47 / 54
6章 帝国編
47話 試練
しおりを挟む
「な、ない……、そんな筈は」
魔法学園の試験結果を記した掲示板を風太は見ていた。
そう番号が見当たらない。
アリアは不思議そうに首を傾げた。
「変ですね。
採点したらほぼ満点だったと思います」
問題用紙に書いた答えを写すぐらいの余裕があった。
だから帰ってからアリアと交換して答え合わせをしている。
名前を書き忘れる様なミスはしていない。
実技でも、力を抑えつつ高得点を取っている。
「なんで落ちたのか解らない。
いやサラが用意した予習問題が当日の問題とほぼ同じだった」
忍び込んで問題を複製したのか?
そこまでするとは考えたくないけど。
サラなら出来るかも知れない実力はあるから……。
つまり不正を疑われて不合格に成ったのだろうか?
なんて事だ。
実力なのに、まさかこんな事になるなんて。
……どうしよう。
「ですよね。
凄く的確に当たっていました」
アリアも同じ問題を解いていたのだから、俺だけ疑われるのは変だ。
彼女も満点だった。
一緒に入学出来ると喜んでお祝いのケーキを一緒に食べた。
じゃあ一体何だって言うんだ?
まさか、女だけしか入れませんとか。
そんな性別差別なんてあるのか?
男は戦場で戦うべきだから、勉学する必要は無し……。
帝国なら有りそう、劣勢が続いてつい最近も魔族が攻めて来たから。
「俺の分まで学んできて。
それで教えて欲しい」
それぞれの国で発展した魔法を知ることで、新たな魔法へと発展できる。
帝国では書物に付与して、術式を簡略するらしい。
魔法は国家機密になっていて、資格がなければ学ぶことすら許されていない。
「ええ、今までお世話になっていた恩を返せるように頑張ります。
専属教師となって指導出来るように目指します」
無断で教えることは出来ないが、教師となるなら話は別だ。
そこまで上り詰めるのにどれだけの年月を要するのか……。
まあ良いか。
「楽しみにしている」
「君が風太殿で間違いないか?」
学園の職員だろうか、教員資格のペンダントを首に下げている。
金髪の冴えない中年の男だ。
全く見覚えがなく、何故呼ばれたのだろうか?
まさか不正を咎めるためなのか。
そうだとしたら弁明して、それは違うとキッパリ言ってやろう。
「ああ、間違いない。
もしかして記入漏れだったのか?」
「向こうの小さい掲示板を見なかったのかね?
君は特別審査枠に入っている」
「はい?
それは何ですか」
「初学は未経験者を対象として、基礎から学ぶ事になる。
その過程を飛ばしても問題ないか審査する制度だから、早く来なさい」
飛び級みたいなことか。
つまり合格なのか?
ドッキリみたいなことをするな。
落ちたと思って帰る所だった。
魔法学園は千人程が学んでいると聞いていたが思ったよりも小さな建物で、前世の学校の方が遥かに大きい。
広間ですら100人も入れば狭苦しく感じるほど。
合格者は200人ぐらい居たが、全員が集まったりしないのだろうか?
個室は更に狭い。
えっ。
なんでこんな所に。
風太は身構え魔法を使う体制へ。
眼の前にいるのは、髪が蛇と成ったメディーサの様な化物だ。
人間の部分は美しくとも、蛇がそれを台無しにし恐怖を引き起こされる。
「慌てるではない。
彼女はスーデメラリ先生です」
「見た目で判断してごめん。
魔族かと思た」
テーブルを挟んで向き合う格好で座る。
背後に二人監視する者が立っていた。
気になるけど、それよりもの眼の前にいる先生の方がやばい気がする。
四つ耳族や竜人がいるのだから、蛇髪でも人なのだろう。
いや亜人か?
「改めて法術を教えているスーデメラリです。
風太殿、試験結果は素晴らしいものでした」
答案用紙を帰してもらい、全問正解なのにホッとする。
ゆっくりと覚えるなら楽だが一気に膨大な量を詰め込むと流石にしんどい。
今まで一番、頑張った気がする程だ。
「それでどんな審査をしますか?
帝国に来て日が浅くて、知らないことが多くて色々と学ぼうと思っています」
「この姿が気になりますか?
呪によって遺伝変異したらしく、私達は蛇人種と成ってしまいました」
呪いによって遺伝子が変化することもあるのか?
遺伝子を組み替える事もできるとしたら、科学より発展してないか。
解析したら、進化の方法が判明したりして……。
「教えてくれて有り難う」
「簡単なテスト問題を用意しました。
気軽に解いて下さい」
教養を必要とする入学問題と違って、魔法に関する知識が求められていた。
メーメル師匠に教えの通りに記せば良いだけで、実に簡単だ。
ああ、師匠ありがとう。
実技を交えて教えてくれた日々を思い返しながら記す。
「出来ました。
王国で学んだことを記しています」
「模範的な回答で良いですね。
ですが実技を見せてもらった結果とは若干違う用に感じます」
力を抑えるために、これまで蓄積した知識と工夫が加わっている。
それが違和感を生んでいるのだろう。
どう説明すれば良いのだろうか?
竜人の知識を見たと言えば、その過程も説明しなくてはならない。
話が長くなれば成る程、余計な情報出てしまう。
その結果疑い、疑念が生まれて嘘が破綻する。
異界人で王国から追われている身だと正直に明かしていればこんな事にならなかったかも知れない。
それは自分の身を危険に晒す行為であり、折角手にした玉国の身分……それに苦労が無に帰す。
「独自の研究です。
それを明かせば優位性が失われて、俺が損をしてしまいます」
「自力でその域に達せるのでしたら、学園に入らずとも成り上がることも出来るでしょう。
学園に拘る理由を知りたいです」
そのツッコミは痛い。
魔族化の秘術が、この学園で研究されている疑いがある。
先に潜入しているシャオーリ姫と共に調査したいとは言えない。
「廃鉱がダンジョン化した事を知っていますか?」
「ええ、かなり凶悪な魔獣が出現すると警告が発令されていますね。
それが何の関係があるのでしょう」
姫の影に頼んで、誰もあの場所に立ち入らないように手を打ってもらった。
今は組合が結成されて、狩り場として部外者が入ることは無い。
それが出来たのはゼラが土地の権利を買っていたからだ。
当のゼラはまだ行方不明で捜索中だ。
「その調査をしていた家族が石化して戻って来たんです。
俺は助けたいと思って色々と調べて、ここにその方法が記した書籍が有ると知りました」
メディーサと言えば石化の魔眼の印象が強い。
まだ調査中でどうなっているのかも解らないのに適当な事を言ってしまった。
だが石化の力を持つ魔獣の存在は確認されている。
もしかすると、嘘が事実になるかも知れない。
ゼラには悪いが優先したいことが有る。
魔族化による事件が頻発し、様々な場所で魔族が暴れていた。
帝国の治安は、それによって悪化して手に負えなくなっている。
もし帝国が崩壊すれば、魔族を止められる国は存在しない。
平穏が失われ、魔族の侵略に怯える日々を送ることになる。
それだけは避けたい。
「ええ、それは呪術一級資格を持つものだけが閲覧できます。
その資格を得るには、宮殿付き法術士に選ばれなくてはなりません」
本当にそんな書物があったのか……。
けど結構大変そうな事を言っているような。
魔女がそんな地位にいたはず、姫の側近ぐらいか。
血筋や家柄、地位によって制限されていたら無理。
ここは素直に聞くか。
「俺も頑張れば成れますか?
