46 / 48
6章 帝国編
46話 角消し
しおりを挟む
「おっとと……、ちょっと、あああっ」
アリアは足をつまずき転んでいた。
頭の上に乗せていた本が散乱する。
姿勢を良くするために、本を乗せて歩く練習。
意味があるのかわからない。
けど意識することでドジが治るかも知れないと教えてもらい実行している最中だった。
「そんなに転ぶのは前世でもなのか?」
アリアは異界人ということしか解っていない。
謎の力を持っているようだが、暴走して制御できず意図的に封印している。
ドジな女の子でしか無い。
「言いたくないです。
……嘘、寝たきりだっからアリアに成れて嬉しかった」
アリアはゲームの世界に入り込んだと思っている。
似たような世界観らしく、彼女が頑張っているのは魔法学園に入るため。
帝国に存在する魔法学園は、才能があれば他国の者であっても入学することが出来る。
予備兵力として臨時で戦闘に参加する義務がある等、面倒な所もあるが……。
一般民が魔法を学ぶには最適な場所である。
「どうして、そんな学園に行きたいのか解らないな。
勉強が好きなのか?」
「今のままだと私は何の役にも立たない落ちこぼれだけど。
知識をつけて、いろんなことに挑戦したい」
アリアは、メイドとして簡単な掃除をしているだけで、実質居候に過ぎない。
手に職もなければ、家事で役に立つこともない。
頑張れば迷惑をかけてしまう、厄介者でしか無かった。
「俺は、勉強はそんなに好きじゃなかった。
仕方なくやっていた感じで……、でも魔法には興味あるけど」
風太の机には、学術書が積み重ねられていた。
帝国の歴史や、文学、数学……と、基礎教養が書かれている。
魔法に関する内容はなく、それを学ぶために必要な知識にずきない。
そんな興味も関心もない分野の知識を覚えるだけなのは、つまらない物。
前世の退屈な授業を思い出す。
はぁー、うんざりすると思いつつ学園の試験に合格するために、猛勉強している所だ。
アリアは既に、全部習得しているらしく。
質問すれば直ぐに回答が帰ってきた。
それは役に立つ才能だと思うのだけど、足りないらしい。
「一緒に入学出来るように、頑張りましょう。
ああ、どんなところなのか、すごく興味あって……、愛しの王子様とか」
夢を見て現実にショックを受けて落ち込まないか心配になる。
一応教えておくか。
「そういう身分の人は、家庭教師を雇うから学園に来ることはないらしい。
居るとしたら、貧乏貴族だろうな」
アリアはにっこりと微笑む。
「それなら風太が居るから。
私も結婚しておけばよかった」
「おいおい、止めてくれ。
俺なんかよりも良い男が居ると思う」
「それより勉強を頑張ってください。
私も応援していますから」
アリアは再び本を頭の上に乗せて歩き始めた。
俺も負けずに頑張らないとな。
「そうだ問題を出してくれないか?」
「うーん。
それでは水を火にかけると、水が減っていくのはどうして?」
「蒸発するから。
気化して空気中に分散するから減る」
「ぶぶー。
答えは、火の精霊と水の精霊は仲が悪く、打つかると消滅する為」
「ええーっ」
何だそのへんてこな答えは。
前世の記憶が足かせになって混乱しそうだ。
地上平面説を信じている世界に、地面は丸いと言っても馬鹿にされるだけで相手にされない。
そんな感覚。
いや違う科学的にはと言っても、無意味なぜなら彼らの中ではそれは虚言でしか無い。
常識となっている間違いを正すのは生命の危機に陥るほどの危険な行為だ。
「前世知識で無双なんて出来ないのよね。
私でも知っているようなことが全然違っている設定で、混乱しそうになるけど」
ゲームの設定だと思っているのだろう。
そう思わせていたほうが幸せなのかも。
「うん。
設定を覚えないとな」
「じゃあ、次は算数を出すね。
10割る3は?」
流石に精霊とかの、意味不明な物が介入する余地はないだろう。
普通に答えるか。
「3.333……。
割り切れないから、3余り1かな」
「ぶぶー」
不正解なのか、可能性があるとしたら分数を使うことだろうか?
それ以外に考えようがないけど、他にあるのか。
うーん。
「答えは4でした」
「えっ、繰り上げするのか?
端数がないから強制的に加えたら、掛け算とわり算を繰り返す度に数値が狂っていくのに」
「ちっちっちっ。
実は10は12として計算するのです。
えーと、12進数と言って時計と同じで12になると桁が上がっていく感じ」
「いやいや、なんで。
支払いの計算もそんな変な事は無かった」
「そう言われても、法術書には12進数が使われているから、
計算は12進数で行うって書いてあるし」
確認してみると確かに、図形など区切りの良い法術陣を描くのに適している為と書かれていた。
割りやすくて端数が出にくい12を基準にしたのは合理的なのかも知れない。
「なるほど、一応は理由があるのか。
これなら前世の知識がない方がすんなり覚えられたかも知れない」
「全く同じだったら、異世界感がなくてがっかりしていたと思う。
違いを楽しむのもRPGを楽しむコツよ」
「うーん」
その日の勉強を終える頃には日が暮れていた。
青楓が、やってきて風太に抱きつく。
よくあることで、女達が来る時は決まっておねだりを要求する。
「風太、話がある。
とっても大切なお願いをしようと思う」
「何かな?」
「結婚式ってそっけなくて実感がなかった。
私の世界での儀式は、ここの人達は知らないと思う」
余り知られていないとは思うが、それを行ったら他の人も真似をして大変面倒になる。
そもそも簡単に済ませるのは、個別にやっていたら時間も費用もかかって負担が大きい為だ。
「他の人も真似をしたがるから、我慢して欲しい。
ここで二人だけで誓うぐらいなら良いけど」
「そこで考えた。
鬼になる伝承があるからと、それを止めるために必要だと言えば納得する筈」
嘘は直ぐにバレそうな予感がする。
もし発覚したら、大変なことになるのは間違いない。
けどここで断ったら、後々あの時何で願いを聞いてあげなかったんだと後悔するかも……。
だったら、全力で協力した方が良いだろう。
「具体的に教えてくれないか?
口裏を合わせておかないとボロが出る」
にっこりと青楓が笑い、箱を持ってくる。
花嫁衣装だ。
随分、前から心待ちにして用意していたのだろう。
「うちは、角隠しを装備した。
この効果で角が消えました」
「なるほど……」
良く解らないが……、そういう設定なのだろう。
口裏を合わせるために設定を練る。
とある巫女は結婚すると、呪いによって鬼に成ってしまう。
だから角消しと言う儀式を行うことで回避するのである。
四つ耳族や竜人が居るような世界だ。
やや無理やりな設定でも納得してくれるだろう。
あくまで結婚式ではなく、角消しの儀式という建前で行うことになった。
儀式を行う為に誰かを頼るのだけど。
これが難題だ。
秘密を守れて、任せても不自然ではない人物でなければならない。
アリアなら、事情を察してくれるかも知れないが、呪いを解けるのかと言う疑問を持たれてしまう。
小さな綻びからすべてが台無しになるなんて事に。
「それで誰に頼むつもり?
聖女が居れば頼めたんだけど、今は他国に行っているから」
あの骨の怪獣によって死んだことにして、新たな地位を獲得するための裏工作をしているところだ。
俺達と一緒にいる事を知られれば彼女の人生が終わる。
一年は戻ってくること無いだろう。
「アマネルに頼もうかなと思う。
色々と準備を手伝ってくれて、この衣装も用意してくれて助かっている」
よりによってあの変態に頼むのか?
後で同人誌を要求して来るに決まっている。
ここにそんな破廉恥なものを持ち込ませたくない。
さてどうやって断るか……。
「あの人形……、ロベルアの整備が忙しいと思うし。
ほら戦闘でかなり損傷して、修復に手間取っているのに無理はさせられない」
ロベルアの破損は敵の攻撃ではない。
自壊したのに無理に戦い続けていた為に手足が砕けてたおれていたのだ。
耐久を超える過度な動きが原因なのは解っているが、それでは役に立たないと改善案を練っている所だ。
この時ばかりはロベルアが壊れたことに感謝。
最新鋭の一つしか無い兵器を破壊したのに感謝する事になるとは……。
「うーん、仲良しのサラ。
彼女は有能な超メイドだから、きっと任せたらいい感じにしてくれる」
彼女に不満はない。
けど、気を回しすぎる嫌いがある。
色々と考えてくれてくれるのは良いし、気が利くのも良い事だ。
けど物事には、過ぎると迷惑になることがある。
彼女なら、結婚式をしたいと言う観望を見破るだろう。
そして、青楓が満足する式を用意してくれるのは間違いない。
それだと、隠匿したい事実が他の人達にも気づかれてしまう。
そうなれば全員が満足する形で行うことに成って大変だ。
毎日のようにパーティーを……。
面倒臭くて、どんなに費用が掛かるか想像したくない。
「確かメイド達の訓練で結構疲れてぐっすり寝ていた。
そんなに大変なのに、色々と手伝ってもらって倒れないか心配だ」
「むー。
うちの意見を拒むばかり、ちゃんと考えて欲しい」
「そうだな。
……リアハに任せよう」
「……いいの?」
リアハが一番だと思っているようだが、そんな序列は無い。
愛なんて図れるものでもないし、優劣を付けるなんてあり得ないことだ。
「頼りがいがあって信頼できるから。
それに今は事務処理が終わって、のんびりしているだろう?」
「うん、うちが頼んでくるから。
楽しみにしてて」
根回しは十分にできていたようで、翌日には儀式が行われる。
華やかな衣装をまとった青楓は美しさが増していた。
咲き乱れる花のよう。
「儀式に来て頂き有難うございます。
うちの為に、皆様の力添えは感謝のしようがないです」
共に暮らしている皆が勢揃いして、並んで座っていた。
席の前にはご馳走が用意され、空腹でお腹の虫がなく声も聞こえてくる。
青楓は礼をすると、一人一人の席を周りお椀に水を注ぐ。
帝国では水は貴重。
生水を飲むと腹を壊す。
山から流れてくる過程で溶け込んだ色々なものが人体に影響を及ぼす為だ。
水を得るには濾過して取り除くことになるが、それでも完全に取り切れるものではない。
蒸留することで完全に取り除くことが出来るが、手間と費用がかかり価格が高騰する原因となっていた。
そんな水を配っているのは、酒よりも高価だからである。
「お待たせしました。
では、食事にしましょう」
風太の隣に青楓が座り食事を始める。
待ってましたと祈祷師の格好をしたリアハが祈りを初めた。
謎の呪文を唱えながら、棒に紙が付いたお祈り棒……つまり御幣を振る。
「じゅげーむ、じゅげーむ……」
んん?
この呪文は、もしかして寿限無じゃないのか?
子供の幸せを願って長い名前を付けたばっかりに、呼ぶのが大変で困るという話だ。
そんな話をリアハが知っているはずもなく、青楓から聞いたのだろう。
ぶっつけ本番でミスせずに唱えることが出来るだろうか?
記憶力が良くて、一発で覚えられるかも知れない。
けどこれは練習していた余裕を感じる。
うう、やられた。
初めからこうなるように誘導されたんだ。
だから候補として駄目な人を選んだのだろう。
「……長寿の助、えいやー」
バサバサ
御幣を激しく振り、一礼するとリアハは席に座る。
何故か拍手が起きて、パチパチと歓喜の声が聞こえた。
異界の呪いを解く儀式なんて、初めて見たらか感動したのだろうか?
だとしたら申し訳ない、これは嘘。
「ありがとう。
うちは感激しています、では舞をしたいと思う」
台本にない事を勝手に。
ええっ、どうすれば良いんだ?
いや、これはサプライズだろう、見て楽しむ事にしよう。
その舞は、巫女が鬼へと成り果てる悲劇を表現していた。
物悲しく切ない、そんな悲しい話だ。
それが一転する。
恋をしたことで、人へと戻り結ばれると言う結末で舞は終わる。
「さあ、うちの手を取って」
彼女の手を握り引き寄せる。
そして重なる唇。
きゃあぁぁーと歓喜する声が響く。
「満足したのか?」
「うん、いい思い出。
後は子作りして、円満に暮らすつもり」
「解った……、頑張ろう」
「約束」
指切りか。
指輪の代わりだろう、この誓は破れない。
恐らく皆、真実に気づいていて乗ってくれているだろう。
「皆もありがとう」
ただの水のはず無のに顔を真赤にして、フラフラで酔っている姿も見える。
どうしてだ?
これは……。
普段から欲望を垂れ流しの女達だ。
タガが外れればどうなるか。
強引にすり寄って服を掴んで脱がそうと引っ張る。
それも一人や二人ではない、ぞろぞろと競うように群がってくるのだ。
「ちょっと、冷静になろう。
ああ、破けるから、いやいや……駄目だって」
青楓の方を見ると、彼女はそっと離れて様子を見ている。
巻き込まれたくないのは解るが、助けて欲しい。
そんな心の叫びを感じたのか。
彼女は白いハンカチを振っている。
白旗……、手に負えないから諦めてということだろう。
ええっ、メイド達まで……おっ、ちょっと待て君達は話もしたこと無いだろう。
どうしてこんな事に……、ああっ。
夜遅く、風太は解放された。
酔いが回って、皆はぐっすり寝ている。
「誰が酒にすり替えたんだろう。
こんな事になるから水を用意したのに……」
サラが水の入った瓶を持ってくる。
ああ、それだ。
つまり彼女がすり替えたのだろう。
「米の酒が必要だと聞いて、急いで取り寄せました。
満足して頂けたでしょうか?」
ぶどう酒は駄目だと断り、米で作った酒だと説明したのが仇となったようだ。
帝国ではぶどう酒や麦酒が主に飲まれている。
米の酒は帝国では造られていない事を良いことに、代わりに水にしようと提案した。
酒よりも貴重で水が高いと知ったのはその時だ。
そんな回りくどい事を言わずに水が良いと言っていれば良かった。
「ああ、ありがとう。
皆満足している、あの寝顔を見てくれ」
「お水は如何でしょうか?」
「無駄にできない。
起きたら彼女たちに飲ませてあげて欲しい」
頭を冷やして、反省してくれる訳もないか。
それにしても服がボロボロになってしまった。
折角の晴れ着が……。
「着替えを用意しましょう。
アマネル殿が話があると、地下の研究室に来て欲しいとの事です」
いつの間に地下に行ったんだ?
耳元で卑猥な言葉を囁いて、ゲラゲラ笑っていたのに。
いつの間にか居なく成っていたのか。
あれは素面だったのか。
酔った勢いだと思っていたから、気にしてなかっけど……。
あっ、この衣装は彼女が用意したものだった筈。
破れた服の弁償に要求されるなんてことに……。
いや、考えたくない。
あれでも真面目な研究者。
信じたい……、いや無理だ。
「着替えたら一緒に来てくれるか?
君の助けがいる」
「はい、護衛の彼女は寝ていますからね。
少し教育が必要そうです」
護衛は酒に弱くて、すぐに寝てしまった。
もし敵の策略だったら全滅もあり得る。
油断しないように気をつけて欲しいが、今日ぐらいは楽しませてゆっくり休んでほしい気持ちもある。
「風太、うちを助けて……。
重い……、潰れる」
下敷きになっている青楓を引きずり出す。
結局巻き込まれて、身動きが取れなくなっていたようだ。
「大変な思い出になったな。
大丈夫か?」
「うん。
ふぁ~、うちは眠いから……、また明日」
このまま放置で彼女達を寝かせていたら、重みで圧迫死なんてことに……。
それにベットに寝かせてあげないと風邪をひくかも知れないな。
「彼女達を運んでからにするか。
運ぶぐらいなら簡単に……」
「いえ、お任せ下さい」
サラが、ハンドベルを鳴らす。
チリリーン♪
すると起き上がり、歩いていく。
目覚めたのかと思ったが違っていた。
眠ったまま操られている。
「そんな道具があったのか。
それは没収する」
「これは危険な物ではないです。
ただ自分の寝床に戻る指示を出しただけで、支配するような代物ではありません」
「意識のない相手を操るのは感心しない。
もしそれが悪用されたら……」
「この効果を発揮するには、封印を解かなくてはなりません。
それを知っているのは私とリアハ殿だけです」
「むやみに使わないでくれ。
もしその秘密を知られれば、想像できるだろう?」
「はい。心に刻みました」
サラを疑ったわけではない。
もしそれが他の者に渡った時、どんな利用法をするのか。
特に欲望にまみれている者が使えば知らぬ間に……。
自分の振る舞いには責任を持ちたい。
無意識に操られて何かをさせられるのはゴメンだ。
地下の研究室に行くには、本棚を動かして隠し階段を降りるしかない。
その本棚にも細工があり、決まった本の位置に並べなくては成らず。
その配置は毎日変更されている。
「よく覚えられるな。
結構入れ替えて、もう元の位置がわからなくなった」
「私が決めているので、間違えることはないです」
「それだと外に出られないだろう?
閉じ込められて大丈夫なのか」
「半年引きこもっても大丈夫な準備が出来ています。
それに地下から簡単に出られますので」
アマネルなら、同人誌があれば半年どころか数年行けるだろう。
……いやそんなことはないか。
カチッと何かが外れる音がして、本棚がスライドした。
見た感じ壁なんだが……。
すり抜けられたりするのだろうか?
触った感じ、冷たくて普通の壁としか思えない。
「何処に階段があるんだ?」
「本棚の裏です。
こうして……、ひっくり返すと」
本棚の裏に無限階段のだまし絵が貼られている。
それに触れると、その世界へと引き込まれた。
「下に進めば良いんだろう?」
「はい、地下室にたどり着くと信じて降りて下さい」
ぐるぐる回って降りても無限に続く。
そんなだまし絵だ。
そこに終わりはない。
だがたどり着くと信じていると扉が見える。
「たどり着いたのか?
延々と続いたらと思ったが、随分早かった」
「あっ……、余計なことを考えるとやり直しです。
ただたどり着くことだけを考えて下さい」
扉を開くと階段が続く。
なんて卑劣な罠。
秘密を守る為の防犯。
でもなんて不便なんだ。
「これぐらい警戒しないと守れないものなのか。
魔女の館並みだと、ガバガバ過ぎて駄目なのは解るけど……」
「リアハ殿が設計したらしいです。
これぐらいは必要だと、厳しすぎるぐらいで丁度良いと言ってました」
メイドの中に魔族崇拝者が混じっていたのもあってより警戒しているのだろう。
ロベルアは一応は亡国の最新鋭の兵器であり、復興の時に活躍を期待されている代物だ。
王国兵を千近く打ち取った実績も大きい。
一騎当千に値する戦力として手元に置きたいと考える者も多いだろう。
戦時中の帝国だけでなく、魔族の侵攻に怯える国々……。
自国の安全を守るために戦力を欲するのは当然だ。
「間者が紛れていると考えているのか?
知らない顔も多くて困惑したけど……」
見た感じは性欲の方が強そうな感じがしている。
宴でも欲望丸出しで抱きついてきたし……。
結婚の儀式をしたわけでもない新顔のメイドまでデレデレなのはどうしてなのだろうか。
そんなにモテるとは思えないんだけど。
うーん。
「風太殿の戦果を何処からか聞き、毎日のように何処からかやってきています。
無地要件で追い返すわけにも行かず、審査をしている所です」
聖女の助言に従い助けを求めてきているなら受け入れる方針で来ている。
それでも限度はあるが……。
「居れて観察していると言うことか?
それで怪しいやつを見つけたらどうしている」
「盗みを働いたものは、帝国裁判にかけて今は牢獄に居ます。
魔族崇拝者は監禁して、改心するか様子を見ている所です」
帝国でも魔族崇拝は死刑である。
敵対する魔族と通じているのだから当然の事だが……。
ひどい拷問と見せしめに残酷な方法で処刑される。
監禁で済ませているのは、良心的だが本当に改心するのか疑問だ。
いや冤罪の可能性も考慮したのかも知れない。
「後であって話をしてもいいか?
んー。気になるんだけど、どういう判断で断定したんだ」
「持ち物を検査して、あの薬品がでてきました。
その場で取り押さえて入手先を聞き出して居るところですが、無言を貫いています」
黙秘権を使っているのか。
許否しないことは認めているのと同じ。
魔女達の様に、死ぬ可能性があるあの薬を使う前に抑えれたのは良かった。
魔族化すると死ぬと魂も消滅するらしくて、死霊術では情報は得られない。
最悪、帝国に引き渡して……。
「あっ、やっと着いた。
今度こそ、地下の研究室に通じている」
扉を開く。
巫女服を来た猫耳や兎耳の美女達がせっせと何かを作っている。
機械の部品だろうか。
四つ耳族の皆は風太に気づくと群がる。
「ここに何のようでしようか?
主殿ですよね、私はルミヒュウ」
灰と黒の縞々の髪色、肩に掛かる程度の短め。
猫耳がふさふさして気持ちよさそう。
背丈は同じ位、スレンダーな体型でふっくらとした胸、魅力的な顔立ちをしている。
「俺は風太。
アマネルに会いに来たんだけど……、君は可愛い」
ピクピク動く猫耳に触りたく成っしまう。
なんであんなに可愛いのか。
彼女は少し体制をくねらせ服をだらしなく軽く脱ぐ様な感じに。
「主殿が欲するなら、私は何時でも良いです。
どうぞお触り下さい」
猫耳に触る。
フカフカで気持ちいい……。
彼女は驚いた様子で身を引いた。
「ごめん、痛かったのか?」
最近、猫耳に触れていなかったから。
ちょっと力が入りすぎたのか。
いや怪我をしてて居たとか、敏感な部分だから感じ方が違うのかも。
「いえ、この耳は忌み嫌われてきたので……。
切り取られるのかと」
「一番の魅力を切り捨ているなんて勿体ない。
ありのままで居た良いんだ」
「ああ、主殿。
私達は貴方に一生使えたいです」
「解った。
共に暮らそう、何か望みがあったら言ってくれ」
「可愛い我が子を抱きたい。
それだけが私達の望みです」
「抱いたら良い」
サラが風太の耳元で囁く。
「彼女達はまだ未婚で、子供がいません。
そのようなことを言って宜しいのですか?」
えっと、つまり子作りしたいってことだったのか?
あっ……しまった。
ここに何人居るんだ。
20人ぐらい……、ああっ。
いや出来ないとか撤回したら怒り出すよな。
どうしよう……。
彼女達が服を脱ぎ始める。
美人ばかりで、不満はないが一気に来られると……。
「待って、君達は俺のことをよく知らないだろう。
お互いに理解したあってから、順序は大切だ」
「わかりました。
では話が出来る機会を与えて下さい」
「ああ、サラが予定を組んでくれる。
楽しみにしているから」
「はい、心待ちにしています」
ニャニャー♪
彼女達は仕事に戻り喜びか鼻歌が聞こえる。
奥の部屋。
台に寝ていてるのはロベルアだろう。
近づくと、バラバラに分解されて置かれていることに気づく。
そこにロベルアの魂が感じられない。
「まさか、こんなにバラバラされたから魂が消滅してしまったのか?
人の形をしてないからか……、すまない」
トントンと肩を叩かれ振り返ると、愛らしいメイド人形が立っていた。
「御主人様、私です。
数々の無礼をお詫びいたします」
「君とは初見だろう。
肩を叩いたぐらい別に構わない」
「ロベルアです。
新しい体が完成するまでは、この試作段階の体に入っています」
乗り移ることも出来のだろうか?
いや定着して無理に引き剥がそうとすれば魂が崩壊する筈だ。
だから一度、魂を居れたら最後、その肉体で人生を終える。
「憎悪と言うか、反逆心が感じられないな。
本当にロベルアなのか?」
箱一杯の荷物を持ったアマネルがやってくる。
相変わらずのようで、箱にどどーんと裸体の女が描かれている。
恐らく彼女が書いたのだろう。
「この傑作を見て欲しいわ。
アマネルの愛情を注いだ我が子、ああ、ぴーでぴーのぴーぴーぴー……」
なんて卑猥な。
少し黙らせたい。
「同人誌から離れて、少しは反省していると思ったんだが。
君は言葉を選んだほうが良い」
「禁止されれば、余計に欲するのよね。
それに再びアマネルの手に戻ってきている、これは神が世に広げなさいと告げているに違いないわ」
自分に都合の良い解釈をするようだ。
このまま話をしていても疲れるだけ。
「それで俺に何のようだ?
話があるんだろう」
「これを見給え。
魔族化の毒、複製に成功して解ったことがある、うひひひ……」
研究能力だけは認めるしか無い。
あの性癖さえ無ければ、モテモテの天才美女なのは間違いないのだけど……。
マイナスが大きすぎて、がっかりを通り事して無理状態だ。
彼女の影響が伝染しないことを祈るしか無い。
瓶に入った紫色の液体。
禍々しい邪気を放っているようで寒気がする。
「解ったなら廃棄してくれ。
実物を残す意味はないだろう?」
「これには魔族へと変貌する力はなく、体内に入ると細胞を変化させて死滅させる。
ふふーん、つまり毒でしかないわ、理解できたかしら?」
「んん?
魔族になった所を見たけど、あれには別の何かがあるのか?」
メイドが魚人へと変貌した。
他にも、魔族化する姿を見ている。
偽物と本物があるということなのだろうか?
裏で取引されている非合法の代物であり、偽物を掴まされても騙されたと訴える事は出来ない。
騙されたと知った時には死んでいるか。
「スキュラチ同士と、ああ情報交換してして推論を立てている。
寄生されることで肉体が乗っ取られて魔族するのではとね……」
一本角の竜人と交流があったのか。
いつの間に、そういう情報交換が……。
あっ、同人誌経由か。
今は竜人族が保管している。
不味いな。
「寄生されているか解るのか?
発見できれば魔族化する前に取り除けば食い止められるだろう」
「どうやら知性が低下して、凶暴化するようね。
それは脳に侵食するのに抵抗するために脳の処理が奪われている為と推測していますわ」
思い当たる節はあるが、それでは判別は難しいだろう。
なにか嫌な予感めいた感じにひんやりと寒気を一瞬感じる。
何処かでそれに気づいたけど見逃した様な感覚だ。
「知らない相手が凶暴化しているか解らないだろう。
元々凶悪だったかも知れないし」
「穴から入ってピーピーピー……うひひひ。
体の穴という穴を調べれてみるのもありね」
開いた口が閉まらない、なんて酷い妄想を恥ずかしげもなく言えるんだ。
同人誌の幻想と現実が区別できないのか?
仮に傷口から入ってきたとしても、いずれ塞がって解らなくなるだろう。
「真剣に考えくれ。
冷静になれば出来るだろう?」
「天才アマネルに不可能はない。
追い出しの秘薬は既に出来ている、さあ褒め称えなさい」
「偉い。
それでどうやって使うんだ?」
「頭からぶっ掛ければ良い。
ヌメヌメしていやーんな、ムフフとなってピーピー」
……。
真面目に話して損した気分だ。
なんて破廉恥な物を作っているんだ。
無理だ、諦めてもうここから離れたい。
「ありがとう。
ああ、ロベルアはどうなっているんだ?」
「心配ご無用。
彼女の本体は球体の中、小さい肉体に魂を封じることで維持消費を抑えることに成功したわ」
「何言っているのか解らない。
人形に魂を入れた」
メイド人形の頭がパカッと開く、中に球体が収められている。
その球体の中に人形が浮かんでいるのが見えた。
液体に満たされているのだろう、小さな人形が手を降ってみせる。
「愚者にも解るように説明してあげる。
魂の器として優れた龍血石を職人たちの手によって創らせた人形を……」
いや余計に解らなくなった気がする。
単に入りやすい場所に収まった訳か。
支配の仮面を応用して、操作しているだけなのだろう。
それを小難しい言葉を並べて、延々と話している。
アマネルは読んだ同人誌の影響を受けて口調とか変わるからな。
「解った。
ご褒美を与えよう、何が良い?」
アマネルは大急ぎで机の引き出しを開き、鞭を手に取る。
「御主人様、これでアマネルを打って下さい。
どうぞ思いっきり……うひひひ」
「解った後ろを向いてくれ。
満足したら手を上げて」
鞭をロベルアに手渡し、さっさとその場を離れる。
バシッ
変な声が聞こえるてくるが、気にしたら負けだ。
庭の片隅に、塔が立っている。
そこに魔族崇拝の疑いを掛けられた者を監禁していた。
通路が一本しかなく、窓は格子が嵌められていて逃げることが出来ない作りになっている。
古くから罪人を一時的に閉じ込めておくために使われ。
一般的な扱いである。
「何時までも監禁しておく訳にも行かないだろう。
今後の事を知りたい」
「証拠とともに、帝国へ引き渡すつもりです。
おそらくそれで処刑は確実かと」
サラに聞くまでもなく、それしか無いことは解っていた。
けど、できれば助けてあげたい気持ちはある。
だけどそれには改心させるしかない。
塔の最上階に部屋がある。
梯子ば外されていて、仮に扉を破っても転落するだけだ。
「脆く設計されているので、梯子は一人づつしか登れません。
私が先に行きますのでの掘り終えてから続いて下さい」
サラはメイド姿のスカートを履いている。
下から丸見えだ。
「待て、俺が先に行く。
君は後から来てくれ」
「いいえ、安全を確認しなければなりません。
若しもの事があってはならないのです」
「大丈夫だ。
君を守れないほど弱いと思っているのか?」
油断すれば、トラップか待っている。
言いくるめて風太はササッとはしごを登った。
部屋にはベットがあるぐらい。
そのベットに座りボーと虚空眺めている女が一人。
髪はボサボサで長く伸びている。
そんなに時は立っていないから、元々長かったのだろう。
「君は魔族を崇拝しているのか?
正直に話して欲しい」
「……」
相変わらず無言を貫いているようだ。
「彼女は、スボルエッタです。
帝国の一般人で、実力で帝国軍の中隊長まで上り詰めています」
見た感じ20位に見えるが、それなりの戦歴があるのだろう。
「ここは二人だけにして欲しい。
君は下で待っていてくれ」
「はい。
何かありましたら直ぐにお呼び下さい」
静寂破りのハンドベルを渡された。
これは静寂の魔法ですら防ぐことの出来ない音色だす。
静寂が掛かった部屋の中で大声を出して助けを呼んでも聞こえない。
だからこれを渡してくれたのだろう。
「ありがとう」
「殺す前に楽しもうって魂胆?
そんな事をされるぐらいなら舌を噛み切る」
「舌を噛み切っても死ねない。
痛みが続いて苦しむだけだ」
風太の影から黒猫姿のクロニャが姿を表す。
そして人の姿へ変貌する。
「御主人様、彼女は紛れもなく魔族崇拝しています。
この人々を恨む目つき、それに憎悪に塗れた気配」
魔族のクロニャが言うのだから間違いないのだろう。
どういう言葉で改心させられるのだろうか。
「このクロニャは魔族だ。
それでもこの通り俺の支配下にある」
「そ、そんな……、四つ耳族ではないですか。
それを魔族だと呼ぶのは……」
クロニャが彼女の頬を撫でる。
どうして彼女が魔族崇拝するに至ったか。
手に取るように感じる。
「御主人様の為に尽くすと誓うなら望みを叶えても良い。
力が欲しいなら与えよう」
「水魔将様……、私をお救い下さい。
このような魔族を騙る愚か者に鉄槌を……」
クロニャは水魔将の核となってる魔石を空間の裂け目から取り出す。
心臓のようなものであり、卵でもあった。
これを埋め込めば新たな水魔将として復活する。
「感じることが出来る筈。
これが何か」
「水魔将様、私の体に宿して下さい。
ああ、それで……忌々しい街を滅ぼせる」
ピキピキ……
魔石にヒビが入り、パリーンと砕け散る。
クロニャが握りつぶしたのだ。
「あああぁぁぁっ、水魔将様!
あああっ」
彼女は砕けた透き通る赤紫の結晶を必死にかき集める。
心の支えになっていた者が消滅した衝撃は大きいのだろう。
意外とクロニャは意地悪なのか。
「にゃは。
頼みの綱は無くなりました、では次に頼るべきは誰か?」
「少なくとも偽物の貴方ではない。
さっさと失せなさい」
「まだ気付けないようですね。
床を見てみなさい、にゃひひ……」
クロニャの足元に宇宙が空間が広がっている。
いや異空間の裂け目なのだろう。
影の中は、そんな宇宙みたいな空間なのか。
何でも入りそうな倉庫として使えれば……。
いや、彼女の空間を使用したら何を要求されるか解らない。
止めとこう。
「まさか、本当に魔族……。
はははっ、主人が本当に魔族を従えさせているのですか?」
「まあ、色々と訳があって」
説明しろと言っても無理だが、何か知らないけど付いてきた。
他の女達と大して変わらない。
拒む理由がなかっただけだ。
「是非、私を魔族にして下さい。
そうすれば私を苦しめた憎き街滅ぼすことが出来ます」
「宜しい、御主人様の命令は絶対。
その覚悟があるなら受け取りなさい」
クロニャの手に飴玉が。
いつの間に……、異空間に保管してあったのだろうか?
便利だな。
教えて貰おう……いや、そういう魔法が無いか調べようか。
「これで私も……あああっ……」
飴玉を手に取った瞬間に異変が起きた。
彼女の手から飴玉が滑り落ち、床に転がる。
「負の記憶が奪われて、何もかも忘れているでしょう。
彼女は忠実な下僕として働いてくれます」
一体何をしたんだろう。
魔族になったのだろうか?
そんな邪悪な気配は感じないが……、クロニャ同様気配を消しているだけか。
「助かった。
後は任せていいか、少し鍛えて欲しい」
「にゃーん♥」
クロニャは猫の姿に成って、風太の足に擦り寄る。
面倒なことはしたく無いってことか。
「まあ良い。
色々とありがとう」
風太はクロニャを抱きかかえると撫でる。
魔族化した気配は感じられない、もしかすると記憶を奪うために憎しみを引き出させていたのだろうか?
それなら封じられた記憶は、あの飴玉の中だろう。
あれ?
飴玉が無くなっている。
「にゃ~ん」
アリアは足をつまずき転んでいた。
頭の上に乗せていた本が散乱する。
姿勢を良くするために、本を乗せて歩く練習。
意味があるのかわからない。
けど意識することでドジが治るかも知れないと教えてもらい実行している最中だった。
「そんなに転ぶのは前世でもなのか?」
アリアは異界人ということしか解っていない。
謎の力を持っているようだが、暴走して制御できず意図的に封印している。
ドジな女の子でしか無い。
「言いたくないです。
……嘘、寝たきりだっからアリアに成れて嬉しかった」
アリアはゲームの世界に入り込んだと思っている。
似たような世界観らしく、彼女が頑張っているのは魔法学園に入るため。
帝国に存在する魔法学園は、才能があれば他国の者であっても入学することが出来る。
予備兵力として臨時で戦闘に参加する義務がある等、面倒な所もあるが……。
一般民が魔法を学ぶには最適な場所である。
「どうして、そんな学園に行きたいのか解らないな。
勉強が好きなのか?」
「今のままだと私は何の役にも立たない落ちこぼれだけど。
知識をつけて、いろんなことに挑戦したい」
アリアは、メイドとして簡単な掃除をしているだけで、実質居候に過ぎない。
手に職もなければ、家事で役に立つこともない。
頑張れば迷惑をかけてしまう、厄介者でしか無かった。
「俺は、勉強はそんなに好きじゃなかった。
仕方なくやっていた感じで……、でも魔法には興味あるけど」
風太の机には、学術書が積み重ねられていた。
帝国の歴史や、文学、数学……と、基礎教養が書かれている。
魔法に関する内容はなく、それを学ぶために必要な知識にずきない。
そんな興味も関心もない分野の知識を覚えるだけなのは、つまらない物。
前世の退屈な授業を思い出す。
はぁー、うんざりすると思いつつ学園の試験に合格するために、猛勉強している所だ。
アリアは既に、全部習得しているらしく。
質問すれば直ぐに回答が帰ってきた。
それは役に立つ才能だと思うのだけど、足りないらしい。
「一緒に入学出来るように、頑張りましょう。
ああ、どんなところなのか、すごく興味あって……、愛しの王子様とか」
夢を見て現実にショックを受けて落ち込まないか心配になる。
一応教えておくか。
「そういう身分の人は、家庭教師を雇うから学園に来ることはないらしい。
居るとしたら、貧乏貴族だろうな」
アリアはにっこりと微笑む。
「それなら風太が居るから。
私も結婚しておけばよかった」
「おいおい、止めてくれ。
俺なんかよりも良い男が居ると思う」
「それより勉強を頑張ってください。
私も応援していますから」
アリアは再び本を頭の上に乗せて歩き始めた。
俺も負けずに頑張らないとな。
「そうだ問題を出してくれないか?」
「うーん。
それでは水を火にかけると、水が減っていくのはどうして?」
「蒸発するから。
気化して空気中に分散するから減る」
「ぶぶー。
答えは、火の精霊と水の精霊は仲が悪く、打つかると消滅する為」
「ええーっ」
何だそのへんてこな答えは。
前世の記憶が足かせになって混乱しそうだ。
地上平面説を信じている世界に、地面は丸いと言っても馬鹿にされるだけで相手にされない。
そんな感覚。
いや違う科学的にはと言っても、無意味なぜなら彼らの中ではそれは虚言でしか無い。
常識となっている間違いを正すのは生命の危機に陥るほどの危険な行為だ。
「前世知識で無双なんて出来ないのよね。
私でも知っているようなことが全然違っている設定で、混乱しそうになるけど」
ゲームの設定だと思っているのだろう。
そう思わせていたほうが幸せなのかも。
「うん。
設定を覚えないとな」
「じゃあ、次は算数を出すね。
10割る3は?」
流石に精霊とかの、意味不明な物が介入する余地はないだろう。
普通に答えるか。
「3.333……。
割り切れないから、3余り1かな」
「ぶぶー」
不正解なのか、可能性があるとしたら分数を使うことだろうか?
それ以外に考えようがないけど、他にあるのか。
うーん。
「答えは4でした」
「えっ、繰り上げするのか?
端数がないから強制的に加えたら、掛け算とわり算を繰り返す度に数値が狂っていくのに」
「ちっちっちっ。
実は10は12として計算するのです。
えーと、12進数と言って時計と同じで12になると桁が上がっていく感じ」
「いやいや、なんで。
支払いの計算もそんな変な事は無かった」
「そう言われても、法術書には12進数が使われているから、
計算は12進数で行うって書いてあるし」
確認してみると確かに、図形など区切りの良い法術陣を描くのに適している為と書かれていた。
割りやすくて端数が出にくい12を基準にしたのは合理的なのかも知れない。
「なるほど、一応は理由があるのか。
これなら前世の知識がない方がすんなり覚えられたかも知れない」
「全く同じだったら、異世界感がなくてがっかりしていたと思う。
違いを楽しむのもRPGを楽しむコツよ」
「うーん」
その日の勉強を終える頃には日が暮れていた。
青楓が、やってきて風太に抱きつく。
よくあることで、女達が来る時は決まっておねだりを要求する。
「風太、話がある。
とっても大切なお願いをしようと思う」
「何かな?」
「結婚式ってそっけなくて実感がなかった。
私の世界での儀式は、ここの人達は知らないと思う」
余り知られていないとは思うが、それを行ったら他の人も真似をして大変面倒になる。
そもそも簡単に済ませるのは、個別にやっていたら時間も費用もかかって負担が大きい為だ。
「他の人も真似をしたがるから、我慢して欲しい。
ここで二人だけで誓うぐらいなら良いけど」
「そこで考えた。
鬼になる伝承があるからと、それを止めるために必要だと言えば納得する筈」
嘘は直ぐにバレそうな予感がする。
もし発覚したら、大変なことになるのは間違いない。
けどここで断ったら、後々あの時何で願いを聞いてあげなかったんだと後悔するかも……。
だったら、全力で協力した方が良いだろう。
「具体的に教えてくれないか?
口裏を合わせておかないとボロが出る」
にっこりと青楓が笑い、箱を持ってくる。
花嫁衣装だ。
随分、前から心待ちにして用意していたのだろう。
「うちは、角隠しを装備した。
この効果で角が消えました」
「なるほど……」
良く解らないが……、そういう設定なのだろう。
口裏を合わせるために設定を練る。
とある巫女は結婚すると、呪いによって鬼に成ってしまう。
だから角消しと言う儀式を行うことで回避するのである。
四つ耳族や竜人が居るような世界だ。
やや無理やりな設定でも納得してくれるだろう。
あくまで結婚式ではなく、角消しの儀式という建前で行うことになった。
儀式を行う為に誰かを頼るのだけど。
これが難題だ。
秘密を守れて、任せても不自然ではない人物でなければならない。
アリアなら、事情を察してくれるかも知れないが、呪いを解けるのかと言う疑問を持たれてしまう。
小さな綻びからすべてが台無しになるなんて事に。
「それで誰に頼むつもり?
聖女が居れば頼めたんだけど、今は他国に行っているから」
あの骨の怪獣によって死んだことにして、新たな地位を獲得するための裏工作をしているところだ。
俺達と一緒にいる事を知られれば彼女の人生が終わる。
一年は戻ってくること無いだろう。
「アマネルに頼もうかなと思う。
色々と準備を手伝ってくれて、この衣装も用意してくれて助かっている」
よりによってあの変態に頼むのか?
後で同人誌を要求して来るに決まっている。
ここにそんな破廉恥なものを持ち込ませたくない。
さてどうやって断るか……。
「あの人形……、ロベルアの整備が忙しいと思うし。
ほら戦闘でかなり損傷して、修復に手間取っているのに無理はさせられない」
ロベルアの破損は敵の攻撃ではない。
自壊したのに無理に戦い続けていた為に手足が砕けてたおれていたのだ。
耐久を超える過度な動きが原因なのは解っているが、それでは役に立たないと改善案を練っている所だ。
この時ばかりはロベルアが壊れたことに感謝。
最新鋭の一つしか無い兵器を破壊したのに感謝する事になるとは……。
「うーん、仲良しのサラ。
彼女は有能な超メイドだから、きっと任せたらいい感じにしてくれる」
彼女に不満はない。
けど、気を回しすぎる嫌いがある。
色々と考えてくれてくれるのは良いし、気が利くのも良い事だ。
けど物事には、過ぎると迷惑になることがある。
彼女なら、結婚式をしたいと言う観望を見破るだろう。
そして、青楓が満足する式を用意してくれるのは間違いない。
それだと、隠匿したい事実が他の人達にも気づかれてしまう。
そうなれば全員が満足する形で行うことに成って大変だ。
毎日のようにパーティーを……。
面倒臭くて、どんなに費用が掛かるか想像したくない。
「確かメイド達の訓練で結構疲れてぐっすり寝ていた。
そんなに大変なのに、色々と手伝ってもらって倒れないか心配だ」
「むー。
うちの意見を拒むばかり、ちゃんと考えて欲しい」
「そうだな。
……リアハに任せよう」
「……いいの?」
リアハが一番だと思っているようだが、そんな序列は無い。
愛なんて図れるものでもないし、優劣を付けるなんてあり得ないことだ。
「頼りがいがあって信頼できるから。
それに今は事務処理が終わって、のんびりしているだろう?」
「うん、うちが頼んでくるから。
楽しみにしてて」
根回しは十分にできていたようで、翌日には儀式が行われる。
華やかな衣装をまとった青楓は美しさが増していた。
咲き乱れる花のよう。
「儀式に来て頂き有難うございます。
うちの為に、皆様の力添えは感謝のしようがないです」
共に暮らしている皆が勢揃いして、並んで座っていた。
席の前にはご馳走が用意され、空腹でお腹の虫がなく声も聞こえてくる。
青楓は礼をすると、一人一人の席を周りお椀に水を注ぐ。
帝国では水は貴重。
生水を飲むと腹を壊す。
山から流れてくる過程で溶け込んだ色々なものが人体に影響を及ぼす為だ。
水を得るには濾過して取り除くことになるが、それでも完全に取り切れるものではない。
蒸留することで完全に取り除くことが出来るが、手間と費用がかかり価格が高騰する原因となっていた。
そんな水を配っているのは、酒よりも高価だからである。
「お待たせしました。
では、食事にしましょう」
風太の隣に青楓が座り食事を始める。
待ってましたと祈祷師の格好をしたリアハが祈りを初めた。
謎の呪文を唱えながら、棒に紙が付いたお祈り棒……つまり御幣を振る。
「じゅげーむ、じゅげーむ……」
んん?
この呪文は、もしかして寿限無じゃないのか?
子供の幸せを願って長い名前を付けたばっかりに、呼ぶのが大変で困るという話だ。
そんな話をリアハが知っているはずもなく、青楓から聞いたのだろう。
ぶっつけ本番でミスせずに唱えることが出来るだろうか?
記憶力が良くて、一発で覚えられるかも知れない。
けどこれは練習していた余裕を感じる。
うう、やられた。
初めからこうなるように誘導されたんだ。
だから候補として駄目な人を選んだのだろう。
「……長寿の助、えいやー」
バサバサ
御幣を激しく振り、一礼するとリアハは席に座る。
何故か拍手が起きて、パチパチと歓喜の声が聞こえた。
異界の呪いを解く儀式なんて、初めて見たらか感動したのだろうか?
だとしたら申し訳ない、これは嘘。
「ありがとう。
うちは感激しています、では舞をしたいと思う」
台本にない事を勝手に。
ええっ、どうすれば良いんだ?
いや、これはサプライズだろう、見て楽しむ事にしよう。
その舞は、巫女が鬼へと成り果てる悲劇を表現していた。
物悲しく切ない、そんな悲しい話だ。
それが一転する。
恋をしたことで、人へと戻り結ばれると言う結末で舞は終わる。
「さあ、うちの手を取って」
彼女の手を握り引き寄せる。
そして重なる唇。
きゃあぁぁーと歓喜する声が響く。
「満足したのか?」
「うん、いい思い出。
後は子作りして、円満に暮らすつもり」
「解った……、頑張ろう」
「約束」
指切りか。
指輪の代わりだろう、この誓は破れない。
恐らく皆、真実に気づいていて乗ってくれているだろう。
「皆もありがとう」
ただの水のはず無のに顔を真赤にして、フラフラで酔っている姿も見える。
どうしてだ?
これは……。
普段から欲望を垂れ流しの女達だ。
タガが外れればどうなるか。
強引にすり寄って服を掴んで脱がそうと引っ張る。
それも一人や二人ではない、ぞろぞろと競うように群がってくるのだ。
「ちょっと、冷静になろう。
ああ、破けるから、いやいや……駄目だって」
青楓の方を見ると、彼女はそっと離れて様子を見ている。
巻き込まれたくないのは解るが、助けて欲しい。
そんな心の叫びを感じたのか。
彼女は白いハンカチを振っている。
白旗……、手に負えないから諦めてということだろう。
ええっ、メイド達まで……おっ、ちょっと待て君達は話もしたこと無いだろう。
どうしてこんな事に……、ああっ。
夜遅く、風太は解放された。
酔いが回って、皆はぐっすり寝ている。
「誰が酒にすり替えたんだろう。
こんな事になるから水を用意したのに……」
サラが水の入った瓶を持ってくる。
ああ、それだ。
つまり彼女がすり替えたのだろう。
「米の酒が必要だと聞いて、急いで取り寄せました。
満足して頂けたでしょうか?」
ぶどう酒は駄目だと断り、米で作った酒だと説明したのが仇となったようだ。
帝国ではぶどう酒や麦酒が主に飲まれている。
米の酒は帝国では造られていない事を良いことに、代わりに水にしようと提案した。
酒よりも貴重で水が高いと知ったのはその時だ。
そんな回りくどい事を言わずに水が良いと言っていれば良かった。
「ああ、ありがとう。
皆満足している、あの寝顔を見てくれ」
「お水は如何でしょうか?」
「無駄にできない。
起きたら彼女たちに飲ませてあげて欲しい」
頭を冷やして、反省してくれる訳もないか。
それにしても服がボロボロになってしまった。
折角の晴れ着が……。
「着替えを用意しましょう。
アマネル殿が話があると、地下の研究室に来て欲しいとの事です」
いつの間に地下に行ったんだ?
耳元で卑猥な言葉を囁いて、ゲラゲラ笑っていたのに。
いつの間にか居なく成っていたのか。
あれは素面だったのか。
酔った勢いだと思っていたから、気にしてなかっけど……。
あっ、この衣装は彼女が用意したものだった筈。
破れた服の弁償に要求されるなんてことに……。
いや、考えたくない。
あれでも真面目な研究者。
信じたい……、いや無理だ。
「着替えたら一緒に来てくれるか?
君の助けがいる」
「はい、護衛の彼女は寝ていますからね。
少し教育が必要そうです」
護衛は酒に弱くて、すぐに寝てしまった。
もし敵の策略だったら全滅もあり得る。
油断しないように気をつけて欲しいが、今日ぐらいは楽しませてゆっくり休んでほしい気持ちもある。
「風太、うちを助けて……。
重い……、潰れる」
下敷きになっている青楓を引きずり出す。
結局巻き込まれて、身動きが取れなくなっていたようだ。
「大変な思い出になったな。
大丈夫か?」
「うん。
ふぁ~、うちは眠いから……、また明日」
このまま放置で彼女達を寝かせていたら、重みで圧迫死なんてことに……。
それにベットに寝かせてあげないと風邪をひくかも知れないな。
「彼女達を運んでからにするか。
運ぶぐらいなら簡単に……」
「いえ、お任せ下さい」
サラが、ハンドベルを鳴らす。
チリリーン♪
すると起き上がり、歩いていく。
目覚めたのかと思ったが違っていた。
眠ったまま操られている。
「そんな道具があったのか。
それは没収する」
「これは危険な物ではないです。
ただ自分の寝床に戻る指示を出しただけで、支配するような代物ではありません」
「意識のない相手を操るのは感心しない。
もしそれが悪用されたら……」
「この効果を発揮するには、封印を解かなくてはなりません。
それを知っているのは私とリアハ殿だけです」
「むやみに使わないでくれ。
もしその秘密を知られれば、想像できるだろう?」
「はい。心に刻みました」
サラを疑ったわけではない。
もしそれが他の者に渡った時、どんな利用法をするのか。
特に欲望にまみれている者が使えば知らぬ間に……。
自分の振る舞いには責任を持ちたい。
無意識に操られて何かをさせられるのはゴメンだ。
地下の研究室に行くには、本棚を動かして隠し階段を降りるしかない。
その本棚にも細工があり、決まった本の位置に並べなくては成らず。
その配置は毎日変更されている。
「よく覚えられるな。
結構入れ替えて、もう元の位置がわからなくなった」
「私が決めているので、間違えることはないです」
「それだと外に出られないだろう?
閉じ込められて大丈夫なのか」
「半年引きこもっても大丈夫な準備が出来ています。
それに地下から簡単に出られますので」
アマネルなら、同人誌があれば半年どころか数年行けるだろう。
……いやそんなことはないか。
カチッと何かが外れる音がして、本棚がスライドした。
見た感じ壁なんだが……。
すり抜けられたりするのだろうか?
触った感じ、冷たくて普通の壁としか思えない。
「何処に階段があるんだ?」
「本棚の裏です。
こうして……、ひっくり返すと」
本棚の裏に無限階段のだまし絵が貼られている。
それに触れると、その世界へと引き込まれた。
「下に進めば良いんだろう?」
「はい、地下室にたどり着くと信じて降りて下さい」
ぐるぐる回って降りても無限に続く。
そんなだまし絵だ。
そこに終わりはない。
だがたどり着くと信じていると扉が見える。
「たどり着いたのか?
延々と続いたらと思ったが、随分早かった」
「あっ……、余計なことを考えるとやり直しです。
ただたどり着くことだけを考えて下さい」
扉を開くと階段が続く。
なんて卑劣な罠。
秘密を守る為の防犯。
でもなんて不便なんだ。
「これぐらい警戒しないと守れないものなのか。
魔女の館並みだと、ガバガバ過ぎて駄目なのは解るけど……」
「リアハ殿が設計したらしいです。
これぐらいは必要だと、厳しすぎるぐらいで丁度良いと言ってました」
メイドの中に魔族崇拝者が混じっていたのもあってより警戒しているのだろう。
ロベルアは一応は亡国の最新鋭の兵器であり、復興の時に活躍を期待されている代物だ。
王国兵を千近く打ち取った実績も大きい。
一騎当千に値する戦力として手元に置きたいと考える者も多いだろう。
戦時中の帝国だけでなく、魔族の侵攻に怯える国々……。
自国の安全を守るために戦力を欲するのは当然だ。
「間者が紛れていると考えているのか?
知らない顔も多くて困惑したけど……」
見た感じは性欲の方が強そうな感じがしている。
宴でも欲望丸出しで抱きついてきたし……。
結婚の儀式をしたわけでもない新顔のメイドまでデレデレなのはどうしてなのだろうか。
そんなにモテるとは思えないんだけど。
うーん。
「風太殿の戦果を何処からか聞き、毎日のように何処からかやってきています。
無地要件で追い返すわけにも行かず、審査をしている所です」
聖女の助言に従い助けを求めてきているなら受け入れる方針で来ている。
それでも限度はあるが……。
「居れて観察していると言うことか?
それで怪しいやつを見つけたらどうしている」
「盗みを働いたものは、帝国裁判にかけて今は牢獄に居ます。
魔族崇拝者は監禁して、改心するか様子を見ている所です」
帝国でも魔族崇拝は死刑である。
敵対する魔族と通じているのだから当然の事だが……。
ひどい拷問と見せしめに残酷な方法で処刑される。
監禁で済ませているのは、良心的だが本当に改心するのか疑問だ。
いや冤罪の可能性も考慮したのかも知れない。
「後であって話をしてもいいか?
んー。気になるんだけど、どういう判断で断定したんだ」
「持ち物を検査して、あの薬品がでてきました。
その場で取り押さえて入手先を聞き出して居るところですが、無言を貫いています」
黙秘権を使っているのか。
許否しないことは認めているのと同じ。
魔女達の様に、死ぬ可能性があるあの薬を使う前に抑えれたのは良かった。
魔族化すると死ぬと魂も消滅するらしくて、死霊術では情報は得られない。
最悪、帝国に引き渡して……。
「あっ、やっと着いた。
今度こそ、地下の研究室に通じている」
扉を開く。
巫女服を来た猫耳や兎耳の美女達がせっせと何かを作っている。
機械の部品だろうか。
四つ耳族の皆は風太に気づくと群がる。
「ここに何のようでしようか?
主殿ですよね、私はルミヒュウ」
灰と黒の縞々の髪色、肩に掛かる程度の短め。
猫耳がふさふさして気持ちよさそう。
背丈は同じ位、スレンダーな体型でふっくらとした胸、魅力的な顔立ちをしている。
「俺は風太。
アマネルに会いに来たんだけど……、君は可愛い」
ピクピク動く猫耳に触りたく成っしまう。
なんであんなに可愛いのか。
彼女は少し体制をくねらせ服をだらしなく軽く脱ぐ様な感じに。
「主殿が欲するなら、私は何時でも良いです。
どうぞお触り下さい」
猫耳に触る。
フカフカで気持ちいい……。
彼女は驚いた様子で身を引いた。
「ごめん、痛かったのか?」
最近、猫耳に触れていなかったから。
ちょっと力が入りすぎたのか。
いや怪我をしてて居たとか、敏感な部分だから感じ方が違うのかも。
「いえ、この耳は忌み嫌われてきたので……。
切り取られるのかと」
「一番の魅力を切り捨ているなんて勿体ない。
ありのままで居た良いんだ」
「ああ、主殿。
私達は貴方に一生使えたいです」
「解った。
共に暮らそう、何か望みがあったら言ってくれ」
「可愛い我が子を抱きたい。
それだけが私達の望みです」
「抱いたら良い」
サラが風太の耳元で囁く。
「彼女達はまだ未婚で、子供がいません。
そのようなことを言って宜しいのですか?」
えっと、つまり子作りしたいってことだったのか?
あっ……しまった。
ここに何人居るんだ。
20人ぐらい……、ああっ。
いや出来ないとか撤回したら怒り出すよな。
どうしよう……。
彼女達が服を脱ぎ始める。
美人ばかりで、不満はないが一気に来られると……。
「待って、君達は俺のことをよく知らないだろう。
お互いに理解したあってから、順序は大切だ」
「わかりました。
では話が出来る機会を与えて下さい」
「ああ、サラが予定を組んでくれる。
楽しみにしているから」
「はい、心待ちにしています」
ニャニャー♪
彼女達は仕事に戻り喜びか鼻歌が聞こえる。
奥の部屋。
台に寝ていてるのはロベルアだろう。
近づくと、バラバラに分解されて置かれていることに気づく。
そこにロベルアの魂が感じられない。
「まさか、こんなにバラバラされたから魂が消滅してしまったのか?
人の形をしてないからか……、すまない」
トントンと肩を叩かれ振り返ると、愛らしいメイド人形が立っていた。
「御主人様、私です。
数々の無礼をお詫びいたします」
「君とは初見だろう。
肩を叩いたぐらい別に構わない」
「ロベルアです。
新しい体が完成するまでは、この試作段階の体に入っています」
乗り移ることも出来のだろうか?
いや定着して無理に引き剥がそうとすれば魂が崩壊する筈だ。
だから一度、魂を居れたら最後、その肉体で人生を終える。
「憎悪と言うか、反逆心が感じられないな。
本当にロベルアなのか?」
箱一杯の荷物を持ったアマネルがやってくる。
相変わらずのようで、箱にどどーんと裸体の女が描かれている。
恐らく彼女が書いたのだろう。
「この傑作を見て欲しいわ。
アマネルの愛情を注いだ我が子、ああ、ぴーでぴーのぴーぴーぴー……」
なんて卑猥な。
少し黙らせたい。
「同人誌から離れて、少しは反省していると思ったんだが。
君は言葉を選んだほうが良い」
「禁止されれば、余計に欲するのよね。
それに再びアマネルの手に戻ってきている、これは神が世に広げなさいと告げているに違いないわ」
自分に都合の良い解釈をするようだ。
このまま話をしていても疲れるだけ。
「それで俺に何のようだ?
話があるんだろう」
「これを見給え。
魔族化の毒、複製に成功して解ったことがある、うひひひ……」
研究能力だけは認めるしか無い。
あの性癖さえ無ければ、モテモテの天才美女なのは間違いないのだけど……。
マイナスが大きすぎて、がっかりを通り事して無理状態だ。
彼女の影響が伝染しないことを祈るしか無い。
瓶に入った紫色の液体。
禍々しい邪気を放っているようで寒気がする。
「解ったなら廃棄してくれ。
実物を残す意味はないだろう?」
「これには魔族へと変貌する力はなく、体内に入ると細胞を変化させて死滅させる。
ふふーん、つまり毒でしかないわ、理解できたかしら?」
「んん?
魔族になった所を見たけど、あれには別の何かがあるのか?」
メイドが魚人へと変貌した。
他にも、魔族化する姿を見ている。
偽物と本物があるということなのだろうか?
裏で取引されている非合法の代物であり、偽物を掴まされても騙されたと訴える事は出来ない。
騙されたと知った時には死んでいるか。
「スキュラチ同士と、ああ情報交換してして推論を立てている。
寄生されることで肉体が乗っ取られて魔族するのではとね……」
一本角の竜人と交流があったのか。
いつの間に、そういう情報交換が……。
あっ、同人誌経由か。
今は竜人族が保管している。
不味いな。
「寄生されているか解るのか?
発見できれば魔族化する前に取り除けば食い止められるだろう」
「どうやら知性が低下して、凶暴化するようね。
それは脳に侵食するのに抵抗するために脳の処理が奪われている為と推測していますわ」
思い当たる節はあるが、それでは判別は難しいだろう。
なにか嫌な予感めいた感じにひんやりと寒気を一瞬感じる。
何処かでそれに気づいたけど見逃した様な感覚だ。
「知らない相手が凶暴化しているか解らないだろう。
元々凶悪だったかも知れないし」
「穴から入ってピーピーピー……うひひひ。
体の穴という穴を調べれてみるのもありね」
開いた口が閉まらない、なんて酷い妄想を恥ずかしげもなく言えるんだ。
同人誌の幻想と現実が区別できないのか?
仮に傷口から入ってきたとしても、いずれ塞がって解らなくなるだろう。
「真剣に考えくれ。
冷静になれば出来るだろう?」
「天才アマネルに不可能はない。
追い出しの秘薬は既に出来ている、さあ褒め称えなさい」
「偉い。
それでどうやって使うんだ?」
「頭からぶっ掛ければ良い。
ヌメヌメしていやーんな、ムフフとなってピーピー」
……。
真面目に話して損した気分だ。
なんて破廉恥な物を作っているんだ。
無理だ、諦めてもうここから離れたい。
「ありがとう。
ああ、ロベルアはどうなっているんだ?」
「心配ご無用。
彼女の本体は球体の中、小さい肉体に魂を封じることで維持消費を抑えることに成功したわ」
「何言っているのか解らない。
人形に魂を入れた」
メイド人形の頭がパカッと開く、中に球体が収められている。
その球体の中に人形が浮かんでいるのが見えた。
液体に満たされているのだろう、小さな人形が手を降ってみせる。
「愚者にも解るように説明してあげる。
魂の器として優れた龍血石を職人たちの手によって創らせた人形を……」
いや余計に解らなくなった気がする。
単に入りやすい場所に収まった訳か。
支配の仮面を応用して、操作しているだけなのだろう。
それを小難しい言葉を並べて、延々と話している。
アマネルは読んだ同人誌の影響を受けて口調とか変わるからな。
「解った。
ご褒美を与えよう、何が良い?」
アマネルは大急ぎで机の引き出しを開き、鞭を手に取る。
「御主人様、これでアマネルを打って下さい。
どうぞ思いっきり……うひひひ」
「解った後ろを向いてくれ。
満足したら手を上げて」
鞭をロベルアに手渡し、さっさとその場を離れる。
バシッ
変な声が聞こえるてくるが、気にしたら負けだ。
庭の片隅に、塔が立っている。
そこに魔族崇拝の疑いを掛けられた者を監禁していた。
通路が一本しかなく、窓は格子が嵌められていて逃げることが出来ない作りになっている。
古くから罪人を一時的に閉じ込めておくために使われ。
一般的な扱いである。
「何時までも監禁しておく訳にも行かないだろう。
今後の事を知りたい」
「証拠とともに、帝国へ引き渡すつもりです。
おそらくそれで処刑は確実かと」
サラに聞くまでもなく、それしか無いことは解っていた。
けど、できれば助けてあげたい気持ちはある。
だけどそれには改心させるしかない。
塔の最上階に部屋がある。
梯子ば外されていて、仮に扉を破っても転落するだけだ。
「脆く設計されているので、梯子は一人づつしか登れません。
私が先に行きますのでの掘り終えてから続いて下さい」
サラはメイド姿のスカートを履いている。
下から丸見えだ。
「待て、俺が先に行く。
君は後から来てくれ」
「いいえ、安全を確認しなければなりません。
若しもの事があってはならないのです」
「大丈夫だ。
君を守れないほど弱いと思っているのか?」
油断すれば、トラップか待っている。
言いくるめて風太はササッとはしごを登った。
部屋にはベットがあるぐらい。
そのベットに座りボーと虚空眺めている女が一人。
髪はボサボサで長く伸びている。
そんなに時は立っていないから、元々長かったのだろう。
「君は魔族を崇拝しているのか?
正直に話して欲しい」
「……」
相変わらず無言を貫いているようだ。
「彼女は、スボルエッタです。
帝国の一般人で、実力で帝国軍の中隊長まで上り詰めています」
見た感じ20位に見えるが、それなりの戦歴があるのだろう。
「ここは二人だけにして欲しい。
君は下で待っていてくれ」
「はい。
何かありましたら直ぐにお呼び下さい」
静寂破りのハンドベルを渡された。
これは静寂の魔法ですら防ぐことの出来ない音色だす。
静寂が掛かった部屋の中で大声を出して助けを呼んでも聞こえない。
だからこれを渡してくれたのだろう。
「ありがとう」
「殺す前に楽しもうって魂胆?
そんな事をされるぐらいなら舌を噛み切る」
「舌を噛み切っても死ねない。
痛みが続いて苦しむだけだ」
風太の影から黒猫姿のクロニャが姿を表す。
そして人の姿へ変貌する。
「御主人様、彼女は紛れもなく魔族崇拝しています。
この人々を恨む目つき、それに憎悪に塗れた気配」
魔族のクロニャが言うのだから間違いないのだろう。
どういう言葉で改心させられるのだろうか。
「このクロニャは魔族だ。
それでもこの通り俺の支配下にある」
「そ、そんな……、四つ耳族ではないですか。
それを魔族だと呼ぶのは……」
クロニャが彼女の頬を撫でる。
どうして彼女が魔族崇拝するに至ったか。
手に取るように感じる。
「御主人様の為に尽くすと誓うなら望みを叶えても良い。
力が欲しいなら与えよう」
「水魔将様……、私をお救い下さい。
このような魔族を騙る愚か者に鉄槌を……」
クロニャは水魔将の核となってる魔石を空間の裂け目から取り出す。
心臓のようなものであり、卵でもあった。
これを埋め込めば新たな水魔将として復活する。
「感じることが出来る筈。
これが何か」
「水魔将様、私の体に宿して下さい。
ああ、それで……忌々しい街を滅ぼせる」
ピキピキ……
魔石にヒビが入り、パリーンと砕け散る。
クロニャが握りつぶしたのだ。
「あああぁぁぁっ、水魔将様!
あああっ」
彼女は砕けた透き通る赤紫の結晶を必死にかき集める。
心の支えになっていた者が消滅した衝撃は大きいのだろう。
意外とクロニャは意地悪なのか。
「にゃは。
頼みの綱は無くなりました、では次に頼るべきは誰か?」
「少なくとも偽物の貴方ではない。
さっさと失せなさい」
「まだ気付けないようですね。
床を見てみなさい、にゃひひ……」
クロニャの足元に宇宙が空間が広がっている。
いや異空間の裂け目なのだろう。
影の中は、そんな宇宙みたいな空間なのか。
何でも入りそうな倉庫として使えれば……。
いや、彼女の空間を使用したら何を要求されるか解らない。
止めとこう。
「まさか、本当に魔族……。
はははっ、主人が本当に魔族を従えさせているのですか?」
「まあ、色々と訳があって」
説明しろと言っても無理だが、何か知らないけど付いてきた。
他の女達と大して変わらない。
拒む理由がなかっただけだ。
「是非、私を魔族にして下さい。
そうすれば私を苦しめた憎き街滅ぼすことが出来ます」
「宜しい、御主人様の命令は絶対。
その覚悟があるなら受け取りなさい」
クロニャの手に飴玉が。
いつの間に……、異空間に保管してあったのだろうか?
便利だな。
教えて貰おう……いや、そういう魔法が無いか調べようか。
「これで私も……あああっ……」
飴玉を手に取った瞬間に異変が起きた。
彼女の手から飴玉が滑り落ち、床に転がる。
「負の記憶が奪われて、何もかも忘れているでしょう。
彼女は忠実な下僕として働いてくれます」
一体何をしたんだろう。
魔族になったのだろうか?
そんな邪悪な気配は感じないが……、クロニャ同様気配を消しているだけか。
「助かった。
後は任せていいか、少し鍛えて欲しい」
「にゃーん♥」
クロニャは猫の姿に成って、風太の足に擦り寄る。
面倒なことはしたく無いってことか。
「まあ良い。
色々とありがとう」
風太はクロニャを抱きかかえると撫でる。
魔族化した気配は感じられない、もしかすると記憶を奪うために憎しみを引き出させていたのだろうか?
それなら封じられた記憶は、あの飴玉の中だろう。
あれ?
飴玉が無くなっている。
「にゃ~ん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる