンとして映像として見せていた。
「本当に竜の姿を見せることが出来たのですね。
そんな法術は初め、ああ、なんて恐ろしくも、凛々しい姿なのでしょう」
「玩具に、光を映し出す物があって、それなら再現できそうだと思って」
竜人のレモプティが授けてくれた構成方法がなければ成し得ない程の複雑な魔法だ。
仮に竜化が偽物と見破っても、魔法事態は竜人族が使うものと変わりない。
敵兵の足が止まり、動揺が走るのが見える。
そんな中、一人の男が気にせずに進み続けていた。
彼が異界人なのだろう。
「俺が話をしよう。
利用されただけだろうから、説得できると思う」
「いいえ、私に任せて下さい。
貴方は私の後ろで見ていて」
「何でだ?
異界人同士で話が合うだろう」
「王国に取って利用価値がある人物と言うことは、この状況を望んでいたのでしょう。
能力だけで選ぶなら、あの男の価値は殆無いはずです」
確かに感情を操るだけで、特に強いわけでもない。
魔族と戦うというよりは、謀略等に活かせそうな能力だ。
性格も良いとは言えない。
そう考えると戦争の駒として利用できる者を選んだということか。
前世に不満を持ち暴れたい人物だとしたら、説得は無理だろう。
「解った。
君に任せる」
「ありがとう。
いざという時には、助けてくださいね」
「勿論、任せてくれ」
サーシャリが前に出たことで、竜化が偽りだと発覚するが既に兵士達の関心は背後に向かっていた。
「貴方は異界人なのでしょう?
この世界に無理やり連れてこられて、こんな争いに巻き込まれていることに疑問はないの」
「無いね。
暴れられると聞いてウキウキしてるんだ」
「そう、貴方の名を聞きましょうか。
私はサーシャリ」
「ビックタイガーとでも呼んでくれ。
綺麗な赤髪で、中々良い体型してるな……」
「投降するなら、可愛がってあげてもいいわ。
他の者達は逃げて貴方だけ戦っても仕方ないでしょう?」
「断る、戦歴に傷をつけたくないんでな。
話はそろそろ良いだろう、剣で決着をつけようか」
サーシャリが持つのは金属の孫の手。
明らかに武器ではなく、背を掻くものだが……。
「では相手しましょう」
「なんだそんな物で相手しようというのか。
随分舐めているな」
ビックタイガーにとっては、すぐに終わる勝負だった。
時を止める力を使い、彼女を切り刻むだけで済む。
そう簡単に……。
だが視界から、彼女の姿を見失っていた。
キョロキョロとあたりを見渡すが見つからない。
突き上げる一撃が顎に触れた時だ。
反射的に時を止めた。
「いつの間にこんな側に……、だがこれで終わりだ。
んっ? なっ……無い」
彼の腕が切断され地面に落ちていた。
時間が再び動き出す。
血が吹き出て、空中に舞う。
「どうして彼の両腕を切り裂いたのです。
気を失わせるだけで……」
「君を守るため。
あのままだと、君の首が飛んでいただろう」
落ちていた剣の握り方が変わっている。
上から突き刺すために剣先を下に向くように持ち替えていた。
ビックタイガーは能力を勘違いしていた。
彼の周りの動きを遅くすることで、静止したように感じ誤認を生んだ。
外からでは、動きが丸見えで攻撃の的でしか無かった。
「命を助けられておいて、ごめんなさい。
ありがとう」
敵兵は大混乱のうちに逃げていったが、これで終わるとは思えない。
「困ったな。
長引いて欲しくないのに……」
「おい、勝手に殺すんじゃねぇ。
流石に驚いたが、次はない」
ビックタイガーが起き上がる。
切り裂いたはずの腕も、元に戻っていた。
再生したのか?
いやこの嫌な気配は、まさか魔族化の薬……。
肉体が膨張し、鎧が悲鳴を上げて飛び散る。
肌が暗い紫色に変色し、全身から剛毛が生え虎のような顔へと変貌した。
「ガルルル……」
「魔族とは敵対していたはずなのに、
どうしてなんだ?」
王国のしていることが矛盾をはらんでいる。
魔族の正体は、まさか王族が権力を得るための敵を演出するために用意された……。
考えたくはないが、そう思ってしまうほどの異様さだ。
「正体を現してくれて有り難い。
この一撃で決めるわ」
サーシャリの渾身の一撃は、彼の太い剛毛の腕に阻まれた。
鋭い爪が伸び虎人間へと成り果て、獣のように鋭い目で牙を剥く。
「君なら使いこなせるはずだ。
使ってくれ」
風太は即席で剣を作り出し渡した。
光り輝きビリビリと電撃を放つ刀身。
「感謝するわ。
こんな素晴らしい剣を手にしたのは初めて」
ビックタイガーが振るう一撃の爪を剣でスーと受け流し爪を切り落とす。
風が舞うように、美しく剣が綺羅びやかに踊る。
虎の顔が宙を舞い、血の雨が降り注ぐ。
だが終わらない、ニョキニョキと新たな顔が生えてくる。
切り裂いても切り裂いても、再生が止まらない。
「この化物……」
生命力の権化、そんな化物だ。
再生する度に、固く強度が増し切れ味が悪くなっていく。
「動きを止めてくれて助かった。
亡者の食事……彷徨いし魂達よ、喰らい尽くしてくれ」
道に並べられた屍達の魂が、集まり生命力を喰らい尽くす。
ビックタイガーの体内、心臓である魔石に亀裂が入り砕け散る。
瞬く間に、彼は干からびミイラの様に成り果てたた。
「私達は考えを改めなければ成らないかも知れない。
守るだけではなく、攻め滅ぼさなくてはならない」
「そこまでする必要はないだろう。
もう王国とは関わりたくない」
争いに巻き込まれて居たら、自分たちもいつかはこんな敗北する状況に追い込まれて命を落とす。
そんな不吉な予感がある。
自分たちの周りさえ守れれば、それで良い。
ロベルアが手を振り、風太の下に戻ってきた。
「作戦通り、敵の大将は打ち取ってきたわ。
感謝しなさい」
「ありがとう、君の活躍で勝利できた」
「んんっ、調子が狂う。
結構素直に感謝するのね、もっと足りないとか遅かったとか批判されると思っていたのに」
「その方が良かったか?」
「いいえ、良くないわ。
それから……、厄介な奴を拾ってきました」
チャナタは風太に気づくと、一気に駆け寄り抱きしめる。
「ああ、愛しの……、ううぅぅぅっ。
会いたかった」
プーンと、鼻につく匂いに風太は戸惑いつつも、笑みで答える。
「一人で頑張ってくれたみたいで。
後はのんびりしていてくれ」
「いいえ、これからは貴方の側で働かせて頂きます。
騎士として忠誠を誓い……」
「とても臭いわ。
これで少しは身だしなみを整えてからにしなさい」
チャナタは体を洗う余裕もないほど、連戦で戦い続けてきた。
休まる暇もなく、すこし体がやせ細るぐらいに。
着替えもなく、ずっと着たきりで汗が染み込み異臭を放っていた。
バサバサ……
数匹の竜が飛んでくる。
あの赤い竜はレモプティ。
降り立つと、人の姿へと変わり風太に抱きつく。
「お待たせしました。
親友のソニャームを連れてきたのよ」
花がらの青い着物を来た妖艶な女が竜の背から降りた。
肩丈の髪は藍色で唇の下にホクロが印象的だ。
竜人にしてはスラッとした体型。
「貴方が、長老を倒せる男?
そうは見えないけど、少し遊んでみても良い」
何を考えているのだね、君は!」
少女の人形……しかも、ベリゼノアに似せて作られた代物だ。
それを動かして遊んでいた。
何時、攻め込んでくるか解らない非常時でもある。
激怒するのも解らなくもない。
だが、それは勘違いである。
この人形こそ、魔女達が作りし極秘兵器であった。
「これから連れて行こうと思っていた。
ベリゼ姉の方から来てくれたのは、何か情報を掴めたからなのか?」
「そんな事より、これは何だね。
遊んでいる暇はないと解らない、鳥頭ではないと信じていたのに……」
機能調査のために、能力測定を行っているところだ。
様々な器具を使って測定する訳だが、ゲームセンターみたいな筐体が並べられている。
それが遊んでいるように見えてしまう訳だが……。
いや実際、遊び感覚で楽しむことも出来る代物ばかりだ。
「秘密裏に開発していた物らしくて、調整が出来てないらしい。
だから、機能が正常に動くか確認している」
……と言いつつも、風太も測定機で遊んでいたわけだが。
青楓なら、大喜びで遊んだだろうな。
今度連れてこようと思うぐらいには、楽しんでいた。
それがバレているのかベリゼノアは、ジト目で見つめる。
「どうして、筋肉ムキムキのゴリラではなく、
このお人形で試しているのかね?
あー、まさか私に対して嫌がらせではあるまいな」
「それは開発者に聞いてくれ。
意見を出した俺にも責任があると思って、こうして実験を手伝っている」
「ほおー、私にそっくりに作れば性能が上がると言ったのかね?
その根拠を是非聞きたいのだよ」
ベリゼノアは風太に駆け寄ろうとして、スカートの裾を踏み転ぶ。
上げ底で歩きにくい上に、長いスカートが足に絡みつくのである。
普段はゆっくりと歩くのだが、怒りで我を忘れていた。
そんな彼女を風太は抱き支える。
「危ないな。
怪我はないか?」
「ふんっ。
心に大きな傷ができてしまったのだよ。
君は少しは反省出来ないのかね」
「ごめん。
悪かった」
「まあいい許そう、寛大な姉に感謝するのだよ。
では私の手で、実戦向きかテストしてあげよう」
姉……、血の繋がりもなく、ただの書面上の設定に過ぎない。
拘る理由が有るのだろうか?
表示から読み取れたのか、ディアムが耳元で囁く。
「お嬢様には姉が3人居たのですが、ずっと子供扱いされる事に不満を持っていたようです。
ですから、弟妹が欲しいと仰っていました」
「へぇー。
成る程、少しの間だけでも夢を叶えてあげるか」
ベリゼノアは、術棒を指揮者にでもなったかのように振る。
強く、弱く、大きく変化を付け。
「地獄からの赤い音撃、灰となって散れ。
この世に痕跡一つなく消え去るのだよ」
棒の先から放たれた炎の玉は、人形……つまりロベルアに直撃した。
身動き一つ取ることもなく、全身が燃え上がり炎が包む。
「魔女と恐れられていたと言うのに、この程度。
なんと嘆かわしい、この程度の力しか無いなんて、まだネズミに噛まれたほうが痛い」
ロベルアの手に炎が集まり球体となる。
見えざる衣によって、直撃を逃れ相手の術を奪ったのである。
投げ返すことで反撃へと転ずるのだが、無防備な所に投げ返せば即死させてしまう危険性があった。
売られた喧嘩だが、味方への攻撃は制約によって出来ない。
「生まれ持った資質、法術に適正のない私がどれだけ苦労して……。
この程度の人形すら燃やすことが出来ない。
ディアム、代わりに全力で潰すのだよ!」
「かしこまりました。
では、私が相手しましょう」
「メイドは戦闘するのが当たり前なのか?
入口を守っていたから、相当強い筈」
「辺境の貴族に、そんな権力はないのだよ。
ディアムだけが特別で、他のメイドは一般人でしかない」
メイドの仕事は家事等であり、細かく分業されており専門の仕事をこなす。
村人を雇用することで、生活を支える収入源となっている。
「ふーん。
だとしたらカミューラは何者なんだ?」
「腹違いの姉、つまり極悪非道な愚者なのだよ。
ああー可愛い妹に何を残してあげられるのか~そうだ……と言って、
私に領主の地位を押し付けて逃げた臆病者!」
悔しそうにダンダンと踏みつけて起こり始める。
感情がすぐ行動に現れるようだ。
大人しくしていれば可愛いのだけど……。
「君……、ベリゼ姉は権力を手に入れたんだろう。
策謀を考えるのは得意そうだと思うけど?」
楽観過ぎて話にならない策しか聞いてないけど。
ご機嫌取りでしか無いけど、今は彼女に冷静で居て欲しい。
癇癪を起こして、村人達が不信を抱くようなことがあれば、信じてもらえずどんな策でも無に帰す。
狂人扱いされた姫のように、信用を取れないのは致命的だ。
「待たせてしまった。
早く初めてくれ給え」
「では、行きます。
貫く刃の炎増殖付加……!」
術棒は力を一点に集中させる目的で使われる。
先端に集まった力の源から、無数の炎の刃が放たれる。
ロベルアは的確に、それをはたき落としていく。
見えざる衣でも貫通するほどの威力があるからだ。
「反撃を許しくれれば、打つ返すことも出来るのに……。
煩わしいハエのように飛んできて卑しいですわ」
「では更に、曲射、分裂反射を付与」
放たれる炎の刃の軌道がぐにゃりと変動しホーミングするように波打つ。
更に床や壁に当たれば、分裂して増えて襲う。
四方八方からの多角的な攻撃だった。
弾幕ゲーのような膨大な数。
ロベルアはそれを巧みにも手足全身を使い、空中で回転し舞うように対処する。
人間を超えた、機械的な機敏さと精密さ。
「そんな、王国式の法術……、宮廷術師に匹敵すると言うのに。
まさか手を抜いている、そんな事は許さないのだよ」
気になる言葉だったが、秘密を暴くのは野暮だろう。
「いいえ、全力です。
これなら実戦でも活躍できるでしょう」
並の人間なら間違いなく受けきることは不可能。
見ている方も熱気で汗だくになる、炎の中心に平然と立って居られるのも人形だからだろう。
それでもまだ物足りないなんて、どれだけの物を見せれば納得するのだろうか?
「だったら俺が試してやろうか?」
その言葉に反応してセウファがものすごい速さで、ロベルアの前に立ちはだかり庇う。
「駄目です。
風太殿なら、一瞬で灰にしてしまいます」
「何をビビッているの?
今の私に敗北はない、実力を試して上げてもいいわ」
ロベルア自身も生身だった頃よりも遥かに素早く、そして強くなっている事に気づいていた。
その奢りが態度に成って現れている。
挑発的におしりペンペンして、笑っているのだ。
「良いですか、よーく聞いて下さい。
炎魔将を一撃で葬り、地形を変えてしまったほどの力を持つのです」
それは風太が召喚した怪獣の一撃だ。
魔法の力は、封印の影響もあって制限が掛かっている。
それ程の高威力は出せないだろう。
「それは面白い。
益々その力を受けきれるか試してみたい」
ロベルアの方は強気で自信があるようだ。
セウファは困り果てて、オロオロしていたが床に転がっている玉に気づき笑みを浮かべた。
「では、これでお願います」
渡されたのはピンポン玉の入った箱。
実戦では石や矢が飛んでくるのだが……。
「君は俺をどう思っているんだ?
まあ良いけど」
「手加減してあげて下さい。
少し伸びた鼻をへし折る程度で良いです」
「口の中に入れてご覧、あーん」
ロベルアは完全に調子に乗っていた。
口を開いたまま、挑発するように変な踊りをする。
パンッ
軽く指で弾いただけだ。
玉は彼女の口の中に吸い込まれるように入っていた。
「ぺっ、不意打ちするなんて卑劣。
さあ来なさい」
「じゃあ、上手く避けてくれ」
パンッ、パンッ、パンッ……。
的確に放った玉が彼女の口に収まっていく。
リスのように口がパンパンに広がって間抜けな顔になっていた。
「うううぅぅっ……げほげほ……。
待って下さい、見えないです」
彼女の目の性能は人よりも優れており、減速させてゆっくりと動きを観察できる。
予測計算も素早く、体の動きから予知する事もできた。
にも関わらず、見失ったのは人の動きを超えたいたからに他ならない。
いつの間にか成長を遂げて、身体能力も桁外れに成っていた。
「困ったな、これだと証明に成らないだろう。
もう少し頑張ってくれ」
「では私が投げると言うのでは如何でしょうか?
この程度の事、受けてくれますよね」
「そうだな、君が投げて来ると良い」
「その言葉、後悔すると良い。
反撃の時をどれほど待ち望んだか知れ!」
殺意を感じ、風太は全神経を集中し一点に。
剛速球で放たれた玉がゆくっりと迫ってくるのが見える。
色が無くなり白と黒の世界、何もかもがゆっくりと動く。
彼女はインチキをして、魔法を込めて軌道を制御した上に加速させていた。
成る程、そんな事をするのか……。
玉を手で受け止めて行くだけで精一杯だった。
「ズルは良くない。
魔法を使っただろう?」
「なっ……、全部受け止めるなんてあり得ない。
間違いなく肉体を粉砕できる威力で……」
ロベルアは試しに壁に投げつける。
ドンと共に壁が凹み穴が空いた。
それを生身で受け止められるものはそう居ない、仮に掴んだとしても骨を砕き貫く程の威力だ。
「実力は見てせて貰った。
そこその強さだと解っただけでも儲けものだよ」
止めなければ施設が破壊されてしまう予感があった。
管理が行き届いていない、老朽化が進む建物。
何かの拍子に、崩れても不思議ではない。
ベリゼノアは、表情には出さなかったが足がガクガク震えかなりビビッていた。
スカートが長くて足が隠れていなければ、気づかれていただろう。
「納得してくれて良かった。
それで別の話があったからここに来たんだろう?」
ディアムは、何も言わず椅子を用意しベリゼノアを座らせる。
そう彼女だけが、気づいていた。
「奴らの狙いが解ったのだよ。
竜殺しと呼ばれている代物を探しているらしい」
「それはどんな武器なんだ?」
大剣一本で、そんな事ができるとは思えないけど……。
ミサイルなんかで撃ち落としたとかの方がありそう。
いやまさか……。
「姫がでっち上げた、真っ赤な嘘なのだよ。
そもそも、そんな強力な武器があるなら使っている」
まあ確かに、竜人相手に無双出来るとしたら、人間なんて瞬殺出来るだろう。
「核兵器なんて言い出したらどうしようかと思った。
入口にあった危険マーク……」
「それは異界人避けの記号らしい。
効果はあったのか知りたいのだよ」
「まあ、放射能汚染されていないか、結構怖いと思ったけど……。
あんまし立ち入りたくはないな」
「ハハハッ。
そんなものより怖い魔素があると言うのに……。
あれは侵食し物質すら変質させてしまう」
核兵器は過去に使われた物として記録上のものでしか無い。
それを間近に体験した者とは温度差がある。
それすら知らない相手に理解してもらうのは難しい。
前世の国々が、戦略の駆け引きに使うような凶悪な物なのだが……。
「同じぐらい怖いと思って欲しいな。
けど本当に無いのか?」
「仮に作られていたとしても、管理もせずに放置しているのだよ。
錆びて使い物にならなくなっているとは考えないのかね?」
古代の武器が、泥沼に埋まっていても無事だった。
普通に考えれば、異常をきたして使えないだろう。
「所で騙す必要があったんだ?
何か別の何かがあると思うんだけど」
「フフッ、感のいい君に答えを教えてあげよう。
竜人の秘密が書かれた書物が禁書庫に眠っているのだよ」
同人誌を封印していたあの禁書庫か。
木を隠すには森の中と言うし、そんなエロ本の中に真面目な本があるとは誰も思わないよな。
「そんなもの渡してしまったら良いだろう。
人の命よりも大切だとは思えない」
「もし彼らが手にすれば、竜人族は滅びる。
そうなれば世界の均衡が崩壊するのだよ」
既に均衡は崩壊して居るのだが……。
「何を恐れている。
俺にも解るように教えて欲しい」
「王国は、人間以外を排除しようと考えているのだよ。
そうなれば四つ耳族、竜人も排除の対象となる」
本来なら、魔族と戦った英雄の子孫として称えられても良い。
それが見た目だけで、迫害を受けるのは異様だった。
それが益々、加速して滅ぼすなんて結論になるのは不思議だ。
「それは許せない。
共に行きていく未来を勝ち取るには、王国の横暴を阻止しないとな」
「色々と、彼らの戦略を聞き出しているのだよ。
準備は任せ給え」
反撃の準備が整い出陣しようかという時、鳩が飛んでくる。
「何だって、首都が陥落……。
議会は何を考えて降伏を選んだというのだ」
ベリゼノアは、首都から届いた手紙をグシャグシャに握りつぶす。
早々に議会は、王国に降伏し首都の門を開いてしまったのである。
なだれ込む王国兵によって、略奪と殺戮が行われ惨劇が繰り広げられていた。
派遣した騎士団も、時期に全滅するだろう。
最後の言葉を託し鳩を飛ばした彼らの気持ちを思うと、悔しさであれていた。
「私に力があれば……、死なせずに済んだ。
悔しいのだよ」
王国派の議員が権力を持ったために……。
一部の者達が私腹を肥やしただけで、国が滅びることになった。
多くの民を犠牲にする、その貪欲さ。
悪魔ではないか。
そう彼女は、怒りに任せ壁を叩く。
「どうしたんだ?
準備はで来ている、後は君が号令を出してくれ」
「作戦は中止にする。
予期しないことが起きたのだよ」
「身勝手な事を言うんだな。
なら勝手にさせてもらう」
「そんな人形一つで何が出来る。
竜人が来ても、もう既に付いた決着を変えることは出来ないのだよ」
国の代表が降伏してしまったら、抵抗する意味はない。
せいぜい出来るとしたら逃げることぐらいだろう。
「王国は君達を生贄にするつもりだ。
生きるために最後まで抵抗すると思っていたんだけど」
「国際法がある。
今は魔族と人類の総力戦の最中、むやみに命を奪ったりはしないのだよ」
領地は王国のものと成り、民は王国の法によって管理される。
彼らの法でも占領下の虐殺を禁止しているのは間違いない。
「本当にそう思っているのか?
わざわざ暗殺を偽装して戦争を起こしたのは何故」
「結婚すれば国の併合もできて何もかも手に入れることはできたのだよ。
それを蹴ってまでしたかった事……、なっ、……異界人を転生させるための生贄を手に入れる為」
国際協定で人間の国間の領土争いは禁止されている。
今はまだ、帝国の方が国力も大きく、王国だけでは太刀打ちが出来ない。
だから、策謀によって仕掛けたのは玉国の方だと主張できる状況を作ったわけだ。
魔族に通じているとでっち上げてしまえば、魔族の進行を食い止めたと言う免罪符まで手にできる。
「さてどうする?」
「愚かだったのは私のようだよ。
我々の平穏な日々を手にするために戦う!」
軍服に着替えロベルアは古代の武器を手にする。
棒に、ての字の突起が付いた武器だ。
十手である。
彼女は上下逆に持ち、突起の部分で殴ろうと考えていた。
「待て、逆向きに持つんだ。
持ち手の紐が朽ちて無くなっているな……」
間に合せにハンカチを渡す。
「りんごすら粉砕する手に、そんな物は必要ないです。
でも好意は無碍にできないから、ありがたく使ってあげますわ」
敵対的なのか、好意的なのか……、良く解らない。
彼女の振る舞いからは悪意が漏れているが……。
「ふふーん。
作戦は簡単で猿にでも解るのだよ。
この投石機に乗って、敵陣を突破して背後に居る大将を討ち取る」
「この女は正気なのか?
私なら敵陣の中央を突破する事も容易いのに……」
「この戦いは彼らにとっては異界人の実力を試す実験に過ぎないのだよ。
正面から向かえば、異界人との戦いにもつれ込んで負ける」
「はあぁぁぁっ。
異界人に負けるって何の根拠があって言っている!」
「弟にボコボコに負けた事も忘れたのかね。
ふんっ、ポンコツ人形には難しい話だったようだよ」
「むむっ、言わせておけば……。
セウファ反論してくれ、私を作った者達に事を侮辱した事を後悔させるような一発を」
「私に振られても困りますが……、良いでしょう。
ここに王国が調べた脅威度の調査記録があります」
間者によって記録された資料だ。
貴族の評価が記されている機密情報である。
「どうしてその資料を君が持っているのかね?
まさか貴女が、記した物……」
「いいえ、拝借してきたものです。
それより、注目して欲しいのは貴方の評価、最下位となっています」
「なっ……、この私が、最下位?
あり得ない、評価の基準が間違っているのだよ」
戦闘能力に関して、武芸はからっきしで三流の相手にも負ける程。
法術は大した脅威はなく、ろうそくに火を灯すのが精々。
戦略は妄想も良い所で、無茶で現実とかけ離れて意味不明。
全くの脅威にならず。
「それでこんな変な策を……。
まだ風太が指揮を取ったほうがまし」
「俺は、そんな経験殆無いから無理。
こんな苔にした奴の鼻を明かしたいから変えずに行こう」
「風太まで……、それなら私に任せて下さい。
こんな妄想女よりも、遥かに優れた策で敵を打ち任せてみせます」
「君は暗殺が得意だろう。
だったら、首取って戻ってくれば良い」
「くっ……、所詮は使い捨ての道具でしか無いということね。
まあ良い、期待通りにやってやります」
投石機、攻城兵器として使われている。
テコの原理を利用して石を投げ飛ばす原始的な代物だ。
丸まった格好で乗り、投げ飛ばす。
「一発勝負、私の弾道計算が正しければ一発で成功します。
失敗してあらぬ方向に飛んでしまったら、ごめんなさい」
兎耳を立てて、風の音から風速を予測しての事だ。
止めてある縄を切れば飛んでいく。
斧を手にブンブン振り、気持ちを整える。
「早くして、この待っている時の強さは半端ない。
うぎああぁぁぁっ」
声を発したと同時に、縄を切ったのだ。
空高く飛び跳ね飛んでいる雀達が驚き避ける。
地表に王国兵が隊列を整えようと動いている様子が見えた。
まだ準備が整っていない。
「てっ、着地の事を考えてない……。
はあぁぁっ、風よ!」
落下する直前に風の法術でクッションを作り激突を避ける。
スタッと、着地し軍帽を被り笑みを浮かべた。
「敵襲!」
兵士達が慌てふためく様子が見て取れる。
長い髪を掻き上げて、落ち着いた様子でロベルアし歩みを進めた。
「あれは辺境領主ベリゼノアではないのか?」
兵士達は動揺して剣を持つ手が震えていた。
いや、あまりに間抜けすぎて笑いが堪えられず震えていたのだった。
「クスッ……」
「敵を前に、随分と余裕とは……。
側近すら、まともな兵を置けないほどに衰退させた王子の罪は重い」
卑劣な方法で粛清しなければ、王国に居た優れた人材が失われることもなかった。
最も悔しいのは、ロベルア自身がそれを止める子ど出来ずに捕らえられてしまったことだ。
兵士達は剣を構えているが、手を出す様子はない。
あえて仕掛けてくるのを待ち、反撃で甚振って遊ぼうと舐めていた。
十手みたいな、見慣れない棒しか持っていない事も油断を誘うことに繋がる。
「大将に会いたい、彼に侵略を止めて欲しいと伝えて欲しい。
どうかお願いします」
微塵もそんな事を思っては居ない。
敵を粉砕して実力を見せつけることしか考えになかった。
兵士達はゲラゲラと腹を抱えて笑い始める。
それを合図にロベルアは動いた。
兵士の兜を叩き割っていく。
取り囲んでいた兵士達は瞬く間に仲間が倒れて行くことに驚くが何も出来ないままに屍となっていた。
洗練された動き、的確に最短で仕留めていく精度。
「死神……」
陣を守備する兵士達は全員伏していた。
布で囲われた本陣に入ると老人が座っている。
大将は老骨の騎士、初めから第2王子に付いた貴族。
しかし戦いに赴くような人物ではない。
どちらかと言えば、文官であり政治の方面で活躍していた。
そんな彼がどうしてこんな戦いに出向いてきたのか。
幾ら人材が不足していると言っても、不自然に思えた。
「引退したと思っていました。
どうしてこの戦場にいるのかしら?」
「貴女とは初めてあった筈。
さよう、病が進行し剣を握ることも出来ない」
恐らく、彼を打ち取っても戦いは終わらない。
何故なら、彼が本当の大将ではないからだ。
だが、仕留めなければ策が破綻する。
「これも運命、貴方の命を貰いましょう」
「一つ頼みを聞いてもらえないか?
そこの箱を燃やして欲しい」
陣の端に置かれた木箱。
彼から視線を外した一瞬、指先を向けていた。
放たれる石の弾撃。
ロベルアの瞳を狙ったもの。
狙いすました一撃だからこそ、避けやすく陣の布に穴を開けるだけ。
「あー、嬉しくてつい笑みが溢れてしまいました。
そうでなくては、騎士として最後まで戦う姿勢に感激です」
十手の一撃で彼の首は折れ即死だった。
木箱の中には銃が入っていた。
彼は使いたくなかったのだろう。
火の法術でドロドロに溶かして形すら残さない。
「約束は守りましたわ。
では、失礼します」
陣を出ようとした時、女騎士が入ってくる。
今までの相手とは格が違う、緊張感に背筋が凍り身構えた。
「私はチャナタ、今は王国に追われる身です。
玉国の騎士よ、貴方達とは戦うつもりはない」
血で汚れた外套、歪み曲がった大剣には激戦を切り抜けてきたような痕跡が見られる。
正体不明の相手、油断をしたら殺されるかも知れない。
「では何用で、この陣に来られたのかしら?
王国の旗が上がっているのが見えなかった訳では無いでしょう」
「私を狙っているのかと思って先手を打ちに来た。
先を越されるとは思っても見なかった」
いくら強者でも、たった一人で挑むのは無謀過ぎる話だ。
そもそも、無名な彼女を王国が兵を動かして討伐するのがあり得ない。
ロベルアの推理に欠けているものがあった。
チャナタは道に迷い、王国の主要な砦を陥落させつつ帝国を目指していた。
旧体制派の刺客として、名声がうなぎ登りで各地で指名手配されるほどに有名である。
「この戦いは貴方には関係のないことです。
去りなさい」
「そういう訳には、愛する者の元へ戻るために帝国へ行かなければならない。
ここを通らせてもらう」
「ハハッ、帝国に行くなら別の道を通りなさい。
この先は辺境の領地で行き止まりです」
「では案内して欲しい。
私はこれまでに迷いに迷って、様々な場所を巡り場所が解らなくなっている」
今度は方向音痴だと言い出す。
怪しい、信用できる要素が何も無いと言うのに連れて行く事など出来るはずがない。
しかし……。
「ならば、手伝って欲しいです。
我が領地を守るために戦っている所、この軍勢を撃退できたら案内してあげましょう」
「その言葉、忘れないように。
私と共にある英霊達よ、今しばらくの力を貸してください」
チャナタの祈りに答え、地面から骸骨の兵士が現れる。
風太によって、創られた魔骸骨の生き残りだ。
千程いたのだが、役目を終え朽ちると共に花々へと変わっていった。
その中でも、チャナタに賛同し共に戦うと決めた者達が残り旅を続けている。
「まさか、死霊術師。
御主人様以外にも……」
「何を勘違いしているのか知らないが……。
これは愛しの彼が護衛に付けてくれた精鋭の騎士です」
ロベルアは、その言葉だけでゾッとした。
風太の関係者たとすれば、怪我をさせたりすればどうなるか解らない。
丁重に扱うなんて、面倒なことに……。
丁度、同じ頃風太達は迫りくる王国兵を眺めていた。
サーシャリは出番だと、竜人の旗を振り上げる。
敵兵が、そんな物で止まる訳もなく大声を張り上げて迫ってくる。
「竜化の法気高き黄金の竜となりて……」
そんな都合の良い法術が使えるわけもなく、ただの演出に過ぎない。
風太は彼女に呪文に合わせて怪獣の姿を映し出していた。
水の糸を作り出し、それを高速で回転させることで反射するスクリーンとして映像として見せていた。
「本当に竜の姿を見せることが出来たのですね。
そんな法術は初め、ああ、なんて恐ろしくも、凛々しい姿なのでしょう」
「玩具に、光を映し出す物があって、それなら再現できそうだと思って」
竜人のレモプティが授けてくれた構成方法がなければ成し得ない程の複雑な魔法だ。
仮に竜化が偽物と見破っても、魔法事態は竜人族が使うものと変わりない。
敵兵の足が止まり、動揺が走るのが見える。
そんな中、一人の男が気にせずに進み続けていた。
彼が異界人なのだろう。
「俺が話をしよう。
利用されただけだろうから、説得できると思う」
「いいえ、私に任せて下さい。
貴方は私の後ろで見ていて」
「何でだ?
異界人同士で話が合うだろう」
「王国に取って利用価値がある人物と言うことは、この状況を望んでいたのでしょう。
能力だけで選ぶなら、あの男の価値は殆無いはずです」
確かに感情を操るだけで、特に強いわけでもない。
魔族と戦うというよりは、謀略等に活かせそうな能力だ。
性格も良いとは言えない。
そう考えると戦争の駒として利用できる者を選んだということか。
前世に不満を持ち暴れたい人物だとしたら、説得は無理だろう。
「解った。
君に任せる」
「ありがとう。
いざという時には、助けてくださいね」
「勿論、任せてくれ」
サーシャリが前に出たことで、竜化が偽りだと発覚するが既に兵士達の関心は背後に向かっていた。
「貴方は異界人なのでしょう?
この世界に無理やり連れてこられて、こんな争いに巻き込まれていることに疑問はないの」
「無いね。
暴れられると聞いてウキウキしてるんだ」
「そう、貴方の名を聞きましょうか。
私はサーシャリ」
「ビックタイガーとでも呼んでくれ。
綺麗な赤髪で、中々良い体型してるな……」
「投降するなら、可愛がってあげてもいいわ。
他の者達は逃げて貴方だけ戦っても仕方ないでしょう?」
「断る、戦歴に傷をつけたくないんでな。
話はそろそろ良いだろう、剣で決着をつけようか」
サーシャリが持つのは金属の孫の手。
明らかに武器ではなく、背を掻くものだが……。
「では相手しましょう」
「なんだそんな物で相手しようというのか。
随分舐めているな」
ビックタイガーにとっては、すぐに終わる勝負だった。
時を止める力を使い、彼女を切り刻むだけで済む。
そう簡単に……。
だが視界から、彼女の姿を見失っていた。
キョロキョロとあたりを見渡すが見つからない。
突き上げる一撃が顎に触れた時だ。
反射的に時を止めた。
「いつの間にこんな側に……、だがこれで終わりだ。
んっ? なっ……無い」
彼の腕が切断され地面に落ちていた。
時間が再び動き出す。
血が吹き出て、空中に舞う。
「どうして彼の両腕を切り裂いたのです。
気を失わせるだけで……」
「君を守るため。
あのままだと、君の首が飛んでいただろう」
落ちていた剣の握り方が変わっている。
上から突き刺すために剣先を下に向くように持ち替えていた。
ビックタイガーは能力を勘違いしていた。
彼の周りの動きを遅くすることで、静止したように感じ誤認を生んだ。
外からでは、動きが丸見えで攻撃の的でしか無かった。
「命を助けられておいて、ごめんなさい。
ありがとう」
敵兵は大混乱のうちに逃げていったが、これで終わるとは思えない。
「困ったな。
長引いて欲しくないのに……」
「おい、勝手に殺すんじゃねぇ。
流石に驚いたが、次はない」
ビックタイガーが起き上がる。
切り裂いたはずの腕も、元に戻っていた。
再生したのか?
いやこの嫌な気配は、まさか魔族化の薬……。
肉体が膨張し、鎧が悲鳴を上げて飛び散る。
肌が暗い紫色に変色し、全身から剛毛が生え虎のような顔へと変貌した。
「ガルルル……」
「魔族とは敵対していたはずなのに、
どうしてなんだ?」
王国のしていることが矛盾をはらんでいる。
魔族の正体は、まさか王族が権力を得るための敵を演出するために用意された……。
考えたくはないが、そう思ってしまうほどの異様さだ。
「正体を現してくれて有り難い。
この一撃で決めるわ」
サーシャリの渾身の一撃は、彼の太い剛毛の腕に阻まれた。
鋭い爪が伸び虎人間へと成り果て、獣のように鋭い目で牙を剥く。
「君なら使いこなせるはずだ。
使ってくれ」
風太は即席で剣を作り出し渡した。
光り輝きビリビリと電撃を放つ刀身。
「感謝するわ。
こんな素晴らしい剣を手にしたのは初めて」
ビックタイガーが振るう一撃の爪を剣でスーと受け流し爪を切り落とす。
風が舞うように、美しく剣が綺羅びやかに踊る。
虎の顔が宙を舞い、血の雨が降り注ぐ。
だが終わらない、ニョキニョキと新たな顔が生えてくる。
切り裂いても切り裂いても、再生が止まらない。
「この化物……」
生命力の権化、そんな化物だ。
再生する度に、固く強度が増し切れ味が悪くなっていく。
「動きを止めてくれて助かった。
亡者の食事……彷徨いし魂達よ、喰らい尽くしてくれ」
道に並べられた屍達の魂が、集まり生命力を喰らい尽くす。
ビックタイガーの体内、心臓である魔石に亀裂が入り砕け散る。
瞬く間に、彼は干からびミイラの様に成り果てたた。
「私達は考えを改めなければ成らないかも知れない。
守るだけではなく、攻め滅ぼさなくてはならない」
「そこまでする必要はないだろう。
もう王国とは関わりたくない」
争いに巻き込まれて居たら、自分たちもいつかはこんな敗北する状況に追い込まれて命を落とす。
そんな不吉な予感がある。
自分たちの周りさえ守れれば、それで良い。
ロベルアが手を振り、風太の下に戻ってきた。
「作戦通り、敵の大将は打ち取ってきたわ。
感謝しなさい」
「ありがとう、君の活躍で勝利できた」
「んんっ、調子が狂う。
結構素直に感謝するのね、もっと足りないとか遅かったとか批判されると思っていたのに」
「その方が良かったか?」
「いいえ、良くないわ。
それから……、厄介な奴を拾ってきました」
チャナタは風太に気づくと、一気に駆け寄り抱きしめる。
「ああ、愛しの……、ううぅぅぅっ。
会いたかった」
プーンと、鼻につく匂いに風太は戸惑いつつも、笑みで答える。
「一人で頑張ってくれたみたいで。
後はのんびりしていてくれ」
「いいえ、これからは貴方の側で働かせて頂きます。
騎士として忠誠を誓い……」
「とても臭いわ。
これで少しは身だしなみを整えてからにしなさい」
チャナタは体を洗う余裕もないほど、連戦で戦い続けてきた。
休まる暇もなく、すこし体がやせ細るぐらいに。
着替えもなく、ずっと着たきりで汗が染み込み異臭を放っていた。
バサバサ……
数匹の竜が飛んでくる。
あの赤い竜はレモプティ。
降り立つと、人の姿へと変わり風太に抱きつく。
「お待たせしました。
親友のソニャームを連れてきたのよ」
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