石化を解く方法が他になくて、一生を掛けても助けたい」
「目立った才能を見せた者に与えられる勲章があります。
それを3つ以上手にすれば、試験を受けることは出来ます」
「良かった。
全力を尽くして手に入れます」
ただ調査潜入するだけなのに、余計な目標が出来てしまった。
もしかして凄くハードルが上がてないか?
だらだらと怠けていたら、覚悟を疑われてしまうし……。
面倒そう。
「所で地魔将が撃退されるという事がありました」
「へぇー、帝国は劣勢と聞いていたから意外だ。
気にせずに勉学に励める」
「数日前に何処にいたか教えてくれませんか?
戦いに参加していたなら所属を教えて頂ければ、貢献を加味して有利な条件で入学できます」
戦力として育成する教育機関だから当然か。
けど、残念ながら戦争には関わるつもりもない。
その頃は、魔法の制御を実戦で試す為に魔獣狩りをしていた。
「そう言えば、近くの森で特訓していたら食人鬼が襲ってきたので撃退しました。
それぐらいです」
食人鬼は巨体に短い足の人型の魔族だ。
肌は紫と褐色の斑で、耳が尖り口が裂けるほど大きい。
剥げたデブと言う印象で、ブクブク腹の下が剛毛のモジャモジャになっている。
これが元は人間だったと思うと……羞恥心はどこに行ったと言う感じだ。
「凶暴で破壊的な上に、とても再生能力が優れている種族ですよ。
それをどのように撃退したのか、ぜひ教えて欲しい」
「燃え移る小さな火の石を当てたら灰となって崩れました」
「……」
室内が静寂に包まれる。
なにか不味いことを言ったのだろうか?
眉間にシワが……、ええっ……、もしかして怒っている!?
「何か間違ったことを言いましたか?」
「最弱火術であの食人鬼を撃退したというのでしょうか。
信じられない、では実際にその力を確認させて貰っても良い?」
「はい、幾らでも見せます」
外に置かれた古い鎧。
色の違う金属板が貼り付けられている。
壊れた部分を間に合せで修復したような歪さ。
「この鎧には温度によって装甲が溶けるように設計されいます。
どの金属が溶けたかで、熱量が測れる仕組みです」
魔法で鎧を溶かせば良いのか。
けどどれぐらいで加減をすれば良いのか判断が難しい。
弱すぎたら話の信憑性がなくなる。
かと言って強すぎれば目をつけられて動きづらくなるかも知れない。
目立たず、程々って……難しい。
いや考えるから余計に解らなくなる。
あの時、使ったままで試せば良い筈。
術はまだ残っているし、そのまま放てば良いだけだ。
「バン!」
指先から放たれた小さな炎が鎧に直撃する。
意外にも全く溶ける様はない。
弱すぎたのだろうか?
まあ肉というか油の塊みたいな魔族に火を付けたら簡単に燃えるけど、金属はそう簡単に溶けないよな。
「練習は済みましたか?
では本番を見せてもらいましょう」
「えっと、さっきのです。
もう一度見せたほうが良いですか?」
「虚言でなければ、別の何かを食人鬼と勘違いしているのでしょう。
あの程度の炎で撃退できるとは到底思えません」
「そうかも知れない。
よく確かめもせずに倒したから、推測で言ってしまいました」
「間違いは誰にでもあります。
恐怖で実際より相手が大きく感じたりすることも、訓練すれば冷静でいられるようになります。
正しく判断すること……」
カラン
金属片が落ちる音が響く。
鎧が真っ赤に光り輝き、溶け始めていた。
「壊れた。
もしかして弁償か?」
「いえ、始めに言った通り溶ける構造になっています。
弁償する必要はないです」
「良かった」
グチャッと全部溶けて地面に崩れ落ちる。
連鎖的に反応して熱を放つ為に、ゆっくりと広がって溶けたようだ。
「先程の言葉を撤回します。
間違いなく食人鬼を撃退できるほどの威力です」
「あっ、そうなのか。
良かった嘘つきだと思われたら嫌だなって思ってたから」
「こちらへ来なさい」
何を慌てているのだろうか?
スーデメラリは風太の手首を掴み部屋に戻る。
「慌てなくても。
急かされるのは苦手だから」
「巨大な山のようなサイを見ませんでしたか?
もしそれを知っていたら特徴を教えてくれると評価に加えてあげましょう」
突然現れた、山のような魔獣か。
他の魔獣が逃げ出して困ったから、さっさと片付けて放ったらかしにした。
そもそも霧みたいなのに覆われていて影しか解らない。
隕石採掘
レモプティの魔法をアレンジして、隕石による衝突により大地を貫き爆発させる魔法へと進化させた。
巨体な肉体の内部で爆発が起きて、衝突で開いた穴から火柱が上がり。
膨張した圧力で肉体を破壊したのである。
「残念なことに見てません。
霧に覆われていなかったらよく見えたのに」
「貴方は何者です。
あれは地魔将の別形態、それを容易く撃退する……」
……。
あれは魔獣じゃなかったのか?
あああっ、しまった。
こういう時は焦らずに切り札を出すだけだ。
ここに手紙が2枚。
内容はどちらも同じだが、片方は校長に渡すことになっている。
一枚を彼女に渡す。
「その指示に従って俺は動いている。
協力して欲しい」
「貴方が皇帝の庇護下にある玉国の者だとは理解しました。
これ以上の詮索はしないでおきましょう」
もし彼女が魔族化の秘薬に関わっていているとすれば、大失態だ。
警戒されて尻尾を掴むことが難しくなる。
初めから提示しなかったのは、信頼できる相手か見極めてから提示し協力者と成って貰うため。
詮索しないといったのは深煎りを避けたからだろう。
彼女はあまり政治的な関係を好まないようだ。
「それで入学はどうなる?」
「能力適正も十分満たしています。
合格です。専属の特別講師をつける待遇となるでしょう」
「それは……」
「護衛と教師を兼ねています。
ご希望の通り呪術に精通したものを用意します」
護衛と言いつつ監視役じゃないのか?
なんか怪しくなって来た気がする。
これは自由に動けるか解らないな。
けど要望は聞いてくれるみたいだから、どっちなんだ?
「ありがとう。
これで家族を救うことが出来る」
「石化解除に成功した者はごく一握り。
現状の生還率は極わずかです、膨大な研究が必要になることを覚悟しておいて下さい」
魔法で解除なんて簡単な話ではないようだ。
失敗すれば死なせてしまうと言うことなのだろうか?
もしゼラが石像に成って発見されたら、どんなに時間を掛けても助けるつもりだ。
絶対に成功する方法を見つけてやろう。
それがどれだけ時間がかかっても成し遂げる。
目標もなく漠然と学ぶよりも、ずっとやりがいがある気がする。
「はい、千里の道も一歩から。
じっくり確実に身に着けたいです」
「よろしい。
では細やかな贈り物をあげましょう」
スーデメラリは風太の額に口づけをする。
えっ……、あれ?
地面が回っているような、なんだ……。
ぐるぐる……。
目が回っているのか、感覚が狂ってえええ……。
風太は意識を失い倒れそうになる。
スーデメラリは風太を抱きしめて支えた。
柔らかくて温かい……。
白い壁、赤のタスペトリー……。
知らない場所だ。
どうしてこんな所に立っているのだろうか?
扉を開き通路を歩いていた。
気がつくといつの間にか階段を登っている。
この気配は夢の中……。
ああ、口づけを貰った。
あの時に何かをされたのだろう。
「うーん。
夢が贈り物なんて事はないよな」
好意的に取るなら何か見せたものがあったのだろう。
何も伝えないのはちょっと意地悪だけど。
ともかく動いていれば何か起きるはずだ。
夢の世界では何を切っ掛けに場面が変わるのか解らない。
気付けば花畑に立っていたり、吊橋を歩いていたり……。
巡り巡って、小部屋にたどり着く。
一枚の大きな油絵が飾ってあるだけの行き止まり。
二人の天使が抱き合って空を飛んでいる様子が書かれている。
「絵の中に入れたりしないよな。
けど夢の中なら触っても怒られないはず」
すり抜けらける。
水晶で創られた透き通る女神像が置かれてるだけの部屋。
仕掛けがあるとしたら、この像だが……。
「ええい、罠でも良い。
ここから脱出するのが先だ」
「お待ち下さい。
それに触れては行けません」
背後から女の声が聞こえ振り返る。
そこには天使が二人立っていた。
あの絵の天使に似ている気がする。
それにしても服が意味もなく、うっすらと透けて肌が見えた。
目のやり場に困る。
「えっと、君達は?
俺は元の世界に帰りたい」
「私達は、この空間を守護する者です。
迷われたのなら案内しましょう、うふふふ……」
天使が手招きして、風太の手首を掴もうとした。
嫌な予感、寒気が襲い避ける。
体を触れさせてはいけない気がした。
虫の知らせのような曖昧な感覚だ。
「君達は俺が入る前にどうして止めなかったんだ?
向こう側からは見えないはずだ」
絵は透けておらず入るところを見ていなければ、ここにいることは解らない筈だ。
部屋に入った瞬間に現れたとしたら、この部屋の仕掛けだろう。
つまり罠の可能性が高い。
「困ったことを言うのですね。
私達は貴方を助けるために追いかけてきたのです」
「追いかけてきた割には、息も切らしていない。
それに音も聞こえなかった」
「あら、べつにそんな事は良いでしょう?
私達と一緒に食事でもして欲しいな」
気がつくと周りの風景が変わっていた。
テーブルに大量の料理が並べられている。
しまった言葉に引きずられてしまった。
無限階段のだまし絵のように、脱出したいと強く意識しないと飲み込まれて抜け出せなくなる。
彼女達が現れたのは絵に引きずられたからだろう。
「贈り物って、試練のことだったのか。
だったら切り抜けて見せる」
「うふふふ……。
そんな事言わずに、この通り美味しい」
天使が骨付きの肉を食べている。
違和感しかない、そもそも天使が何を食べるのかは知らないが肉食ではないだろう。
しかし、この天使を攻撃して良いのか?
悪霊でもなく、ただの夢に出てきた幻に過ぎない。
無駄に消耗するだけだろう。
もう相手ぜずに出口を探そう。
天使の誘惑が付きまとうようになり、破廉恥な言葉で誘ってくる。
こんな幻影に心奪われたりはしないだろう。
再び水晶の女神像を見つけると、直ぐに触れた。
「駄目だって言ったのに。
私達は貴方を処刑しなくちゃならない」
「うふふふ……。
私達と楽しくラブラブな良い夢を見られたのに残念ね」
天使達は弓を引き矢を放つ。
風太は素早く避け、反撃をしようと手を伸ばす。
彼らは避ける様子もなく笑みを浮かべている。
その攻撃を待っているような予感に思いとどまった。
違和感……、何だ。
矢は直ぐに放つ事ができるらしく、一瞬の間があれば矢が飛んでくる。
隠れようと女神像の背後に回るが、その女神像が消えた。
「なっ!」
頬をかすめ矢が通り過ぎる。
軽く触れた程度だったが、空間が歪み風景が変わった。
いつの間にか丸太に乗って川に流されている。
天使が背後から抱きつく。
「うふふふ……。
さあ、この先はどうなっているでしょう?」
ゴォォォと音が響く。
よく見えないが滝となっている気がした。
その予感は当たり、先が無くなっている。
いや想像したことが反映して夢の中の現実と成っただろう。
「飛べるんだろう?
飛んでくれないか」
「いいえ、一緒に落ちましょう」
「あああぁぁぁっ」
下は水がある。
だから大丈夫だ。
ドバーン!
ブクブクブク……。
深く潜り浮き上がっていく。
もし浅かったら死んでいたかも知れない。
早くでないと、息が苦しい。
目を閉じ開くと広い草原に立っていた。
隠れる場所がない。
再び天使たちが矢を放つ。
ひたすら避け続けるのは難しい。
矢は誘導されているかのように、軌道が変に曲がる。
また当たれば変な空間に飛ばされるだろう。
変則的に動き回っているが、どうしても癖が出る。
このままだと当たるのも時間の問題だ。
「どうしたの?
私達が居る限りここから出ることは出来ないわ」
「うふふ……。
さあ、全力で来なさい」
もし試練だとしたらなにかのヒントがある筈。
夢の世界……、いろんな風景を見てきたけど。
何か変わったものは無かった筈。
いや、あの油絵に触れてから異変が起きたんだ。
火を付けてみるか?
燃えだしたら逃げられるかも知れない。
「小さな火!」
地面に放った火がたちまち広がる。
ここは絵の中だから、外の絵も燃えるだろう。
「いや、止めて。
空間が壊れてしまう!」
「うふふふ……。
やってくれましたね、もし消してくれたら逃がしてあげましょう」
パッチン!
風太が指を鳴らすと火が消える。
「さあ約束を守ってもらおうか」
「ええ、では私達が連れていきましょう。
出口は空の上にあります」
「うふふ……。
私達が抱きかかえて、連れて行ってあげます」
二人の天使が風太に抱きつき、体を撫でるように触りまくる。
えっああ、そこは……。
「ちょっと待て、何をするんだ。
約束が違うだろう」
「私達を信じるなんておマヌケですね。
永遠にここで私達と共に……」
「あっ!」
風太は目を覚ます。
スーデメラリが側で見守っている。
ポケットから懐中時計を出すと、彼女は微笑む。
「約10分で突破しました。
これまでの最高記録が31分でしたので、大幅に記録更新です」
「あれも試練なのか?
ひどい目にあった気がする」
「呪術に関わるには耐性が無ければ、自らの呪術によって命を落としてしまう。
これで前提条件のバッチを与えることが出来ます」
魔法学園では、特定の学科を受けるには前提となる資格を必須としている。
資格保有者にはバッチが与えられて、講師に見せる決まりなっていた。
不慮の事故を防ぐ為である。
帝国としても、巻き添えで多くの人材が失わたくない。
厳しく管理を徹底しているのであった。
「それにしても天使に襲われるなんて……」
「天使?
馬面の夢魔を放ったはずですが」
「えっ?
美しい女の天使だった」
もしかして見破ったら、馬面の化け物になっていたのか?
つまりベタベタ触ってきたのは、気味の悪い化け物……。
知らないほうが幸せだった。
「まあ良いでしょう。
学びに終わりはないでしょう、永遠に続く道へようこそ」
「はい」
前世なら、学校を卒業したら、もう勉強は終わりで社会人生活が始まる。
働いて定年を迎えるだけだ。
でもこの世界では、終わりなき探求なのか。
それだけ膨大な知識があるのだろう。
「現状の帝国は度重なる戦争で治安が低下しています。
誘拐事件も起きていて、もし不安なら家まで護衛を付けましょう」
好感を持たれるように振る舞わないと、教師に目をつけられたら今後の活動に差し支えが出る。
けど監視を付けられている感じで緊張しながら帰るのも何か嫌だな。
断ったら敵対したと見なされる様な厄介な人では無さそうだけど……。
「送り迎えが来ることに成っているので大丈夫です。
不思議な体験ができて良かった」
「私の専門は精霊制御です。
貴方が望む呪術とは方向性が違うけど、興味が沸いたら来なさい」
「はい。
ありがとう」
「何か質問があったらどうぞ」
その質問が一番困る。
情報がないと質問が出来ない。
まっさらな白紙に、回答欄があるようなものだ。
問題が解って初めて質問できる。
けど折角、何か聞いてくれているんだ。
うーん。
そう言えば力精霊って何なんだろう。
火や水と言った属性とは違うみたい。
聞いたら変に思われないか?
「力精霊というのをご存知ですか?
護衛の人が使っていたけど、聞く機会がなくて」
「万物には精霊が宿ります。
すべての精霊を網羅することは出来ない、残念ながら私にも知らないことはあります」
まあ本人に聞けば良いだけだけど……。
変に思われたかな。
「特に質問はないです」
「では契約を結んで正式に学園に入学出来るように手続きします」
ドン
紙の束が机の上に置かれた。
もしかして、全部に目を通してサインするのか?
前世でそんな事はしたこと無いけど、親がしてくれていたのか。
いやいや、そんな事はないだろう。
はぁ……、国家の重要施設を利用するのだから当然のことか。
命を落としても学園に責任を問わない……。
免責のことがずらりと書かれているようだ。
魔法による事故があるのだから、責任取らされていたら学園が成り立たないのだろう。
「全部、承諾する必要があるのか?
俺にとって不利な条件ばかりな気がする」
「読まずに何でもサインを書いてしまうのは愚か。
必要なものを選択してサインしてくれれば良いです」
これも試験の内なのか。
魔法と言えば契約みたいなところもあるな。
精霊との契約もそうだし……。
何でも同意していたら不利な条件を突きつけられて、悲惨なことになりかねない。
手続きが終わる頃には日が暮れていた。
意外と時間が掛かってしまったようだ。
学園を出ると、待ち伏せていた集団に囲まれた。
「特別待遇生だろう?
どんな賄賂を贈ったんだ」
どうやら不合格になった者達らしい。
特別枠を開ける為に自分達の席が奪われたとでも思っているのだろう。
「君達は何か勘違いしている。
俺は実力で受かったんだ」
「なら、その実力を見せてもらおうか」
脅威に感じる攻撃はない。
ささっと避けて、彼らの包囲を抜け出る。
「なんだ、全然当たらない。
こいつ強いんじゃないのか?」
「なら、法術を使うまで!
青い風の踊る刃」
速度も精度も悪い風の刃。
それは落ちるわけだ。
見えざる衣を纏った指で弾くと、跳ね返る。
彼らの服がビリビリに破れた。
「本気で相手していたら君達は死体になっている。
実力の差がわかっただろう?」
「よくも覚えていろよ」
逃げしていく様子は滑稽だ。
どうして悪党はあんな奴らばかりなんだろう。
ドン、バキッ!
振り返ると折れた棍棒を持った男が驚いていた。
殴りつけられたようだが、見えざる衣によって防げたようだ。
「おっさんも、試験を受けたのか?
八つ当たりするのは、みっともない」
「どんな石頭……。
まあ良い、大人しくした方が身のためだ」
男はナイフを出して脅しているつもりだ。
そんな物で傷つけることは不可能。
もしかして、人さらいなのか?
「解った。
大人しくするから、命だけは助けてくれ」
「殺すつもりはない。
欲しいのは金だからな」
荷物を運ぶ用の馬車がやってくる。
雨風を防ぐために布で覆った幌付きだ。
中には縄で縛られている女が2人と、見張りの男がいる。
女達は学園の服装ではない試験結果を確認してきたのだろう。
入学前の者をさらっても意味が無いはずだが。
貧乏人が通うという事を知らないのだろうか。
「早く乗り込め、直ぐに出発するぞ」
風太は従い乗り込む。
直ぐに見張りの男に縄で縛り付けられた。
「一言でも喋ってみろ。
首を掻っ切ってやる」
無言でも魔法を使えるのは知らないようだ。
彼らは運がない。
拠点に着いたら壊滅させよう。
揺れと共に女が風太の方に倒れてくる。
小声で「逃げ出すから手伝って」と伝えて来た。
風太は頷く。
「おい、何やっている。
縄を噛み切ろう解いてたんじゃないだろうな?」
「倒れただけよ」
男は彼女の赤髪を掴む。
「噛み跡なんて無いのは見れば解る。
言いがかりをつけて乱暴したいだけだろう」
「聞いてなかったのか?」
男はナイフをちらつかせて、笑みを浮かべている。
優位に立っていると思っているのだろう。
「今よ」
彼女は体当たりするが、簡単に避けられて転んだ。
……いや、縛られているのに飛び出すとか猪すぎるだろう。
「ふざけやがって、痛い目に遭わないとわからないようだな」
流石に見逃せないか。
意識を集中し床に魔法陣を発生させる。
男はナイフを振り上げると同時に絶命していた。
崩れ倒れる。
「もう無駄話はしないから、座っていてくれないか?」
男は起き上がると座る。
「貴方、何かしたでしょう?」
「催眠を掛けた。
余り騒ぐと気づかれてしまう」
貫く小石で心臓を貫き絶命させた後、死霊術によって魔女の魂を憑依させた。
それを瞬時に行い、眼の前で起きているにも関わらず彼女達には悟らせていない。
「私はラカーユ。
紐を解いてくれる?」
「後ろを向いてくれないか。
えっと……」
縄を口に咥えて解くわけだが、わざと失敗し続けた。
簡単に解いてしまうと、途中で降りると言い出すだろう。
それだと殲滅が出来ない。
「難しくて上手く行かない。
俺の縄を解いてくれないか?」
「仕方ないわね……」
馬車が止まる。
目的地に着いたのだろう、男達が乗り込んでくる。
「なんで服を脱がせていない。
何か隠し持っていたらどうするつもりだ」
「すいやせん」
言葉とは裏腹にナイフで、その男の首を掻っ切る。
「裏切りか。
まさかガキに状でも移ったのか?」
容赦のない切り合いが始まる。
既にゾンビ化した男は幾ら刺されようが切られても動き続ける。
風太は混乱に乗じて縄から抜ける。
見えざる衣を解くことで、縄が緩み簡単に外せたのだ。
彼女達も解いておくか。
「それが出来るなら初めからやってよ。
なんで出し惜しみしたの?」
「解けたのは偶然、運が良かった。
とにかく逃げよう」
「私は逃げない。
こんな目に合わせた連中に一泡吹かせてやるわ」
もう一人は、怯えたようすで黙っている。
止めて欲しかったのだけど、無理なようだ。
「うーん。
俺も協力するから一緒に戦おう」
「ええ、目にもの見せてあげる。
赤き稲妻の雷光……」
失敗したのか何も起きない。
それとも、ただのハッタリなのか?
「君は大人していてくれ」
「いいえ、私も戦います。
貴方こそ大人しくしていなさい」
「彼女を守ってくれないか?
じゃあ、俺は行くから」
生け捕りにするつもりはない。
殲滅して、魂から聞き出せば良い。
火の玉が浮かび並ぶ。
道筋は照らされ、導かれるままに進む。
目立たつ静かに、そして素早く。
戦闘に関しては彼らは素人同然だ。
風太の姿を見た時には、絶命していた。
「古びた倉庫か?
中にも居るみたいだ」
(騒ぎを起こして欲しい)
ガタガタ、箱が揺れ中に居た者達の視線が一点に集まる。
『フフフ……。
八岐の水撃』
部屋に突入すると血の海が広がっていた。
無惨にバラバラになった死体が転がっている。
高圧の水流によって切り刻まれたのだろう。
厄介なのに取り憑かれたかも知れない。
「置いていかないで。
って、これも貴方がやったの?」
「まあ、そんな感じ。
この事は秘密にしてくれないか」
ラカーユは頷き、にこにこと笑う。
良からぬことを企んでいる予感がする。
魔法学園の試験結果を記した掲示板を風太は見ていた。
そう番号が見当たらない。
アリアは不思議そうに首を傾げた。
「変ですね。
採点したらほぼ満点だったと思います」
問題用紙に書いた答えを写すぐらいの余裕があった。
だから帰ってからアリアと交換して答え合わせをしている。
名前を書き忘れる様なミスはしていない。
実技でも、力を抑えつつ高得点を取っている。
「なんで落ちたのか解らない。
いやサラが用意した予習問題が当日の問題とほぼ同じだった」
忍び込んで問題を複製したのか?
そこまでするとは考えたくないけど。
サラなら出来るかも知れない実力はあるから……。
つまり不正を疑われて不合格に成ったのだろうか?
なんて事だ。
実力なのに、まさかこんな事になるなんて。
……どうしよう。
「ですよね。
凄く的確に当たっていました」
アリアも同じ問題を解いていたのだから、俺だけ疑われるのは変だ。
彼女も満点だった。
一緒に入学出来ると喜んでお祝いのケーキを一緒に食べた。
じゃあ一体何だって言うんだ?
まさか、女だけしか入れませんとか。
そんな性別差別なんてあるのか?
男は戦場で戦うべきだから、勉学する必要は無し……。
帝国なら有りそう、劣勢が続いてつい最近も魔族が攻めて来たから。
「俺の分まで学んできて。
それで教えて欲しい」
それぞれの国で発展した魔法を知ることで、新たな魔法へと発展できる。
帝国では書物に付与して、術式を簡略するらしい。
魔法は国家機密になっていて、資格がなければ学ぶことすら許されていない。
「ええ、今までお世話になっていた恩を返せるように頑張ります。
専属教師となって指導出来るように目指します」
無断で教えることは出来ないが、教師となるなら話は別だ。
そこまで上り詰めるのにどれだけの年月を要するのか……。
まあ良いか。
「楽しみにしている」
「君が風太殿で間違いないか?」
学園の職員だろうか、教員資格のペンダントを首に下げている。
金髪の冴えない中年の男だ。
全く見覚えがなく、何故呼ばれたのだろうか?
まさか不正を咎めるためなのか。
そうだとしたら弁明して、それは違うとキッパリ言ってやろう。
「ああ、間違いない。
もしかして記入漏れだったのか?」
「向こうの小さい掲示板を見なかったのかね?
君は特別審査枠に入っている」
「はい?
それは何ですか」
「初学は未経験者を対象として、基礎から学ぶ事になる。
その過程を飛ばしても問題ないか審査する制度だから、早く来なさい」
飛び級みたいなことか。
つまり合格なのか?
ドッキリみたいなことをするな。
落ちたと思って帰る所だった。
魔法学園は千人程が学んでいると聞いていたが思ったよりも小さな建物で、前世の学校の方が遥かに大きい。
広間ですら100人も入れば狭苦しく感じるほど。
合格者は200人ぐらい居たが、全員が集まったりしないのだろうか?
個室は更に狭い。
えっ。
なんでこんな所に。
風太は身構え魔法を使う体制へ。
眼の前にいるのは、髪が蛇と成ったメディーサの様な化物だ。
人間の部分は美しくとも、蛇がそれを台無しにし恐怖を引き起こされる。
「慌てるではない。
彼女はスーデメラリ先生です」
「見た目で判断してごめん。
魔族かと思た」
テーブルを挟んで向き合う格好で座る。
背後に二人監視する者が立っていた。
気になるけど、それよりもの眼の前にいる先生の方がやばい気がする。
四つ耳族や竜人がいるのだから、蛇髪でも人なのだろう。
いや亜人か?
「改めて法術を教えているスーデメラリです。
風太殿、試験結果は素晴らしいものでした」
答案用紙を帰してもらい、全問正解なのにホッとする。
ゆっくりと覚えるなら楽だが一気に膨大な量を詰め込むと流石にしんどい。
今まで一番、頑張った気がする程だ。
「それでどんな審査をしますか?
帝国に来て日が浅くて、知らないことが多くて色々と学ぼうと思っています」
「この姿が気になりますか?
呪によって遺伝変異したらしく、私達は蛇人種と成ってしまいました」
呪いによって遺伝子が変化することもあるのか?
遺伝子を組み替える事もできるとしたら、科学より発展してないか。
解析したら、進化の方法が判明したりして……。
「教えてくれて有り難う」
「簡単なテスト問題を用意しました。
気軽に解いて下さい」
教養を必要とする入学問題と違って、魔法に関する知識が求められていた。
メーメル師匠に教えの通りに記せば良いだけで、実に簡単だ。
ああ、師匠ありがとう。
実技を交えて教えてくれた日々を思い返しながら記す。
「出来ました。
王国で学んだことを記しています」
「模範的な回答で良いですね。
ですが実技を見せてもらった結果とは若干違う用に感じます」
力を抑えるために、これまで蓄積した知識と工夫が加わっている。
それが違和感を生んでいるのだろう。
どう説明すれば良いのだろうか?
竜人の知識を見たと言えば、その過程も説明しなくてはならない。
話が長くなれば成る程、余計な情報出てしまう。
その結果疑い、疑念が生まれて嘘が破綻する。
異界人で王国から追われている身だと正直に明かしていればこんな事にならなかったかも知れない。
それは自分の身を危険に晒す行為であり、折角手にした玉国の身分……それに苦労が無に帰す。
「独自の研究です。
それを明かせば優位性が失われて、俺が損をしてしまいます」
「自力でその域に達せるのでしたら、学園に入らずとも成り上がることも出来るでしょう。
学園に拘る理由を知りたいです」
そのツッコミは痛い。
魔族化の秘術が、この学園で研究されている疑いがある。
先に潜入しているシャオーリ姫と共に調査したいとは言えない。
「廃鉱がダンジョン化した事を知っていますか?」
「ええ、かなり凶悪な魔獣が出現すると警告が発令されていますね。
それが何の関係があるのでしょう」
姫の影に頼んで、誰もあの場所に立ち入らないように手を打ってもらった。
今は組合が結成されて、狩り場として部外者が入ることは無い。
それが出来たのはゼラが土地の権利を買っていたからだ。
当のゼラはまだ行方不明で捜索中だ。
「その調査をしていた家族が石化して戻って来たんです。
俺は助けたいと思って色々と調べて、ここにその方法が記した書籍が有ると知りました」
メディーサと言えば石化の魔眼の印象が強い。
まだ調査中でどうなっているのかも解らないのに適当な事を言ってしまった。
だが石化の力を持つ魔獣の存在は確認されている。
もしかすると、嘘が事実になるかも知れない。
ゼラには悪いが優先したいことが有る。
魔族化による事件が頻発し、様々な場所で魔族が暴れていた。
帝国の治安は、それによって悪化して手に負えなくなっている。
もし帝国が崩壊すれば、魔族を止められる国は存在しない。
平穏が失われ、魔族の侵略に怯える日々を送ることになる。
それだけは避けたい。
「ええ、それは呪術一級資格を持つものだけが閲覧できます。
その資格を得るには、宮殿付き法術士に選ばれなくてはなりません」
本当にそんな書物があったのか……。
けど結構大変そうな事を言っているような。
魔女がそんな地位にいたはず、姫の側近ぐらいか。
血筋や家柄、地位によって制限されていたら無理。
ここは素直に聞くか。
「俺も頑張れば成れますか?
石化を解く方法が他になくて、一生を掛けても助けたい」
「目立った才能を見せた者に与えられる勲章があります。
それを3つ以上手にすれば、試験を受けることは出来ます」
「良かった。
全力を尽くして手に入れます」
ただ調査潜入するだけなのに、余計な目標が出来てしまった。
もしかして凄くハードルが上がてないか?
だらだらと怠けていたら、覚悟を疑われてしまうし……。
面倒そう。
「所で地魔将が撃退されるという事がありました」
「へぇー、帝国は劣勢と聞いていたから意外だ。
気にせずに勉学に励める」
「数日前に何処にいたか教えてくれませんか?
戦いに参加していたなら所属を教えて頂ければ、貢献を加味して有利な条件で入学できます」
戦力として育成する教育機関だから当然か。
けど、残念ながら戦争には関わるつもりもない。
その頃は、魔法の制御を実戦で試す為に魔獣狩りをしていた。
「そう言えば、近くの森で特訓していたら食人鬼が襲ってきたので撃退しました。
それぐらいです」
食人鬼は巨体に短い足の人型の魔族だ。
肌は紫と褐色の斑で、耳が尖り口が裂けるほど大きい。
剥げたデブと言う印象で、ブクブク腹の下が剛毛のモジャモジャになっている。
これが元は人間だったと思うと……羞恥心はどこに行ったと言う感じだ。
「凶暴で破壊的な上に、とても再生能力が優れている種族ですよ。
それをどのように撃退したのか、ぜひ教えて欲しい」
「燃え移る小さな火の石を当てたら灰となって崩れました」
「……」
室内が静寂に包まれる。
なにか不味いことを言ったのだろうか?
眉間にシワが……、ええっ……、もしかして怒っている!?
「何か間違ったことを言いましたか?」
「最弱火術であの食人鬼を撃退したというのでしょうか。
信じられない、では実際にその力を確認させて貰っても良い?」
「はい、幾らでも見せます」
外に置かれた古い鎧。
色の違う金属板が貼り付けられている。
壊れた部分を間に合せで修復したような歪さ。
「この鎧には温度によって装甲が溶けるように設計されいます。
どの金属が溶けたかで、熱量が測れる仕組みです」
魔法で鎧を溶かせば良いのか。
けどどれぐらいで加減をすれば良いのか判断が難しい。
弱すぎたら話の信憑性がなくなる。
かと言って強すぎれば目をつけられて動きづらくなるかも知れない。
目立たず、程々って……難しい。
いや考えるから余計に解らなくなる。
あの時、使ったままで試せば良い筈。
術はまだ残っているし、そのまま放てば良いだけだ。
「バン!」
指先から放たれた小さな炎が鎧に直撃する。
意外にも全く溶ける様はない。
弱すぎたのだろうか?
まあ肉というか油の塊みたいな魔族に火を付けたら簡単に燃えるけど、金属はそう簡単に溶けないよな。
「練習は済みましたか?
では本番を見せてもらいましょう」
「えっと、さっきのです。
もう一度見せたほうが良いですか?」
「虚言でなければ、別の何かを食人鬼と勘違いしているのでしょう。
あの程度の炎で撃退できるとは到底思えません」
「そうかも知れない。
よく確かめもせずに倒したから、推測で言ってしまいました」
「間違いは誰にでもあります。
恐怖で実際より相手が大きく感じたりすることも、訓練すれば冷静でいられるようになります。
正しく判断すること……」
カラン
金属片が落ちる音が響く。
鎧が真っ赤に光り輝き、溶け始めていた。
「壊れた。
もしかして弁償か?」
「いえ、始めに言った通り溶ける構造になっています。
弁償する必要はないです」
「良かった」
グチャッと全部溶けて地面に崩れ落ちる。
連鎖的に反応して熱を放つ為に、ゆっくりと広がって溶けたようだ。
「先程の言葉を撤回します。
間違いなく食人鬼を撃退できるほどの威力です」
「あっ、そうなのか。
良かった嘘つきだと思われたら嫌だなって思ってたから」
「こちらへ来なさい」
何を慌てているのだろうか?
スーデメラリは風太の手首を掴み部屋に戻る。
「慌てなくても。
急かされるのは苦手だから」
「巨大な山のようなサイを見ませんでしたか?
もしそれを知っていたら特徴を教えてくれると評価に加えてあげましょう」
突然現れた、山のような魔獣か。
他の魔獣が逃げ出して困ったから、さっさと片付けて放ったらかしにした。
そもそも霧みたいなのに覆われていて影しか解らない。
隕石採掘
レモプティの魔法をアレンジして、隕石による衝突により大地を貫き爆発させる魔法へと進化させた。
巨体な肉体の内部で爆発が起きて、衝突で開いた穴から火柱が上がり。
膨張した圧力で肉体を破壊したのである。
「残念なことに見てません。
霧に覆われていなかったらよく見えたのに」
「貴方は何者です。
あれは地魔将の別形態、それを容易く撃退する……」
……。
あれは魔獣じゃなかったのか?
あああっ、しまった。
こういう時は焦らずに切り札を出すだけだ。
ここに手紙が2枚。
内容はどちらも同じだが、片方は校長に渡すことになっている。
一枚を彼女に渡す。
「その指示に従って俺は動いている。
協力して欲しい」
「貴方が皇帝の庇護下にある玉国の者だとは理解しました。
これ以上の詮索はしないでおきましょう」
もし彼女が魔族化の秘薬に関わっていているとすれば、大失態だ。
警戒されて尻尾を掴むことが難しくなる。
初めから提示しなかったのは、信頼できる相手か見極めてから提示し協力者と成って貰うため。
詮索しないといったのは深煎りを避けたからだろう。
彼女はあまり政治的な関係を好まないようだ。
「それで入学はどうなる?」
「能力適正も十分満たしています。
合格です。専属の特別講師をつける待遇となるでしょう」
「それは……」
「護衛と教師を兼ねています。
ご希望の通り呪術に精通したものを用意します」
護衛と言いつつ監視役じゃないのか?
なんか怪しくなって来た気がする。
これは自由に動けるか解らないな。
けど要望は聞いてくれるみたいだから、どっちなんだ?
「ありがとう。
これで家族を救うことが出来る」
「石化解除に成功した者はごく一握り。
現状の生還率は極わずかです、膨大な研究が必要になることを覚悟しておいて下さい」
魔法で解除なんて簡単な話ではないようだ。
失敗すれば死なせてしまうと言うことなのだろうか?
もしゼラが石像に成って発見されたら、どんなに時間を掛けても助けるつもりだ。
絶対に成功する方法を見つけてやろう。
それがどれだけ時間がかかっても成し遂げる。
目標もなく漠然と学ぶよりも、ずっとやりがいがある気がする。
「はい、千里の道も一歩から。
じっくり確実に身に着けたいです」
「よろしい。
では細やかな贈り物をあげましょう」
スーデメラリは風太の額に口づけをする。
えっ……、あれ?
地面が回っているような、なんだ……。
ぐるぐる……。
目が回っているのか、感覚が狂ってえええ……。
風太は意識を失い倒れそうになる。
スーデメラリは風太を抱きしめて支えた。
柔らかくて温かい……。
白い壁、赤のタスペトリー……。
知らない場所だ。
どうしてこんな所に立っているのだろうか?
扉を開き通路を歩いていた。
気がつくといつの間にか階段を登っている。
この気配は夢の中……。
ああ、口づけを貰った。
あの時に何かをされたのだろう。
「うーん。
夢が贈り物なんて事はないよな」
好意的に取るなら何か見せたものがあったのだろう。
何も伝えないのはちょっと意地悪だけど。
ともかく動いていれば何か起きるはずだ。
夢の世界では何を切っ掛けに場面が変わるのか解らない。
気付けば花畑に立っていたり、吊橋を歩いていたり……。
巡り巡って、小部屋にたどり着く。
一枚の大きな油絵が飾ってあるだけの行き止まり。
二人の天使が抱き合って空を飛んでいる様子が書かれている。
「絵の中に入れたりしないよな。
けど夢の中なら触っても怒られないはず」
すり抜けらける。
水晶で創られた透き通る女神像が置かれてるだけの部屋。
仕掛けがあるとしたら、この像だが……。
「ええい、罠でも良い。
ここから脱出するのが先だ」
「お待ち下さい。
それに触れては行けません」
背後から女の声が聞こえ振り返る。
そこには天使が二人立っていた。
あの絵の天使に似ている気がする。
それにしても服が意味もなく、うっすらと透けて肌が見えた。
目のやり場に困る。
「えっと、君達は?
俺は元の世界に帰りたい」
「私達は、この空間を守護する者です。
迷われたのなら案内しましょう、うふふふ……」
天使が手招きして、風太の手首を掴もうとした。
嫌な予感、寒気が襲い避ける。
体を触れさせてはいけない気がした。
虫の知らせのような曖昧な感覚だ。
「君達は俺が入る前にどうして止めなかったんだ?
向こう側からは見えないはずだ」
絵は透けておらず入るところを見ていなければ、ここにいることは解らない筈だ。
部屋に入った瞬間に現れたとしたら、この部屋の仕掛けだろう。
つまり罠の可能性が高い。
「困ったことを言うのですね。
私達は貴方を助けるために追いかけてきたのです」
「追いかけてきた割には、息も切らしていない。
それに音も聞こえなかった」
「あら、べつにそんな事は良いでしょう?
私達と一緒に食事でもして欲しいな」
気がつくと周りの風景が変わっていた。
テーブルに大量の料理が並べられている。
しまった言葉に引きずられてしまった。
無限階段のだまし絵のように、脱出したいと強く意識しないと飲み込まれて抜け出せなくなる。
彼女達が現れたのは絵に引きずられたからだろう。
「贈り物って、試練のことだったのか。
だったら切り抜けて見せる」
「うふふふ……。
そんな事言わずに、この通り美味しい」
天使が骨付きの肉を食べている。
違和感しかない、そもそも天使が何を食べるのかは知らないが肉食ではないだろう。
しかし、この天使を攻撃して良いのか?
悪霊でもなく、ただの夢に出てきた幻に過ぎない。
無駄に消耗するだけだろう。
もう相手ぜずに出口を探そう。
天使の誘惑が付きまとうようになり、破廉恥な言葉で誘ってくる。
こんな幻影に心奪われたりはしないだろう。
再び水晶の女神像を見つけると、直ぐに触れた。
「駄目だって言ったのに。
私達は貴方を処刑しなくちゃならない」
「うふふふ……。
私達と楽しくラブラブな良い夢を見られたのに残念ね」
天使達は弓を引き矢を放つ。
風太は素早く避け、反撃をしようと手を伸ばす。
彼らは避ける様子もなく笑みを浮かべている。
その攻撃を待っているような予感に思いとどまった。
違和感……、何だ。
矢は直ぐに放つ事ができるらしく、一瞬の間があれば矢が飛んでくる。
隠れようと女神像の背後に回るが、その女神像が消えた。
「なっ!」
頬をかすめ矢が通り過ぎる。
軽く触れた程度だったが、空間が歪み風景が変わった。
いつの間にか丸太に乗って川に流されている。
天使が背後から抱きつく。
「うふふふ……。
さあ、この先はどうなっているでしょう?」
ゴォォォと音が響く。
よく見えないが滝となっている気がした。
その予感は当たり、先が無くなっている。
いや想像したことが反映して夢の中の現実と成っただろう。
「飛べるんだろう?
飛んでくれないか」
「いいえ、一緒に落ちましょう」
「あああぁぁぁっ」
下は水がある。
だから大丈夫だ。
ドバーン!
ブクブクブク……。
深く潜り浮き上がっていく。
もし浅かったら死んでいたかも知れない。
早くでないと、息が苦しい。
目を閉じ開くと広い草原に立っていた。
隠れる場所がない。
再び天使たちが矢を放つ。
ひたすら避け続けるのは難しい。
矢は誘導されているかのように、軌道が変に曲がる。
また当たれば変な空間に飛ばされるだろう。
変則的に動き回っているが、どうしても癖が出る。
このままだと当たるのも時間の問題だ。
「どうしたの?
私達が居る限りここから出ることは出来ないわ」
「うふふ……。
さあ、全力で来なさい」
もし試練だとしたらなにかのヒントがある筈。
夢の世界……、いろんな風景を見てきたけど。
何か変わったものは無かった筈。
いや、あの油絵に触れてから異変が起きたんだ。
火を付けてみるか?
燃えだしたら逃げられるかも知れない。
「小さな火!」
地面に放った火がたちまち広がる。
ここは絵の中だから、外の絵も燃えるだろう。
「いや、止めて。
空間が壊れてしまう!」
「うふふふ……。
やってくれましたね、もし消してくれたら逃がしてあげましょう」
パッチン!
風太が指を鳴らすと火が消える。
「さあ約束を守ってもらおうか」
「ええ、では私達が連れていきましょう。
出口は空の上にあります」
「うふふ……。
私達が抱きかかえて、連れて行ってあげます」
二人の天使が風太に抱きつき、体を撫でるように触りまくる。
えっああ、そこは……。
「ちょっと待て、何をするんだ。
約束が違うだろう」
「私達を信じるなんておマヌケですね。
永遠にここで私達と共に……」
「あっ!」
風太は目を覚ます。
スーデメラリが側で見守っている。
ポケットから懐中時計を出すと、彼女は微笑む。
「約10分で突破しました。
これまでの最高記録が31分でしたので、大幅に記録更新です」
「あれも試練なのか?
ひどい目にあった気がする」
「呪術に関わるには耐性が無ければ、自らの呪術によって命を落としてしまう。
これで前提条件のバッチを与えることが出来ます」
魔法学園では、特定の学科を受けるには前提となる資格を必須としている。
資格保有者にはバッチが与えられて、講師に見せる決まりなっていた。
不慮の事故を防ぐ為である。
帝国としても、巻き添えで多くの人材が失わたくない。
厳しく管理を徹底しているのであった。
「それにしても天使に襲われるなんて……」
「天使?
馬面の夢魔を放ったはずですが」
「えっ?
美しい女の天使だった」
もしかして見破ったら、馬面の化け物になっていたのか?
つまりベタベタ触ってきたのは、気味の悪い化け物……。
知らないほうが幸せだった。
「まあ良いでしょう。
学びに終わりはないでしょう、永遠に続く道へようこそ」
「はい」
前世なら、学校を卒業したら、もう勉強は終わりで社会人生活が始まる。
働いて定年を迎えるだけだ。
でもこの世界では、終わりなき探求なのか。
それだけ膨大な知識があるのだろう。
「現状の帝国は度重なる戦争で治安が低下しています。
誘拐事件も起きていて、もし不安なら家まで護衛を付けましょう」
好感を持たれるように振る舞わないと、教師に目をつけられたら今後の活動に差し支えが出る。
けど監視を付けられている感じで緊張しながら帰るのも何か嫌だな。
断ったら敵対したと見なされる様な厄介な人では無さそうだけど……。
「送り迎えが来ることに成っているので大丈夫です。
不思議な体験ができて良かった」
「私の専門は精霊制御です。
貴方が望む呪術とは方向性が違うけど、興味が沸いたら来なさい」
「はい。
ありがとう」
「何か質問があったらどうぞ」
その質問が一番困る。
情報がないと質問が出来ない。
まっさらな白紙に、回答欄があるようなものだ。
問題が解って初めて質問できる。
けど折角、何か聞いてくれているんだ。
うーん。
そう言えば力精霊って何なんだろう。
火や水と言った属性とは違うみたい。
聞いたら変に思われないか?
「力精霊というのをご存知ですか?
護衛の人が使っていたけど、聞く機会がなくて」
「万物には精霊が宿ります。
すべての精霊を網羅することは出来ない、残念ながら私にも知らないことはあります」
まあ本人に聞けば良いだけだけど……。
変に思われたかな。
「特に質問はないです」
「では契約を結んで正式に学園に入学出来るように手続きします」
ドン
紙の束が机の上に置かれた。
もしかして、全部に目を通してサインするのか?
前世でそんな事はしたこと無いけど、親がしてくれていたのか。
いやいや、そんな事はないだろう。
はぁ……、国家の重要施設を利用するのだから当然のことか。
命を落としても学園に責任を問わない……。
免責のことがずらりと書かれているようだ。
魔法による事故があるのだから、責任取らされていたら学園が成り立たないのだろう。
「全部、承諾する必要があるのか?
俺にとって不利な条件ばかりな気がする」
「読まずに何でもサインを書いてしまうのは愚か。
必要なものを選択してサインしてくれれば良いです」
これも試験の内なのか。
魔法と言えば契約みたいなところもあるな。
精霊との契約もそうだし……。
何でも同意していたら不利な条件を突きつけられて、悲惨なことになりかねない。
手続きが終わる頃には日が暮れていた。
意外と時間が掛かってしまったようだ。
学園を出ると、待ち伏せていた集団に囲まれた。
「特別待遇生だろう?
どんな賄賂を贈ったんだ」
どうやら不合格になった者達らしい。
特別枠を開ける為に自分達の席が奪われたとでも思っているのだろう。
「君達は何か勘違いしている。
俺は実力で受かったんだ」
「なら、その実力を見せてもらおうか」
脅威に感じる攻撃はない。
ささっと避けて、彼らの包囲を抜け出る。
「なんだ、全然当たらない。
こいつ強いんじゃないのか?」
「なら、法術を使うまで!
青い風の踊る刃」
速度も精度も悪い風の刃。
それは落ちるわけだ。
見えざる衣を纏った指で弾くと、跳ね返る。
彼らの服がビリビリに破れた。
「本気で相手していたら君達は死体になっている。
実力の差がわかっただろう?」
「よくも覚えていろよ」
逃げしていく様子は滑稽だ。
どうして悪党はあんな奴らばかりなんだろう。
ドン、バキッ!
振り返ると折れた棍棒を持った男が驚いていた。
殴りつけられたようだが、見えざる衣によって防げたようだ。
「おっさんも、試験を受けたのか?
八つ当たりするのは、みっともない」
「どんな石頭……。
まあ良い、大人しくした方が身のためだ」
男はナイフを出して脅しているつもりだ。
そんな物で傷つけることは不可能。
もしかして、人さらいなのか?
「解った。
大人しくするから、命だけは助けてくれ」
「殺すつもりはない。
欲しいのは金だからな」
荷物を運ぶ用の馬車がやってくる。
雨風を防ぐために布で覆った幌付きだ。
中には縄で縛られている女が2人と、見張りの男がいる。
女達は学園の服装ではない試験結果を確認してきたのだろう。
入学前の者をさらっても意味が無いはずだが。
貧乏人が通うという事を知らないのだろうか。
「早く乗り込め、直ぐに出発するぞ」
風太は従い乗り込む。
直ぐに見張りの男に縄で縛り付けられた。
「一言でも喋ってみろ。
首を掻っ切ってやる」
無言でも魔法を使えるのは知らないようだ。
彼らは運がない。
拠点に着いたら壊滅させよう。
揺れと共に女が風太の方に倒れてくる。
小声で「逃げ出すから手伝って」と伝えて来た。
風太は頷く。
「おい、何やっている。
縄を噛み切ろう解いてたんじゃないだろうな?」
「倒れただけよ」
男は彼女の赤髪を掴む。
「噛み跡なんて無いのは見れば解る。
言いがかりをつけて乱暴したいだけだろう」
「聞いてなかったのか?」
男はナイフをちらつかせて、笑みを浮かべている。
優位に立っていると思っているのだろう。
「今よ」
彼女は体当たりするが、簡単に避けられて転んだ。
……いや、縛られているのに飛び出すとか猪すぎるだろう。
「ふざけやがって、痛い目に遭わないとわからないようだな」
流石に見逃せないか。
意識を集中し床に魔法陣を発生させる。
男はナイフを振り上げると同時に絶命していた。
崩れ倒れる。
「もう無駄話はしないから、座っていてくれないか?」
男は起き上がると座る。
「貴方、何かしたでしょう?」
「催眠を掛けた。
余り騒ぐと気づかれてしまう」
貫く小石で心臓を貫き絶命させた後、死霊術によって魔女の魂を憑依させた。
それを瞬時に行い、眼の前で起きているにも関わらず彼女達には悟らせていない。
「私はラカーユ。
紐を解いてくれる?」
「後ろを向いてくれないか。
えっと……」
縄を口に咥えて解くわけだが、わざと失敗し続けた。
簡単に解いてしまうと、途中で降りると言い出すだろう。
それだと殲滅が出来ない。
「難しくて上手く行かない。
俺の縄を解いてくれないか?」
「仕方ないわね……」
馬車が止まる。
目的地に着いたのだろう、男達が乗り込んでくる。
「なんで服を脱がせていない。
何か隠し持っていたらどうするつもりだ」
「すいやせん」
言葉とは裏腹にナイフで、その男の首を掻っ切る。
「裏切りか。
まさかガキに状でも移ったのか?」
容赦のない切り合いが始まる。
既にゾンビ化した男は幾ら刺されようが切られても動き続ける。
風太は混乱に乗じて縄から抜ける。
見えざる衣を解くことで、縄が緩み簡単に外せたのだ。
彼女達も解いておくか。
「それが出来るなら初めからやってよ。
なんで出し惜しみしたの?」
「解けたのは偶然、運が良かった。
とにかく逃げよう」
「私は逃げない。
こんな目に合わせた連中に一泡吹かせてやるわ」
もう一人は、怯えたようすで黙っている。
止めて欲しかったのだけど、無理なようだ。
「うーん。
俺も協力するから一緒に戦おう」
「ええ、目にもの見せてあげる。
赤き稲妻の雷光……」
失敗したのか何も起きない。
それとも、ただのハッタリなのか?
「君は大人していてくれ」
「いいえ、私も戦います。
貴方こそ大人しくしていなさい」
「彼女を守ってくれないか?
じゃあ、俺は行くから」
生け捕りにするつもりはない。
殲滅して、魂から聞き出せば良い。
火の玉が浮かび並ぶ。
道筋は照らされ、導かれるままに進む。
目立たつ静かに、そして素早く。
戦闘に関しては彼らは素人同然だ。
風太の姿を見た時には、絶命していた。
「古びた倉庫か?
中にも居るみたいだ」
(騒ぎを起こして欲しい)
ガタガタ、箱が揺れ中に居た者達の視線が一点に集まる。
『フフフ……。
八岐の水撃』
部屋に突入すると血の海が広がっていた。
無惨にバラバラになった死体が転がっている。
高圧の水流によって切り刻まれたのだろう。
厄介なのに取り憑かれたかも知れない。
「置いていかないで。
って、これも貴方がやったの?」
「まあ、そんな感じ。
この事は秘密にしてくれないか」
ラカーユは頷き、にこにこと笑う。
良からぬことを企んでいる予感がする。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる